第3章 賢い「家じまい」の仕方

「家じまい」とは、「高齢者の生活に適さない一戸建て住宅を売却し、新たに得られたお金を老後の住処や生活に充足し、ゆとりある幸せな老後の生活を手に入れること」と定義したい。
「家じまい」により得られるものは、老後の生活の基盤となる新たな住処や安心かつ快適な生活にとどまらない。不便になった一戸建て自宅を売却し、その売却益を使って、セカンドライフに合った住居への住み替え、介護・カーシェアリングのサービスを利用して、自立した老後の生活をも実現可能となる。
例えば、夫が会社勤めだったときにはなかなか長期休暇を取得するのが難しく、夫婦2人での長期海外旅行や世界一周クルーズは夢のまた夢。そのような夢をセカンドライフで叶えるのも「家じまい」なのだ。
老後のライフスタイルが変化し、人生の終わりをよいものとするため事前の準備を行う「終活」が大きなトレンドとなっているが、その「終活」の一環として、生命保険の利用、遺言作成、葬儀お墓の手配、遺品整理などを自ら選択・準備して、身の回り整理を行ってみるのもよいだろう。ただ、新たなことを行うのは不安がつきもの。実際、どうしたらサービスを受けられるのか、数あるサービスのうちどれを選択すればよいのか、どのくらい費用がかかるかなど、わからないことが多くあるだろう。
「家じまい」の参考となるように、住み替えについて紹介する。

「家じまい」から始まるセカンドライフへの準備

子どもが独立し、定年を迎えてセカンドライフ・老後の生活に入ったとき、果たして住み慣れた一戸建ては本当に住みやすい「住まい」なのか。
今の「住まい」は、仕事を優先して通勤に便利な場所であったり、子どもの通学や子育てに適した環境を基準に選んだりしたのではなかっただろうか、今一度思い返すべきである。
これまで住みやすかった一戸建ては、セカンドライフや老後の生活においては、実は住み難い不便なものであり、決して快適とはいえないはずである。
にもかかわらず、漫然と不便を我慢して今の住まいでそのまま生活し続けるのか、それとも、定年を機にセカンドライフに合った住まいを新たに求めるのか、シニア層は決断しなければならない。決断の時機を逸してしまうと、後で「一戸建て地獄」から抜け出そうと思っても、なかなか抜け出せなくなる。問題を先延ばしとせず、決断する勇気が必要である。

つまり、快適なセカンドライフを手に入れるために最初に検討すべきは「家じまい」である。
現在の自宅である一戸建てを売却し、その売却代金をもとに新たな「ゆとりある幸せな老後の生活」への準備をする。まさに、快適なセカンドライフを始めるきっかけとなるものだ。「家じまい」をするにあたって、最も重要なことは、「早めに動き出す」ということ。一戸建ては、マンションと比較しても、その売却には非常に時間がかかる。また、「家じまい」の決断が遅くなってしまうと、高齢化により体力・気力ともに落ちてしまい、機敏に動くことができなくなる。

「家じまい」を始めるのは75歳がリミットであろう。最近の60代は健康管理に気を遣っているせいか、元気で若々しく、趣味やビジネスで活躍中。「早いうちに老後に備えて下さい」と言っても、まだピンとこないかもしれない。事実、厚生労働省が集計した介護保険受給者の割合は、60代後半で男女共に2%台だ(厚生労働省『平成27年度介護給付費等実態調査の概況』)。
しかし、この割合は、75歳を境に急激に増加する。70代後半では、男性は9%、女性は12%にまで上昇し、60代後半と比べると約5倍程度に伸びている。また、ほとんどの年代で、女性の方が介護保険の受給率が高い点も見逃せない。
「家じまい」は手間と時間がかかる大仕事である。「家じまい」を行うためには自信が】積極的に動く必要があることから、足腰が弱ったり、書類を読むのが億劫になったりしてから行動するのは難しいものと思われる。身体が元気で頭脳が明晰な人の多い70代前半を一つのリミットとして、「家じまい」をしておけばよかったと後々困らないためにも、早めの対策が必要となる。

思い出してほしい。「もったいない」と言って、不必要なものまで捨てずに取っておく習慣はないだろうか。“もったいない精神”に大いに学ぶことはあるが、せっかく取っておいたものも活用せずに残していないだろうか。チリも積もれば山となる、とまでは言わないが、実際、長く住んだ一戸建てから引っ越そうとすると、大量の荷物が出てくる。全て持って行きたいと考えるかもしれないが、生活空間をコンパクトにするうえでも、思い切って処分する必要がある。

この片付けは非常に大変。若いころに買った服やかばん、靴、バック、家族が多かったときに使用していた食器や調理器具、引き出物のタオル、思い出の写真や手紙、旅行の思い出の土産物・・・。片付けながらこれまでの人生を思い返し、感傷に浸っていると捨てることができなくなる。当初は徹底的に処分するつもりであっても、次第に思い出にふける時間が長くなり、いっこうに片づけが進まない。一度思い出に浸りだすと、なかなかその状態から抜け出すことはできなくなる。高齢になればなるほど、思い出にふけってしまい、捨てることができなくなる。断捨離のためにも、「早めに動き出すこと」が大事なのだ。
片付けブームのなか、片付け方の指南書は色々出回っている。

