売り主の説明義務

本来、契約当事者でない人同士の間には、権利義務は存在しません。従って、売買契約に向けた交渉段階にある人同士(売却予定者と購入希望者)も契約前は、原則として、権利義務に関する法律関係にはありません。

しかし、不動産取引の専門家である宅建業者は、取引の関係者に対して信義を旨として誠実に業務を行う義務や重要な事項を説明する義務があります。宅地建物取引業法にそう定められているからです。事業者は消費者より情報の質や量、交渉力の格差において有利な立場にあるため、契約締結に向けて勧誘をする時、契約内容に関して必要な情報を消費者に提供するよう努めなければなりません。

さらに不動産の売却予定者は、売買契約の交渉段階で購入希望者から、購入希望者にとって不利益をもたらすおそれがあって契約を締結するかどうかの判断に影響すると考えられる特定の事項について直接の説明を求められた場合は、信義則において虚偽の説明や相手を誤解させるような説明をすることは許されません。

売り主の説明義務の概説

はじめに

不動産取引は売買契約の成立により初めて権利義務が発生し、成立前はいかなる権利義務も発生しません。売り主の説明義務もまた、契約成立前に当然に課される義務ではありません。

判例でも「売買契約の目的物にある瑕疵の存在が要素の錯誤に当たる場合やその存在について売り主に告知義務がある場合、その売買契約が無効事由又は取消事由のあるものになり、あるいは、売り主に不法行為が成立し得ることはあっても、売買契約成立前の契約締結過程で瑕疵の存在を告知しなかったことが、売買契約の売り主としての債務不履行になるとは言えない」とされています。ただし、契約成立前に売り主に説明義務が課されるケースが全くないわけではありません。

個々の不動産取引は、取引の対象や契約成立に至る経緯、当事者の属性、契約目的、売り主や買い主の認識などによって多様であり、説明義務の存否やその内容も一律ではありません。さらに、売り主に説明義務のみならず、調査義務が課されるケースもありますが、これらも個々のケースごとに判断されます。

まず、説明義務については、売り主が専門家か否かで区別して考える必要があります。

売り主が宅建業者の場合、宅建業法が「信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならない」としており、重要事項を説明する義務が定められています。この規定はいわゆる「行政法規」ですが、宅建業者の場合、民事上も一般的な説明義務を課されていると考えられています。

また、同じ宅建業者でも消費者契約法上の「事業者」と「非事業者」では、義務の根拠や程度が違います。売り主が事業者の場合、同法は「消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるため、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない」と定めています。一方で、同法では、宅建業者でなくても事業者であれば、非事業者より説明義務は加重されます。非宅建業者かつ非事業者の場合の説明義務は、売却予定者が購入希望者に対し、民法の信義誠実原則に基づいて負担する義務となります。

説明義務は、契約締結に至るプロセスで、売却予定者が購入希望者に対して負担する義務です。説明義務が課されるタイミングは契約成立前で、違反行為の法律構成は多くの場合、契約関係にない者の間の義務違反と捉えて不法行為とされます。一方、説明義務は売買契約での付随義務であるとし、債務不履行責任と解する考え方もあります。

過去の裁判例でも、説明義務違反による売り主の責任を不法行為と解釈したケースがあります。また、売買契約の付随義務としての債務不履行と解釈した裁判例や、契約締結上の過失と捉えた裁判例もあります。後者は、契約成立前のプロセスで売却予定者として果たす必要があった義務に対する違反として「過失」の一種と解したものです。

「過失」と捉えた場合、「説明義務違反」と「交渉破棄」の2パターンがあります。説明義務違反は契約が成立した場合の問題ですが、交渉破棄は契約締結に至らなかった場合の問題です。どちらも「契約締結上の過失」ですが、両者は局面が異なります。

さらに、説明義務違反は「誤った情報の提供」と「情報を提供しないこと」の2通りに分けられます。

宅建業者

宅建業法に基づき、宅地建物取引を業として行うには、国土交通大臣か都道府県知事の免許が必要です。宅建業者は不動産の専門家として公的なお墨付きを受け、特に許されて宅地建物取引を業として行うわけですから、当然に責任も伴います。つまり、取引の関係者に対して「信義を旨とし、誠実にその業務を全う」しなければなりません。このため、売買契約における説明義務の存否の判断において、売り主が宅建業者であるということは重要な意味を持ちます。

重要事項の説明義務は、取引成立前に情報提供する局面において「信義誠実義務」を具体化する仕組みといえます。専門家としての信義誠実義務の相手は、仲介契約を直接結んだ依頼者に対する義務にとどまりません。同時に、自らが売り主となる場合の買い主に対する義務でもあります。売り主の買い主に対する宅建業法上の信義誠実義務や重要事項説明義務は、民事上の宅建業者が負う民事上の説明義務の根拠ともなります。

裁判において、説明義務を認定する根拠に宅建業者であることを挙げるケースは多くあります。ある裁判例では「売買契約の売り主として、信義誠実の原則に基づいて行動する義務があったといえ、一般的に言えば、不動産業者である売り主として、買い主に必要な限度で本件土地の情報を提供する義務があった」と指摘しており、他の裁判例でも「宅建業法上の重要説明義務は、売買契約上の付随義務の内実をなす」としています。

非宅建業者

非宅建業者は通常、不動産取引の専門知識がないため、不動産売買に当たっては宅建業者に仲介を依頼します。この際、重要事項の説明については、自らが依頼した宅建業者が行うよう委ねたといえます。売り主が非宅建業者なら、売り主が宅建業者である場合と異なり、原則として説明義務はないと解され、そう認めた裁判例は多くあります。「履行補助者の理論」に基づき、仲介業者(代理業者)を利用した場合の売り主本人の説明義務違反を認めた裁判例もあります。

ただ、非宅建業者の場合でも説明義務違反を問われるケースが全くないわけではありません。「虚偽事実を告知した場合」と「一定の場合に故意に事実を告げなかった場合」がそれに当たります。

一方、消費者契約法は消費者と事業者の契約を「消費者契約」と定義付け、こうした契約において、事業者は消費者が理解を深められるよう権利義務や契約内容について必要な情報の提供に努めなければならないと定めています。

同じ非宅建業者でも、事業者か否かで説明義務の考え方は異なります。消費者契約法は売り主が非事業者である場合に比べ、事業者である場合により厳格な説明を要求しています。

売り主の認識

無過失責任の「瑕疵担保責任」の成否は、売り主の主観に左右されませんが、無過失責任ではない「説明義務違反」は、売り主の主観に左右されます。このため、売り主が「説明するべき瑕疵」と認識しながら説明していなければ、説明義務違反となります。ある裁判例は、売り主である宅建業者について「取引関係者に信義誠実に業務を行うべき義務を負い、取引関係者が不測の損害を被らないよう認識している物件の瑕疵についての情報を提供すべき義務を負う」と指摘しています。

売り主の「認識」を根拠として説明義務を肯定した判例や、売り主の「不認識」を根拠として説明義務を否定した判例は多くあります。また、売り主が瑕疵だと認識していなくても、裁判所が「認識が可能だった」として説明義務を認定するケースもあります。逆に売り主が「瑕疵と認識するのは不可能だった」場合は説明義務が否定されます。また、認識が可能だったと認定した判断ケースとして「悪意と同視すべき重過失により知り得なかった」として説明義務を肯定した判例もあります。

買い主の認識

説明義務の有無を巡っては、売り主の「認識」の問題がある一方で、買い主の「事情」の問題もあります。

そもそも売り主に説明義務が課されるのは、売買する不動産について、買い主には情報がないのに、売り主には情報があるという「格差」を解消する意味合いがあります。この格差を考える上で、双方の「属性」は重要です。

