トラブルの種類
地主と借地人とのトラブルには、大きく分けて次のような種類があります。
(1)用法違反
木造家屋のような非堅固な建物を建てる目的で土地を借りながら、鉄筋のビルのような堅固な建物を建てた場合などに問題となります。 なお、平成4年8月1日に施行された借地借家法ではこの堅固・非堅固の区別はなくなりました。 ただし、平成4年7月31日以前の契約には、旧借地法が適用されるので、建て替えの際の用法違反をめぐって堅固建物か非堅固建物かの争いがあります。
(2)無断増改築
貸借契約の中に建物の増改築禁止の特約があるにもかかわらず、これに違反して平屋の建物を無断で2階建てに建て増ししたような場合に問題となります。
(3)金銭トラブル
地代の滞納や、更新料支払の約束があるにもかかわらず払っていないような場合に問題となります。 地代の滞納では、その期間やそれまでの支払状況などによって、契約解除できるか否かが異なります。 1回や2回程度の地代の滞納では、地主は契約解除をすることはできないと考えられますが、滞納が数回に及び地主と借地人の信頼関係を破る程度になれば、契約解除をすることができます。
(4)地主の交代
地主が交代しても、基本的に、借地人の権利には何の影響もありません。 しかし、例えば、新地主が地代の値上げを要求した場合にはトラブルとなる可能性があります。
(5)借地権の無断譲渡・転貸
借地人が地主の承諾なく、借地を譲渡・転貸した場合、原則として契約違反となります。 この場合、借地人は契約を解除されても仕方ありません。
(6)更新拒絶
地主が契約の満了をもって借地人に契約更新の拒絶をした場合、正当事由の有無が問題となります。 正当事由がある場合には、地主は土地を明渡してもらうことができますが、どのような事由であれば正当な事由があるといえるかは、それぞれの事案ごとに判断されます。
(7)建物買取請求
借地を明渡す場合、借地人は建物の買取を請求できます。 その際、その買取金額でトラブルとなることがあります。 なお、契約違反によって契約解除となった場合、借地人は地主に対して建物買取を請求することはできません。
借地借家法に注意
建物所有を目的としている場合には借地借家法が適用されるので、契約で建物所有の目的であるか否かを明確にしておくことが大切です。
■建物所有を目的とする場合
借地借家法が適用になると、更新などの規定が適用されることになり、地主は正当事由がなければ更新の拒絶や明渡しを求めることはできません。 この正当事由については、次のような借地人と地主の個別の事情を総合的に比較し考慮し、借地契約を終了させるべきか否かを判断します。
- ①地主と借地人それぞれの土地使用の必要性
- ②借地に関する従前の経過
- ③土地の利用状況
- ④立退料の申出の有無
しかし、借地借家法は借地人を保護することを重視した法律なので、正当事由がなかなか認められないのが実情で、地主が借地を明渡してもらうことは大変困難となります。
■建物所有を目的としない場合
建物の所有を目的としない土地賃貸借契約や一時使用の場合には、借地借家法は適用されません。 そのため、借地借家法に規定されている存続期間や更新など規制を受けることもなく、地主は期間が満了すれば明渡してもらうことができます。
借地借家法の適用に関する問題として、次のようなものがあります。 次の場合には、借地借家法が適用になるのかが問題となります。
(1)無償で土地を貸した場合
無償で自由に使っていいという約束で土地を貸した場合にも、借地借家法が適用されるのかが問題となります。
土地に限らず他人の物を無償で利用する権利を、使用貸借といいます(民法593条)。 無償であるという点で、有償の権利である賃借権とは異なります。 土地に使用借権を設定した場合には、たとえそれが建物を建てる目的であっても借地借家法は適用されず、地主は契約期間満了によって土地を返してもらうことができます。 もともとこの権利は、地主の厚意で使わせてもらう権利であり、地主と借地人との間の特別な人間関係が重要な要素となるので、地主が死亡した場合には、使用貸借関係は相続されず終了します。 また、地主の厚意によって契約が締結されていることから、借地人は地主に対してそれほど強い権利を持つことはできません。 そのため、使用借権を地主に無断で譲渡・転貸することは認められず、使用目的を達成した場合には、そこで使用借権は消滅し、借地人は地主に土地を返還しなければなりません。 さらに、期限や使用目的を定めていない場合には、地主はいつでも解約することができるとされています。 使用借権の場合、借地人は目的の物を使用収益することができますが、その代わりに、賃貸借の場合とは異なり、目的物の保存や保管に必要な通常の費用を負担しなければなりません。 ただし、土地の改良費用などの特別な費用は貸主に請求することができます。
