瑕疵担保責任での契約解除について

基本法の民法において売買契約の瑕疵担保責任の内容は、損害賠償請求や目的不達成の場合の契約解除であり、瑕疵修補は定められていません。ただ、新築住宅の売買契約ではアフターサービスとして、売り主に一定期間の修補を義務付ける特約が一般的です。また、特別法の品確法は、民法上の請求内容に加えて修補請求も認めています。

なお、売買目的物の「隠れた瑕疵」が原因で契約目的を達することができない場合、買い主は契約を解除できます。損害賠償請求をするに当たり、契約目的達成の有無は問われませんが、契約を解除する場合は「目的を達成できない場合」との要件を満たす必要があります。また、解除の可否は、売り主が契約目的を知っているか否かを問わないため、売り主が不知の場合でも、買い主は契約目的を達成できないことを理由として契約を解除できます。

つまり、瑕疵で損害が発生した場合は損害賠償請求しかできませんが、瑕疵で損害が発生した上に契約の目的を達成できない場合は損害賠償請求と契約解除の両方を行えます。このうち、解除は相手方に通知する際、瑕疵担保責任の追及を理由とする旨を明示する必要はありません。

なお、瑕疵担保責任を限定する特約があっても、解除権は否定されません。逆に「隠れた瑕疵」がないなら、売買契約の目的を達成できるか否かを論じる必要もなく、解除は認められません。判例でも、買い主が「隠れた瑕疵」を根拠に解除を主張したものの、判決で瑕疵を否定されたケースがあります。

「隠れた瑕疵」のために売買契約の目的が達成できない場合、買い主は損害賠償と解除のどちらか一方だけを選ぶことができますし、両方を行うこともできます。ただ、判例では、損害賠償を肯定する一方で「目的不達成」を否定して解除を認めなかったケースや、解除を希望する買い主の主張に対し、解除ではなく損害賠償を選択したものと認定したケースがあります。

もし、瑕疵が修理可能なら、契約は解除できるのでしょうか。こうした場合は、修理してしまえば、売買契約の目的を達成できる(=「目的不達成要件」を満たさない)ことになりますから、買い主は売り主に対して修理費用を損害賠償請求すれば済みます。

例えば、建物に水漏れの瑕疵があったケースで買い主が解除を求めた裁判で、「建物への浸水は、漏水対策工事を行えば防止可能であると認められる。売買契約の目的を達することができないとまではいい難い」として解除を認めなかった例があります。

なお、修理が不可能なケースとしては、技術的に不可能な場合だけでなく、高額な修理費用により経済合理性上「不可能」と判断されることがあります。判例では「売買の目的物に存する瑕疵の修繕が可能なりや否やは之に要する修繕費の多寡を斟酌して之を判定すべき」とされています。

瑕疵の存在で売買契約の目的を達成することができなくても、買い主が事実を知った時から1年を経過した後は、除斥期間のルールにより、解除権を行使できません。判例でも、解除の意思表示があったと認めながら、除斥期間の経過後になされたとして解除の効果は生じないとされたケースがあります。

瑕疵担保責任で契約を解除した場合の効果については、民法に特別の規定はなく、解除に関する一般規定が適用されます。このため、買い主が売買契約を解除した場合、目的物の返還に加え、それを使用・収益した利益も売り主に返す必要があるとされます。売り主が受け取った利息の返還と、買い主が使用・収益した利益の返還は、同時履行の関係にあります。

裁判例

建物の瑕疵による解除が肯定された裁判例には、耐火性の欠陥▽シックハウス▽不等沈下▽排水設備の不存在――などのケースがあり、否定された裁判例には、雨漏りや騒音のケースがあります。

土地の瑕疵による解除が肯定された裁判例には、土地計画道路▽接道条件▽森林法▽別地番の土地との重複▽擁壁▽隅切――などに関するケースがあり、否定された裁判例には、地中埋設物▽土壌汚染▽越境▽急傾斜地の危険区域の指定▽埋蔵文化財の包蔵地――などに関するケースがあります。