まず、売り主が不動産取引の専門家で買い主が非専門家である場合、売り主に高度な注意義務が求められます。これに対し、買い主の側も専門家である場合、非専門家と全く同様の扱いをすることにはなりません。

買い主が不動産の瑕疵を認識していた場合、売り主の説明義務は否定されます。宅建業法上の「重要事項の説明義務」は、相手方の認識の有無に関わらず、宅建業者に課される義務です。もし、買い主に軽率な行動や判断があった場合は、過失相殺の要因になることがあります。

また、実際は買い主が瑕疵を認識していなかったのに、売り主の側が買い主は認識しているであろうと誤信しただけの場合、売り主の説明義務違反は否定されません。さらに、「公知の事実」については、売り主に説明義務はありません。個々の不動産取引の状況から、買い主が瑕疵を予想できたり覚悟したりすべきであったと判断できる場合は、売り主に説明義務を問えないとした判例もあります。

判断基準

説明義務があるか否かの判断基準は、取引の実務上、大切な問題です。各取引は、当事者の関係や売買目的物の状態、売買に至る経緯など、さまざまな要素が絡んでいるため、個々の案件ごとに具体的な検討が必要ですが、大まかに言えば、買い主が購入するか否かの判断に影響するかどうかと、購入金額を算定する場合に影響するかどうかの2点が重要な判断基準です。

判例では、説明義務を負う場合の基準について「不動産を買うかどうかの意思決定に重大な影響を与える事実」「購入の意思決定に重大な意義を持つ事項」「相手方の意思決定に対する原因となるような事実」「売買契約を締結するにあたり重大なかかわりを有する事柄」であるかどうかを挙げています。また、否定的な判断要素として「通常一般人がその事実の存在を認識したなら居住用建物としての購入を断念すると社会通念上解される事実」としたケースもあります。

宅建業者は宅建業法に基づき、重要事項の説明義務を課されています。この義務は行政規制であるにとどまらず、民事上の規範的意味合いもはらみ、業者は宅建業法に列挙されていない事項についても説明義務を負うことになります。つまり、同法の説明義務事項は「例示」に過ぎません。

範囲と時効

「説明義務」と「瑕疵担保責任」の対象は、基本的に同じになります。というのも、説明義務は買い主が意思決定するに当たり、売り主が売買目的物の品質に関わる重要事項の説明を課すものであり、瑕疵担保責任は売買目的物の品質の欠陥について売り主の責任を問うものだからです。ある裁判例は「売買契約の目的物である本件土地には『隠れた瑕疵』があると認められ、これを認識していた売り主には、信義則上これを告知すべき義務があった」と判示しています。一方で、別の裁判例は「瑕疵に当たらない以上、説明義務はない」としています。

ただ、説明義務と瑕疵担保責任の対象は完全に一致するとは限りません。ある裁判例は「説明義務の範囲より、瑕疵担保責任の範囲の方が広い」としています。具体的には「隣人の脅迫的言辞」で建物の建築が制限されることについて「瑕疵にはなるが、説明義務はない」と指摘したケースがあります。

他方、逆に「瑕疵担保責任の範囲より、説明義務の範囲の方が広い」とした裁判例もあります。具体的には「冠水しやすいという土地の状況」に関し「瑕疵とはいえないが、説明義務の対象となる」と判示しています。

売り主にとって、買い主への説明を尽くしておくことは、取引する不動産に瑕疵があったとしても「隠れ」要件が否定される(買い主が「認識済み」の瑕疵になる)という意味合いを持ちます。

不動産の売却を希望する人が「非宅建業者」である場合は、通常、宅建業者に仲介を委ねます。この場合、買い主への説明は業者が行い、原則として売り主に説明義務は課されません。しかし、民法は「履行補助者の故意や過失は、債務者の債務不履行と同視する」と定め、不動産取引の売買契約で「履行補助者」に当たる仲介業者の説明に故意や過失による義務違反があった場合、「債務者」に当たる売り主も責任を負う場合があります。

また、不動産の売却を希望する人が「宅建業者」で、別の業者に仲介業務を委託した場合、売り主の説明義務に変わりはなく、別の業者に業務委託したことを理由として義務違反について免責されることはないとされています。売り主と仲介業者の両方に説明義務違反がある場合の関係は、連帯債務(不真正連帯債務)です。

説明義務には「不法行為の期間制限」と「債務不履行責任の期間制限」が適用されますが、「瑕疵担保責任の除斥期間による制限」は適用されません。

不法行為による損害賠償請求権は被害者が損害を知った時から3年間行使しないと、時効消滅します。一方、説明義務違反を売買契約の付随義務違反による債務不履行と解釈すると、債務不履行責任の期間制限の問題となります。民法は「債権は10年間行使しない時は、権利が消滅する」としています。また、商法では、商行為で生じた債権は原則として5年間行使しない時は時効消滅するとしています。説明義務違反による損害賠償請求権は、商法上の債権なら5年、それ以外の民法上の債権なら10年の消滅時効にかかるということになります。

売主の説明義務の具体論

新築住宅

「業」としての住宅の分譲は、宅建業法に基づき、宅建業者のみに認められています。宅建業者は不動産売買の専門家ですが、多くの場合、買い主は専門知識を持たない非専門家です。また、不動産売買は代金が高額になるのが通常で、売り主は購入希望者に確実な情報を提供する必要があります。新築住宅の売り主は、買い主の意思決定に対し、重要事項について不正確な表示や説明を行わないという信義則上の義務が課されます。

新築マンションの場合、完成前に販売されることが多いのが実情です(こうした販売方法は「青田売り」と呼ばれます)。このような場合、購入希望者は完成物件を見ずに買うかどうかの意思決定することになりますから、売り主の説明義務は「実物を検分できたのと同程度の説明義務」「物件に関する重要な事項について可能な限り正確な情報を提供して説明する義務」があるとの判例があります。

また、完成前の建物はパンフレットや広告が重要な判断材料となり、売り主はこうした媒体において文字や図などによる情報の内容を保証していると捉えられます。ただ、コンピューターグラフィック(CG)などを活用した「イメージ図」については「完成予想図のため、実際とは異なる場合がある」などの断り書きがあれば、提供情報と実物との違いも許容される場合があります。

新築住宅の分譲で「パンフレットの不正確な記載」が問題となったケースとして、建物の方位が異なっていた点について「説明義務違反に当たる」とした判例があります。この判例は「一般にマンションの売買では、方位が高度に重要な判断材料である」と指摘しています。

他に、宅建業者が「防音性能を保証する」と発言した点が事実と異なっていたことから買い主に対する損害賠償を認めた判例があります。また、業者が購入希望者に防火戸の電源スイッチの位置や操作方法を説明しなかったケースについて、同じく宅建業者の売り主としての責任を肯定した判例もあります。

さらに、駐車場と駐車装置に関し「今日乗用車が日常生活での重要な生活手段となっていることに鑑みれば、売り主には駐車場の存否とその利用契約締結の可否について買い主に正確に説明すべき付随義務がある」と判断したケースや、売り主が機械式駐車装置に関する説明を十分にしなかったことから発生した事故について売り主の説明義務違反を認定したケースもあります。一方で、マンションの駐車場に関する誤った情報提供は説明義務違反となり得るとしつつ、マンション自体の売買契約における付随的な債務に過ぎないとして、契約自体の解除を認めなかった事例もあります。

近年はペットに関するトラブルも多く、マンションのような集合住宅においては、ペット飼育に関するルールは不可欠となっています。このため、売り主に説明義務が課される事項の一つと言えます。ある判例では、当初は「ペット禁止」として販売されていたが、売れ行き不振により販売途中で「ペット可」に変更されたマンションに関し、「禁止」と説明された購入者と、「飼育可」と説明された購入者との双方について、売り主に対する損害賠償請求が認められています。

また、マンションの管理組合規約について「居住者の生活に直接影響を及ぼすものであるから、販売業者は購入者に規約の内容等について説明する義務を負う」とした判例もあります。

