敷金精算において貸主はコストを最低限にする義務があるのか

敷金を精算するときに、見積もり明細をみた借主がおかしいと思うことがあった場合、どの程度まで異議を申し立てることができるのでしょうか。 見積もりは修繕の項目と金額に分かれていますが、項目については不当な項目が含まれていた場合、借主は確認を求めたり削除をすべきであると主張することができます。 借主の主張が通るかどうかは、敷引きの合理性の問題です。 では金額についてはどうでしょうか。 見積もりの項目が正しい前提で、次に金額が適正かどうかという問題です。 これも同様に敷引きの合理性の問題なのですが、修繕の項目の問題と異なり、一律に判断することが難しいのです。     というのも、原状回復は本来、借主と貸主のどちらがするべきなのかという問題があります。契約書に、借主が原状回復をしてから返却をすると明記されていた場合は、借主の義務です。とはいえ、通常は貸主が業者を指定して原状回復を行い、費用を借主に請求することが多く、その旨契約書に明記していることもあります。 その場合、原状回復工事において、最低限の費用となるようにする義務が貸主にあるかどうかという問題です。 買い物をするときに価格ドットコムや楽天、アマゾンをすべて確認して最安値で注文をするような義務までが貸主にあるかというと、そうではありません。     原状回復工事は、本来であれば賃借人において行うべき工事を賃貸人が行ったものであり、賃貸人において少しでも安価な費用で工事を行う義務があるとはいえないから、その費用が不相当に高額でない限り、原状回復費用を敷金から控除することが許される(東京地方裁判所平成29年1月18日判決)と裁判例にもあります。 「不相当に高額でない限り、原状回復費用を敷金から控除することが許される」との言い回しからも、基本的にはよほど高額でなければ、貸主が業者を指定し、貸主の判断で原状回復工事費用を支出することができるという判断になっています。 「不相当に高額でない限り」という部分は、不相当に高額であることを借主が立証しなければならないことを判示しています。原則として貸主が少しでも安価な費用で原状回復工事を行う義務はないので、原状回復費用は控除できる。ただし、借主がその費用について、不相当に高額であることを証明したときは、不相当に高額である部分については控除することが許されない。このような意味なのです。 例えば借主が同じ部品や工数をもって相見積もりを取って、平均値よりも若干高かったとしても、その程度では「不相当に高額」とはいえないでしょう。     悪質な貸主が業者と通じていて、相場以上の敷引きについて利益を山分けしているのではないか。こんな疑問を持つ借主もいるかもしれません。しかし原状回復工事の費用が不相当であると裁判で認められるのは難しいといえるでしょう。
2021-09-02 14:11 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所