トラブル例

○売却した建物が建坪率違反だった場合、売り主は買い主から損害賠償を請求されたり、契約解除を求められたりすることがあります。例えば、父の死後、相続税に充てるために所有不動産の売却を迫られる場合があります。買い主と売買契約を結んで代金を受け取り、移転登記を済ませた後、買い主から建坪率違反があっとして解除を申し入れられるような実例もあります。建坪率違反は建築基準法違反ですから、知事や市町村長から一定の期限内に撤去や改築、修繕を求められる可能性が出てきます。このため、買い主は損害賠償請求や契約の解除を求めることができます。

この際、改築や修繕の費用が高額に過ぎなければ、買い主は契約を解除できず、損害賠償を請求できるにとどまります。また、買い主の側に何らかの不注意があり、建坪率違反を知り得なかった場合も契約は解除できず、可能なのは損害賠償請求のみとなります。

○買い主が知らずに都市計画道路の指定がされている土地を買ってしまった場合はどうでしょうか。

家を建てるために土地を購入した後、役所に建築確認の制限について問い合わせたところ、購入した土地が都市計画道路に指定がされていることが判明し、役所から「家は建てられない」と通告されたとします。

都市計画道路に指定された土地は、都道府県知事の許可を得て一時的に木造2階建て以下の建物は建てられますが、いずれは撤去しなければならなくなります。そうすると、「終の棲家」を建てる目的で購入した後、指定の事実が分かった場合は瑕疵となり得ます。

そして、買い主は契約の解除と損害賠償請求が可能となります。また、このような土地使用上の制限は、不動産売買に当たっての重要事項となりますので、仲介業者に宅建業法上の説明義務が課せられます。業者に説明義務違反があれば、自治体に行政指導を促せます。

○私道負担付きの土地というのがあります。建築基準法は、建物を建てる土地は幅4メートル以上の道に2メートル以上接していなければならないと定めています。このため、この条件を満たさない土地は、幅4メートル以上の「私道」を設けて2メートル以上接するようにしないと、建物が建てられません。そうした制限がかかる土地のことを「私道負担付きの土地」と言います。土地に私道を設けなければならないということは、建てたい建物の広さも限られてしまいます。

もし、私道負担付きの土地と知らないで、購入したとしたらどうでしょうか。思い描いていた通りの建物が建てられないという事態に陥る可能性があります。土地を購入して建物を建てようと、建築確認のために役所に行ってようやく判明することが想定されます。こうした場合は、売り主や仲介業者の責任を追及することになります。

まず、売買目的が達成できなくなったと言えますから、売り主に対して契約の解除と損害賠償を求められます。さらに、私道負担は宅建業法で「重大な制限」として説明義務事項となっていますから、説明を怠った仲介業者について自治体に行政指導を促せます。自治体は業者に指示処分を出し、業者が従わない場合は業務停止処分などを出します。

いずれにしても、買い主も土地を購入した後に無駄な労力を強いられます。売買契約を締結する前に、買い主自身も役所に問い合わせるなどして確認しておくのがベストです。

○購入した土地の一部が売り主の所有物でなかったとしたら、一体どうしたらいのでしょうか。

このような場合も、売買契約自体は有効に成立していることになります。それにもかかわらず、別人所有の土地の所有権を取得できないという矛盾した状況に陥ります。このため、現実的には、まず売り主や一部の土地所有者と交渉し、後者の所有権を買い主側に移転できるよう調整する必要があります。

それでも、一部の土地の所有者が拒むなどして移転がかなわない場合、買い主はこの所有者が所有する部分の土地の代金分を売り主に減額請求できます。まだ、全代金の支払いが済んでいない場合は、支払いを拒むことができますし、既に支払い済みなら返還を求められます。

