確認事項

仲介業者の「善管注意」の具体的内容としては、売り主や買い主など取引関係者が本人に間違いないか(「本人確認」又は「人の同一性」)▽売り主に不動産を処分する権限があるか▽代理人による売買の場合、代理人に代理権限があるか▽登記にどのような記録があるか、といった事項を確認・調査しなければなりません。売り主本人に買い主の本人確認に関する不注意があれば、「過失相殺」の問題が生じ得ます。
重要事項の説明義務を定める宅建業法35条との関係では、本人確認▽処分権限▽代理権の確認や調査は、前提事項です。また、登記記録は説明事項です。仲介業者が、上記のような事項について確認・調査を怠った場合、買い主などに発生した損害を賠償する責任が生じます。

なお、犯罪収益移転防止法は宅建業者を「特定事業者」としており、不動産売買契約を締結する際は本人確認、本人確認記録の作成、保管などの義務を課しています。
売り主や買い主など取引関係者が本人に間違いないかどうかの確認は非常に重要です。運転免許証などの証明書類で確認するのはもちろん、当事者が記載した書類内容から、関係者の自宅や勤務先に赴いたり、電話したりして不審な点はないか、本人で相違ないかを確認します。調査を怠り、買い主が損害を受けるようなことがあれば、宅建業者は買い主に対する損害賠償責任を負います。
実際に本人確認を怠ったことで、業者の損害賠償責任を肯定した裁判例があり、このケースでは、被用者と代表者個人の双方の責任を認定しています。売り主と買い主の双方に仲介業者が付いた不動産取引で、実は売り主が「替え玉」だったケースで、売り主側業者の責任を肯定し、買い主側業者の責任を否定した裁判例があります。

不動産を売却する人は、当然、当該不動産を処分する権限がなければなりません。しかし、処分権限がないのに権限があると装う人もいます。仲介業者には、売り主に処分権限があるかどうかを調査する義務があり、買い主が売り主に処分権限があると誤信して不動産を購入してしまった場合、買い主が被った損害について業者に賠償義務が生じます。実際、仲介業者が売り主の処分権限の調査を怠ったために、賠償責任を肯定された裁判例があります。

代理人が本人に代わって売買契約を締結する場合、民法に基づき、代理人に「代理権限」がなければ、契約は本人にとって無効です。このため、仲介業者は、代理人が売買契約を結ぶ場合は代理人に代理権があるかどうかと代理権の範囲を確認する必要があります。実際に、仲介業者が代理人の権限の調査を怠ったために、賠償責任を肯定された裁判例があります。
不動産の登記内容が売り主以外の名義になっていたり、抵当権や仮登記が付いていたりすると、購入した買い主が所有権を制限される可能性があります。仲介業者は買い主に想定外の損害を与えないよう、契約前に登記記録の有無と内容を調査し、その結果を購入検討者に説明する義務があります。実際に登記記録の調査確認を怠った仲介業者の賠償責任が肯定された裁判例もあり、登記簿だけでなく競売手続きの執行記録の確認も求めた裁判例や、登記内容に疑念がある場合はより詳しい調査をすべきと要求した裁判例もあります。

建物

柱、梁、床、壁など建物を支える構造部材を「躯体」と言います。こうした部分は、建物の外観や内観として容易に実見できます。仲介業者はこの躯体について視覚的に認識できる範囲で、あるいは売り主からヒアリングできる範囲で、瑕疵の有無を把握し、買い主に説明する義務を負います。実際に躯体に関する説明義務を怠ったとして賠償責任を肯定した裁判例があります。
平成18年に施行された宅建業法施行規則に基づき、以後の不動産取引は旧耐震基準により建てられた建物が耐震診断を受けた場合は、仲介業者はその事実を重要事項として説明することになっています。施行前の取引に関しては、判例が「(業者が)重要事項説明書において説明することを求められていない耐震性について説明をしていないからといって、そのこと自体で債務不履行があるとはいえない」としています。
また、中古住宅が雨漏りすることを認識しながら、仲介業者が契約前に説明しなかった場合は当然、説明義務違反となります。雨漏りの被害を疑わせるような事情があり、業者が若干の注意を払って必要な調査をしていれば、雨漏りを発見できたと認定できる場合も、調査及び説明義務違反による賠償責任を負います。逆に、物件の内観から雨漏りの被害を疑わせるような事情がない場合は、調査義務は生じません。将来的に雨漏りするおそれがあるかどうかという点についても業者に調査義務はありません。