第一に、必要なものと不要なものに分ける際、初めから無理にどちらかに振り分ける必要はないというのがポイントである。どちらでもない分類をつくり、その場で決断できないものは一度別に分けておく。ただでさえ、思い出が詰まった品々であるから、決断が難しいものも出てくのは当然であろう。一度すべてを分類し、必要なものと不要なものを見た後に、どちらでもないものを再度分けるのだ。その頃には必要か不要かを振り分ける明確な基準ができていることもあろうし、今後も保管しておくことができる分量や収納可能な物理的スペースも具体的にイメージすることができていることもあり、要不要の分類がスムーズになっていることが多い。

第二に、不要なものは必ず捨てると思わず、捨てない方法も検討するというのがポイントである。人に譲る、ボランティア団体に寄付する、フリーマーケットに出す、リサイクルショップに預ける、インターネット上で譲るなど、捨てないで済む方法を検討することで、決断しやすくなる。
「まだまだ動けるから」と思っていてはダメ。「動けるのは今のうち」と思って、先手をとって動き出すことが肝心。それが、快適なセカンドライフに向けた第一歩となるはずだ。

「家じまい」(住み替え)の難しさ

いざ、一戸建て住宅を処分しようと思っても、簡単に処分できるものではない。洋服も家具も電化製品も、私たちが持っているほとんどのものは、いらなくなったら捨てることができる。お金がかかることもあるが、処分できないという事態には陥らないはず。
唯一、簡単に処分できないものが不動産である。不動産は所有権を放棄することすらできない。「いらないから捨ててしまえ」「お金は出しますから処分しておいて」ということができないうえに、所有者には固定資産税の支払い義務が課せられる。人口の減少と高齢化が進む中、売却できずに空き家となるなど、不動産が「お荷物」になっているのが現状だ。

一所懸命汗水垂らして働いた結晶であるマイホームであるから、売却すると決めたときには様々な思いが去来し、苦渋の決断となるのは間違いない。ところが、売ろうとしても建物自体には価値がつかず、仲介会社からは土地の売却価格も下げるようにアドバイスされる始末。こんな扱いを受けるならば、いっそ売るのをやめようかと思うかもしれない。一生、今の一戸建て住宅に暮らし続けるべきであろうかと考え直したくなることもあるだろう。
しかし、立ち止まってもう一度冷静に検討してほしい。老後の生活が近づいている事実は変わりない。今大事なのは、「ゆとりある幸せな老後の生活」を手に入れるための準備である。簡単に処分できない事実を受け入れた上で、いったい何ができ、何ができないのか。何を備えなければならないのか。まずはそれらを知ることから始めるべきだ。

売却と購入を並行して進める

資金に余裕があって一戸建ての売却資金を当てにしなくでもよい場合は、一戸建ての売却と老後の住処の購入をそれぞれ別々に進めればよい。しかし、住み替えの場合は、一般に、売却金額を次の住処の購入資金に充てることが多いため、売りと買いを並行して進めていくことになる。もっとも、売りと買いを並行して進めていくというのは、簡単なことではない。売り買いのタイミングと資金計画について事前に慎重に検討する必要がある。

まず、住み替えでは、今住んでいる一戸建てが一体いくらで売れるのか、仮に住宅ローンが残っていれば、その売却金額で住宅ローンを全て支払うことができるのかを検討する必要がある。そのためにも、現在住んでいる一戸建ての価格査定を不動産会社に依頼すべきだ。通常、購入時の価格より下がっていることが多い。一所懸命働いて手に入れた家に全く価値がつかないという事実に不満があるかもしれないが、ここは堪えるしかない。上物は通常築20年以上を経過しているとほぼ価格がつかず、専ら底地である土地の価格のみで評価することになる。問題はローンの残額との比較である。残額の方が多い場合、別途資金を用意する必要があるなど資金計画に大きく影響することになる。

不動産会社によっては、売却に関わりたいために高い査定額を提示する場合もある。しかし、査定額が高いからといって安易に頼むと危険だ。必ず複数の不動産会社に査定を依頼して、各会社に査定額の根拠を確認する必要がある。そのなかで、信頼できると思った不動産会社に、売却を依頼することをお勧めする。

(1)不動産会社との媒介契約

一戸建てを売却するにあたって、どの不動産会社に連絡すべきか。
ポストに入っていたチラシの不動産業者に一度連絡をしてみようとする人も多いだろう。チラシには様々な仕掛けがある。「医療法人がいくらの予算で何平米の物件をいくつ探して」というような話に安易に乗り、実際に電話をしてみると、そのような話はなかったという事例もある。
不動産業者は、あの手この手を使って媒介契約を取ろうとしている。媒介契約とは、宅地建物取引業者が、宅地建物の売買や交換の仲介の依頼を受ける際に、依頼者との間で締結する契約をいう。
媒介契約には、①専属専任媒介契約、②専任媒介契約、③一般媒介契約の3種類がある。この3種類の契約について、違いを見てみよう。

