表明保証責任

外資系会社に土地を売却しようとしていますが、売却土地に土壌汚染がないことを表明保証しろと強く要求されました。当社としては過去に土壌汚染の原因となる行為は何ら行っていないのですが、この土地の古い過去のことなどわかりませんので、そのような要求をされても困りますと申し上げているのですが、わかってもらえません。いったい、表明保証とは何なのでしょうか。

表明保証条項は、外資の日本不動産購入にあたり、不動産の売買契約に頻繁に用いられるようになったことから、不動産取引で実務上かなり使われるようになってきました。アメリカの契約書のスタイルを踏襲しているため、従来の日本の契約書式にあるものではなく、裁判例及び文献ともまだ多くはありません。しかもその用いられ方は様々なので、一般化は誤りの原因にもなりますが、ここでは不動産取引で通常使われている表明保証条項についてまず説明を行った後に、注意すべき問題について検討します。
まず「表明保証」という言葉ですが、Representations and Warrantiesの日本語訳で、一定の事項がこれこれのとおりであるということを表明し、間違いがあれば責任をとるという意味で用いられます。したがってここでいう「保証」とは民法でいう「保証」ではなく、日常用語で「あいつは間違いない。おれが保証するよ」といった場合も「保証」と同じで請け負うという意味です。
それでは一定の事項とはどういうものを含むのでしょうか。不動産売買契約では、その事項は大きくいって2つの種類に分けられます。1つは不動産の属性そのものについてであり、いま一つはその他の事項で主として、当事者の事項(倒産状態ではないとか契約締結について会社の取締役会の承認が下りているとか)が列挙されます。不動産の属性については、売主だけが表明保証を求められますが、その他の事項については、売主と買主の双方に求められます(ただし買主については省略こともあり、双方に求める場合も項目は必ずしも一致しません)。
いつの時点において間違いがないといっているのかという問題がありますが、これについては契約締結時と取引実行時(残代金決済時でかつ所有権移転時でもあることが普通)の2時点が問題になります。通常は、同じ内容について、契約締結時でも取引実行時でも間違いないとい表明保証することが求められます。契約締結時の「表明保証」というのは、契約締結時に間違いないことを列挙すればよいのですが、取引実行時の「表明保証」は契約締結時では将来の取引実行時の見込みを書くしかありません。見込み外れで取引実行時に事実と相違してしまったら、契約に従って責任を取らされます。取引実行時に事実と相違していることが判明すれば、相手方は取引を実行しないことができるという契約内容になっているものがほとんどです。つまり、表明保証条項が満たされることは相手方の債務履行の前提となっているのです。表明保証条項が満たされていないと相手方には通常介助犬が与えられますし、表明保証違反により相手方が損害を被れば相手方は損害賠償も請求できます。これらのことは時に詳しく契約の中に規定されます(表明保証条項が満たされていなくても相手方の選択で取引が実行することができるのが普通ですし、些細な表明保証違反では解除できないように解除所事項を限定することもよくあります)。
表明保証の「一定の事項」が不動産の属性に関わる場合は、表明保証違反と瑕疵担保責任との関係が問題になります。瑕疵担保責任は法定責任ですので、契約に記載がなくても責任を負うのですが、特約で内容を変更できるので「不動産の属性」に係る表明保証責任は、瑕疵担保責任の特約として考えるべきであるように思います。もっとも、特約といっても、一般の瑕疵担保責任とともに重畳的に責任を負うのか、それとも一般の瑕疵担保責任は排除されるのかという問題があります。これは、当事者の意思解釈の問題なので、この点はできるだけ契約書の中で明確にすべきものと考えます。買主からすると表明保証責任では尽くせない論点もあると思うことが普通なので、一般の瑕疵担保責任は残しておきたいため、特に重要な点だけ表明保証責任として言いたいでしょうし、売主からすると瑕疵担保とあるだけでは不明確なので当事者が気にする論点を表明保証条項としたのだから、一般の瑕疵担保責任は排除されるといいたいところかと思います。
表明保証責任については、いったいいつまで責任追及ができるのかという問題があります。表明保証違反があれば解除権や損害賠償請求権が発生するとしている契約事例が多いのですが、この権利がいつまで行使できるのかについては、必ずしも明確になっていない契約が少なくありません。通常、会社間の売買では商事時効が念頭にあるので、漠然と5年間が意識されているかと思いますが、表明保証違反の損害が引渡し時からかなり時間がたって生じる場合もあると思われ、その場合いつから時効が進行するのかという疑問もありますので、請求権の行使期間を明確にすべきものと考えます。
そこでご質問の点ですが、ご心配であれば、「知る限り」とか「知りうる限り」という限定文言を付けて「表明保証」をされたらいかがでしょうか。もちろんこれについて相手方はそのような限定文言をつけられたのでは表明保証違反があったのかなかったのかあいまいになるので削除を強く求めてくるでしょうが、表明保証を行う者が断言できない事項については、そのような限定文言を付すことは合理的なことです(ただし断言できない事情を相手方も百も承知で断言させた場合は相手方が騙されたということにはならないので、虚偽の事実の表明を行ったとして不法行為責任を負うことはありません。ただし事実に相違したことを断言したことによる契約上の責任は生じます)。もっとも取引実行時に関する一定の事項の断言は、その時までに表明保証を行った者が責任をもって実現することを示すことになるので、実行不可能であることがわかっていながら断言したというような特別な事情がある場合を除いて、虚偽の事実の表明を行ったという不法行為責任を追及されることはありません(実現できなかったという契約上の責任は問われますが)。

2017-12-13 15:34 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所