建物の滅失・朽廃と借家権
建物(借家)が滅失・朽廃により、消滅したときには、その理由や責任が誰にあるかに関係なく契約は終了します。ただし、滅失の原因如何によっては損害賠償請求ができます。■建物の朽廃
朽廃とは、人工的にではなく、自然的な腐食状態によって社会的経済的効用を失った場合をいいます。具体的には建物の土台や柱などが破損し、壁等が剥落し、材料が腐食している場合にはその程度のいかんによっては朽廃となるとした判例があります。■建物の滅失と借家契約の終了
借地借家法には、借家の朽廃・滅失の場合についての規定はありません。しかし、この場合、借家契約は終了することになります。
判例によれば、「賃貸借の目的たる建物が朽廃しその効力を失った場合は、目的物滅失の場合と同様に賃貸借の趣旨は達成されなくなるから、これによって賃貸借契約は当然に終了するのを相当とする」(最高裁昭和32年12月3日)としています。要するに、貸した目的物(建物)がなくなったのだから、契約は終わり、ということなのです。
■火災による借家の消滅
借家人の過失で借家が消滅しても重過失でないかぎり、不法行為による損害賠償責任を負うことはありません(失火ノ責任ニ関スル法律)。したがって、隣近所へ被害を与えたとしても賠償する必要はないのです。しかし、家主に対しては、契約が終了した場合に家屋を返還する義務がありますので、債務不履行として損害賠償責任があるとされています。
なお、バブル全盛期には、借家権を消滅させるために、放火やトラックを建物に突っ込ませるという建造物損壊事件(刑法260条)がありました。こうして建物が消滅した場合、借家人は事件を起こした相手に対して不法行為に基づく損害賠償請求ができます。
民法415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責に帰すべき事由によって履行することができなくなったときも、同様とする。
アパートが老朽化したので建て替えたいのですが、借家人の数人が立ち退きに応じてくれません。立退料でアパートから出て行ってもらうことは可能ですか。
アパートが老朽化したので建て替えたいのですが、借家人の数人が立ち退きに応じてくれません。立退料でアパートから出て行ってもらうことは可能ですか。
借家人が立ち退きに同意しないからといって、力ずくで立ち退かせることはできません。まず、当事者間で話し合いをし、話がまとまらなければ裁判所に民事調停を申し立てます。調停が不可能な場合、最終的には借家人に対し貸室明渡し訴訟を起こし、勝訴判決を取るしかありません。訴訟において、定期借家契約、取り壊し時に契約を終了する特約をした取り壊し予定の借家契約、一時使用の借家契約の場合を除けば、裁判所は家主側に正当事由があるかどうかで判断します。立退料の支払いという財産上の給付は、判断材料となる正当事由を補完するものとなります。
退去時に汚れた一部分だけではなく、フローリングの全面張り替え費用を請求されています。
フローリングを汚してしまっているのですが、退去時に汚れた一部分だけではなく、フローリングの全面張り替え費用を請求されています。全部を張り替えるのは私のせいではないと思いますが、応じなければいけませんか。
借主は、部屋を借りる際に部屋や設置されている備品などの賃借目的物を破損させないように使用することになっています。これを、法律上では「善良なる管理者の注意義務(民法400条)」といって、借主の不注意で違反をし、貸主に対して損害を与えたときは、賠償をする必要があります。
ただし、ここでいう「不注意」とは、一般的に考えれば、どのような結果になるか予想がつくにも関わらず、気付くことが出来なかった場合のことを指します。よって、今回は借主の過失によってフローリングを破損させてしまったので、修繕費用は借主の負担となります。
しかし、管理会社からフローリングの全面張り替え費用を請求されたということですが、はたしてそこまで必要なのかは疑問なところです。たしかに借主の不注意によってフローリングを破損させましたが、あくまでフローリングの一部であって、全面を破損させたわけではないのです。
また、契約書には通常「原状回復」をして、明け渡すように書かれていることが多く、もし、記載されていなかったとしても、原則、「原状回復」の状態に修繕するものです。
ですが、原状回復とは、入居時のような現状に戻すということであって、全てを新品の状態にして明け渡すということではないのです。
最近では、部分補修も出来るようになりましたし、原状回復ということで考えても、部分補修で十分だと考えられます。破損した部分の修繕だけで済むのであれば、管理会社と交渉してみるべきです。