媒介契約の種類

  専属専任媒介契約 専任媒介契約 一般媒介契約
特徴 特定の不動産会社1社だけに仲介を依頼する契約形態。1社に限定するので、営業活動が熱心になる面も。 仲介を依頼できるのは1社のみだが、自分で購入希望者を探すこともできる点が専属専任とは異なる。 複数の不動産会社に重ねて仲介を依頼する契約形態。どの不動産会社と媒介契約を結んでいるかを明らかにする「明示型」と、明らかにしない「非明示型」がある。
他業者への依頼 できない できない できる
自己発見取引 認められない 認められる 認められる
仲介会社の義務 不動産会社は、媒介契約後5営業日以内に指定流通機構に物件登録し、1週間に1度以上、販売活動の進捗状況を文書で報告することになる。 不動産会社は、媒介契約後5営業日以内に指定流通機構に物件登録し、2週間に1度以上、販売活動の進捗状況を文書で報告することになる。 売却のための活動は行うが、販売活動の状況報告などの義務は課せられていない。指定流通機構に任意で登録可能。
契約期間 3ヶ月以内(更新可能) 3ヶ月以内(更新可能) 3ヶ月以内(更新可能)
①専属専任媒介契約

特定の不動産業者に媒介を依頼し、他の不動産業者に重ねて依頼することのできない契約。依頼を受けた不動産業者は、依頼主に対し、1週間に1回以上の頻度で売却活動の状況を報告する義務があり、目的物件を国土交通大臣の指定する流通機構に登録しなければならない。この場合、依頼主は、自分で購入希望者を見つけることができない(自己発見取引不可)。専任媒介契約とほぼ同じであるにもかかわらず制約事項が多いため、実際には専属専任媒介契約が締結されるケースは少ない。

②専任媒介契約

①の専属専任媒介契約と同様に、特定の不動産業者に媒介を依頼する契約。不動産業者は、依頼主に2週間に1回以上の頻度で売却活動の状況を報告する義務があり、目的物件を国土交通大臣の指定する流通機構に登録しなければならない。①の専属専任契約とは異なり、依頼主は、自分で購入希望者を見つけることができる(自己発見取引可)。
窓口が1社なので情報の整理が簡単にできるというメリットがある。業者にとっても仲介料の取り損ねがないため、広告費などを多く使って積極的に販売活動をしてくれることが期待できる。一方、デメリットとしては、窓口が1社なので、依頼した不動産業者への依存度が高くなりすぎることが挙げられる。

③一般媒介契約

複数の不動産業者に重ねて仲介を依頼することができる契約。不動産業者は依頼主へ売却活動の状況を報告する義務を負わず、依頼主も自分で購入希望者を見つけることができる(自己発見取引可)。
複数の仲介業者へ依頼できるので、沢山の購入者が興味を示してくれる可能性がある。また、複数の業者へ依頼することができるので、業者間の競争により、より良い購入者を見つけてもらうことができる可能性があるというメリットがある。特に、不動産の売買に慣れていて自らイニシアチブ(主導権)を握れる人や、需要が高く良い条件で早く売れる可能性の高い物件の場合などは、①の専属専任媒介契約や②の専任媒介契約よりも、一般媒介契約の方がよいということもある。

一方で、仲介業者には報告義務がないため、すべての業者が情報を提供してくれるわけではない。必ず自分のところで売却するとは決まっていないので、仲介業者も販売活動にあまりコストをかけられず、積極的な活動が期待できないというデメリットもある。
媒介契約の種類によって販売活動や状況報告の頻度がどう変わるのかを確認したうえで、信頼できる不動産会社に媒介を依頼することが大きなポイントだ。

(2)不動産会社を通しての売却

売却活動は、売り出し価格を決めることから始まる。売り出し価格を査定額より高く設定することもできるが、その価格で購入希望者がいなければ、結局は価格を下げることになるので、売り出し価格の決定は特に慎重に検討しなければならない。その後、購入希望者が現れたら、実際に自宅を見てもらうこと(内見)になる。

内見の際、その場にいても、不動産会社に任せてもよいが、購入希望者に良い印象を与えるために、できるだけきれいで広く見えるように努めたい。また、購入希望者にも予算や引渡し時期の要望があるので、結局、双方での条件交渉となるが、その際には、不動産会社に十分に相談して、購入希望者との間で納得のいく着地点を見いだせるように努力する必要がある。購入希望者がなかなか見つからない、または見学には来てもらえるが契約には至らない場合は、不動産業者にその理由をよく確認して、再度、売出条件の見直しを検討してみる必要があろう。
もっとも、不動産業者に言われるがまま、だらだらと価格を下げて様子を見るのは必ずしも得策ではない。売れなければ直ぐに価格の問題と考えず、売却活動全体で何か問題がないのか、改善するところはないのかを検討すべきだ。購入希望者と契約交渉が成立すれば、売買契約を交わして、購入者が売買代金全額支払うことで決済と引渡しが完了する。