「環境的欠陥」や「心理的欠陥」が説明義務事項になる場合もあります。

具体的には、近隣のゴミ処理場や火葬場、近くの送電線からの電磁波、銭湯の煙、上空を通過する航空機の騒音に関する説明義務違反を巡り、裁判になった例があります。また、日照や眺望に関し「土地および建物を売買する際に、日照や眺望を享受し得る利益が経済的価値を有している場合には、当然これは代金額に反映されているはずだが、この経済的利益は、通常、周辺の客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約を被らざるを得ないものであることを前提とした価値として評価され、その限りで代金額に反映されているものと解され、特段の事情でもない限り、このような変化を排除し得る権能をもっていることを前提とした価値として評価され、代金額に反映されるとは考えられない。日照はともかく、こと眺望に関しては、私人が、私人に対して、不変の(又は、一定の水準の)眺望の利益を将来にわたって保証することを確約することは、物理的にも、経済的にも、不可能であることが誰の目にも明らかであると解されるし、眺望の保護を目的とする公法的規制が皆無に等しい時点においては、右特段の事情は、まず、考え難いところである」と指摘した判例があります。

眺望については、売り主がマンションの販売活動でセールスポイントとしていた場合、説明義務との関係において法的保護を受けます。ある判例は、青田売りのマンションの売買交渉段階での眺望に関する説明が、マンション完成後の実際の眺望と異なっていたとして、売買契約の解除を認めました。また、新築のリゾートマンションについて、近い将来に眺望が阻害される事情を知っていたのに、売り主が買い主に説明しなかった場合は責任を免れないとした判例もあります。

他に、購入した新築マンションの部屋が隣接するビルの喫煙室から丸見えだとして、買い主が売り主に「プライバシーを侵害された」と主張し、仲介業者を訴えたケース▽新築マンションを購入したものの、多量のホルムアルデヒドが放出される危険性のある建材によりシックハウス症状になったとして、売り主を訴えたケース▽などがあります。前者は買い主の主張が認められませんでしたが、後者は認められました。

建物全般

建物全般で説明義務に関して具体的に問題となるケースとしては、漏水▽雨漏り▽シロアリ被害▽敷地の「不等沈下」(家の敷地の一部が沈下し、建物が傾斜してしまう現象)▽排水管や汚水管の勾配不足▽などがあり、いずれも売り主の説明義務に基づく責任が肯定された判例があります。また、売買する建物は、最低限の強度が確保された適法な建築物であることが前提となりますが、違法な建築物となっている場合は、当然、買い主に対する説明義務が生じます。ただ、購入した建物を解体して新たに建て替える計画で売買契約を結んだ場合については、説明義務を課されないとした判例があります。

土地

土地に関する説明義務が問題となるケースとしては、有害物質による土壌汚染▽地中埋設物の存在▽都市計画道路に伴う法的規制▽接道条件▽建築基準法上の制限▽行政指導上の制限▽森林法に基づく利用制限▽宅地造成工事規制▽崖条例の適用▽土地の水没可能性▽不等沈下▽租税上の優遇措置▽などがあります。

環境的欠陥と心理的欠陥

「環境的欠陥」としては、購入する土地や建物の周辺における建設や開発に関する事項が説明義務に関わる問題となることがあります。具体的判例としては、売り主が隣地に建物の建築予定があることを知りながら、説明を怠り、むしろ将来的にも日照が確保できると説明したケースについて、売り主の説明義務違反が肯定されています。他には、周辺のゴミ集積所の存在▽高架道路の建設計画▽迷惑行為に及ぶ隣人の存在▽冠水傾向や水害歴などを巡り、説明義務の有無が争われた裁判例があります。

一方、「心理的欠陥」としては、購入した建物で過去に事件や自殺、火災などがあったことを説明する義務があったか否かが問題となることがあります。購入する建物で、過去に住人が普通でない亡くなり方をしていた場合、購入希望者がその事実を知れば、購入意欲が減じます。実際に殺人事件や自殺(首吊りや飛び降りなど)、死亡火災などがあった物件について、説明義務を肯定した判例がありますが、否定した判例もあります。説明義務の有無は、事件や自殺などが起きた時期や状況、物件に痕跡が残っているかどうか、などから個別に検討されるため、判断が分かれることになります。

建物面積

中古住宅の建物について、登記上の面積と実際の面積が異なっている場合、購入希望者に対する十分な説明が必要です。建物の場合、増築分が登記に反映されていないケースがままありますので、注意すべきです。

重要事項説明書に記載する建物面積は、何に基づく面積なのかを明示し、登記上の面積と実際の面積が異なる場合は、その旨と理由も記載しておくのが確実です。宅建業者としては、口頭で説明しておけば十分と考えず、事後のトラブルを防ぐためにも記録に残しておくことが大切です。

表記違い

マンション分譲のパンフレットに記載される面積は通常、壁の中心から計測する「壁芯(へきしん)面積」です。一方、登記上の面積は壁の内側から計測する「内法(うちのり)面積」です。このため、パンフレット記載の面積は、登記上の面積より大きくなることがほとんどです。

宅建業者としては、重要事項説明書に「登記上の面積」として分譲面積を記載していれば、仮に購入者から「説明書に記載されている面積(登記上の面積)と、パンフレットに記載されている面積が違う」などとクレームを受けても、説明義務違反には当たりません。しかし、買い主の誤解を招くことがないよう、口頭でも契約締結時に面積計測方法の違いや表示に違いが生じている理由などを十分に説明しておくと、トラブルを未然に防ぐことができます。

境界トラブル

売買する土地と隣地との境界に関する事柄は、不動産取引において極めて重要な要素になります。従って、仲介業者は境界調査を十分に行う必要があります。具体的には、「境界標」の有無の確認▽実測図など関係書面の有無の確認▽隣人との境界トラブルの有無▽境界に位置するブロック塀など工作物の所有者の確認などです。これらを怠ると、業者として失格です。こうした調査の過程では、もちろん、境界トラブルの有無などを当然把握している売り主からのヒアリングが欠かせません。

相続人

相続で土地を取得した人から依頼を受け、土地の売却先を探したところ、買い主が見つかって契約の締結に至ったものの、決済直前に「相続人の弟」を名乗る男性から「兄に代理署名をお願いした覚えはない」とクレームが入った場合は、どうしたらいいのでしょうか。

相続物件を売却する場合、相続登記を経てから実施するのが原則です。媒介契約を締結する際に、相続人全員に記名押印してもらう必要があります。全ての相続人から自筆で記名してもらい、押印については印鑑証明書もつけてもらうのが最も確実です。もし、誰かが代表して記名押印する場合は、残りの相続人から代表者に印鑑証明書付きの委任状を提出してもらいます。

買い主から上記のようなクレームを受けた場合は、相続の事情まで十分に確認しなかった仲介業者としての責任を問われても仕方がありません。契約自体も無効だと主張されても、言い訳は効かないでしょう。相続自体、もめることが多いわけですから、必然的に相続物件の売買もトラブルの火種をはらんでいることに注意すべきです。

建坪率

建坪率は、建築物の面積の敷地面積に対する割合(建築面積÷敷地面積)を言い、防火や住環境に配慮する目的で設けられた法的制限です。ただ、角地の場合は一定の条件の下、建坪率の制限が緩和されます。周囲を建物に囲まれた土地と比べ、住宅の密集具合という点で条件が異なるからです。角地を購入する人は、そうしたメリットを重要な判断要素と認識している可能性があります。

宅建業者は重要事項の一つとして、角地の建坪率緩和について、土地の購入希望者に正確に説明する義務があります。通常は緩和されますが、敷地が接する道路の幅員などの条件によっては、緩和が認められないケースもあります。このため、宅建業者は角地物件が建蔽率の緩和対象となるのかどうか、地元自治体の担当部署に確認する必要があります。