原状回復とは「賃借人の居住・使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常を超えるような使用により損耗・毀損を復旧すること」と定義されており、原状回復の修繕にかかった費用に関しては賃借人が負担するものであるとされています。ただし、年数が経つにつれて変化することはいた仕方ないものに関しては、通常の使用による損耗等の修繕費用は賃料に含まれているものとし、この場合の原状回復は、賃借人が借りた当時の部屋の状態に戻すことではないとされています。
通常の使用と言ってもその範囲が極めて広く、判断基準そのものを定義することが困難なことから、建物価値の減少ととらえられる損耗等の一般的な事例を以下のように区分して、復旧費用の負担の有無の検討が必要であるとしています。
A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしても発生すると考えられるもの
B:借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用の結果とはいえないもの)
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生又は拡大したと考えられるもの
A(+G):建物価値の減少の区分としてはAに該当するものの建物価値を増大させる要素が含まれているものBおよびA(+B)については賃借人の負担の検討が必要
入居前からの部屋の破損が修理されていない。
入居前からの部屋の破損が修理されていない。
本来であれば、新しい借主が入居する前に、家主は部屋が通常に使用出来る状態に修繕しなければならず、その修繕に関する費用は家主自ら負担する義務があります。
さらに、借主が入居した時点で、部屋を使用することに支障の出るものに関しては、借主が入居した後であっても、家主には欠陥を修繕する義務が生じます。
なので、入居前からあった破損に関する修理費は、破損後に入居した借主の敷金があてられることはありません。
また、その破損が前の入居者の落ち度によるものであれば、前の入居者の負担となり、家主が前の入居者の敷金から差し引くことを忘れていたのであれば、修理費は大家さん自身の負担となります。
また、長年の使用により、畳が摩耗した際は、自然による落ち度の破損になるので、修理費や取り換え費の負担は大家さんが持つことになります。
ただし、入居前の破損であることを明らかにしていることが前提となります。今後、借主が退室する際に大家さんや不動産会社に元からの破損であると伝えたとしても、不動産会社の担当者が代わっていた場合、現在の借主の敷金から修理費を差し引かれる可能性があります。
よって、そのような事態を未然に防ぐためにも、入居してまだ間もない時期に、不動産会社の部屋の担当者か大家さんに破損個所を見せておき、修理をしてもらう約束をしておくべきです。
もしも、不動産会社または大家さんのどちらもが修理を実行してくれない場合は、修繕を実行しない旨を指摘した修理を要求する内容証明郵便を出し、記録として残しておくべきです。
要求を明確にするためにも、まずやるべきことは、事実にあった催告を相手方に対して行うことになります。賃借人が賃料を延滞していることに対して、一般的には、滞納賃料の支払いがないこと等の理由から、賃貸借契約を解除する旨を配達証明付内容証明郵便に記載し、相手方(賃借人)に送付することになります。もちろん、滞納に限らず、修繕を実行してもらえないことへの修理の要求も内容証明郵便によって行うことも可能です。
ただし受取人に対して、内容証明郵便を送付しても、留置期間満了(留置期間は原則7日間となっています。しかし、受取人の申出によっては、最大10日間まで延長することが可能となります。)に伴い、内容証明郵便が返送されてしまうことがあります。これは、配達の際に受取人が不在であれば「郵便物配達のお知らせ」が交付されることになっているが、差出人の欄に差出人の名前が記載されていることで、受取人が自身にとって不都合な内容が書かれていると思い、内容証明郵便を留置期間内に受領をしないように拒否しているためであると考えられます。
このような場合は、たとえ受取人不在で内容証明郵便が返送されてきても、留置期間の満了をもって差出人の意志表示の到達はあったものとされることもあります。
また、相手方が内容証明郵便を受領しなかったとしても、内容を了知させるために、留置期間満了に伴い返送された内容証明郵便の差出人保管分をコピーし、いつ、何を送付し、留置期間満了により返送されたこと、さらに内容証明の写しを送付したことを記載した奥書を郵送することも1つの手段です。
入居後に風呂が壊れているのに気がついた
入居後に風呂が壊れているのに気がついた