購入した建物にシロアリやコウモリなどの迷惑生物が棲みついていたとして、買い主が仲介業者の説明義務違反を追及した裁判例もあります。迷惑生物が棲みついていると知っていれば、物件を購入しなかったという買い主の気持ちは十分に理解できます。こうした裁判では、業者が外観や内観、売り主からのヒアリングで迷惑生物の存在を知り得たかが争点となりますが、否定されるケースが多いようです。
不等沈下も顧客に説明すべき重要事項です。建物の地盤が軟弱なため、一部が沈み込むような現象を言います。建物が傾けば、購入者の生活に大きな支障が出ます。このまま建物が沈み込んでいってしまうのではないかと不安に駆られるのも当然です。実際の裁判例でも、不等沈下を巡って仲介業者が説明義務違反を問われたケースがあり、肯定例と否定例があります。

仲介業者は建物の設備についても瑕疵の有無を調査し、買い主に説明する義務を負います。ただ、その範囲は通常の注意義務を尽くせば認識できる程度にとどまります。具体的には、防火扉や浄化槽、飲用水供給用の加圧ポンプといった設備の瑕疵が争われた裁判例があります。

中古建物の中には、建蔽率など法令上の制限に違反している建物があり、「違法建築物」とか「違反建築物」と呼ばれます。このような建築物であることも当然、重要事項に当たり、説明義務が裁判の争点となることがあります。ある裁判例は「建蔽率規制に違反している事実自体を説明しなくても、規制に違反する数値そのものを説明していれば、説明義務違反に当たらない」と判断しています。別の裁判例は、屋内消火栓の不設置という消防法違反の事実があったケースについて、仲介業者には消防署に問い合わせる等の積極的な調査義務があったとは言えないと判断しています。

その他の説明事項としては、隣人から迷惑行為を受ける可能性が高いこと▽隣接地における建物の建設予定(日照状況の変化見通し)▽以前、風俗営業に使用されていた部屋であること▽売り主の管理費滞納(マンションの管理組合が買い主に請求してくる可能性がある)▽購入を検討している賃貸マンションを暴力団が賃借していること▽敷金の状況などがあります。

土地の強度

土地の購入は通常、建物を建てることを目的とします。そして、購入検討者にとって重要なのは、建物を建てる土地としてふさわしい強度や形状を備えているかという点です。
例えば、売却する土地の大半が傾斜地であることを知る仲介業者がその事実を購入検討者に説明していなければ、説明義務違反となります。一方で、土地が面する崖に「崖崩れ」の具体的な危険が存在していないのであれば、その可能性を説明しなくても説明義務違反に当たりません。

境界・通行

土地の購入検討者にとって、隣地との境界が確定しているかどうかや、公道に接しない土地なら私道の通行が可能かどうか(通行承諾書などの有無含む)などは土地の利用価値に関わる重要な要素となり、仲介業者に説明義務があります。実際に、境界や私道通行に関し、仲介業者の調査説明義務違反を肯定した裁判例があります。個々のケースによって、業者が求められるレベルは異なりますが、土地を利用するに当たって最も重要な基本事項ですから、業者に正確な調査や丁寧な説明が要求されることは当然です。