容積率

建坪率と同様、建築物の延床面積の敷地面積に対する割合(延床面積÷敷地面積)として算出される容積率も、土地を購入したい人にとって重要な判断要素となります。

容積率は、用途地域の種別などに応じ、都市計画で定められています。ただ、土地の前面にある道路の幅員が12メートル未満の場合、道路の幅員に所定の係数(「低減係数」又は「法定乗数」といいます)を乗じた数値を超えてはなりません。例えば「住居地域」で前面道路の幅員が3メートルの場合、制限割合は3×4/10×100=120パーセントとなります。指定容積率が200パーセントなら、この土地の容積率は120パーセントが適用されます。

宅建業者は土地の購入希望者に対し、道路による容積率の制限が法定容積率より厳しい場合は、そのことを説明しなければなりません。説明を怠ると、説明義務違反となる事項です。

【メモ】用途地域

都市計画法の地域地区の一つで、「住居系」「商業系」「工業系」といった市街地の土地利用を定めるもので、13種類がある。用途の混在を防ぐ目的で区分けされ、概ね5年に1度、全国一斉に地域指定が見直される。建物の用途や規模や高さなど制限に関する規定は、主に建築基準法に定められる。

建て替えの可否

建築当時は建築基準法などの法律の規定に適合して建てられていた建築物が、その後の法改正で建物の全部か一部が現行法に適合しなくなってしまうケースがあります。こうした建物を「既存不適格建築物」と呼びます。

既存不適格建築物は違反建築物ではないので、法改正後も建築時のままで継続して使用できます。ただし、この建築物を建て替え、新しい建築物を建てる場合は、現行法に適合したものでなければなりません。

従って、不動産取引の対象となる建物が「既存不適格建築物」である場合、宅建業者は購入希望者に当然その事実を説明しなければなりません。単に既存不適格建築物であるというだけでなく、どういった点で不適格になっているのかなどの具体的な説明が必要です。

高さ制限

購入する土地に高さのある建物を建てたいと考えている人にとって、「高さ制限の有無」は当然、重要な判断要素となります。高さ制限については、土地が所在する地域において「建築協定」が設けられている可能性があります。

この協定の有無も、もちろん、宅建業者が購入希望者に説明するべき事項となります。建築協定の存在を知らないまま土地を購入し、いざ賃貸マンションを建てようとした時に、建築業者から初めて協定の存在を聞いた、ということになっては、宅建業者として失格です。業者としては、土地が所在する市町村に事前に確認する必要がある基本事項と言えます。

都市計画道路

自治体が建設する「都市計画道路」の予定がかかっている土地であるかどうかも、土地取引において購入するか否かを決める際の重要な判断要素となり得ます。宅建業者にとって、土地の購入希望者に当然、説明義務が課される重要事項です。

都市計画道路は計画が実現することになった段階で、土地の収用という手続きに移り、通常は自治体に売却せざるを得なくなります。こうした将来の見通しを認識しないまま、土地を購入すると、買い主は思わぬ不利益を被る可能性があります。

宅建業者は、土地のどの部分が計画道路にかかり、面積はどの程度なのか自治体の都市計画課などの担当窓口で確認する必要があるのです。

【メモ】都市計画道路

自治体が決定する都市計画における道路。整備後は「道路法上の道路」として管理される。都市計画道路として決定された区域では、建物を建てる場合に許可を要する。2階建て以下で地階(床が地盤面下にある階)を有してはならず、主要構造部分は木造・鉄骨造・コンクリートブロック造かこれらに類する構造である必要があり、移転や除去が容易な建物でなければならない。また、この区域内の土地を有償で譲り渡す場合は、事前に都道府県知事か市長に届け出なければならず、自治体から買い取り希望の申し出があれば、協議に応じなければならない。

私道廃止

「私道の廃止」に関わる情報も、宅建業者が土地の購入希望者に説明すべき重要な事項となります。

不動産取引の対象となる土地に接する道路が私道だけの場合、この私道が廃止されると、この土地は建築基準法の「接道基準」を満たさなくなり、建物を建築することができなくなってしまいます。

このため、建築基準法は「特定行政庁は、私道の変更・廃止によって、その私道に接する敷地が接道基準に適合しなくなるような場合には、その私道の変更や廃止を禁止又は制限することができる」と定めています。建物を建てられない敷地が生じないよう、「私権」を制限しているのです。

取引する土地に接する私道が将来、廃止される可能性がないとしても、土地を購入する立場からすると、知っておくべき重要な情報となります。私道に関するルールは複雑な点もありますので、業者には丁寧な説明が求められます。

埋蔵文化財

文化財保護法に基づき、土地に建物を建てる場合に、事前に埋蔵文化財の発掘調査が必要な地域があります。こうした地域では、都道府県や市町村の教育委員会に問い合わせ、文化財の保護上、どういった手続きが必要なのかを確認しておく必要があります。調査の費用負担の問題もあります。

同法上の制限に関わる内容は、当然、重要事項として仲介業者に説明義務が課されます。買い主が発掘調査の必要な土地と知らずに購入し、建物を建てようとしたものの、発掘調査が不可欠なため予定通りの時期に建物を建てられないといったトラブルが発生した場合、説明しなかった業者の責任が問われます。業者としては、当然に把握し、購入希望者に事前に説明するべき事項です。

一部売却

土地の一部を売却し、売却資金で建物を建て替えたいという希望者もいます。こうした場合、相談を受けた仲介業者は、売り主からどの範囲の土地を売るのか、どんな建物を建てたいのかを聞き取り、容積率の計算をしておく必要があります。

売却する側からすると、土地の一部を売却して建物を建てるための資金として、どの程度の金額を得られるかに関心が行きがちです。しかし、容積率の決まりにより、土地の広さに対して建設できる建物の延べ床面積は上限が決まっています。建築資金は得られたのに、容積率を満たさないために希望通りの建物を建てられないとなれば、相談を受けた業者の責任も免れないでしょう。

接道要件

「接道要件」とは、建築基準法に基づき、建物の敷地が「建築基準法上の道路」に2メートル以上接していなければならないというルールです。災害時の避難経路の確保や、火災などの場合に消防車や救急車が通行できるようにすることが目的となっています。例えば、敷地が四角形の場合、どの辺でも一カ所でこの要件を満たしていれば、問題ありません。

また、敷地の路地状の部分のみが道路に接している土地を「路地状敷地」と言います。竿に旗をかけたような形状をしているため、「旗竿敷地」と呼ばれることもあります。この路地状敷地は、道路に接する部分が2メートル以上あっても、路地状部分の幅員が2メートル以上なければ、接道要件を満たしていることにはなりません。そうした要件を満たしていない土地に建物を建てることはできません。

こうした土地の場合、仲介業者は土地の購入希望者に「建築不可」と説明し、重要事項説明書にもそのように記載することになります。

セットバック

上述したように、建築基準法により、建築物の敷地は「建築基準法上の道路」に2メートル以上接していなければなりません。また、この「道路」は、幅が4メートル以上なくてはなりません。しかし、我が国の住宅密集地では、幅が4メートル未満の道が多数存在しており、同法が適用された際に既に建物が建っていた場合や、地域の首長の指定を受けた場合は「道路とみなす」という例外規定が同法42条2項にあります。

こうした道路は「2項道路」と呼ばれ、道路の中心から2メートル以内は建築ができないという「セットバック」という規制にかかります。従って、購入した土地がこの2項道路に面している場合は、建物を建てる範囲が限られることに注意が必要です。セットバック部分には、門や塀を設けることもできません。こうした規制について、仲介業者に説明義務があるのは当然ですし、住宅密集地の土地を購入する人も知っておいたほうがいい基礎知識です。

