なぜ一戸建てがダメなのか?

一戸建ての構造は高齢者にとって危険である以外の何物でもない
家のリフォーム・メンテナンスは経済的に負担が大きく、面倒
家の掃除・庭の手入れは重労働
決して豊かといえない生活環境
隣家とのトラブルにご用心
犯罪者の餌食に
天災で命の危険も
相続でのトラブルの元となる

1.「一戸建ての構造は高齢者にとって危険である以外の何物でもない」

バリアフリー化されていない戸建て

一戸建ての構造は、購入当時の事情に沿った間取り・仕様となっているがゆえに、高齢者にとって危険な箇所が散見されます。
例えば、多くの一戸建てでは階段があり、生活にあたってこの階段を使わないわけにはいかない構造になっています。階段の昇り降りは高齢者にとって体力的にきつく、また、滑りやすいことから高齢者が怪我をしやすい最も危険な場所なのです。二階の物干し場に洗濯物を干すために、洗濯物をもって階段を上るとき、思わずよろけて階段から落ちたりしたら大怪我だけで済まない可能性もあります。
また、踏み台を使用しないと手の届かない収納や食器棚は、物を取り出す際にバランスを崩して怪我をする可能性があります。

2.「家のリフォーム・メンテナンスは経済的に負担が大きく、面倒」

元々老後の生活を想定していない一戸建てでは、家の中はバリアフリー化されていません。そのため、ちょっとした段差につまずいて転んだり、お風呂場で滑って転倒したりして、家の中で怪我を負うリスクがあり、骨折してしまうとそれが原因で寝たきりになってしまうおそれもあります。
そのため、バリアフリー化が必須ではありますが、一戸建てをリフォームしようとしてもその手配が非常に面倒であったり、多額な費用がかかったりするために、高齢者にとって非常に大きな負担となります。
また、一戸建てでは、外壁・屋根・水回りなどを自分でメンテナンスを行わなければならず、更にその費用は高く、高齢者にとって更なる負担として重くのしかかってきます。
更に、子供が独立すると、使用しない部屋が増え、特に、二階の部屋は階段の昇り降りが億劫となって使用されないことが多くなります。そのような不使用の部屋の換気などきちんと管理しないと、カビ臭くなり、家の老朽化を早めることになりますが、体力的にそこまできちんと管理するのは難しくなります。

Column高齢者のリフォーム需要を狙った卑劣な犯罪「気づいたら6000万円」

埼玉県A氏のX1さん(高齢者男性)は、かつて埼玉県A市内の工務店経営の男性Y氏に外壁工事等を依頼したことがあるとのことですが、そのY氏は、X1さんの不在を狙って自宅を訪問し、X1さんの妻で認知症と診断を受けたX2さん(高齢者女性)とリフォーム工事の契約を繰り返し結んでいました。
X2さんが認知症の診断を受けた2009年から2011年の間の29件のリフォーム工事の施行額は約6、000万円、29件のリフォーム工事のうち少なくとも24件に修繕の痕跡がなかったとのことです。
X1さんは、Y氏を刑事告発し、県警は詐欺の疑いで書類送検しましたが、最終的にさいたま地検は嫌疑不十分で不起訴としました。
 X1は、「知らないうちに金額がかさんでいた」と嘆いているといいます。(埼玉新聞 2015年5月21日より引用) このような高齢者を狙ったリフォーム詐欺は後を絶ちません。

3.「家の掃除・庭の手入れは重労働」

老夫婦だけでは手入れできない戸建て

子育て時代であれば部屋数も面積も広ければ広いほどありがたかった一戸建ても、夫婦二人または一人住まいとなると、広すぎて掃除が大変となり、高齢者にとって体力が追いつきません。
また、一戸建てのメリットである庭もまた、庭の草むしり、植栽への水やり、猫の糞の処理、害虫処理などの手入れが大変であり、手が回りません。
その一方で、不要なモノがあっても捨てられないため、子供が独立して使用しなくなった部屋や荒れ放題の庭に放置するようになり、ゴミ屋敷化します。
掃除もせず、不要なモノが山積みにされると、最終的に手がつけられないゴミ屋敷となり、不衛生な環境は健康被害を引き起こす原因となります。
現役で働いている世代のときはそこまで苦にならなかった掃除も、高齢になるほど負担感が大きくなるといえます。

