地下への汚水の浸透に対する規制

昔は工場の廃液を垂れ流して地中にしみこませても何のお咎めもなかったように聞くのですが、本当でしょうか。

水質汚濁防止法が昭和45年に制定される前の旧水質安全法(公共用水域の水質の保全に関する法律)及び旧工場排水規制法(工場排水等の規制に関する法律)の時代は、いずれも指定水域に排出される水の汚濁が規制の対象となっており、有害物質を含む汚水などを地下に浸透させることに関しては、特に規制はありませんでした。
昭和45年に制定された水質汚濁防止法では、「排出水を排出する者は、有害物質を含む汚水等(これを処理したものを含む。)が地下にしみ込むこととならないよう適切な措置をしなければならない。」との規定が設けられましたが、当時この規定に違反した場合の罰則は定められていませんでした。
昭和47年には、公害事業における事業者の責任を強化し、被害者の一層円滑な救済ができるような措置、すなわち事業者の無過失損害賠償責任制度を創設づべきであるとの強い要請から、工場又は事業場における事業活動に伴う有害物質の汚水又は廃液に含まれた状態での排出(地下へのしみ込みを含む)により、人の生命又は身体を害した場合の無過失賠償責任の規定が定められました。
昭和57年度、昭和58年度に環境庁が行った調査により、トリクロロエチレン等による地下水の広範な汚染が認めらえたため、環境庁は当面の措置として暫定私道指針を定め、昭和59年8月に通知しました。同通知には「トリクロロエチレン等及びトリクロロエチレン等を含む水については、地下にしみ込むこととならないよう適切な措置を講じなければならないものとし、トリクロロエチレン等の濃度が常に別表一の管理目標に適合する水を除いて、地下浸透は行ってはならないものとする。」という地下浸透を禁止する旨の指針が盛り込まれました。
平成元年には、有害物質による地下水汚染の未然防止及び有害物質の流出事故による環境汚染の拡大の防止を図るため、有害物質を含む特定地下浸透水(有害物質を製造、使用又は処理する特定施設を設置する特定事業場から地下に浸透する水で当該特定施設に係る汚水等を含むもの)の地下への浸透を禁止する規定が設けられ、都道府県知事による改善命令等に違反した場合には、罰則も適用されることになりました。
しかし地下水は、流速が極めて緩慢であるなどの理由から、自然の浄化が期待しにくく、有機塩素系化合物等の有害物質によりいったん汚染された地下水については、汚染の改善の傾向が見られなかったことから、平成8年には、有害物質により汚染された地下水による人の健康に係る被害を防止するため、特定事業場において、有害物質に該当する物質を含む水の地下への浸透があったことにより、現に人の健康に係る被害が生じ、又は生ずる恐れがあると認めるときは、都道府県知事は地下水の水質の浄化のための措置をとることを命ずることができる旨の規定が置かれるとともに、規則において浄化基準が定められ、措置命令に違反した場合は罰則が適用されることになりました。

2017-12-13 15:10 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所