また、同じ地主から土地を借りている者同士が境界を確定したい場合、隣人と地主との三者間での話し合いが必要となります。元々、境界確定は地主との間で交わした借地契約や、地主と隣人との間で交わされた借地契約で明確になっているはずの内容です。しかし、それが明確でない場合は、地主と隣人との話し合いで全員が合意した時点で境界線を引きます。つまり、地主との間で合意が得られただけでは隣人に効力を主張できませんし、隣人との間で合意が得られただけでは地主に効力を主張できないのです。
他にトラブルとなり得るケースとして、境界の土留工事の費用負担があります。例えば、購入した分譲地の隣地がより高い位置にある分譲地で、暴風雨などが発生した場合に隣地から土砂が崩れてくるおそれがある場合は、境界に土留工事を施す必要があります。そうした場合の費用負担は二つの考え方があるでしょう。一つは民法の「相隣関係」に関する規定に基づき、隣人と2分の1ずつ負担するという方法です。双方が利益を得るという立場から、費用を等分するのです。一方で、危険性をはらんでいる側が責任を負うべきという考え方から、土地が高い隣人の負担とするという方法もあります。隣人は当然、費用分担を望むでしょうが、早めの段階で分譲業者に相談してうまく交渉してもらっておくことが肝要です。

そもそも、購入した所有地と隣地との境界線を明確にするには、まず境界を確定する必要があります。その上で、視覚的に境界線をはっきりさせるために、境界標を設置するとより安心です。
民法は「隣り合った土地の所有者は、共同の費用で境界標を設置できる」と定め、費用は折半するのが原則です。ただ、双方の土地を測量した上で境界標を設置する場合、測量費の方は土地の広さに応じて異なる場合があり、その分はそれぞれの所有者が面積に比例して負担することになります。
いずれにしても、隣人に無断で境界標を設置したり、境界線の確定や境界標の設置場所について合意していない状況で一方的に境界標を設置したりしても裁判で争われた場合は認められません。境界線の確定や境界標の設置は、隣人の合意が不可欠です。

また、元々あった境界標が何らかの理由でなくなってしまった場合は、早急に新たな境界標を設置した方が無難です。コンクリートや石のような、容易に壊れたり外されたりしないような素材の境界標を地中深くまで差し込めば、よほどの自然災害などに見舞われない限り、紛失することはないでしょう。これに対し、角材などの境界標は簡単に抜かれてしまいますから、おすすめしません。なお、境界標の設置は法律上の義務ではありませんが、あった方が確実です。その上で、測量図を作成し、境界標の位置まで明確にしておけば、境界トラブルの回避に役立つでしょう。
次に越境についてです。購入した所有地に、隣地から梅の木が越境している場合、「うちの土地に勝手に入ってきているのだから」と勝手に切断することはできるのでしょうか。実はこの問題は、民法の規定に基づき、枝と根で別々の異なる対応を取ることになります。

まず、根については、こちらで切断してもよいというルールになっています。一方で、枝の方は隣人に切断するよう求めることができるにとどまります。そして、隣人が当方の求めに応じない場合は、相手の費用で植木屋などに切断してもらうよう求める訴えを裁判所に起こすことになります。この場合の「相手」は民法で「竹木の所有者」と表現されています。つまり、隣人が借地人であった場合でも「竹木」が隣人の所有なら、土地の所有者に請求しなくても借地人である隣人に直接、対応を求められます。
なお、こちらが越境している枝を切る場合も隣人に切ってもらう場合も、その枝を切断することによる「被害が大きい」と認定される場合は、「権利の濫用」だとして認められないケースが例外的にあります。当方による枝の切断が隣人に対する嫌がらせ目的である場合や、越境の影響が些末であるのに切断するよう隣人に要求する場合は「濫用」と認定される可能性があります。