賃貸借契約おいて、大家さんは、いつでも部屋が使用可能な状態にしておかなければなりません。よって、壁の破損や雨漏りなど、借主が入居前の破損によって、借主が日常生活を送る上で、差し支えのある状態が生じた場合、大家さんはその破損を修繕する義務があるのです。
また、賃貸借契約の目的物(部屋)の修繕にかかる費用は、原則賃貸人である大家さんが負担するよう定められています(民法606条)。なので、入居後に壊れていることに気付いたのであれば、大家さんにその旨を連絡し、修理を頼めばよいのです。この場合の費用は、もちろん大家さんに負担の義務があるので、借り主が費用を支払う必要はないです。
ただし、契約書の内容によっては、例外もあります。それは、契約書の中に「修繕費は賃借人の負担とする」のような内容の特約が記載されている場合です。このような場合は、借主の自費という扱いになるので、契約書をよく読む必要があります。
しかし、大家さんに修繕費用を負担してもらうには、その破損が入居前からあったことを証明しなければなりません。その方法としては、管理会社もしくは大家さんが手配した業者に修理してもらわなければなりません。
その理由としては、専門家が見ることによって、借主が壊したのか、もしくは、前から壊れていたのかを見分けることが出来るからです。
気をつけなければいけないことは、借主が勝手に業者に依頼をして、修理してしまった場合です。この場合、信じてもらえない可能性もあり、借主の扱いの悪さで破損したと思われてしまうこともあります。なので、管理会社もしくは大家さんに言って、修理をしてもらう方がよいです。
もしも、管理会社や大家さんに修理を頼んでも、実行してもらえないときは、簡易裁判所に調停の申し立てをするのもよいです。もっとも、手続きがめんどうではあります。
ここでいう調停とは民事調停のことをいいます。
民事調停とは、民事問題に対して、調停委員会が当事者間に入り、実情に即した問題解決を図ることを目的とし、話し合いによって合意を目指す手続のことをいいます。
通常、調停委員会は裁判官から1名・民間人から2名(弁護士や大学教授、不動産鑑定士など)によって組織され、調停の申込みを簡易裁判所へすると、第1回目の期日が1~2か月後に入ることになります。
裁判所の期日は、賃貸人と賃借人の間に調停委員が入り話を進めていくことになります。
また、話し合いは当事者の合意が得られるか、または、話し合いが成立しないことが明らかになるかまで期日を指定しながら続けられます。
そして、話し合いがまとまると、確定判決と同等の効力を持つとされる調停調書が作成されることになります。
調停は、かなり長い期間を要して話し合いが続けられることが考えられることため、賃料の滞納問題ではあまり利用することはないですが、賃貸人が賃借人との関係上、訴訟を避けたい場合や、複雑な要素が他にある場合などのときは、利用されることもあります。
あくまで、民事調停は、当事者間による合意が前提となっているため、賃借人が調停に出席する意思がないときや、最終的に合意する気がないときは、ズルズル話し合いを進めても結局は成立しないので、調停をする意味がないです。
入居してみると畳が日焼けしていて壁も汚れていた
入居してみると畳が日焼けしていて壁も汚れていた
入居の前後を問わず、部屋を貸し出す以上、大家さんには、部屋や設備をいつでも使用可能な状態に修繕する義務があります。
ただし、大家さんが負うべき責任の範囲は、雨漏り、畳や壁に穴が空いているなど借主が生活する上で、生活に差し支えが生じる範囲に関する必要最低限のみに限られます。
しかし、契約書に修繕に関する特約が記載されている場合は、その特約に従うことになります。
ex.契約書に「故意または過失により破損した場合には、借主が負担する。」などの内容の特約が記載されていれば、借主の負担で修繕を行う。
また、通常の生活の中で壊れてきた部分に関しては、特約がない限り、大家さんが負担するというのが一般的です。
では、畳の日焼けや壁の汚れはどのように解釈できるかということになりますが、これは住む上で特別差し支えがあるという程のものではないと考えられるので、大家さんには修繕費用を負担する義務はないといえます。
新規の入居者に対して綺麗にしておくことは常識ではありますが、法律の上では、大家さんに修繕を求めることに対する強制力はないのです。
思ったより汚かったなどの不愉快を回避するためにも、契約前の内見の際に気になる箇所の補修やクリーニングをしてもらえるのかの確認をしておくとよいと思われます。
ただし、あまりに汚いからといって、勝手に畳や壁紙の張り替えをしてしまうと、たとえ借主の自己負担であっても、大家さんとの間でトラブルになる可能性もあるので、張り替えなどをする際は、事前に大家さんに承諾を得る必要があります。
もし、無断で貼り替えなどを行い、トラブルになったとしたら、原状回復を求められることも考えられます。