【メモ】セットバック

セットバックの意味は「後退」。建築基準法の制定前から存在していたため、幅が4メートル未満でも法律上の道路として例外的に認められる「2項道路」に接する土地に設けられたルールで、建物を建てる場合の制限がある。道路の反対側が宅地の場合は、道路の中心線から2メートル後退した位置にしか建物を建てられない。また、道路の反対側が崖や川、線路などの場合は、道路の端から4メートル後退した位置にしか建物を建てられない。

私道のみと接する土地

敷地に接する道路が「私道」しかない場合、この私道を通行したり、埋設された水道管への接続のために土地を掘削したりする際は、私道所有者の承諾を得る必要があります。後者の場合、私道所有者からの承諾を得る条件として「掘削承諾料」の支払いを求められるケースもあります。

私道しか接していない土地の場合、仲介業者は私道所有者にこうした点について十分に確認し、土地の購入希望者に正確に伝える義務があります。私道所有者の要求内容次第では、土地の購入を諦める人もいるでしょう。業者には、細かい点まで詰めた確認と、購入希望者への丁寧な説明が求められます。

ガス管整備

ガスは「都市ガス」と「プロパンガス」のように、複数の種類があるため、仲介業者は住宅の購入希望者にどういった種類のガスが引かれているのかを正確に説明しなければなりません。取引する不動産における「施設の整備状況」は当然、仲介業者にとって説明義務のある重要事項ですから、宅建業法は施設が整備されていない場合は整備見通しや特別負担に関して購入希望者に説明しなければならないと定めています。ガス管設備については「宅地内のガスの配管設備などの所有者が家庭用プロパンガス販売会社にあるとする場合には、その旨の説明をすること」などとしています。

ガスは日常生活に欠かせないインフラです。仲介業者が整備状況について正確に伝える義務を負うのは当然といえます。

特別負担

購入する不動産の設備上の整備について買い主に「特別な負担」が生じる場合も当然、仲介業者に説明義務が課されます。

例えば、建売住宅の水道引込工事費用や水道局納金は「特別の負担」と言えるのでしょうか。「建売の場合、直ちに入居が可能になる状態」で引き渡されるのが原則となりますから、引き渡す段階で水道引込工事は既に完了し、水道局への納金も済まされていなければなりません。つまり、こうした費用は、売買代金に当然含まれるべきもので、そもそも買い主の負担とはなり得ません。従って、特別な負担にもなり得ません。重要事項説明書に、こうした代金を「別途負担」として記載することも妥当ではありません。

隣人の水道管

地中のどの位置に水道管が通っているのかは、自治体の役場で備え付けの図面を閲覧すれば、確認できます。しかし、土地の境界線付近を通っている管の場合、隣地所有者の水道管が実はこちらが購入した土地の下を通過しているということもあり得ます。

土地の購入者が建物を建てる段階になって、建築業者が管の存在に気づくといった例もあります。仲介業者が、土地を売却する前に、売り主の承諾を得て当該土地の境界線付近を掘って確認しておけば、水道管の存在に気づく場合もあるでしょう。

購入した土地の地中から隣地の水道管が出てくるようなことがあれば、買い主は「仲介業者は事前に説明してくれなかった」と考え、クレーム内容になりかねません。業者が注意深く、あらかじめ確認しておくべき事項の一つと言えます。

水道管工事料

国土交通省の重要事項説明書標準様式には、購入した不動産で「直ちに利用可能な施設」について記載するルールが定められています。この「直ちに利用可能な施設」は、「前面道路に施設管が埋設されており、いつでも施設内に取り出せる状態にあるもの」も含むとしていますが、前面道路に水道管が埋設されていない土地はこれに該当しないため、説明書に記載する必要はありません。

しかし、将来、土地に建物を建てたいと考えている購入希望者にとって水道管の状況は知っておきたい事柄でしょう。仲介業者としては、現在は水道管が引かれていないことだけでなく、水道管の引き込みはそれなりの費用がかかることや、公道から私道を通して引き込む必要のある場所なら私道所有者から掘削承諾を得る必要も生じうることまで説明しておけば、後々のトラブルを回避できるでしょう。

耐震診断

平成17年に発覚した「耐震偽装問題」を受け、宅建業法は重要説明事項に「耐震診断の内容」を加えました。売買取引の対象となる建物が耐震診断を実施しているかどうかについて調べ、その診断結果記録が保存されている場合はその内容について説明する義務が課せられます。

ただし、調査対象となる建物は、昭和56年6月以前に建築された築年数の古い「旧耐震設計基準」で建てられた建物です。従って、それより後に建築された建物に調査義務はありませんので、説明義務が生じることもありません。

まだ、耐震診断がされていない物件の場合は、強度に問題があるかどうかは分かりませんので、仲介業者は購入希望者にそのように説明します。ただし、「建物の安全性」について質問を受けた場合は、容易に「大丈夫です」と答えない方が無難です。

築年数が浅くても(新耐震設計基準に基づいて建てられた場合でも)、手抜き工事や施工ミスなどで安全性が欠けている可能性は否定できません。もし「地震に対する強度は安全かどうか」と聞かれた場合は「耐震診断がされていないので、建築の専門家ではない自分は断言できない」と正直に伝えるべきでしょう。

地中の廃材

仲介業者が、土地の買い主から「地中に建物の廃材が埋められていることが分かった」とクレームを受けた場合、どのように対応することになるでしょうか。

建物の敷地の地中に廃材が埋まっている場合、地盤は不安定になり得ますから、不等沈下のような現象が起こる場合があります。このため、廃材の存在は売買対象物の重大な欠陥となる可能性があり、買い主が事前に知り得なかった場合は「隠れた瑕疵」となり得ます。

隠れた瑕疵について、仲介業者が責任を負うことはありません。一方で、売り主は廃材の存在を知らなかったとしても瑕疵担保責任が生じますから、買い主は売り主に損害賠償を請求できます。もし、売り主が建物の解体を依頼した業者が、無断で地中に廃材を埋めていたとしたら、売り主は解体業者に損害賠償を請求できます。

雨漏り

中古住宅の売り主からの申告に基づき、購入希望者に「取引物件に雨漏りする箇所はない」と説明していたのに、実際に住宅に住み始めた買い主から「雨漏りしている」とクレームがあった場合、仲介業者は責任を問われるでしょうか。

仲介業者は雨漏りなどの物理的瑕疵を徹底して調べる義務まではありませんが、目視確認程度の義務は課せられていると考えられます。売買物件の屋内を慎重に目視すれば、天井の水染みなどの存在に気づくこともあるでしょう。そうした調査を怠っていた場合は、仲介業者が責任を問われるケースもあります。このレベルの欠陥の場合は「売り主に雨漏りはないとウソをつかれた」と業者が買い主に言い訳しても、納得されません。不動産取引のプロである以上、厳密な調査までする必要がないとしても、目視で分かる範囲なら物理的瑕疵を見抜かなければなりません。

日照と眺望

日照と眺望もまた住宅の買い主にとって、購入の是非を決める重要な判断材料となります。住宅の売却時に日照や眺望が確保されていても、買い主が住み始めて間もなくして南側にマンションが建つなどして日当たりも眺めも悪くなってしまったとしたら、買い主は「話が違う」と憤るでしょう。仲介業者が売買契約の締結前に日当たりや眺めの良さを強調して説明していたとしたら、買い主は裏切られた気分になるでしょうし、「虚偽説明だ」と抗議されるかもしれません。

こうした場合を想定し、業者は契約前の説明で日照や眺望が今後、変わりうるものであることに触れておいたほうが無難です。もし、近い将来、南隣に高層建築物が建つことを業者が知っていた場合はもちろん、それを説明しないのは不誠実です。そうした建設予定はないとしても、南隣に空き地があり、新たに高層建築物が建つ余地がある場合はそうした「可能性」について購入希望者に説明しておく必要があるでしょう。

