道路用地の買収と土壌汚染

当県が起業者となって行っている道路事業のため詩人の土地を買収する場合に、土壌汚染についてはどのようなことを注意すべきでしょうか。

ここでは道路用地の任意の買収について検討しますが、任意の買取に応じない土地の所有者に対しては、最終的に強制的な収用手段が用意されている場合を検討します。強制的な取得にあたっては、土地収用法に基づき正当な補償(憲法29条3項)を行わなければなりません。また強制的な取得ではなくとも背後に収用手続きが控えているような公共用地の取得にあたっては、純粋に任意の売買ではないため、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和37年6月29日閣議決定)」及びこれを実施するために細部に渡る基準を定めた「公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)」(以下「用対連基準」)により、「正当な補償」なのかが問題になりますが、判例では、「その収用によって当該土地の所有者等が被る特別の犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通して被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する」とされています。
まず土地収用法でどのように「正当な補償」について規定されているかですが、土地収用法第71条では「収容する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までに物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。」とあります。なお損失補償の細目は、細目政令と呼ばれている「土地収用法第八十八条の二の細目等を定める政令」で規定されることとされています(土地収用法88条の2)。細目政令では、「収容する土地について法第七十一条の相当な価格は、近傍類地の取引事例が収集できるときは、当該取引事例における取引価格に取引が行われた事情、時期等に応じて適正な補正を加えた価格を基準とし、当該近傍類地及び収用する土地に関する次に掲げる事項を総合的に比較考慮し、必要に応じて次項各号に掲げる事項をも参考にして算定するものとする。」(細目政令1条1項)とあります。そこに「次に掲げる事項」とは、①位置、②形状、③環境、④収益性、⑤前各号に掲げるもののほか、一般の取引における価格形成上の諸要素が規定されています。
次に用対連基準でどのように「正当な補償」について規定しているかですが、そこでは、「取得する土地(土地の附加物を含む。以下同じ。)に対しては、正常な取引価格をもって補償するものとする。」とあります。この正常な取引価格とは、「いわゆる『客観的な交換価値』を基礎としたもので、これを通過で表したものである。したがって、合理的な自由市場があったならばそこで形成されるであろう市場価値(客観的な交換価値)を貨幣額をもって表示した適正な価格であり、この価格は、不動産鑑定評価基準にいう『相当な価格』に相当するものである。」と解されています。
このように見てくると、土地収用法でも用対連基準でも、正当な補償については、市場取引価格を基礎に考えていることがわかります。しかし土壌汚染土地の市場取引価格は、清浄な土地価格から掘削除去等の汚染浄化に要する費用を控除して現実に決定されていることから、従来の考え方に従うと大きな問題が発生してしまうことがわかります。例えばある土地が、清浄な土地であれば3億円の評価を受けるのに、汚染浄化に2億円も費用が掛かるため、市場の取引価格は1億円以下であるという場合、従来の考え方に従うと、せいぜい1億円の評価しかできず、正当な補償金額もそれにとどまってしまうからです。このように考えることにどのような問題があるかですが、それは被補償者が保証金額だけでは代替地を取得できないという点にあります。したがって、そこで事業を営んでいたり、そこに生活の本拠を有していたりしている場合は、事業や生活が破壊されてしまうということであり、これが果たして土地収用法や用対連基準の基本的な考え方に沿うものか甚だ疑問でもあるからです。
この問題について、国土交通省は平成15年4月30日に「公共用地の取得における土壌汚染への対応に係る取扱指針」を発表しています。そこでは土地補償額の算定について、不動産鑑定基準の改正に言及して「汚染の除去費用等を減価要因として織り込む等により、評価を行うことが必要である。」としながら、「土壌汚染による具体的な減価額は、土地の補償額は当該土地の財産価値に基づき判断すべきことを踏まえると、当該土地の属する用途的地域における通常の利用方法を可能とするために最低限必要となる、想定上の土壌汚染対策費用とすることとする。」としています。この意味は、必ずしも明確ではありませんが、通常の利用にさしつかえる汚染が存在すれば、さしつかえないようにするための最低限度の費用をもって減価とせよ読めます。このように読むと、多くのケースでは減価がないということになろうかと思います。上述の例では、1億円ではなく、ほぼ3億円の補償額となります。これが従来の土地収用法や用対連基準による補償額といかにかけはなれているかは明らかです。