また、隣地の道路位置指定を受けた私道を使わないと自動車の出入りができないようなケースで、隣人から通行を禁じられ、自身が所有する土地の工事などで物理的に解決できない場合、隣人と交渉して通行できるようにしてもらうしかありません。もし、この私道を通らなければどうしても公道に出られないような袋地の場合、日常生活に大きな支障を来すことになりますから、裁判所に訴えれば、通行を認められる可能性が高いと言えます。もちろん、隣地の私道より狭いても、他の間口から公道に出られるスペースがあるのなら、代替措置が可能として訴えは認められないでしょう。
袋地に住み、他人の土地を通らないと公道に出られない場合は、通常、「囲繞地通行権」が認められます。例えば、土地の一部を買い取り、売り主が所有したままの隣地を通過して公道に出ていたとしましょう。こうした場合、買い主は売り主の土地を通行する権利を認められています。買い主の相続人もこの囲繞地通行権を継承します。
そして、買い主やその相続人が通行を認められている土地を売り主が第三者に売却しても、買い主やその相続人は第三者に囲繞地通行権を主張できます。土地の新しい所有者が通行を妨害するようなことがあっても、裁判所に通行妨害の差し止めを求めれば、原則として認められます。仮に、新しい所有者が妨害の手段として何らかの障害物を設置していたとしたら、買い主やその相続人は障害物の撤去を命じるよう求める仮処分を裁判所に申し立てることになります。

隣地との境界線があいまいな場合、隣人が境界線を越えて建物の建築工事を進めてしまうことがないとは言えません(もし、意図的に越境して工事を進めていたら、民事ではなく刑事の問題になります。不動産侵奪罪に該当する可能性が生じるからです)。そうした場合は、工事をストップするため「建築差し止め」の仮処分を裁判所に申し立てます。
正式な裁判である「訴訟」は時間がかかり、その間に建築工事が進んでしまっては取り返しがつかなくなりますから、裁判所が早期に結論を出す「仮処分」を申し立てることになるのです。
その上で、いったん工事を止めてもらい、改めて正式な裁判で勝訴が確定すれば、建築された基礎部分の撤去や境界の確定が行えます。仮処分申し立てなどを行わず、怠慢で隣人の越境工事を放置し続ければ、「取得時効」によって土地の所有権を失う場合もありますので、早期に法的手段を取った方が無難です。
建築協定は、住宅地としての環境や商店街としての利便性を維持・増進することを目的とし、土地所有者同士が建築物の基準(建築基準法の基準より厳しい)に関する一種の契約を締結し、自治体がこれを認可することで、通常の契約には発生しない「第三者効」を付与し、住民の発意による良好な環境のまちづくりを促進しようとする制度です。
もし、この協定の適用地域内に土地を買い、協定内容に従わずに建築工事を進める人が住民の話し合いにも応じない場合は、建築の差し止めを求めて裁判所に仮処分を申請することになります。建築協定は「法」ではありませんので、違反をしても行政罰を科されることはありませんが、違反をした人が民事裁判で敗訴して確定すれば、工事を取りやめなくてはならなくなります。

また、近隣で始まった工事(ボーリングや鉄筋の打ち込みなど)の振動が尋常ではない場合、どのように対処したらいいでしょうか。工事の実施業者にクレームを言い、速やかに解消してくれるのならいいのですが、そうでない場合は、行政や司法を頼らざるを得ません。
建設工事に伴う振動は「振動規制法」という法律で規制されています。同法では、激しい振動を伴う工事を「特定建設作業」と名付け、こうした工事を実施する場合は自治体への届出をルール化しています。
工事の振動が周辺の生活環境を著しく損なう場合は自治体が「改善勧告」や「改善命令」を出します。業者は公的機関である自治体の勧告や命令を無視できません。自治体によっては、独自に特定建設作業以外の振動も規制しているケースがあります。
近隣で行われている工事の振動で被害が生じているような場合は、工事中止の仮処分命令を出してもらうよう裁判所の申し立てる手段もあります。精神的苦痛を強いられたり、住んでいる建物に物理的な損害が発生したりした場合は、不法行為による損害賠償も請求できます。ただ、損害賠償請求訴訟は工事終了から3年以内(3年が経過すると消滅時効で提訴できなくなります)に起こす必要があります。