越境物

取引対象の土地と隣地の間に越境物がある場合、トラブルの元になることがあります。例えば、建物の庇(ひさし)や敷地内の樹木などが越境している場合、仲介業者は隣人と話し合い、解決しておく必要があります。通常、不動産を購入する場合は敷地内を見て回るでしょうから、越境物があればその時点で気づくはずです。

一方で、擁壁の基礎の一部分が地中で越境している場合もあり、見えない越境物の存在にも注意が必要です。少なくとも、不動産取引を行う際に、売り主や隣人から越境物や境界を巡るトラブルはないか事前に確認しておく必要があるでしょう。地上の越境物について、物件所有者と隣人との間で何らかの「念書」の存在がある場合もあります。

悪臭

仲介業者が、新築建売住宅の購入者から「風の強い日は、少し離れた場所にある養豚舎から悪臭が流れてくる。契約前に説明がなかった」とクレームを受けたとしましょう。悪臭は、業者が購入希望者に事前に説明すべき重要事項に該当します。

売買対象物の欠陥は目に見て分かるものとそうでないものがありますが、天候に左右される欠陥もあります。風の強い日にだけ遠くから流れてくる悪臭は常時感じられるとは限らず、業者も容易に気づかない場合もあるでしょう。

しかし、悪臭は、煙、振動、騒音などと同様に、物件を購入するか否か判断する際に大きな影響を及ぼす環境的欠陥となります。業者は取引する物件にこうしたマイナス要因がないか十分に調べ、購入希望者に説明する義務を課されています。

悪臭を発する施設から物件までの距離がどの程度あるかによって、説明義務に当たるかどうかが法律上決められているわけではありません。日ごろから、さまざまな気象条件での物件の状況を把握しておく必要があります。

隠れ井戸

古い時代から人が住んできた土地の場合、敷地内に井戸跡が残っている場合があります。買い主が購入した旧家の建物を解体し、新しい家を建てようとしたところ、敷地内から井戸が見つかったとします。買い主が仲介業者に「契約前に説明がなかったので、埋め立て費用を負担してほしい」と要求してくるかもしれません。

こうした場合、業者が敷地内に井戸があることを知らなければ、責任を負うことはありません。旧家の場合、雑草や竹やぶの中にひっそりと井戸が残されていることもあり得ます。売り主も「昔は井戸があったと聞いたことがあるが、残っているとは思わなかった」という程度の認識しかない場合もあるでしょう。

買い主の立場になれば、井戸の跡に落ちて危険な目に遭うことも考え、埋め立てたいと考えるでしょう。業者は特に旧家の場合、建物の下や敷地内に井戸が存在するか確認し、重要事項説明書に明記しておく必要があるでしょう。

ゴミ集積所

マンションのような集合住宅は通常、ゴミの集積所が決まっているからいいのですが、一戸建ての住宅が建ち並ぶ地域では、公平性の観点から集積所の位置を定期的に移す運用をしている場合があります。

こうしたケースでも、仲介業者はゴミ集積所の位置の移動について購入希望者に説明すべきです。ゴミ捨ては日常生活に欠かせない行為であり、集積所は悪臭の原因ともなるからです。カラスが集まるような場所なら、鳴き声を嫌う人もいるでしょう。

もし、住宅購入者から「近くにゴミ集積所が定期的に来るのを知っていたら、この物件を購入しなかった」とクレームを受けた場合、トラブルになりかねません。業者は、取引する不動産に関して、ゴミ捨て場所や地域のルールなどを確認し、購入希望者に説明しておいた方が無難です。売り主や近隣住人に聞けば、容易に把握できる情報です。

浸水歴

今般は異常気象の影響で思わぬ災害が発生することがあります。不動産取引を仲介した物件が豪雨による浸水に遭ったような場合、業者が買い主から「過去にも一度この地域で浸水被害があったと聞いた。契約前に説明してくれていたら、購入しなかった」とクレームを受ける場合があるかもしれません。

予想しがたい異常気象に伴う被害は、業者の媒介責任や売り主の瑕疵担保責任に直結はしません。頻繁に水害が起きる土地なら事前説明がいるでしょうが、過去に一度あった程度の災害まで業者や売り主に責任を負わせるのは酷だからです。

とはいえ、自然災害による住宅の浸水は、生活に支障を生じさせる深刻な被害となり得ます。場合によっては、人命に関わる被害にもなりかねません。業者は、過去の災害歴や地域の防災マップなどを確認し、できる限りの情報を購入希望者に伝えるべきでしょう。

軟弱地盤

仲介業者が土地の購入者から「家を建てようと思ったら、依頼した建築業者から『軟弱地盤なので、杭を深く打ち込んで構造物を支える特別な工法を用いる必要がある』と言われ、予想外の費用を支出することになった」とクレームを受けたとします。業者は責任を問われるのでしょうか。

こうしたケースでは、業者が軟弱地盤だと知っていた場合を除き、地盤の調査義務まではありませんから、原則として責任を問われることはありません。ただ、後々のトラブルを回避するためにも、契約前に「地盤の強度調査は行われていない」という事実自体は購入希望者に伝えておく必要があるでしょう。

火災歴

仲介する中古住宅で、数年前に死者が発生した火災が起きていたとしたら、その事実は購入希望者に説明すべき重要事項です。火災の痕跡が分からないようリフォームされていたとしても、火災事故で死者が出たという過去の事実自体が購入希望者の判断に影響を与え得るからです。

もし、業者が購入希望者に対し、過去に火災が起きたことは説明していても、死者の発生は伝えていなかったとしましょう。死亡火災の事実を知りながら、「死亡」の方を敢えて伝えていなかったとしたら、「虚偽説明」さらには「隠蔽」となってしまいます。死亡火災は、近隣の人の記憶にも残りますから、よほど古い話でなければ、物件購入者が早晩、耳にする可能性があります。そう考えれば、事前に隠さず、説明しておくべき情報だと言えます。物件購入者から「人が死んでいることを知っていたら、購入しなかった」と言われ、トラブルに発展する可能性があります。

ただ、業者としてもそこまでの情報を知らなかったというケースもあるでしょう。物件の売り主が故意に業者に伝えない場合もあると考えられます。しかし、業者の側から、わざわざ「この家は、過去に死亡火災が起きていたりしませんか」と聞くのも不自然ですし、売り主に失礼になるかもしれません。業者としては、売り主に記入してもらう「物件状況告知書」に最初から「物件内や近隣での事故や事件などの有無」の項目を設けておき、売り主が「有」としたら、死者の有無を含め、詳細を聞き取るという方法があります。

自殺物件

仲介業者が中古住宅の購入者から「過去に住宅内で自殺した人がいた、と近所の人から聞いた。知っていれば、購入しなかった」とクレームを受けたとしましょう。業者がその事実を売り主から知らされていなかった場合、責任を問われるのでしょうか。

こうした事故物件は、個人間取引の対象とならず、業者がいったん引き取って一定期間、駐車場などとして使用した後に売却するケースも多くみられます。業者間で転売に転売を重ね、「ロンダリング」される場合もあります。

転売を重ねた上で、「自殺」の事実を知らない業者が、個人顧客に住宅を売却するような場合もあるでしょう。こうした場合、「不知」だった業者は責任を問われません。自殺の事実という「隠れた瑕疵」を発見した買い主は、自殺の事実を知りながら売却した業者に対し、瑕疵担保責任を追及することになります。「悪意」の業者は、「事実の不告知」を禁じた宅建業法47条に違反したとして、罰則を受ける可能性が生じます。

