おわりに

締め切ったシャッターが並ぶ商店街。路上に放置されたままの壊れたソファ。人影はまばらで、子供はいない。
かつてドラマの舞台になり、憧憬のベッドタウンとして賑わった東京郊外の某ニュータウン。
もの悲しい名曲のイメージ漂うこの街に、廃墟マニアが押し寄せる。

空き家問題は今や、人口減が続く地方だけのものではなく、東京、名古屋、大阪の3大都市圏郊外でも深刻化している。
郊外住宅地では、どこの家も瀟洒なつくりで、かなり広めの庭があり、近所には公園や学校がある。その多くが開発による宅地造成によってできたため、鉄道沿線の駅からバスや徒歩で10〜15分ほどの小高い丘の一角にある。
「〇〇が丘」と呼ばれるこうした住宅地は、首都圏郊外に何カ所もあるが、そこで空き家が増えている。開発から30〜40年もたった今、空き家でなくても、そこで暮らすのは老夫婦がほとんど。子どもたちはすでに成人して家を出てしまっている。
こうした老夫婦2人暮らしの住宅地で目立つのは、デイサービスの車である。かつては子どもたちが駆け回っていた住宅地の中を、今やハイエースがゆっくりと巡回している。

1960年代から開発されたニュータウンは、高度成長期のシンボルであり、都心勤務のホワイトカラー・サラリーマンと専業主婦の核家族が移り住んで、“郊外神話”を生み出した。しかし、時間の流れは残酷で、2000年代以降になると売り家が目立ち、持ち家の賃貸転用も増えた。買い手や借り手がつかない住宅が、空き家として放置され始めた。
空き家になる前には「一戸建て地獄」の状況があったはずだ。耐え切れなくなった人から、生活に便利な都心部のマンションや、高齢者向け集合住宅などへの住み替えが起こった。住宅街はくしの歯が欠けたようになり、現状に至る。

持ち家の資産価値は、時間が経てば経つほど下がる。
木造建築の日本では、家屋の資産価値はほとんどない。一戸建ての場合、築25年以上で家屋の資産価値はゼロになる。
大都市の都心部などを除き下がり続けている地価が、再び上ることは、まずない。


「マイホーム時代」は完全に終わった。
低金利でも若い世代はマイホームを購入しない。各種アンケートでも「将来的にマイホームを購入したい」人が大幅に減少している。
こうなると、高齢者にとってはもちろん高齢者予備軍にとっても、できるだけ早いうちに一戸建て住宅を処分=「家じまい」して、老後に備える生き方が賢明である。ババ抜きではないが、押し付ける相手である買主が現れにくい以上、残された猶予はない。


土曜の夜と日曜のあなたがいつも欲しいから
ダイヤル回して手を止めた


週休2日にスマートホン。
不倫で苦しむ女性は今も多いが、昭和は完全に終わった。
「マイホーム時代」もまた、終わった。完全に。

「家じまい」を決断することは、簡単ではない。人生で最高額の買物である。子育てをし、家庭を築くために、給与の大部分を投じた。変化を嫌う高齢者には、大変な勇気が必要であろう。
しかし「家じまい」は決して、後ろ向きなものではない。むしろ、幸せなセカンドライフを築くために必要な準備である。



読者の皆様に幸せなセカンドライフが訪れることを願ってやみません。

2017年10月 弁護士・税理士 長谷川裕雅

2020-02-16 22:20 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所