また、狭い所有地に建物や塀を建てる場合、隣地に足場を設けなければ作業できないケースがあります。通常は隣地の所有者の承諾を得て足場を組ませてもらうことになりますが、拒絶された場合はどうしたらいいのでしょうか。
そもそも、民法は土地の所有者が境界や境界付近で建物や塀を作ったり修繕したりするために、「必要な限度」で隣地を使用させてもらえるよう隣地の所有者に請求できると定めています。そして、隣人側は請求内容が必要な限度を超えない限り、承諾する義務があります。この際の請求相手は、隣地の賃借人など「土地の使用者」でもよいことになっています。
もし、必要な限度にとどめているのに、相手が承諾を拒む場合は、土地の使用を求めて裁判を起こすことになります。訴訟では時間がかかりすぎ、建築作業が進められないと困る場合は仮処分申請をし、隣人の承諾に代わる司法判断を得る必要があります。
民法はまた、境界から1メートル未満の距離の敷地内に他人の宅地を観望できる窓を設ける場合は、「目隠し」をしなければならないと定めています。この「1メートル」は窓から境界を直角線で結んだ場合の距離です。宅地自体を観望されても、通常はそれほど迷惑にはならないでしょうから、このルールで想定されているのは、隣人の窓からこちらの家の内部が丸見えになるケースです。もし、隣人が目隠しを設置しない場合は、設置を求めて交渉したり、裁判を起こしたりして問題を解決する必要があります。なお、1メートル「以上」の場合でも、家の中が覗かれてしまって困る場合は、プライバシーの侵害などを主張して隣人と交渉したり、裁判を起こしたりすることが可能です。

建築基準法の改正により、平成15年7月以降に着工された建築物は内装の仕上げなどにおいて「シックハウス対策」が義務付けられています。
家の新築や改築、リフォームなどをきっかけに頭痛やめまい、咳、目の違和感、皮膚の乾燥、倦怠感などが発生するシックハウス症候群は、住宅の気密化や化学物質を用いた工法の普及などが原因とされます。後者は具体的には、建材や家具、家庭用品などに使用されるホルムアルデヒドやトルエン、キシレンなどの化学物質が関連していると考えられており、カビやダニも症状の発生源とみられることがあります。
改正建築基準法は、住宅の新築時やリフォーム時に使う建材にホルムアルデヒドなどの使用を禁じたり、大幅に制限したりしています。こうした物質は、他にもアトピーや喘息、アレルギーなどを引き起こすとされ、同法は住宅に換気設備を設置することも義務付けています。

もし、購入した住宅内でシックハウス症候群と思われる症状に見舞われたら、同法に違反した建材が用いられていたり、換気設備に問題があったりしないか確認する必要があるでしょう。法律に従った施工や設備設置がなされていなければ、建築業者に損害賠償を請求できる余地があります。
隣家が普通の民家なら通常は問題にはならないでしょうが、深夜まで営業する飲食店を開店し、トイレが境界線側に設置された場合、夜もトイレの音や臭いに悩まされるようなケースがあり得ます。建物同士が近接する地域では、そうしたリスクも高くなります。境界線近くに当方の寝室があり、隣地に新たに建築された建物のトイレがその向かい側に設けられたとしたら、トイレの場所の変更を求めたくもなるでしょう。

しかし、民法上、トイレを規制する直接的な条文はありません。昔の「し尿だめ」を掘る場合について、境界線から1メートルの間隔を置くとしているのみです。建築基準法上「下水道処理区域」内は水洗トイレにしなければならないので、し尿だめが置かれることはまずありません。万が一、汲み取り式のトイレなら規制の対象になりますが、水洗トイレは規制対象となりません。
ただ、隣地のトイレの使用について強い悪臭や騒音などに「受忍限度を超える」具体的な状況があるのなら、防音・防臭設備の設置を求めたり、被害に応じた慰謝料の請求をしたりできる可能性が生じます。

