瑕疵担保責任の瑕疵とは

かなり以前に購入した土地の汚染を調査したところ、要措置区域等(すなわち要措置区域又は形質変更時要届出区域)の濃度基準を超過する汚染が存在することが判明しました。売主に瑕疵担保責任を追及できるでしょうか。

瑕疵担保責任の「瑕疵」(民法570条)とは、売買の目的物が備えているべき品質や正常に書けるところがあることを意味します。ただ売買の目的物にどのような品質や正常が備わるべきかということは、当事者がその目的物に何を予定しているかによって異なります。そこでまず、契約当事者が何を予定したのかを探求する必要があります。その予定していたものに欠けるところがあるか否かがまず瑕疵判断の基本となります。ただ当事者が何を予定しているのかは必ずしも契約で明らかにはされていませんので、その場合は当事者が暗黙の前提としているものは何だったのかを探求する必要があり、その取引における各種事情をよく検討する必要があります。そのうえで特別の事情がなさそうであれば、通常何が予定されてしかるべきかを探求することになります。
濃度基準を満たす土壌汚染があれば今や多くの場合、かかる土壌汚染をもって土地の瑕疵といえると思います。しかしそれはまさに、かかる土壌汚染がないことを現在の土地取引当事者が予定しているからです。かなり過去の土地の売買においては、その時期や契約当事者や契約の目的等に照らし、慎重な判断を必要とします。平成10年ころより前は、日本の企業で土壌汚染に神経質な企業は極めて限られていました。ただ平成3年には環境庁が土壌汚染の環境基準を公表していましたので(「土壌の汚染に係る環境基準について」(平成3年8月23日環境庁告示第46号)参照)、バブル経済崩壊時に日本の不動産の買収に乗り出した外資系ファンド等は米国などでの経験からかかる環境基準を満たさない土壌汚染に買収当初から神経質で、購入にあたり土壌汚染の心配のある土地はこれを避けていました。そのような外資系ファンド等の行動にも影響され、また環境庁が平成11年には「土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針及び同運用基準」を明らかにし、調査対策の方向性が定まり、これを受けて土壌汚染に関する法制度の必要性も活発に議論されるようになったため、平成10年ころからは日本の企業の中にも土地の購入にあたり土壌汚染の調査を行う企業が増え始めました。このような過去の日本における取引慣行を無視しては瑕疵の判断を議論できないと考えます。以上の経緯を経て、平成12年に東京都は、土壌汚染に関する規制を盛り込んだ環境確保条例を制定し、平成14年に国は土壌汚染田委託法を制定したものです。したがって大きく分けると、土壌汚染について国の環境基準が公表された平成3年より前、その後少しずつ国民の土壌汚染に対する石井が高まっていき土壌汚染対策法が制定されるまで、土壌汚染対策法制定後という3つの時期に分けられますので、基準を超過した土壌汚染については、各時期ごとに慎重に、売買の当事者が当該土地に何を期待していたのかという判断基準で、瑕疵の有無を判断すべきです。
このような考え方に対して、濃度基準に反していたら健康被害のリスクがあるのだから、また誰も健康被害は受けたくないのだから、どんな昔の売買でも時期は問わず土地の瑕疵であると主張する人もいるかと思います。しかし土壌汚染対策法の考えは、濃度基準を超過した土壌汚染であっても直ちに健康被害がもたらされるものではないというものであり、それが人への曝露リスクがある場合のみその曝露経路を遮断すべきというものですから、その曝露リスクが存在していたのかということを論ずることなく、濃度基準以上の土壌汚染があるというだけで健康被害をもたらすものとして瑕疵があったと考えるのは議論が粗雑であると考えます。さらに曝露リスクを考える場合も、地下水を汚染することによるリスクはかかる地下水を飲用する人にとっての健康リスクであり、土地の所有者等の健康リスクと重ならない可能性がむしろ大きいことにも注意が必要です。
過去の土壌汚染土地の取引における瑕疵の有無の判断についての最高裁判例(最判平成22.6.1)は、取引当時の社会観念で判断されるべきこと、契約当事者が目的物に備わるべき性状や機能として何を予定していたかにより判断されるべきことが明確に示されています。

2017-12-13 15:17 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所