売却後に引き渡す際には、当然自宅を退去するわけで、その際に新居が決まっていればよいが、まだ決まっていないという場合は見つかるまで仮住まいで生活することになる。そこで、売却活動と並行して新居の購入を進めるときに、一体どちらを先行させるのかという問題に直面する。

売却活動の見通しがたってから新居を探す「売却先行」の場合は、売却額をもとにした資金計画が立てやすいという大きなメリットがある。その一方で、直ぐに新居が見つかるわけではないので、仮住まいの確保などが必要となる。一方、購入する新居に目処をつけてから売却する「購入先行」の場合は、新居をじっくり探せるというメリットがあるが、売却活動が思うようにいかない、売却を急ぐあまり売却額が想定より下がってしまうというリスクも考えられる。住み替えの資金計画を踏まえ、どちらがより適しているのかは、それぞれの事情や優先事項によっても変わるので、慎重に判断する必要がある。

(3)売却(住み替え)の手順

一戸建てを売却する手順は以下の通りである。全体像を把握しておくと計画も立てやすいため、参考にしてほしい。

売却を相談する
不動産売却の条件・スケジュールなどについて、経験豊富な専門担当者に相談する。
査定を依頼する
所有の一戸建てはどれくらいの金額で売却できるのか、一度査定してもらう必要がある。その際、土地建物の状況、近隣環境、市場動向、売出事例、成約事例、権利関係などを調査した上で、査定することになる。
住み替えタイミングを決める
自宅の売却と新居の購入のタイミングを検討し、売却先行(自宅を売却してから購入物件を探す)か、購入先行(新居を購入してから自宅を売却する)かを慎重に見極める。
売却を依頼する
売却を依頼する不動産会社を選定する。
媒介契約を結ぶ
査定内容などを確認し、売却活動の内容などの説明を受けて、納得の上で媒介契約を締結する。媒介の契約形態には3種類ある。適したものを選んで締結する。
売り出し価格を決定する
査定価格を参考に売り出し価格を決定し、売出しを開始する。新聞広告折込チラシやインターネット上での掲載など、様々な媒体を使って物件を告知し、購入希望者を探す。問い合わせがあった場合には物件見学も行う。
売却条件を交渉する
媒介契約内容によって、不動産会社から売却活動・問い合わせの状況など、販売活動の経過報告を受ける。契約を検討する購入希望者が現れたら、価格や引渡し時期を調整する。
不動産の売買契約を結ぶ
購入希望者と条件の合意ができたら、必要書類をそろえて売買契約書を作成する。その際、例えば、手付金を受領したり、仲介手数料の半額を支払ったり(仲介手数料は契約時と引渡し時に半額ずつ支払うことが多いが、そうでない場合もある)することになる。
引越し
買主への引き渡し前に引越しを済ませ、引き渡しの準備を行う。住宅ローンなどの抵当権がついている場合、抹消手続きも行う。
決済と引渡しを行う
残代金を受け取り、物件を引き渡す。固定資産税を清算して、登記手続きの申請を依頼する。その際、登記手続き等の費用を司法書士に支払い、固定資産税を清算して、仲介手数料の残額を支払うことになる。

買い替え手順のメリット・デメリット

  売却先行の場合 購入先行の場合
メリット 自宅の売却価格の目処がたつので、買い替えのための資金計画が立てやすい 新居をじっくり探せる
デメリット 売却が決まると、自宅を明け渡す期日が確定するので、希望の物件がなくても妥協せざるを得ない場合や、新居への引越しまでは仮住まいをする必要がある 購入物件の引渡しまでに売却できないと、売却資金を購入資金に充てられないため、つなぎ融資が発生したり、二重ローンが発生したりする可能性がある
Column売却時に有利?地盤調査と土壌汚染調査

土地の地盤調査と土壌汚染調査は、土地売却にあたって必ず行わなければならないものではない。しかし、新築地市場をめぐる土壌汚染問題や、最近の地震増加に伴い、見た目ではわかり得ない地盤や土壌内の状況が買主にとって大きな不安要素となっている。売却するにあたって、事前にその不安要素を一つでも取り除くことにより、結果的に高値で一戸建てを売却することにつながる可能性がある。ここでは、地盤調査と土壌汚染調査について簡単に紹介する。

①地盤調査

地盤調査は、地質調査と呼ばれることもあり、地盤の強度や地盤沈下の原因となる液状化のリスク、地中の埋設物などを調べるために行われる。その他には、地下水の配置や土壌汚染の有無などを確認することもある。調査方法としては、スウェーデン式サウンディング試験や、ボーリング試験が採用されることが多い。例えば、自宅が以下のような土地に立っている場合、買主が地盤を心配する可能性があるため、地盤調査をしておいた方が売却しやすい可能性もある。
・埋め立て地域は、地盤が軟らかい傾向にある。
・周辺の道路と比較して低い土地は、雨が降ったときに水が溜まりやすく、軟らかい地盤である可能性がある。
・近隣住宅の基礎部分に0.5ミリ以上のひび割れがある場合、軟弱地盤の疑いがある。