現実にはある程度賃料を地主が受け取っていたとしても、その賃料の額が極端に低い場合には、賃借権ではなく使用借権と認められることがあります。 これに対して、賃貸借の場合とそれほど変わらない程度の地代を受け取っている場合には、賃貸借として借地借家法が適用されます。 また、謝礼程度以上のものを受け取っている場合にも、借地借家法が適用される可能性があります。 なお、不動産、特に土地の使用貸借については、親族関係のような特殊関係にある者の間でしか認められないと考えられます。
使用貸借契約は地主の厚意によって締結される契約なので、実際には、きちんとした形で契約が締結されることは少ないといえます。 そのため、契約が使用貸借契約であるか否かがトラブルの原因となることがあります。 その場合に地主は、無償または著しい廉価で使用させていることを立証し、使用貸借契約であることを主張することになります。
(2)一時使用の場合
建築工事のための作業員の仮宿舎として3年の約束で貸した場合、借地借家法の適用があるのかどうかが問題となります。
建物所有目的の借地権であっても、一時的・臨時的な使用が明らかである場合には、借地借家法の存続期間や更新などの主要な部分の規定は適用されません。 そのため一時使用の賃貸借契約は、その契約期間の満了によって終了します。 これに対して、一時使用であると認められない場合には、借地借家法の適用を受けることになり、その場合の借地権の存続期間は最低でも30年となります(借地借家法3条)。 そして、地主は正当事由がなければ更新を拒絶することはできず、土地を明渡してもらうことも困難となります。 したがって地主としては、一時使用の借地権であると認められるような契約内容とするよう、注意しなければなりません。
■一時使用の判断
一時使用の借地権であると認められるためには、あくまで臨時または仮の建物の設置を目的としていることが必要です。 具体的には、次のような例があります。
- ・特定の工事に伴う臨時の工事従事者の宿泊施設建設のため
- ・特定の選挙の際の選挙事務所設置のため
- ・店舗の改装に伴う臨時店舗の設置のため
- ・一時使用であることを明示する 一時使用の借地権契約書を作成する際には、まず、約束された土地の利用の性格が臨時のものであることを明らかにする必要があります。 具体的には、借地上に設置する建物の使用目的や用法に関して記述する際に、「臨時」または「仮」という文言を入れておくべきです。
- ・一時使用と期間の定め 一時使用の場合には、契約された土地の用法や使用目的からみて、不必要に長い期間を定めないことが必要です。
- ①土地の利用目的および、土地上の建物の種類、設備、構造
- ②賃貸借期間
- ③賃貸借終了後の土地の利用目的
- ④賃料や権利金などの条件
なお、工事に伴う工事従事者の宿泊施設の設置のためでも、その工事が特定されていない場合には、臨時の使用とならないこともあるので注意が必要です。
そして、一時使用借地契約の場合には、次のようなことに注意する必要があります。
ただし、単に契約の期間が短期と定められたり、契約書に「契約は一時使用を目的とする」など一時使用の文言が記載されているだけでは、借地借家法の適用が除外されることにはなりません。 一時使用と認められるか否かは、次のような基準によって、その賃貸借契約を短期的に限り存続させる趣旨のものであることが客観的に認められるかどうかによって判断されます。
①土地の利用目的及び、土地上の建物の種類、設備、構造
建物がイベント用の簡易な建物、建築工事のための事務所や資材置場、あるいは一時的仮設店舗であることは、一時使用を肯定する要因となります。 また、建物の構造が仮設的建築物であるときは、一時使用が肯定されやすくなります。 一方、建物が堅固であることは、一時使用を否定する要因となります。
②賃貸借期間
一時使用の賃貸借は、短期間に限り賃貸借を存続させる合意をする場合の賃貸借なので、期間が長期であれば、一時使用には当たりません。 賃貸借契約の期間は、通常、5年程度が上限と考えられています。 なお、5年の賃貸借期間を定めた場合でも、更新を3回にわたって行い、賃借期間が通算20年になった場合には、一時使用とは認められないと判断した裁判例もあるので、注意が必要です。