また、自殺があった中古物件を取り壊した上で、敷地上に新たな住宅を建て、売却するような場合もあるでしょう。この「旧建物」で自殺があったことを購入希望者に説明すべきかどうかは、自殺があった時期(古いか新しいか)や状況など諸々の事情を勘案します。判例では、自殺があった建物が既にない場合は「隠れた瑕疵に当たらない」と判断している事例も多いですが、自殺の時期が直近で、凄惨な亡くなり方をしていたとしたら、購入希望者の心理的な障壁となり得ます。報道機関にニュースとして取り上げられるような「集団自殺」があったとしたら、古い時期のことあっても、「瑕疵」と判断されることがあるでしょう。近隣の人々の記憶に残るような出来事であれば、購入希望者に説明しておいた方が無難です。

暴力団事務所

仲介業者が売り出している建物の向かい側や隣接した場所に暴力団事務所があることを知りながら、購入希望者に説明をしなかった場合、重要事項の説明義務違反になります。暴力団の抗争事件などが発生すると、身に危険が及ぶ可能性があり、購入希望者にとって「心理的欠陥」となるからです。しかし、業者が知らなかった場合は義務違反に問われることはありません。

もちろん、売り主が知りながら仲介業者に伝えていなかった場合は、買い主に対して瑕疵担保責任を負うことになります。雨漏りなど建物の修繕程度で済む話ではありませんので、買い主とすれば「お金で済む問題」ではない瑕疵といえます。

売買契約後のトラブルにならないためにも、仲介業者としては暴力団事務所が物件の近隣にあることを知った場合のみならず、通勤ルートや通学路にある場合も購入希望者に説明しておいた方が無難です。ただし、暴力団事務所は外観で見ただけでは分からないことが多く、仲介業者に積極的な調査義務までは課されないと考えられます。

滞納管理費

仲介業者が売り出している中古マンションの前住人が管理費や修繕積立金などを滞納していた場合、その支払いを確認しておくことも重要です。前住人が口約束で未払い分の支払いを明言していても、支払われない状態のままで購入希望者と売買契約を結び、物件の引き渡しを完了してしまったとしたら、マンションの管理組合が新住人に支払いを求めてくる可能性があります。

そうなると、買い主が仲介業者の責任を追及してくる可能性もあります。この際、前住人と連絡が取れなくなっていたら、前住人に対して求償することも不可能になります。こうしたトラブルが生じないよう、事前にリスクの芽は摘んでおきましょう。

ペット飼育

マンションのような集合住宅の場合、ペットの飼育が可能かどうかを管理組合の規約で定めていることが通常です。仲介業者としては、規約の内容を十分に理解し、顧客に説明しておく必要があります。

ペット飼育禁止のルールがあるのに、こっそりとペットを飼っている住人がいる集合住宅を見かけることがあります。だからといって、仲介業者が「こっそりとペットを飼っている人もいるので、規約に反しても問題ありません」と顧客に説明するのはもちろん言語道断です。

世の中には自身がペット好きで、他人のペットの存在も気にならない人もいるでしょうが、生活の中で他人のペットの臭いや鳴き声に拒絶感を示す人も少なくありません。マンションでのトラブルでも、ペット飼育は深刻な問題に発展することも多いですから、業者には顧客に対する正確で丁寧な説明が求められます。

床工事

近年はマンションでも、じゅうたん部屋よりフローリング部屋が増えていますが、畳部屋より騒音が伝わりやすいとして敬遠する人もいます。また、ぜんそく持ちの家族がいる購入希望者の場合、じゅうたんや畳の部屋だと、ほこりがたまりやすいとして、フローリングへの張り替え工事を求めるケースもあるでしょう。こうしたケースで床工事を施したい場合、隣の部屋や上下の部屋の住人に工事の許可を得る必要があると定める規約もあります。

仲介業者としても、事前に購入希望者の意向を踏まえ、床工事のルールなどを十分に確認し、あらかじめ工事が可能かどうかを調べ、購入希望者に説明しておく必要があります。部屋を購入したにもかかわらず、床工事ができないとなれば、責任を問われる可能性もあります。

他の説明義務違反

一定の義務

売り主が義務付けられた一定の行為を履行せずに生じた損害については、売り主に賠償義務が生じます。判例は、売買契約の特約に「建物の給排水設備及び電気設備の故障並びに雨漏りに関して、不動産の引き渡し後2年の期間に限り、修復の責任を負う」と付されていたケースで、キッチン部分の漏水を原因とする修復費用を損害と認定しています。また、別の判例は、ボルト類が不足していた建物を補修して売却しなかったとされる事案で、修補費用のみならず仮住まい費用や瑕疵の調査費用も損害として肯定しています。

他にも、新築マンションについて「瑕疵のない建物を引き渡す」旨の義務違反があった事例で、内装や建具、家財道具などの修補費用や、修理に伴う「逸失賃料」を損害として肯定した判例があります。さらに、地盤の不等沈下があり「瑕疵のない建売住宅を引き渡す義務」に違反したとされる事案の判例は住宅の取り壊しや地盤改良、新規建築に関する工事代金や一級建築士の調査鑑定費用、建て替えの間の借賃、宿替え費用、登記費用を損害として肯定しています。

原野商法

価値が低い原野などについて「値上りが見込まれる」と偽り、不当な高額で売りつける行為を「原野商法」と言います。この商法は、そもそも民法の公序良俗違反だとして売買契約自体が無効となる場合と、売買契約は有効としながら売り主の行為を「不法行為」として損害賠償責任を問う場合があります。

前者の場合、買い主は支払済みの売買代金の返還を求めることができます。判例は、取引対象の土地に利用可能性や換金性がなく無価値と評価される場合であっても、売買代金を損害と認定しています。後者の場合は、土地にある程度の価値がある場合は、売買代金から時価相当額を差し引いた額が損害となります。判例は、宅建業法のクーリングオフの権利が行使された事例で、支払済みの手付金と登記費用を損害として認めています。

【メモ】原野商法

悪質な不動産業者が山奥の原野のような無価値に等しい土地について、何らかの理由を示して確実に値上がりすると偽り、高額で売りつける商法。実際に購入してしまった人が転売できずに困っているのにつけ込み、更に「買い主を探してあげる」と偽って測量費や広告費、登記料などをだまし取る「2次被害」に遭うケースもある。主に1960~80年代が全盛期だったが、近年も特に2次被害が続いている。土地の購入を持ちかけてきた業者が「将来、必ず値上がりする」「道路や駅、ゴルフ場ができる」「開発予定がある」といったセールストークが常套句で、用意されたパンフレットなどが精緻な場合もあるため、注意する必要がある。

眺望阻害

ある裁判例は、取引物件となった建物の周辺でその眺望を妨げる建物を建てた売り主の義務違反を肯定しています。具体的には、「隅田川の花火」が見られる眺望が損なわれた事案で、建物の売買代金約3000万円に対し、60万円の慰謝料を肯定しました。また、マンション高層階からの眺望が妨げられた事案で、建物の売買代金約3000万円に対し、複数の買い主に40~80万円程度(階数で異なる)の慰謝料を認定した裁判例があります。他に、リゾートマンションからの眺望が損なわれた事案で売買代金約5000万円に対して約700万円の慰謝料が、見渡せた港が見えなくなった事案で売買代金約3000万円に対して250万円の財産的損害が認定された例があります。

錯誤

売買代金が支払われたのに、売買契約が錯誤無効だった場合、売り主は買い主に受領した売買代金や手付金を返還する義務があります。ある裁判例では、代金の返還義務と不動産物件の返還義務との関係について「売買契約が無効又は取消された場合には、公平の観点から、各給付の返還義務相互の間に同時履行を認めるべきである」としています。そして、このケースでは、返還すべき不動産物件に賃借人が居住していたことから、裁判所は「建物を明け渡すために、動産を撤去し、無人の状態にすることが必要となるので、賃借人が居住する場合には、その退去が必要となるから、これらが含まれることは当然」としつつ、居室の模様替えや改装等が行われている場合の原状回復の問題は当事者間で解決するのが妥当として同時履行に含めませんでした。一方で、所有権保存登記の抹消登記手続きとは「同時履行の関係にある」と認定しました。