②土壌汚染調査

土壌汚染調査は、文字通り土地の汚染状況を調査することである。これは段階別に分かれており、全て行う必要はない。調査結果に応じて進めるか、その時点で終了させるのか、その都度判断しながら進めることになる。

地歴調査:
登記簿謄本、住宅地図、地形図、地質図などの資料から、土地の利用履歴を調べる。

表層調査:
地歴調査の結果、汚染リスクが見つかった場合に実施される調査。土壌ガス、重金属による汚染状況を確認する。

詳細調査:
表層調査の結果を受けて、もう少し調査を続けた方がよいと判断された場合に実施される調査。具体的には、ボーリング調査や地下水調査により、さらに詳しい汚染状況を確認する。

売却時に必要なコスト・税金

住み替えの資金計画を考えるにあたり、忘れてはならないのは、売却時にも費用がかかることである。なかでも多額の費用となるは、不動産会社に支払う仲介手数料と、売却で得た所得に対する税金の二つだ。不動産売買の仲介手数料の上限額は、法律で定められており、売買価格に応じて増減する。
媒介を依頼する不動産会社との契約方法は3種類あり、大別すると、媒介を1社のみに依頼する専任媒介(又は専属専任媒介)契約か、何社にでも依頼できる一般媒介契約がある。
媒介を依頼された不動産会社は、価格査定や販売活動、購入希望者との条件交渉、不動産売買契約に伴う諸手続き、引き渡しまでの一貫したサポート業務の対価として、仲介手数料を得る。高く売れる方が手数料も多くなるが、そもそも売買が成立しなければ手数料は発生せず、依頼人は手数料を支払う必要がない。

自宅を売却して所得を得ると、「譲渡所得」として所得税や住民税が課税される。ただし、居住しているマイホームに対しては、様々な特例や控除が利用できる。売却で差益が出た場合と差損が出た場合のそれぞれで利用できる制度があるので、まずは差益か差損かを判別したうえで、制度の利用を検討することになる。

売却時に必要な費用

仲介手数料 売買価格の3%+6万円(消費税別途)
税金 売買契約書に貼付する印紙代、売却に譲渡益が出た場合おける所得税や住民税
ローン諸費用 売却時にローンが残っている場合における抵当権抹消費用や司法書士への報酬、ローン事務手数料など
その他 引越し費用、家財処分費用など

売却価格から取得費用(自宅の購入費用(購入費用の計算では建物の減価償却分を控除)や諸費用)と譲渡費用(売却の諸費用)を差し引いた額が「譲渡所得」となる。ここで譲渡益が出ている場合(プラスの場合)、「3000万円特別控除」を利用して控除を受けることを検討する。「3000万円特別控除」とは、マイホーム(居住用財産)を売った場合に、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3000万円まで控除ができるという特例のことである。この特例を受けるためには確定申告が必要となる。確定申告の際には、確定申告書に譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)を添えて提出する必要がある。なお、マイホームの売買契約日の前日において、そのマイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合などには、戸籍の附票の写し、消除されて戸籍の附票の写しその他これらに類する書類でそのマイホームを売った人がそのマイホームを居住の用に供していたことを明らかにするものを、併せて提出する必要がある。

一方、買い替えにあたり譲渡損が出ている場合(マイナスの場合)、その損失を他の所得(給与所得など)から差し引くことができる。その年だけで控除しきれなければ、翌年以降に繰り越すことも可能だ。
適用されるには一定の条件を満たす必要があるので、詳しい条件は税理士などの専門家や税務署に相談して確認する必要がある。

譲渡益が出た場合の主な特例

3000万円特別控除:
マイホーム売却で利益が出た場合、譲渡所得から最高3000万円まで控除が受けられる。

住居用財産の買い換え特例:
マイホーム売却で得た譲渡益のうち、次の買い替えに充てた額は課税されない(譲渡はなかったとみなされ、次の売却するまで課税が繰り延べられる)。

譲渡損が出た場合の主な特例

特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(買い替え):
5年を超えて保有する居住用財産を売却して所定の住宅に買い換えた際に、譲渡損が出た場合、この譲渡損をその年の他の所得から差し引くことができ(損益通算)、その年控除し切れなかった譲渡損は、翌年以降3年間繰り越して所得から差し引くことができる(繰越控除)。

仲介業者の選び方

一戸建ての売却の成否は、不動産業者選びにかかっているといって過言ではない。では、どのようにして不動産業者を選べばよいのだろうか。選び方にはいくつかのポイントがあるが、少しでも有利に売却できるように、本当に信頼できる不動産業者と媒介契約を結ぶようにしたい。
もし、すでに購入したい住まいが決まっているのなら、その購入先の不動産会社を選ぶのもよいだろう。マイホームが売れなければ自分たちの売り出し物件も契約してもらえないので、危機感をもって売却活動を行ってもらえる。また、購入代金の支払いと売却代金の受け取り時期を調整してもらえるなどのメリットもある。