原状回復とは、「賃借人の居住・使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常を超えるような使用により損耗・毀損を復旧すること」と定義されているもので、原状回復の修繕にかかった費用に関しては賃借人が負担するものであるとされています。ただし、年数が経つにつれて変化することはいた仕方ないものに関しては、通常の使用による損耗等の修繕費用は賃料に含まれているものとし、この場合の原状回復は、賃借人が借りた当時の部屋の状態に戻すことではないとされています。
また、ここでいう通常の使用の基準についてですが、通常の使用と言ってもその範囲は極めて広く、判断基準そのものを定義することが困難なことから、建物価値の減少ととらえられる損耗等の一般的な事例を以下のように区分して、復旧費用の負担の有無の検討が必要であるとしている。
A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしても発生すると考えられるもの
B:借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用の結果とはいえないもの)
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生又は拡大したと考えられるもの
A(+G):建物価値の減少の区分としてはAに該当するものの建物価値を増大させる要素が含まれているものBおよびA(+B)については賃借人の負担の検討が必要
井戸水が飲料不適なので水道を引いてほしい
退社したら会社所有マンションの家賃値上げを要求された
居室というためには、最低限として
①雨露をしのぐことが出来る。
②炊事の出来る場所があり、さらに、水道が完備されている。
③トイレや排水設備が完備されている。
の条件を満たす必要があります。
居室に引かれている水が、「飲み水として不適」となっている場合、大腸菌等の雑菌が含まれていることも考えられ、このような水は「飲料水」としては認められないので、上記の②の条件を満たしているとは言えません。よって、大家さんは、「通常の生活を送る上で必要最低限度の設備を供給する義務」を借主に対して提供しなければならないにも関わらず、その義務を果たせていないと言えます。したがって、大家さんは借主の要求通り、水道を引かなければならないということになります。
では、大家さんが水を引いてくれないときにはどうするのかといことですが、まずは借主自身が浄水器を購入するか、水道を引いてしまうかします。そのときにかかった費用は、建物や部屋の修繕費・日常生活をおくる上で必要不可欠な設備などの通常の維持・管理・保存に必要なときに使われたことから「必要費」と言われ、直ちに大家さんに請求することが出来ます(民法608条1項)。
それでも大家さんが支払いを拒否したときは、家賃とこの必要費を相殺させることが出来ます(民法505条)。
*相殺とは*
互いの損得を消し合って、帳消しにすること。つまり、大家さんと借主双方の義務(大家さんは、部屋を修繕しなければならない義務。借主は家賃を支払わなくてはならない義務。)を相殺させるために、大家さんが支払い拒否をしている必要費の分を、借主が支払っている家賃から差し引いて、その残額を借主は大家さんに支払えばよいということになります。
また、相殺するためには、「○月分の家賃●万円のうち、△万円は浄水器購入(あるいは水道を引いた)の費用と相殺致します。なので、残額×万円を支払います。」のような内容証明郵便で送ることで相殺が成立します。
釘や画びょうを打つなという特約の有効性は。
釘や画びょうを打つなという特約の有効性は。
借主は、部屋の性質と契約書に則って賃借物件を使用することになります。よって、契約書の中で使用方法が限定されているのであれば、その内容に関して従わなくてはなりません。契約書の中で釘や画びょうの使用が禁止されているのであれば、使用することは出来ません。
これは、貸主が、後の賃借人に対して壁などに穴が開けられていることで、不愉快な思いをせずにすむように、また、建物を大切に扱いたいなどの思いから、釘や画びょうの使用禁止を特約として入れたのだと思います。
また、賃貸借契約では、「部屋に子供を入れてはいけない」や「窓を開けてはいけない」など、借主が不利になってしまうような特約は無効となることが認められますが、釘や画びょうの使用に関しては、借主が不利になるような内容ではないので、特約として有効であると言えます。
ただし、特別な建物でない限りは、釘や画びょうを使ったことによる違反が、契約解除の理由として認められるとは考えにくいので、契約を解除されることはないと思いますが、相応の修繕費用を退去時に請求されることはあると思われます。