交渉破棄

不動産を売却する予定だった人が、契約締結前に交渉を破棄した場合の「賠償すべき損害」は、購入予定者が契約の成立を信じたことで支出した金銭となります。具体的には、購入費に充てるために借り入れた資金の利息相当額、資金の借り入れ手続きに要した印紙代、司法書士に依頼した登記手数料などで、裁判例でもこうした項目を損害として認定しています。

利息相当額が損害となるか否かについて、ある裁判例は「(購入希望者が)1億8000万円という極めて高額の取引をするに当たっては、その資金を金融機関からの融資に依存するのが通常予想されるところであり、取引が不成立に終わった場合にはこの融資を受けるに際しての利息の支払等諸費用の出捐は無益に帰することが明らか」として、交渉破棄伴う損害に当たると認定しています。

また、ノンバンクから借り入れる際の取扱手数料を損害とした裁判例もありますし、物件の購入予定者が交渉破棄前に転売していた事案で購入予定者が転売契約で手付金を倍返しして契約を解除できたのにしなかったとして、転売先に支払った違約金のうち手付金の倍額相当額を損害として肯定した裁判例もあります。

賠償額

賠償範囲

売り主が説明義務に違反し、それが原因で買い主が損害を被ると、売り主は買い主に対して損害賠償義務を負います。債務不履行による損害賠償は「履行利益」の賠償とされますが、売り主の説明義務違反は、売り主の本来的債務の不履行ではなく、契約締結に至るプロセスでの義務違反であり、契約締結上の過失の一場面という法的性格を持ちます。このため、判例は売り主の説明義務違反による損害賠償の範囲を「信頼利益」としています。

損害項目

売り主の説明義務違反により、「売買代金」と「適正な説明がなされた場合に想定される交換価値(減価要因を考慮した適正価格)」との間に差異が生じる場合、差額(減価分)が説明義務違反による損害となります。

説明義務違反に伴い、目的物の減価分が損害とされた裁判例には、隣人の迷惑行為▽接道条件▽地中埋設物の存在▽土壌汚染▽火災死傷事故が起きた現場だったこと▽都市計画道路区域内だったこと▽土地の一部が都市計画に基づく道路敷地だったこと▽自殺があった現場だったこと――などがあります。損害額は売買代金の一定割合として認定したケースが多くある一方で、具体的な金額が直接示された例もあります。

もっとも、目的物の減価分が損害になると言っても、説明義務違反と減価との因果関係は個々の要因で異なります。諸々の事情を踏まえ、損害額が大幅減額されたり、損害自体がなくなったりしたケースがないわけではありません。

売り主の説明を受けなかったことが原因で、建物に補修工事が必要となり、工事費分の損害賠償が肯定された裁判例として、強度不足▽土壌浄化▽地中埋設物の除去――などのケースがあります。また、雨漏りが原因で、マンションが単なる簡易宿泊施設としてしか利用できないとして、賃料相当額の損害賠償を肯定した裁判例もあります。

他にも、接道条件に関する説明義務違反があり、借入金の利息相当額を損害として肯定した▽土地の一部が都市計画道路区域にあることの説明義務違反の事案で、不動産鑑定費用の半額を損害として肯定した▽土地区画整理事業における組合総会決議に基づく賦課金に関する説明義務違反の事案で、買い主が支払いを余儀なくされた賦課金相当額を損害として肯定した▽銭湯の煙に関する説明義務違反の事案で、引越費用や車庫代、移転通知義務などを損害として肯定した――といった裁判例があります。

また、契約不履行によって没収されることになった手付金を損害とした裁判例や、水没する可能性の高い土地の売買について河川法の説明義務違反により、支払い済みの手付金を損害とした裁判例もあります。

民事訴訟法は「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難である時は、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる」と定めています。ある裁判例では、防火戸の電源スイッチの位置や操作方法などに関する説明義務違反の損害について、「火災が発生した際、防火戸のスイッチが切られたままの状態で引き渡されていたため防火戸が作動せず、本件南側区画にまで熱気、濃煙が拡散し、焼損、変色、濃煙等の付着により損害が拡大したことが認められ、拡大した損害について賠償責任がある」としながら、「内部の現場の状況に基づき、その具体的な範囲及び程度等を確定することができないため、具体的な金額を確定することが困難であるから、民事訴訟に基づき、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定する」として、賠償額を算定しています。別の裁判例は、建築制限に関する説明義務違反で、工期の延長による金利負担増と引き渡し遅延により得られるはずの賃料を得られなかった分の双方について損害であることを否定しています。

解除と賠償

売り主の説明義務違反が原因で売買契約が解除になった場合、買い主が売り主に既に代金や手付金を支払っていれば、売り主に代金や手付金に相当する額の返還義務が生じます。売買代金や手付金に相当する額の支払いは、取引した不動産物件の引き渡しや抹消登記と同時履行の関係にあります。

売買契約書には、売り主に債務不履行があった場合の違約金の支払い義務が盛り込まれるのが一般的です。そして、説明義務違反があれば、違約金の支払い義務が肯定されます。ただ、契約が解除されても違約金の支払いまでは認められないとした裁判例もあります。

また、取引対象の建物からの眺望について、買い主への虚偽説明があったと認定された事例では、契約解除に伴って売り主に手付金の返還義務は生じるものの、売り主が契約上の債務履行を怠った場合には当たらないとして、違約金の支払いは否定されています。

契約解除により、売り主と買い主は、契約が存在しなかった状態に戻す原状回復義務を負います。契約書作成の印紙代や所有権移転登記の手続費用、契約成立のための仲介手数料、引越費用・入居費用、保険料、固定資産税などは、契約を締結していなければ支払うことのなかった費用として損害となります。ある裁判例は、買い主が借り入れた資金の金利も損害と認定しています。また、新築マンションの売買契約が解除された場合のオプション工事代金が損害として認められたケースもあります。

借家人の住む建物を購入した場合の敷金の返還

借家人の住む建物を買ったら敷金の返還を請求された→賃貸人の地位を引き継ぐので敷金も返還しなければならない
私はアパートで暮らしてきましたが、1年ほど前に格安の中古住宅を購入しました。その家には借家人Bが住んでいましたが、私と売主AとBの三者で話し合いがついて、借家契約満了日の1年後にBが退去して私に家を明け渡してくれることになっていました。
先日、借家契約の満了後1年が経過し、Bは約束通り家を明け渡してくれました。しかし、その時Bが「前の家主に敷金100万円を差し入れているので、返してほしい」と請求してきました。受け取ってもいない敷金を私が返還しなければならないのでしょうか。

不動産物件の所有者が替わっても、その不動産に賃借人がいる場合、賃貸人の地位はそのまま新所有者に移転するのが原則です。そのほうが借主にとても都合がよいからです。したがって、あなたも、家を買い取った時点から借家人Bに対する賃貸人になります。
そこで、借家人が前の家主に差し入れた敷金が問題になります。敷金返還のギムハ原則として新しい家主に引き継がれます。これは、賃貸人の地位は新しい家主にそのまま引き継がれることと、新所有者(家主)が敷金返還の負担を負うほうが借家人にとっても都合がよいことなどの理由によります。
あなたの場合も敷金100万円をBに返還する義務があります。ただ、敷金は延滞賃料や物件の破損を填補する(補う)ものなので、これらの事実があれば、その分は差し引いて返還します。あなたとしては、三者で話し合った時にAの預かっている敷金を受け取っておくか、またはAがBに返還する旨の特約をしておくべきでした。
なお、あなたがBに対して返還した敷金相当額は、Aに対して全額返還を請求できます。

2020-03-18 17:32 [Posted by]:BMB