信頼できる不動産会社を選ぶために、最も基本的なことは、免許番号の確認だ。民間の業者が不動産取引を行うためには免許が必要となる。これを確認することで無免許業者との取引を防ぐことができる。また免許を交付した行政庁において、業者名簿を無料で閲覧することができる。この名簿を見ることで、過去の実績や行政処分歴などが分かるので、不安な方は念のため参考にするとよいだろう。免許を交付した行政機関は、国土交通大臣免許と各都道府県知事免許によって異なる。詳細は各行政機関の担当部署に確認する必要がある。なお、国土交通省と一部の都道府県では、免許業者の行政処分情報をインターネットでも確認することができる。

売却を依頼する不動産業者は、宅地建物取引業の免許を受けている業者であればどこでもよいというわけではない。同じ免許を取得していても、その業務内容は会社によって大きく異なる。不動産会社の業務は主に下記の通りに分類することができる。

分譲業者 マンションデベロッパーや開発業者、建売業者など
買取再販業者 新築売れ残り物件や中古物件の買取再販、競売物件の買取再販など
媒介業者 売買物件の媒介、投資用物件の媒介、事業用物件の媒介など
専門系・その他 企画開発業、不動産投資ファンド、テナントビルや商業施設の運営など

自宅の一戸建ての売却を依頼するなら、売買物件の媒介業務を取り扱っている不動産業者を選ぶとよいだろう。売買物件の媒介業務を取り扱っている不動産業者は、土地や一戸建てを中心に扱う業者や、中古マンションを中心に扱う業者などに分けられるが、売買契約をまとめるにはある程度の経験が必要になるため、各業者の取扱い業務とその実績について、事前に話を聞いておくとよいだろう。

不動産には相場というものがある。この相場を把握し、不動産がいくらで売れるのかを判断するには、相当の専門性と経験が必要になる。専門性と経験の有無を判断するためには、自分の不動産がいったいいくらで売却できるのかを査定してもらう方法が有効だ。一社に頼んでも比較ができないため、できるだけ複数の業者に査定を依頼したほうがよいだろう。本来ならば、どこの業者も大きな開きはないはずだが、他社に比べて極端に高い査定を提示してくる業者には要注意。専属媒介契約を結びたいがために高い査定額を出している場合もあるからだ。また安すぎる査定も、担当者が相場を把握しきれていない可能性がある。

査定を依頼しその結果を比較検討することで、気になる不動産業者は何社かに絞られる。その中で本当に信頼できる業者を選ぶために、どうしてその査定額になったのか、しっかりした根拠を聞き出すのも有効だ。「すぐに売れます」などと調子の良いことばかりを言う業者には注意が必要である。また不動産会社としては信頼に値するとしても、実際に担当する営業マン次第ということもある。営業マンと直接話す機会を得たなら、これまでの契約実績(マンションが多いのか、一戸建てが多いのかも含めて)、得意エリア、営業手法などを確認するとよいだろう。また税金や法律などに関する質問をぶつけてみるのも有効だ。売却案件に慣れている営業マンならスラスラ答えられるはずである。

不動産業者を選ぶ際、大手の企業にすべきか中小規模の企業にすべきかという選択肢で迷う人もいるだろう。大手なら確かに信頼もできるし、自社で多く抱えている見込み客の中から購入希望者を見つけてくれることもある。しかし、一概に大手がよいとも言い切れない。中小規模の方が地元の情報をよく把握していることも考えられるし、親身になって相談に乗ってくれることも考えられる。実際のところは、会社の規模はあまり関係ないといえる。大切なのは、どのような売却活動を行うのかということだ。

一般的に、売却を依頼された不動産業者は、不動産流通機構(レインズ)という不動産取引情報提供サイトに登録する。その登録についてはどこの業者だろうと、同条件で情報提供されることになる。大手だから閲覧件数が増えるということはない。ただしレインズに登録しただけでスムーズに買い手が見つかるとも限らないので、そのほかの売却活動としてどのようなことをしてくれるのか、各社に詳しく確認するとよいだろう。

仲介業者を代えたい

不動産を売却するときは、仲介業者を利用して購入希望者を募ることを紹介したが、仲介会社も千差万別で、しっくりこない、不信感がある仲介業者もいるのが現実だ。この仲介会社には任せておけないと思ったら、変更することも必要となる。
仲介業者との媒介契約は、無期限に続くものではないため、成果が出ない場合には変更することに制限はない。

ただし、一方的に媒介契約を解除するとなると、それなりにリスクを伴う。そこで、仲介業者の変更について、知っておくべきポイントを説明する。
まず、仲介業者を変更したからといって売れるかどうかは未知数で、売却活動を最初からやり直すことで売り遅れるかもしれないリスクを覚悟しなければならない。
売れない原因を仲介業者だけのせいにせず、内見対応や価格の面で売り逃していないかなど、多角的に検討すべきだ。
売れない原因が仲介業者にある場合に考えうる理由として、自社の仲介にこだわって不動産流通機構への登録をしない、他者からの問い合わせを排除する「囲い込み」などがあるが、依頼者が実態を把握するのはなかなか難しいというのが実情だ。