Columnゴミ屋敷は孤立死の兆候

孤独死は65歳以上の高齢者の方に多く、東京23区内だけでも毎年4,000人の方が孤独死されています。全国区でみると毎年2万人以上の方が孤独死で亡くなっており、その実に8割以上が、セルフネグレクト(自己放任)が原因といわれています。
セルフネグレクトとは、通常の生活を維持するために必要な行為を行う意欲・能力を失い、例えば、食事をとらなかったり医療を拒否したりして、自己の健康・安全を損なうことをいいます。つまり、セルフネグレクトの人は、生活が荒れ、ゴミが片付けられずに増え続け、部屋がゴミ屋敷化してしまうケースが非常に多いのです。
そのため、高齢者の家がゴミ屋敷化している場合は孤立死の兆候であるといわれ、現在足立区など東京23区内ではゴミ屋敷の片づけ支援などの動きがあります。

ゴミ屋敷

4.「決して豊かといえない生活環境」

陽当たりの悪い住環境

一戸建ては、マンションと比較して気密性・断熱性の点で劣り、熱の出入りが多いため、夏は外からの日差しの暑さを遮ることができず、冬は冷え込みが厳しくなります。そのため、比較的冷暖房費がかかり、経済的負担が大きく、家計に優しくありません。
また、近隣の住宅や建物と密接して建てられていることが多いため、眺望・日照が悪かったり、室内が近隣や道路から見えるなど、外部世界との関係でプライバシーなどの問題もあります。
更に、一戸建てが地理的に不便な場所に建てられていると、身体機能や体力が低下した高齢者にとって酷な状況となります。
例えば、日用品や食料の買い物を行うスーパーや、定期的に通院する病院から遠く、また交通の便が悪いことが多々あります。そのため、買い物・通院が億劫となり、次第に出掛けなくなり、その結果、病気にかかり、最悪手遅れになる危険があります。

Column高齢者の居住環境で不便な点

下表の統計によると、地域における不便な点トップ3は、「日常の買い物に不便」「医院や病院への通院に不便」「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」であり、高齢者にとって体力的に大変である買い物・通院に不便な場所に自宅があることが窺い知れます。

地域における不便な点複数回答
地域における不便な点 出典:内閣府 平成27年版高齢社会白書

5.「隣家とのトラブルにご用心」

隣家の変人

有名になった引っ越しおばさんのような方が隣に住んでいたら大変です。
そこまでいかなくても一戸建ての場合、隣家との間で騒音、悪臭などのトラブルがつきものですが、高齢者の家庭では子供が独立しているために身近に頼る人がおらず、高齢者自身がそのトラブルの矢面に立って、これを処理しなければいけません。体力的にも劣る高齢者にとって非常に大変です。

Column「世田谷立てこもり事件」

2012年10月10日、東京都世田谷区の路上で女性Aさん(高齢者)が日本刀と見られる刃物で首を切られた状態で発見され、間もなく搬送先の病院で死亡が確認されました。また、女性を切りつけた男Bさん(高齢者)は、現場近くの民家に逃げ込み立てこもったが、捜査官が突入すると首などから血を流して倒れており、搬送先の病院で死亡が確認されました。
 近所の話によると、AさんとBさんの両家の境界線を走る私道に、Aさんが趣味の鉢植えを置いたのに対し、Bさんが何度も注意したのだが、Aさんはほったらかしにしていたことから口論などいさかいが絶えずエスカレートし、近所でも、Bさんが刀を持ち出した、AさんがBさんに体当たりした、農薬をかけたなど様々ないざこざの話が聞こえていたようです。
この種の一戸建ての隣家トラブルは様々な場所で起きており、高齢化が進む中でこれを防ぐ方策はなおざりにできないといえます。

6.「犯罪者の餌食に」

犯罪者の餌食に

一戸建ては、死角になる場所があったり、窓・ドアの数が多いなど侵入可能な箇所が多かったり、防犯設備が古いため、セキュリティ面で不安があります。特に、高齢者の一戸建てでは、身近に頼りになる人が居ないことが多く、犯罪者のターゲットになりやすいようです。
そのため、防犯性能の高い窓ガラス、シャッター、二重ロック、人感センサー付き照明の設置など対策を講じる必要がありますが、新たに設備を導入しようとすると多額の費用がかかり、躊躇してしまうようです。
なお、平成27年版高齢社会白書によると、警察の働き等により、社会全体の犯罪被害件数は年々減っているものの、高齢者の犯罪被害件数は減らず、犯罪被害件数全体を占める割合はむしろ増えているようです。