次は、隣地の一部を一時的に借りて土地の広さを確保し、建物を新築したり、増築したりできるよう、建坪率をクリアすることは可能なのか考えてみましょう。
答えは、可能です。建物の新築や増築の際に必要な「建築確認」は、建築主が自治体に確認申請をし、建築主事が建築基準法の規制にかかっていないか判定します。この際、建てようとする建築物の建坪率が、その用途地域で定められている率の上限を超えていないかも判定されます。建坪率のルールは、火災被害の深刻化や環境の悪化などを防ぐ目的で設けられており、申請者の土地の所有権までは審査しません。このため、一時的に借りた土地で建坪率をクリアしていても、建築確認は原則として下ります。
ただ、その後、返した土地の上に隣人が建物を建てるようなことがあれば、当方が一時的に土地を借りて建坪率をクリアした建築物は建築基準法違反となってしまい、極端な場合は取り壊し命令の対象となります。このように、先のことを考えると、一時的に土地を借りて建坪率をクリアする手法はあまりおすすめできません。
もし、隣地に明らかに違法な建築物が建設されているのであれば、建物が完成する前に工事を止めなければなりません。正規の裁判としては、工事差し止めを求める訴訟を裁判所に起こすことになりますが、訴訟は時間を要するため、早期の判断を得られる「仮処分申請」をすることになります。

なお、仮処分申請が可能なのは、相手方の行為で権利を侵害される者です。従って、近くに住む人や町内会となどが申請できるわけではなく、隣人の違法建築によって具体的に日照権や通風権などを侵害される人が申請できます。建築主も施工業者も、申請の相手とすることができます。

隣地に地下駐車場付きのマンションが新築されたことが原因で、地盤が沈下したのか、自宅がマンション側に傾き始めてしまい、家屋倒壊の危険性が生じてしまった場合はどうしたらいいでしょうか。

まず、自宅が傾き始めた原因が隣地のマンション建設が原因であると説明するための証拠を集めます。その上で、隣地の所有者を相手取り、自宅の倒壊を防止するための工事を行うよう求めて裁判を起こすことになりますが、倒壊の危険が差し迫っている場合は、仮処分申請をします。仮処分手続きでも間に合わない場合は、まず自費で倒壊防止工事を施し、後で工事費を隣地の所有者に請求するしかないでしょう。最悪のケースとして、自宅が倒壊してしまったような場合は、隣人に建て替え費用を含めた損害額を請求することになるでしょう。
建築基準法上は適法な建物だとしても、隣地の日照権を侵害する場合、民法上、違法と認定されるケースがあります。これは、建築基準法と民法の法的性格の違いに基づきます。前者が行政法規として一定の広さの地域を一括して規制するものである一方、後者は周辺地域の事情や個々の住民が抱える具体的な事情を考慮に入れています。従って、建築基準法上は適法でも、民法上は違法ということがあり得ます。そして、民法上違法であれば、損害賠償が認められる可能性があります。
このため、隣地に建設される予定の建築基準法上は適法な建物については、民法に基づき、受忍限度を超えて日照権を侵害されているとして裁判を起こすことになります。このような裁判では、侵害の程度や損害回避の可能性など諸々の要素を主張し、裁判所の判断を仰ぎます。裁判所が「原告は受忍限度を超えて日照権を侵害され、マンションの建築は不法行為に当たる」と判断すれば、損害賠償請求や建設の差し止めを認める場合があります。

自宅のある場所が「囲繞地」である場合、通路として使用している他人の所有地の地中にガスや電気、水道の配管・配線をしたい場合は認められるのでしょうか。まず、地中に配管や配線を通したい土地の所有者の承諾があれば、もちろん、何の問題もありません。問題は所有者の承諾が得られない場合です。日常生活に不可欠なライフラインに関わる工事である以上、裁判を起こしてでも認めてもらうしかありません。
囲繞地については、通行権に関する規定が民法にありますが、ガスや電気、電話の配管・配線に関する明文規定はありません。一方で、下水道に関しては、他人の土地や排水設備を使わなければ下水を公共下水道に流入させることが困難な場合、他人の土地に排水設備を設置できる(あるいは他人が設置した排水設備を使用することができる)と下水道法が定めています。なお、囲繞地のライフラインを確保するための地下の配線・配管を求める訴えは認められる可能性が高いと言えます。ただ、他人の土地利用に制約を加えることになるのは事実ですから、その損害が最小となる方法に限られます。