内見への対策(掃除・説明)が不十分、相場よりも価格が高いといった売主からも改善できる要素があるなら、仲介業者ともよく話し合うことから始めるべきだろう。
もっとも、最初から、大したアドバイスもくれず、連絡も滞る仲介業者であれば、変更の対象としてよいだろう。
物件情報を拡散させようと、一般媒介契約で複数の業者と契約したり、仲介業者を次々変更したりした結果、売れない物件として市場で有名になると、ますます売れ難くなる。物件情報は鮮度が重要であり、時間が経ち広く出回るほど鮮度は落ちる。少しでも情報を拡散させた方が売れるように思われるが、魅力的な価格の物件なら、そもそも不動産流通機構への登録前に、その仲介業者の顧客内で売れることになる。つまり、情報が広がり時間が経過するということは、それだけ多数の目にとまっても売れなかったというレッテルが貼られ、自然と敬遠されがちになってしまうのだ。

このような物件を「出回り物件」と呼び、売れない物件はどのようにしても出回ってしまうのだが、仲介業者の変更も出回る方向へ向かう可能性があることをリスクとして知っておく必要がある。
また、不動産業界は持ちつ持たれつの関係にあり、仲介業者の変更によりブラック案件扱いにならないかという問題もある。感情が絡むこともあるので、遺恨なく変更するのであれば、契約期間満了までやり過ごすのも一つの方法であろう。契約期間満了後に契約更新しなければよいだけなので、わざわざ争いの火種を大きくしてまで早急に変更する必要があるのか落ちついて検討すべきだ。

仲介業者を変更するとして、変更のベストのタイミングとは、いつだろうか。
媒介契約の契約期間は、専属専任媒介契約・専任媒介契約であれば3ヶ月以内、一般媒介契約なら期間に制限がないため不動産会社と協議して決めることになる。ただ、一般媒介契約においても国土交通省の標準媒介契約約款では3ヶ月以内としているので、これに準拠している仲介業者との契約であれば3ヶ月以内ということになろう。
そこで、変更のタイミングとして考えられるのは、媒介契約から3ヶ月経過後となるが、契約期間は3ヶ月以内である必要はなく、初めて依頼し不安がある仲介業者であれば、3ヶ月よりも短い期間に設定してもよいだろう。

媒介契約の契約期間満了時が最も安全にトラブルなく変更できるタイミングであり、今すぐにでも変更したいときは、中途解約のリスクを考えておく必要がある。
では、中途解約したい理由が仲介業者の対応にある場合はどうしたらよいだろうか。例えば、仲介業者が不誠実で怠慢である、故意または重大な過失により真実を隠すなど、契約上の義務違反があったときは、売主から中途解約が可能だ。
ところが、この「不誠実」や「故意・重過失」という基準が曖昧であるために、依頼者が「許しがたい対応」「ひどい対応」だと思っても、仲介業者とトラブルになりやすいことに注意が必要だ。
問題となる対応として、「不動産流通機構に登録しない」「不動産流通機能への登録を無断で削除した」「他の業者の問い合わせに応じない(囲い込み)」「約束した広告が出されていない」「購入希望者に嘘を言い売買契約に至らない」「定期的な報告をしない」などがある。

このような不誠実な対応は、仲介業者の規模に関係なく行われることがあり、当然解約理由にあたるのだが、全ての不正・怠慢を発見できるとは限らず、判断が難しいことが多い。
どうしても仲介業者の対応に納得ができなければ、事前に関係行政機関や専門家へ相談してみるなど先手を打ってから解約を申し出た方が話を進めやすい。
この際、仲介業者は多少なりとも売却活動に費用をかけているので、不満をただ主張するだけで簡単に解約に応じてくれるとは考え難い。一度は誠実に対応することを求め、それでも改善されない場合に中途解約を申し出た方がよいだろう。いきなり中途解約したいと言い出すのは角が立ち、すんなりと解約できない可能性がある。

逆に、仲介業者に非がなく、売主の自己都合での中途解約、または客観的に見て仲介業者が常識的な売却活動をしているのに、売主から中途解約する場合は、契約解除による費用償還請求をされる可能性があることに注意が必要だ。
ここでいう費用とは、売却活動における実費で、本来なら仲介手数料に含まれるべき金額のこと。もっとも、この費用がどのくらいになるのかは、物件に関する書類の取得費用、ポスティングなどの広告費用以外は不明瞭である。仲介業者との関係が悪化していると、思いがけず費用請求される可能性もある。

変更の手順について見てみよう。媒介契約に契約期間がある以上、契約更新せずに契約終了にしてから変更先の仲介業者と契約するだけであれば、変更に特別な手続きは必要ない。また、契約を更新するかどうかは当事者の自由に委ねられていることから、更新しない理由をあえて仲介業者に伝える義務もない。