③賃貸借終了後の土地の利用目的
賃貸借終了後の土地の利用目的が考慮されることがあります。 また、隣地との共同開発事業に着手するまでの暫定的な利用であることも、一時使用を肯定する要因となり得ます。
④賃料や権利金などの条件
一般的に、一時使用の場合には賃料が低額に抑えられると考えられます。 借地期間中の賃料増額は、借地契約を存続させる意思を示すものとして、一時使用であることを否定する要因となります。 また、権利金の授受があることは一時使用を否定する理由になる可能性があります。
(3)荷物置場として貸した場合
荷物置場として使用する約束で貸していた土地に、借地人が小屋を建てた場合に、借地借家法が適用されるかが問題となります。
荷物置場として貸した場合、建物所有を目的としているとはいえないので、借地法の適用はありません。 また、荷物置場として貸した土地に建物を造ったとしても、建物の所有を目的として土地を貸していないので、借地借家法は適用されないと考えられます。 しかし、借地人が何日もかけて借地上に建物を造っている場合に、それを知りながら注意をしないと、既成事実の積み重ねを見過ごしたとして借地借家法が適用されることになる恐れがあります。 したがって、地主としては、契約と違う建物ができているなどの状況を見つけたら、すぐに異議を述べ、賃借人がそれに応じない場合には、法的手段に訴えることを検討すべきです。
(4)ゴルフ練習場に建物を建てた場合
ゴルフ練習場に使うということで貸していた土地に、借地人がゴルフ練習場とともに事務所を建てた場合、借地借家法が適用されるかが問題となります。
借地借家法が適用される建物であるかどうかは、建物についての社会通念と借地借家法の保護の対象とすべきかどうかという立法の趣旨に照らして判断されます。 そのため、借地上に建物を所有していても、それが借地の主たる目的でないときには、借地借家法の適用はないと考えられます。
この点、ゴルフ練習場に、その経営に必要な管理人事務所等の小規模の仮設建物を築造・所有していた場合、それはゴルフ練習場としての賃貸借の従たる目的にすぎず、建物の所有を目的とするとまではいえないので、借地借家法は適用されないと考えられます。 ただし、地主と借地人の契約で建物を造ることを禁止している場合には、契約違反となります。 この場合、地主は契約違反を理由に契約を解除し、借地の明渡しを求めることができると考えられます。
したがって、地主としては、ゴルフ練習場として貸した土地の上に建物を建ててほしくない場合には、その旨を明確にして契約することが大切です。
(5)広告塔を建てた場合
土台がコンクリートで高さ30mの鉄骨を組んだネオンサインの広告塔は建物といえるのか。 建物とみなされれば、借地借家法が適用されるので、建物といえるか否かが問題となります。
塔は建物とはいえないので、原則、借地借家法は適用されません。 しかし、大規模な建築物や、屋根付きの部屋などがある場合には建物とみなされ、借地借家法が適用される可能性があります。 また、塔そのものは建物に当たらなくても、塔の途中にある屋根付きの展望台などは建物に当たると考えられます。 判例でも、堅固なコンクリートの土台を持つ鉄骨で構成された、いわば半永久的性質を持つ広告塔の建設を目的とする借地契約は、明示の合意がなくても、堅固な建物を目的とする場合であるとされています。
トラブルを避けるためにも、地主は、広告塔を造る目的で契約を締結する際は、どのような広告塔を造るのかについて、契約で明確に定めることが大切です。
(6)国有地を借りた場合
普通財産にあたる国有地が貸しつけられた場合、その国有地には借地借家法が適用されるのかが問題となります。
国有地について、植樹を目的として土地及び土地の定着物を貸し付ける場合、その貸付期間は60年以内、それ以外の場合の貸付期間は30年以内とされています(国有財産法21条)。 この国有地について、国有財産法24条では、土地を公の目的のために使う必要が生じた場合、国の方から契約を解除することができるとされています(同法24条)。 判例は、国有財産法に特別の規定があれば、借地法は適用されないとしていますが、具体的な適用範囲については、考え方が分かれています。 同じような事案で、「普通財産である土地の、建物の所有を目的とする貸付けには、まず、国有財産法が適用されますが、これに規定のある事項を除いては借地法が適用されるものと解すべきである」として、借地法の適用を認めたものもあります。