汚染土壌の引取り

ある山持ちが当社の汚染土壌を引き取ってくれるというのですが、引き取ってもらうことは法律に違反しますか。

汚染された土壌が廃棄物処理法に定める廃棄物に該当すれば、同法に従った処理を行わなければなりません。それならば汚染された土壌は、同法の廃棄物に該当するのでしょうか。同法では廃棄物を「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された者を除く。)」(同法2条1項)と定義しています。また産業廃棄物を「事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物」と定義しています(同法2条4項1号、なおここでは同項2号については省略します)。これらにいう「汚泥」に汚染された土壌が含まれるかとうと、これは含まれないと解されます。なぜなら同法では「汚泥」の定義はないものの、「汚泥」とは一般に、「工場廃水等の処理後に残るでい状のもの、及び各種製造業の製造工程において生ずるでい状のもの…(後略)…」(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の運用に伴う留意事項について」昭和46年10月25日付け環整第45号厚生省環境衛生局環境整備課長通知)と理解されており、このように理解されている「汚泥」には、汚染された土壌は入らないといえるからです。したがって事業活動に伴って土壌に汚染が生じても、これを産業廃棄物と解することはできないといえます。しかし同法の「廃棄物」の定義は、以上の通り、「汚物又は不要物」という広い概念を含むものですから、汚染された土壌で不要なものとして処分される土壌は「廃棄物」の概念委は含まれ、「廃棄物」のうち「産業廃棄物」を除くものは、「一般廃棄物」と呼ばれています(同法2条2項)ので、かかる汚染土壌はこの「一般廃棄物」といえるのではないかが問題になります。
ところで一般廃棄物でも、事業者が事業に伴って排出する廃棄物については、自ら適正処理を行う義務があります(同法3条1項)。したがって、市町村が事業系一般廃棄物を収集する場合も全面的に有料化する例が多く、事業系一般廃棄物を収集しない市町村もあります。いずれにしても、一般廃棄物の収取、運搬及び処分を業とする者は、同法により許可を取得しなければなりませんので(同法7条1項、6項)、この許可のない者(ただし事業者が自らその一般廃棄物を運搬・処分する場合を除く。廃棄物処理法7条1項ただし書及び同条6項ただし書)が一般廃棄物を収集、運搬及び処分を行うことは違法です。また事業者が一般廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合、その運搬又は処分については、許可を得た運搬又は処分業者に委託しなければなりませんし(同法6条の2第6項)、その場合、政令で定める委託の基準に従わなければなりません(同法6条の2第7項)。これらの違反には重い罰則があります。
ご質問の汚染土壌が仮にこの一般廃棄物になると、上記の規制に服することになるのですが、土壌汚染対策法制定当時から、環境省は、汚染された土壌は、廃棄物処理法上ンお廃棄物には当たらないという解釈を示していました。それは該当するとなると、上記の各種規制が適用されざるを得ないけれど、それは現実にできないという現実論によるものであったと考えます。もっともそのように解釈する法的根拠については不明なところがあったと考えられます。しかし平成21年改正により、要措置区域等からの汚染土壌の運搬及び処分について、廃棄物処理法類似の各種規制が導入されたことから、今や汚染された土壌は土壌汚染対策法が適用されるということが明確になったといえますから、改正法のもとでは、汚染された土壌の運搬や処分にあたって、廃棄物処理法の上記諸規定が適用されると考えることはできないと考えます。もっとも、土壌汚染対策法で汚染された土壌の運搬又は処分に廃棄物処理法類似の各種規制が導入されたのは、あくまでも要措置区域等(すなわち、要措置区域又は形質変更時要届出区域)であり、それ以外の土地の汚染された土壌は、土壌汚染対策法の対象外です。したがって、土壌汚染対策法で規制されていない汚染土壌については、廃棄物処理法を適用するという考え方もありますが、これだけを廃棄物処理法の対象とするというのは不合理ですので、これを含めてもはや汚染された土壌の運搬又は処分は、土壌汚染対策法に委ねられたと考えるのが妥当な解釈であろうと考えます。したがって、ご質問の汚染土壌が要措置区域等にあれば、土壌汚染対策法の規定に従って、運搬、処分の規制を受けますが、それ以外の土地にあれば、土壌汚染対策法も廃棄物処理法も規制が及ばないため、その運搬又は処分について、法令で義務付けられた運搬又は処分お規制はないというしかありません。要措置区域外の土地の基準不適合土壌等の取り扱いについては、ただ、平成22年施行通知第10の1.に「要措置区域外の土地の土壌であっても、その汚染状態が土壌溶出量規準又は土壌含有量基準に適合しないことが明らかであるか、又はそのおそれがある土壌については、運搬又は処理にあたり、法第4章の規定に準じ適切に取り扱うよう、関係者を指導することとされたい。」とあるだけです。
しかしながら、廃棄される可能性のあるあらゆる種類の物のうち、汚染された土壌だけ廃棄物処理法の適用がないというのは、そのことを明文規定する条文もないことから、慎重でなければなりません。その議論が妥当する範囲を慎重に考える必要があります。つまり、汚染された土壌の運搬又は処分という行為に対する規制は、土壌汚染対策法によって行うということが平成21年改正で明確にされている以上、その趣旨を無視する議論はできず、その限度で、汚染された土壌に廃棄物処理法は適用がないと解すべきですが、土壌汚染対策法の趣旨に反しない限度では、なお廃棄物処理法の適用がある場合もあると考えます。例えば「汚染された土壌を何の処理もせずに山の中の窪地に大量に投棄するということは何のお咎めもないのか。」といった問題については、廃棄物処理法第16条の「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。」という規定がなお適用され、同条違反であると考えるべきです。つまり、要措置区域等以外の土地の汚染された土壌であっても、その汚染土壌を「みだりに」捨てることは禁止されており、上記通知に従った処理であれば、「みだりに」と解されることはないが、そうでなければ一応「みだりに」と解されるリスクはあり、最終的に「みだりに」捨てていると判断すべきかどうかは、その汚染拡散の状況等からみて、社会通念で決めるしかないということになろうかと考えます。
さらに言えば、汚染された土壌が不適切に処理され、その結果、その土壌を受け入れた土地が要措置区域に指定されたような場合、かかる不適正処理を知っていた又は知り得てこれを許したあなたの会社自身が原因者としての責任を土壌汚染対策法第7条第1項ただし書に基づいて負わされるリスクも否定できません。
以上の通りですから、汚染された土壌である限りは、仮に要措置区域等以外の土地の汚染された土壌であっても、土壌汚染対策法の規定に準じた運搬や処分がなされることを確認の上、その運搬や処分を依頼されることが賢明です。

2017-12-13 16:00 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所