会社Aを買収したいと思いますが、会社Aはかつて薬品工場として操業していた土地を所有しており、この土地がどれだけ汚染されているかわかりません。会社Aを買収した後、仮に当該土地及び近隣の土地の土壌汚染が発覚して、会社Aの当該土地の土壌汚染を原因とした近隣の土地の土壌汚染の浄化を求められることになると困りますので、会社Aを分割させて新しく設立した会社Bに当方がほしい事業をすべて継承させ、当方はその会社Bの株式を取得したいと考えています。このような方法で上記のリスクは回避できるでしょうか。
近隣の土地の土壌汚染が会社Aの土壌汚染を原因として発生していれば、既に会社Aは近隣の土地の所有者に対して不法行為に基づく損害賠償債務を負っていることもありえます。そうであれば、会社分割時の債務承継の問題として検討しなければなりません。そのようにすでに発生している損害賠償債務は、仮にまだ近隣の土地の所有者から請求を受けていないとしても、債務としては会社分割時に既に存在しているわけですから、分割会社と設立会社(新設会社の場合。吸収分割の場合は承継会社)の連帯債務となります(会社法759条2項及び3項、764条2項及び3項)。ただし責任の限度があり、分割時の各会社の財産の価額を限度とします。分割会社又は設立会社(新設分割の場合。吸収分割の場合は承継会社)が免責となるためには、「知れたる債権者」に個別催告が必要であり(同法764条2項、759条3項)、このような個別催告がなされていない限り、連帯債務は免れません。したがって、汚染の状況も調査せずに漫然と会社分割により、新設会社の株式を取得すればよいと考えることは、大きなリスクを抱えることにもなりかねません。
なお会社分割にあたっては、会社分割後も、分解会社及び設立会社は、ともに債務の履行の見込があることが要件とされており、この観点からもご質問のケースの会社分割には問題があり得ます。なぜなら分割後、会社Aに債務の履行の見込があるのが疑問だからです。