高齢者の刑法犯罪被害認知件数
高齢者の刑法犯罪被害認知件数 出典:内閣府 平成27年版高齢社会白書
Column表札に不審な記号があったら要注意

泥棒、空き巣、訪問販売、押し売り業者などは、騙しやすいカモとして、その家の表札など見える位置に目印をつけていくようです。
例えば、『12-16R』は、「12-16」は「12時から16時の間」、「R」は「留守」をそれぞれ意味し、『ここの住民は12時から16時の間留守にしている』ということを示しています。
また、『Sロ』は、「S」は「シングル(一人暮らし)」、「ロ」は「老人」をそれぞれ意味し、『ここの住民は一人暮らしの老人である』ということを示しています。
泥棒や業者によって、マーキングの記号には違いがあるようですが、表札やドアに不審な記号があったら、コマめに消すようにしましょう。

表札に不審な記号
Column「練馬の三姉妹死亡事故」

2015年8月11日、東京都心で猛暑日が連続するなか、東京都板橋区の一戸建て住宅で、高齢の姉妹3人が熱中症と見られる症状で死亡していることが発見されました。
三姉妹は、今年3月ごろ、ガス会社を名乗る人物が家を訪れ、「ガスの更新手続きが必要だ」などと言われ、話をしているうちに財布を取られる被害に遭い、それ以降、用心して家の窓を閉め切ることが多くなっていたようです。
また、三姉妹は、「クーラーをつけると、のどが痛くなる」と知人らに話していて、クーラーを付けずに扇風機を使っていたとのことで、発見時はクーラーは止まっていたとのことです。
マンションに住んでいたのであれば、窓を開けていても防犯上、そこまでの問題は起きないでしょうから、熱中症にかかることも無かったのかもしれません。
詐欺被害によって引き起こされた、なんともいたたまれない事件です。

Column侵入窃盗の発生場所

平成26年度中に都内で発生した侵入窃盗の傾向として、その発生場所として最も高かったのが一戸建て住宅でした。いかに一戸建てが狙われやすいかがわかる統計結果となっています。

侵入窃盗の発生場所
侵入窃盗の発生場所 ※「その他の住宅」…3階建て以下の共同住宅・テラスハウス等
警視庁HP 平成26年度中の侵入窃盗の傾向より

7.「天災で命の危険も」

古い一戸建て

一戸建ての構造が古いと耐震性や耐火性が低いことが多く、本来リフォームが必要となりますが、多大な費用が掛かるため、そのまま放置してしまうことが多いようです。
その結果、自宅で地震や火災に巻き込まれた時に、住処を失うだけでなく、命を失う危険があります。
また、ゲリラ豪雨や大雨で浸水しやすい地区に自宅がある場合、万が一、大雨洪水による避難勧告が出ても自力で避難することができず、自宅に取り残され、生命・健康の危険があります。

Column住宅火災の死者数の6割以上が高齢者

65歳以上の高齢者の住宅火災による死者数(放火自殺者等を除く)は、平成25(2013)年は703人と前年より増加し、全死者数に占める高齢者の割合は70.5%に上昇しています。
住宅火災による死者を減らす一つの方策として、住居の耐火性を高めることが求められています。

住宅火災における死者数
住宅火災における死者数 出典:内閣府 平成27年版高齢社会白書

8.「相続でのトラブルの元」

古い間取りの一戸建て

古い間取りの一戸建ては、仮に子供が相続しても使い道がない場合が多いため、相続人が相続したがらず、またマンションと違って企画商品ではないため換価分割しづらいことから、遺産分割協議の際に、相続人間のトラブルの元になりやすいです。
更に、仮に相続し相続税を払うとき、本来相続税の軽減措置である小規模宅地等の特例措置を利用したいところですが、特例措置の適用は不確定です。マンションであれば、マンションを購入した段階で土地の持分割合が小さくなるので相続税評価額を計算するに当たり、評価減を確実に受けられます。一戸建てはマンションに比べて、税制面で不利であると言わざるを得ません。
以上から、一戸建てを残すと、相続人に大きな負担を押し付けることになることから、相続財産としてはあまり望ましいとはいえません。

2020-02-16 21:55 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所