近隣住民による土壌汚染調査請求の可否

最近、マンションを買って引っ越してきました。近くに工場跡地があります。工場は取り壊されていますが、地面はむき出しのままで荒れるに任されています。その跡地の周辺は鉄条項が張り巡らされ、中居に入ることはできません。しかしここはかつて薬品工場があったとも、また、科学研究所があったともいわれており、ものすごく汚染されているとの風評があります。マンション内の砂場で子供が遊んでいることもあり、汚染された物質が風邪で飛んでくるのではないかとか、大雨の際に汚染された土壌が運ばれてくるのではないかと大変心配しています。先日、管理組合の理事さんがその工場跡地の所有者に土壌戦の調査を要求に行かれたのですが、「どんな法律上の根拠があってそんな要求をするのだ」と逆にねじ込まれたようです。何とか、汚染の実態だけでもまず調査できないのでしょうか。

土壌汚染対策法では、ご質問の不安を取り除くための適切な手段が存在しません。仮に、マンション内の土壌汚染や地下水汚染をマンションの住民が費用を負担して調査をされ、その結果、地下水汚染が判明しても、土壌中の重金属などの汚染が判明したとしても、またその汚染が当該工場跡地の土壌汚染が原因であろうと考えられても、だからと言って、土壌汚染対策法を根拠に当該工場跡地の土壌汚染跡の土壌汚染調査を求めることはできません。ただ地下水が飲用に利用されている場合は、都道府県知事が当該工場跡地の所有者に土壌汚染の調査を命じることができますが(また、地下水汚染が河川等公共用水域の水質汚濁を招いている場合も調査を命じることができますが)、地下水が飲用にも利用されておらず、また当該工場跡地が立入禁止の措置を講じている以上、都道府県知事としても、当該工場跡地の所有者に調査命令も出せないのです。
このような制限は、土壌汚染対策法そのものの問題というよりも、これを受けて制定された施行令(施行令3条1項1号)や施行規則(施行規則30条)が都道府県知事の手足を縛っているところからくる問題です。これらの規定は、平成14年1月の中央環境審議会の「今後の土壌環境保全対策の在り方について」と題されている答申に基づき定められたものです。
ところで、以上のとおり、現時点の土壌汚染対策法、施行令及び施行規則のもとでは、あなたの不安を取り除く適切な手段が用意されてはいませんから、現行法の下では、法的な手段に訴えるというよりも、住民運動を展開し、工場跡地の所有者に土壌汚染の調査を自主的に行わせるなどの方法を追求したほうが無駄はないと思います。ただその前に、都道府県知事または市区町村が独自に定める土壌汚染や地下水汚染に関する条例や指導要綱にあなたが希望される土壌汚染調査を命じる根拠がないかを検討することをお勧めします。
なお土壌汚染対策法の国会における審議過程でも、この法律には住民の意見が反映できるシステムが存在しないことの問題が取り上げられ、最終的に法律そのものには規定されませんでしたが、衆議院環境委員会や参議院環境委員会で、附帯決議の中に「政府は、…(中略)…土壌汚染に対する住民の不安を解消するため、住民から土壌汚染の調査について申出があった場合には、適切に対応することにつき都道府県等と連携を図ること」(衆議院環境委員会附帯決議2項)、「政府は…(中略)…土壌汚染に対する住民の不安を解消するため、住民から土壌汚染の調査について申し出があった場合には、適切な対応が行われるよう、都道府県等との連携を十分に図ること」(参議院環境委員会附帯決議2項)という文言が織り込まれました。附帯決議には法的拘束力があるわけではありませんが、この法律を適用する国または地方公共団体が尊重すべきことを特に列挙しているものですから、これを根拠に強力な行政指導を関係地方公共団体に求められることも有意義だと思います。
また当該工場跡地の周辺の地下水等から当該工場跡地の土壌汚染が疑われるデータが集まり、かつその周辺で井戸水の飲用があるような場合は、知事が土壌汚染対策法第5条により調査命令を出すべき状況にあると思われますので、知事がこれを放置している場合は、裁量権の濫用であるとして、行政事件訴訟法上の義務付け訴訟(同法3条6項1号、37条の2)を提起することを検討されるのもよいと考えます。

2017-12-13 16:09 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所