追い出したい賃借人に対する延滞賃料催告

何カ月も賃料の支払が滞っている賃借人がいる場合、賃貸人は今後の対応について悩むことでしょう。
支払ってもらって居続けさせるか。
支払ってもらうよりも出て行ってもらうか。

支払いよりも追い出したい


たまたま一度だけ賃料の支払が遅れ、その後の支払があればそのまま住み続けてもらうことになるでしょう。
しかし賃料の支払が滞りがちで、不払いを繰り返す賃借人であれば、いっそのこと出て行ってもらいたいと思う賃貸人が多いと思います。
共用部を汚すなど迷惑をかけていたり、クレーマー体質で家賃の値下げなどの不当な要求してくる賃借人であればなおさらです。
このような賃借人に対しては、遅延した賃料を支払ってもらうよりも、すぐにでも出て行ってもらう方が合理的です。
特に賃料相場が上がる前に契約を締結している場合は、近隣よりも賃料が低く、見直しをして新しい賃借人を探す方が良いはずです。

相当期間を定めた催告+解除→1つの通知書で兼ねる


賃貸借契約は賃借人が保護される契約です。
普段から追い出したいと思っている賃借人でも、なかなか追い出すことができません。
賃料の不払いは、出て行ってもらうチャンスです。
しかし賃料の不払いがあっても直ちには賃貸借契約を解除できるわけではありません。
相当期間の猶予を定めて解除をする必要があるのです。

まずは支払ってもらうように催告をします。その催告には、相当期間の猶予を付けなければなりません。(民法514条)




通常は「●日以内に賃料を支払わなければ、解除します」という内容で通知書を出します。期限を明示した催告と期限到来時の解除を、1通の配達証明付の内容証明で兼ねて通知します。

支払ってもらうと困る


ここで期限内に支払いがなければ、無事に解除ができるので裁判で追い出せるのですが、支払があると解除ができなくなります。
家主にとっては支払ってもらうと、むしろ困るのです。
しかし「●日以内に賃料を支払わなければ、解除します」と書いてしまうと、●日以内に支払われる可能性があります。
特に借家ではなく借地の場合、借地権の価値は高いので、解除されたくない借地人は何としてでも延滞賃料を支払おうとするでしょう。
解除したい場合は、支払わせない方法をとらなければなりません。

催告と解除を別々に出す、催告はさりげなく、金額を明記しない、催告の翌日に解除通知を発送し相当期間経過後に再度の解除、弁護士名で出さない


1つの方法は、催告と解除を別々の書面で出すことです。
催告を通知する書面で、「●日以内に支払わなければ解除」と書いてしまうと、支払わなかったらどうなるかを教えることになります。どういう結果になるかを教えずに催告をすることで、不払いを続けさせるのです。
「●日以内にお支払いください」とだけ書けばよいのです。
そして催告期間を経過した後に解除の書面を送付します。
2通送付することで、費用は掛かりますが、支払われしまうことで解除できなくなるよりはましです。



催告の文言をさりげなく、長文の中に埋もれさせる方法もあります。
解除したい賃借人は、今までにも催促に対しても支払いが滞りがちなはずです。内容証明を送ると若干は身構えるでしょう。しかし、できれば支払ってもらいたくないのですから、契約締結や今までの付き合い、これまで督促をしたことなどについて長々とした文章を書き、その中にさりげなく催告文言を埋もれさせるのです。



請求額の具体的数字は明記しない方が、直ちに支払われにくいでしょう。「●月分から●月分までの家賃」とだけ書き、「合計●円」とは書かないということです。毎月の家賃を単純に合計すれば計算できるはずですが、合計額を明示しないだけでも計算を面倒に思うことで支払われない可能性が高まります。



催告書面を送付した直後に、解除書面を送付することも効果があります。
催告書面と解除書面を賃借人が立て続けに受け取るので、解除書面を受け取った時点で支払っても解除されると勘違いするため、支払う可能性はほぼなくなるでしょう。
この場合は、相当の期間を設けずに解除をすることになります。
法的には、相当期間を設けていなくても、相当期間が客観的に経過することによって、解除ができるようになります。相当期間が経過する前に解除をしても、客観的に相当期間が経過することで、解除の効果は発生するのです。
ただしこの方法は、裁判になった時に相当期間が客観的に経過していない時点の解除は無効である、と反論される可能性があります。
念のために再度、相当期間経過後に2通目の解除を通知し、争う余地を封じることで、確実に解除の効果が発生します。



解除通知が到達する前に支払わせないようにするには、弁護士名で催告を出さないことも重要です。
弁護士に依頼していても、本人の名前で内容証明を出すことによって、催告を受け取った賃借人が相当期間経過前に賃料を支払う可能性を下げるのです。内容証明が弁護士名で書かれていれば、受け取った賃借人も弁護士に相談する可能性が高いでしょう。そうなると、相当期間経過前に賃料を支払うようにアドバイスを受けることになるからです。
あくまでもさりげなく、さらっと催告をし、相当期間内に賃料を支払わせないことが重要なのです。

2022-03-17 16:03 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所