契約に当たって、借地上の建物を増改築する際に地主の承諾を必要とする旨の取り決めをするのが一般的であり、借地人が借地上にどのような建物を建築できるかは、借地契約における特約で決まります。 建物の種類、構造、規模、用途や増改築について、特約によって制限されていれば、借地権者は、特約に従わなければなりません。 しかし、借地契約は長期間にわたるため、借地条件の変更や増改築が必要になることも考えられるので、その場合には地主と借地人が協議し、借地条件を決め直すべきです。 この協議によって合意に至らない場合、合意に達しなかったからといって、借地人が地主に無断で増改築を行うことは契約違反であり、地主はこれを理由に契約を解除することができます。 ただし、裁判所は軽微な違反についてまで契約解除を認めるものではないと判断しているので、契約解除のためには、増改築が契約を解除できるほど重大なものである必要があります。 勝手に増改築してほしくない場合、地主は増改築を禁止する旨、契約書で規定しておくべきです。
なお、増改築については、従前、紛争が多かったことから、地主に代わって裁判所が許可を与える制度が新設されました(代諾許可)。 この制度によって、借地条件や増改築禁止の特約があっても、裁判所が地主側の承諾に代わる許可を与えることができることとなりました。 借地条件を変更する場合には、次の要件が必要になります。
- ①建物の種類、構造、規模または用途を制限する借地条件がある場合
- ②法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更があること
- ③現に借地権を設定するならば、その借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であること
- ④当事者間に協議が調わないこと
また、増改築の許可が認められるためには、次の要件が必要になります。
- ①増改築を制限する旨の借地条件があること
- ②増改築が土地の通常の利用上相当であること
- ③当事者間に協議が調わないこと
裁判所は借地期間の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過など一切の事情を考慮して、許可すべきか否かを判断します。
(1)地主の承諾なく増改築した場合
地主の承諾なく、木造住宅を鉄筋のビルに建て替えた場合、地主は契約違反を理由に契約解除を行うことができるか問題となります。
当事者間の契約に増改築禁止の特約があるにもかかわらず、地主の承諾を得ず増改築をした場合、地主は特約違反として契約解除をすることができます。 これに対して、増改築禁止の特約がない場合、なかなか無断増改築による契約解除は認められません。 したがって、地主としては、増改築を禁止する旨の特約を明確に定めておくことが必要です。
(2)木造建物を鉄筋マンションにする場合
地主の承諾なく、木造住宅を鉄筋マンションにすることができるかが問題となります。
平成4年7月31日までの借地法では、非堅固な建物を堅固な建物に変更することは、用法違反として禁止されていましたが、借地借家法では堅固な建物か非堅固な建物かという区別はないので、借地条件の限定、増改築禁止特約がない限り、木造建物から鉄筋マンションへの建て替えも認められると考えられます。 しかし、借地上の建物が建て替えられると、借地契約の期間満了時に地主が更新拒絶を行う機会が少なくなり、明渡しの際の借地人から請求される建物買取の価格が高くなるので、地主にとって不都合です。 そのため、このような建て替えが認められるのは難しいといえます。
そこで、等価交換の方法によってマンションを建設することが考えられます。 等価交換とは、地主が土地を出資し、不動産会社や建設会社が建築資金などを出資し、両者の共同事業としてマンションやビルなどを建設し、完成した建物の住戸等をそれぞれの出資割合に応じて取得する方法です。 等価交換によって地主は、ビルやマンションを取得することができ、底地・借地といった複雑な権利関係を解消でき、また、取得したビルやマンションを賃貸することで、安定した収入を得ることができるので、木造建物のままにしておくよりも地主にとってメリットがあるといえます。
(3)増改築禁止の特約があるのに改築した場合(平屋を2階建てにした場合)
増築禁止の特約があるのに借地人が改築した場合、地主は契約解除することができるかが問題となります。
借地人が地主の承諾を得ずに、特約に違反して増改築をした場合、地主は契約違反により契約を解除することができます。 ただし、その違反が軽微なものであると判断された場合には、解除が認められない可能性があるので、違反の程度や地主の被る不利益等を総合的に考慮して、契約を解除することができる程度の違反であるかどうか、判断すべきです。 なお、契約の解除ができないとしても、平屋を2階建てにすることで利用効率が増大するので、地主は、そのことを理由に地代を増額することができると考えられます。
(4)増改築禁止の特約があるのに改築した場合(バラックを本建築にする場合)」
増改築禁止の特約があるのに、借地人がバラックを本建築とした場合、これを理由に明渡しを求めることができるかが問題となります。
「無断で現在の建物に増減変更を加えた場合は契約を解除する」という特約がある場合に、最初借地上に建てていたバラックを2階建ての本建築に建て替えた場合、これは契約違反に当たり契約解除原因となる可能性があります。 しかし、借地人が医者であったこのような事案について裁判所は、契約成立当時、当事者間に暗黙のうちに予想され了解されていた建物は、借地人の地位、職業にふさわしい住宅用家屋であって、当初建てられたバラックが賃貸借期間中の対象家屋とはいえないとして、明渡しを認めませんでした。
このように、契約違反があるからといって当然に契約解除が認められるわけではなく、当事者の個別の事情を考慮して、契約解除できるほど重大な違反といえるかどうか判断しなければなりません。