この指針は、「平成15年3月31日に『宅地・公共用地に関する土壌汚染対策研究会(座長:寺尾美子東京大学大学院教授)』により取りまとめられた『公共用地取得における土壌汚染への対応に関する基本的考え方(中間報告)』(平成15年4月21日発表)を踏まえたものとなっております。」と国土交通省は説明しています。ただこの中間報告後に設置された「公共用地に関する土壌汚染対策研究会(座長:寺尾美子東京大学大学院教授)」により取りまとめられた「公共用地取得における土壌汚染への対応に関する基本的考え方(最終報告)」(平成16年3月30日発表)は、「この場合の減価額については、一つの考え方として、通常の土地利用に関して土壌汚染対策法第7条の措置命令により求められる措置(例えば、汚染土壌の直接摂取によるリスクに係る措置としては盛土(覆土)が原則とされている。)に要する費用相当分を減価することが考えられる。」として、その考え方をとる理由を「現状の取引実態は個別の事情に応じた適正な補正を考慮に入れれば必ずしもいわゆる浄化装置が前提となっているとまではいえず、盛土(覆土)などの健康被害防止の観点からの必要最低限の措置で最有効使用が可能となる場合もあるとの考え方」によるとしています。しかしこの理由付けは、混沌としています。取引価格が汚染の除去のコストを前提としている例が通常であると思われる現実を無視していますし、最低限の措置で最有効使用が可能であるということは、取引価格の問題とは別の問題だからです。
上記指針は土地収用法や用対連基準の従来の考え方からは逸脱していますが、もともと従来の考え方が、補償にあたって交換価値を重視して使用価値を軽視しているところの問題点が土壌汚染地の評価にあたっては如実に現れたものと考えます。土壌汚染のある土地の多くはそのまま使用し続けることに支障がないものの、売却しようとすると大きく減価が求められるからです。したがって、使用価値に着目して処理したいという国土交通省の意向も理由があります。ただそのように端的に説明すると、従来の考え方からあまりにも逸脱しているように見えるので、説明が理解しがたいものになっているように思われます。それでは本件の問題はどのように考えるべきでしょうか。
まず土壌汚染のある土地の多くは、使用には支障がなくても売買すると市場での取引価格は汚染の除去に必要な額だけ減価されてしまいます。しかしこの減価をただちに補償額から差し引いてよいのでしょうか。そのまま差し引くことには疑問があります。なぜならば、その補償額では代替地を取得できないことが明らかで、そのような状況を強いられる理由は当該土地所有者にはないからです。市場価格で補償すれば足りるのは、それを受け取ることで代替地を取得できる場合であって、それが取得できない場合は、使用価値に着目した補償がなされるべきものです。前記最高裁判決は「金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同との代替地を取得することをうるに足りる金額の補償を要するというべく」としていることからも、代替地取得としてその補償が適切かを無視した判断は理由がないと考えます。
それならばどのように評価すべきかが問題になります。この点については、企業会計において、減損損失を認識すべき土地について、回収可能価額まで損失を認識すべきとされていることが参考になります。回収可能価額とは、売却による回収額である正味売却価額(資産の時価から処分費用見込額を控除して算定される金額)と、使用による回収額である使用価値(資産の継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値)のいずれか高いほうの金額をいうとされています。したがって本件では、その資産を当該土地所有者がいつまで使用し続けると考えることが合理的かを考えたうえで、後者の処理を考えるべきであろうと思います。すなわち、将来の処分時の減価の現在価値は非常に小さくなりうるため、合理性のある評価が可能になろうかと思います。上記説例でいえば、30年後(30年後に処分すると仮定することに合理性がある場合)の2億円は現在価値でいえばいくらかを評価して、それを3億円から減価するといった考え方ができないかを検討すべきではないかと思います。

2017-12-13 16:04 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 東京永田町法律事務所