自宅前の排水溝を両隣の家も使用している場合、排水溝が設置されている私道の所有者が誰かによって、排水溝改良工事(例えば、むき出しの排水溝に蓋をする工事など)の費用負担の方法は異なります。私道の所有者が自身である場合は、隣人たちに対し、利益を受ける割合に応じて費用分担を請求できます。負担割合は排水量に応じるのが妥当と考えられますが、さほど変わらないのであれば、均等割合とするのが穏当です。
私道の所有者が隣人なら、費用分担を申し入れ、所有者が排水溝を改良するよう促します。費用分担も、基本的には所有者が納得する形にせざるを得ません。もし、自身を含めた「共有」の場合は、共有者全員が排水溝の改良について合意することが最良です。全員の合意を得られなくても、改良は可能ですが、共有物の管理に関する事柄なので持ち分の価格から計算し、過半数で決めることになります。改良が決まると、反対した共有者も費用負担することになります。さらに、共有者でない人が排水溝を利用している場合は、その人に費用の負担を請求できます。

法令上の制限

宅建業法は、宅建業者が取引主任者に説明させるべき重要事項として「都市計画法、建築基準法、その他の法令に基づく制限で契約内容の別に応じて政令で定めるものに関する事項の概要」と定めています。不動産の利用には、多様で複雑な「法令上の制限」があります。この制約を知らずに土地や建物を購入すると、想定外の損害を被る場合があります。

都市計画法や建築基準法による制限は、建坪率や容積率、開発許可や市街化調整区域の建築制限、地区計画における工場の建築制限、道路の公的収用に伴う規制、建築制限などがあります。法令上の制限を巡り、裁判になった具体例としては「仲介業者が買い主から延べ床面積100平方メートル程度の建物を新築する予定だと告げられていたという具体的な事情がある場合は、法的規制の種類や名称などを単に告げるだけでは足らず、規制の具体的内容を説明し、買い主の希望通りの建物が建てられないことをも説明することが債務に含まれる」としたものがあります。

また、建築基準法は接道条件について、建築物の敷地は原則、道路に2メートル以上接しなければならないと定めています。土地とその上の建物は通常、接道条件が満たされているものとして取引されます。
業者は土地売買を仲介する際、接道条件を調査し、買い主に説明しなければなりません。実際に、接道条件の調査説明義務違反を肯定した裁判例は多くあります。一方で、買い主自身が将来、建て替えをする場合に接道条件で問題が起こりうるかもしれないことを認識していたとして、業者の説明義務違反を否定した裁判例もあります。

他にも、

宅地造成等規制法に関し仲介業者の説明義務違反を肯定した▽森林法による保安林指定の調査義務を怠ったことで業者の責任を肯定した▽業者が河川法の制約に関して虚偽の事実を告げて買い主を誤信させ、手付金を交付させたとして不法行為責任を肯定した▽行政指導による建築制限の調査義務違反により業者の責任を肯定した

――などの裁判例があります。逆に業者の責任が否定された裁判例として、文化財保護法上の古墳埋蔵地に関して専門家でない業者が山林を古墳だと見抜けなかった点について地元の教育委員会に確認しなかったとしてもやむを得なかったとしたケースがあります。

他の説明事項

不動産の環境に関し、周辺の開発計画を調査・説明しなかったことや、高圧送電線用の鉄塔の建設が予定されていることを説明しなかったことから、仲介業者の責任を肯定した裁判例があります。
一方で、物件の水害歴に関する説明義務違反を否定した裁判例があります。

他にも、

業者は契約書の案文を依頼の趣旨に沿って作成すべき義務があると認定した▽業者は不動産の相場価格を調査し依頼者の利益となる売買条件の策定に努める義務を負うとした▽業者は依頼者が負担すべき税金の内容や額、源泉徴収義務の存否についてまで調査・報告すべき義務はないとした▽業者が課税上有利だとして不動産取引を勧め、依頼者がそれを主たる動機として委託した事情がある場合に、業者に課税の有無・課税額等に関する調査説明義務があると認定した▽土地の同一性の確認について土地の現況と公図の形状とが大きく異なり、業者がそうした事実を知っている時は依頼者に説明しなければならないとした

――といった裁判例があります。

2020-03-18 17:23 [Posted by]:BMB