特に専属専任媒介契約・専任媒介契約の場合、売主から契約更新を申し出なければ契約更新されないことになっており、法律にもその旨が定められているので、勝手に更新されることはあり得ない。仮に、勝手に更新されても、法令違反で無効を主張できる。
したがって、仲介業者から更新の有無について聞かれた場合は更新しないとだけ伝えればよい。仲介業者が何も言ってこない場合や、自分から更新をしないと伝えた場合、自動的に契約は終了する。契約期間が終わったら、次の仲介業者と契約をすることになる。
一方、一般媒介契約は、そもそも複数の仲介業者と媒介契約ができるので、変更先の仲介業者といつでも契約することができる。ただ、例えば、当初一般媒介契約を結んで、後にある特定の仲介業者と専属専任媒介契約を結びたい場合などに、変更の必要があるだろう。

注意したいのは、専属専任媒介契約や専任媒介契約と異なり、一般媒介契約は自動更新の特約(売主が更新の申し出をしなくとも勝手に契約が更新される特約)が定められていることである。
そのため、自ら連絡していないから更新していないつもりでも、更新されている場合があるので注意が必要である。
もし心配なら、契約更新しない旨を記載した書面を仲介業者に送るとよいだろう。そうすれば確実に更新はされず、心配も解消する。万全を期すなら内容証明郵便で送るとよい。慎重を期すのであれば、一度専門家に相談すべきだろう。
一方、中途解約する場合には、なぜ解約するのか、解約理由を告知するべきである。中途解約に相当するほどの理由を示さないと、わだかまりが残り、後に争いになる可能性がある。まずは、現在の仲介業者の対応に不満があることを伝え、猶予期間を設けて改善を求め、それでも改善されない場合に中途解約するのがよいだろう。

媒介契約でよくあるトラブル事例

(1)専任媒介契約中に親戚が買いたいと言ってきた

事例

Aさんは自宅の一戸建てを売却するために不動産仲介業者と専任媒介契約を結んだ。その不動産仲介業者の担当者は、積極的に営業活動を行っており、内見も何件か来ていたが、まだ、購入希望者は現れていない。そんなとき、Aさんの親戚Bさんが、Aさんの自宅が売り出しに出ていることを知り、是非買いたいと言ってきた。Aさんとしても、知っている人であれば思い入れのある自宅を大事に使ってもらえるに違いないと思い、話はとんとん拍子に進んだ。結局、Aさんは不動産仲介業者を通さずBさんに自宅を売却した。その後、不動産仲介業者から広告費用等の実費を請求された。支払わずとも問題ないか。

説明

媒介契約は、前述のように、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類がある。そのうち、専任媒介契約の場合、売主が自分で見つけてきた相手に、仲介業者を通さずに売る自己発見取引が認められている。そのため、本来このケースでは契約違反とならず、違約金も発生しない。しかし、専任媒介契約でも、契約内容によっては、それまでにかかった広告費用などの実費の請求はありえるので注意が必要だ。なお、専属専任媒介契約では、自己発見取引は認められないので、違約金を請求される可能性がある。このケースでは、Aさんは、まず、専任媒介契約の内容を確認すべきだ。

(2)買主のローン審査落ちでキャンセルされたら、仲介手数料を請求された

事例

Cさんが自宅の一戸建てを売りに出したところ購入希望者が見つかり、不動産仲介業者を通じて売買契約を結んだ。しかし、買主が住宅ローン審査を通らず、不成立となったため、契約は白紙撤回となり、買主に手付金の全額を返金した。
そのとき、不動産会社が支払い済みの半額の仲介手数料を返金してくれないばかりか、決済時に支払うことになっていた仲介手数料の残金まで請求してきた。どうしたらよいだろうか。

説明

仲介手数料は、不動産会社への成功報酬として支払われる。このため、契約が成立しなければ、成功報酬も発生しない。逆にいえば契約が成立しさえすれば、成功報酬が発生するともいえる。とすれば、売買契約締結のタイミングで仲介手数料の半分を支払う旨の仲介契約の内容になっていた場合、契約時にすでに不動産会社に支払った仲介手数料の半額について返金を受けられないことにもなりかねない。
しかしこれでは売主に酷なので、買主がローン特約に基づき売買契約を解除した場合には、解除により売買解約は不成立に至ったものと同視でき、仲介業者は委託者に対する報酬請求権を喪失し、仲介業者が売買契約成立時に委託者から受領していた仲介報酬は、直ちに返還すべき義務を負う旨の判例がある。
なお、標準的な売買契約書には、買主がローン不成立の場合は契約解除でき、仲介手数料を返金する旨が記載されている。もちろん、残金の支払いを要求されることもない。
今回のケースでは、Cさんは残金の請求には応じる必要がない。

不動産の契約トラブルは、意外に多い。他人事とは考えず、自分にも降りかかるかもしれないと考えるべきだ。その上で、不動産会社との契約では、契約を結ぶ前に、契約書を隅々まで熟読し、わからないところはそのままにせずに必ず事前に確認しなければならない。
また、契約書に書いていることと違った請求には注意し、言われるまま支払わないように注意が必要だ。

2020-02-16 22:18 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所