事故物件サイト「大島てる」と「人の死の告知に関するガイドライン」について
大島てる氏の寄稿
大島てる氏は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」について、「ガイドライン制定により、事故物件公示サイト「大島てる」は終わりを迎えるか?」のタイトルで記事を書いています。
大島氏の記事には、まとめると以下の4つについて書いています。
1 ガイドラインには法的拘束力が無く、宅地取引業者を対象にするもので、宅地取引業者でない大島てるは遵守すべき立場にない。
2 ガイドラインが告知義務の線引きをしても、告知義務が課されない物件に対する消費者の関心はあるので、事故物件サイト「大島てる」に対する需要は今後も変わらない。
3 ガイドラインは必要最低限の義務を定めたもので、告知義務が課されないことは告知禁止と同義ではない。
4 ガイドラインによる線引きがある以上、事故物件に関する記載は端的に事実を記載する表現にすべきである。
心理的瑕疵のうち人の死に関する告知と事故物件サイト
心理的瑕疵とは、不動産取引にあたって買主や借主が心理的に抵抗を感じることをいいます。
例えば、自殺や他殺などの事件や近所に暴力団施設があることが心理的瑕疵です。
その心理的瑕疵のうち人の死の告知について、令和3年10月に国土交通省がガイドラインを策定しました。
今回は、ガイドラインと事故物件サイト「大島てる」について、考えてみます。
1 ガイドラインの法的拘束力
ガイドライン自体が法規ではないので法的拘束力を持たないのは事実です。
また告知義務の線引きは、線引きから外れた物件について告知を禁止することを意味しないのも、そのとおりです。ガイドラインは、宅建業者以外に対して直接的な意味も持ちません。
ただし告知が引き起こす法律問題に対しては、留意する必要があります。
例えば名誉棄損や業務妨害などの問題があり、これは宅建業者以外であっても一般法規に服します。
事故物件サイト「大島てる」には、商業ビルの事故や、公的建物での転落事故も掲載されています。
一般ユーザーが居住用建物について調べる際には、直接には必要のない情報も掲載されることになります(隣のビルの事故を気にする方もいる可能性はあるでしょう)。
こうした事故物件情報は、事件報道と同様の性格を帯び始めます。プライバシーや名誉に対して求められる配慮も、やや強く要請される可能性があるでしょう。
報道機関は歴史的に、事件報道のガイドラインを醸成してきました。実名報道を避けたり、報道をそもそもしない基準もあります。報道機関を盲信はできないものの、過去の失敗に学び今の姿があるわけです。
事故物件サイト「大島てる」のような個人が自由に投稿できるサイトにおいては、ガイドラインによる事前規制が働きにくい場合もあるため、事後的な削除申請のルール化が大切になってきます。
大島氏は今回のガイドラインを受けて、今後は事実を端的に掲載することが重要であると指摘しています。論評を加えることで誘引する外部の圧力から、サイトを守ることにもつながるでしょう。
事実を淡々と掲載する以上、目的と記載事実が公的なものであれば、名誉棄損が生じにくくなるからです。
ただし今でも寄せられている削除要請の問題は、別途で考える必要があります。
2 事故物件情報に応じた削除基準
事件報道がネットで掲載され続けることに対して、被疑者などは「忘れられる権利」を主張しています。
日本ではこの権利を地裁判決が認めたものの、高裁と最高裁は否定しました。
検索結果の削除にあたっては、
・書かれた事実の性質・内容、公表されることによる被害の程度、その人の社会的地位・影響力、記事などの目的・意義
・掲載時の社会的状況とその後の変化
・記事などでその事実を書く必要性
などの要素を考慮すべきとしています。
そもそも日本人は心理的瑕疵について、そこまで気にするのでしょうか。
これは居住用に購入する目的なのか、商品在庫を保管する倉庫として借りる目的なのかなどの目的によっても異なります。
自分のものにして長期間所有し続けて実際に住む場合は、物件の素性や来歴を気にするでしょう。他方で、お店を開く場合、お金を稼ぐことが目的の場合は、安く借りられるのであれば事故物件でも構わないこともあるでしょう。
他にも、地域や利用者の属性にも大きく左右されます。
殺人事件など起きたことがない田舎と、どんなことがあっても不思議ではない東京の大歓楽街では、事故が起きたことの意味が大きく異なります。
事故物件サイトに事件報道に関する削除基準を応用するならば、事故物件情報にも種類があることから、事案に応じた判断がなされるのでしょう。都会の事故物件情報は、田舎の事故物件情報に比べて削除要請が認められにくいはずです。
3 プライバシーや名誉よりも財産価値の侵害に
事故物件サイトはいろいろな反対意見も当然にありますが、存在意義を認められているからこそ「大島てる」は存続しているはずです。
事故物件サイト「大島てる」は、自主的な削除にも対応しているようです。
しかし、委縮し過ぎてはいけない反面、資産価値を大きく下げる効果も持つことから、不当投稿の掲載は、プライバシーや名誉というよりも、財産価値の侵害になります。名誉棄損で問題にされることが多いようですが、実際には財産価値の侵害の方が重要です。
宅建業者向けとはいえガイドラインで告知が義務付けられていない事故について、自主的に掲載を続けることが、名誉やプライバシーの問題を引き起こさない場合であっても、財産権は侵害しないのか。この問題意識を裁判所がどう判断するのでしょうか。
不動産という高額財産を対象にする事故物件サイトの意義は大きく、責任も重大です。