また、この別の人が所有する土地が自分のものにならないと思い描いていた建物が建てられないなど売買契約の目的が達成できない場合は、売り主との契約を解除できますし、損害賠償も請求できます。

○購入した土地の実測の面積が、登記簿上の面積より小さかった場合はどうしたらよいでしょうか。

売買契約が成立して更地を購入し、所有権移転登記を済ませ、代金を払って土地の引き渡しも受けた後、建設会社に建物の施工を頼んだ時点で面積不足が判明したとします。

この際、不足面積分の代金を返還してもらえるかどうかは、まず、売買契約が民法上の「数量指示売買」(売買代金が単価×数量になっているケース)に該当するかどうかに関わります。1平方メートル当たり何円という単価があり、面積を乗じる形で売買代金が算出されていた場合は、数量指示売買に当たりますから、不足分の代金を請求できます。また、数量指示売買に当たる場合は、契約解除や損害賠償請求もできます。

○「新築同様」とうたった中古不動産を購入したものの、実際は老朽化していたことが分かったとしたら、どうしたらいいでしょうか。

もし、契約締結前に当該物件を現地で検分し、外観も内装も見た上で契約を結んでいた場合、購入後に壁紙のはがれや床板のきしみなどが気になり始め、補償を求めたいと思っても日常生活に支障を来すレベルでなければ、補償を求めることは難しいでしょう。

事前の検分時に気づかなかった深刻なひびを購入後に発見した場合、瑕疵担保責任は追及できるのでしょうか。瑕疵担保責任を追及するには、売買目的物の欠陥が「隠れた瑕疵」である必要があります。この「隠れた」は、「取引上一般に要求される注意を尽くしても発見できない場合」を意味します。購入前に検分していたのなら、深刻なひびも通常は発見できたと思われます。従って「隠れた」とは言えず、瑕疵担保責任を追及するのは難しくなります。仲介業者に対して説明義務を求めることも困難でしょう。

「新築同様」とうたっていても、中古住宅は欠陥をはらんでいる可能性が高いと考えた方が無難です。事前検分の際に、注意深くチェックしておく必要があります。

○不動産売買において、「現状有姿」という用語が使われることがあります。「あるがままの状態」を意味します。売り主が瑕疵担保責任を免れるため、売買契約書に「現状有姿で引き渡す」との文言を入れることがあります。

購入した中古マンションに住み始めたところ、間もなくして、壁に大きなシミが浮かび、ひどいカビの臭いも漂うようになったとしましょう。仲介業者に対し、売り主に修理してもらうよう求めても、「現状有姿で引き渡す契約だったので、要求には応じられない」と断られる可能性があります。

こうした場合、まず、シミの原因が建物自体の欠陥によるものかどうかを専門業者に依頼して調べてもらう必要があります。その上で建物自体の欠陥と分かれば、売り主に損害賠償を請求できます。「現状有姿」は、物件の引き渡しまでに目的物の状態に変化があっても売り主は引き渡し時の状況のままで引き渡せばよいという趣旨であり、売り主が瑕疵担保責任を免れることを認めるものではありません。もし、仲介業者もこの欠陥を知っていたとしたら、重要事項の説明義務違反を理由に責任追及できます。

○住宅を購入する際に気づかなかったが、購入後、床にボールを置くと特定の方向に転がってしまい、水平でないことが分かったら、どうすればいいでしょうか。

こうした住宅は典型的な「欠陥住宅」で、売買契約の解除や損害賠償請求ができる可能性があります。「水平でない床」はそもそもの建物の構造計算が間違っていたり、鉄筋の位置がずれていたり、と様々な要因が考えられます。その要因を突き止めるには、専門家の協力が必要です。床のたわみの限界値は、日本建築学会の「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」の基準によると、部屋の短い方の辺の長さを250で割った数値とされています。室内に梁や間仕切壁があると、限界値は異なってきます。

その上で限界値を超えていることが判明すれば、瑕疵として売り主に対する責任追及が可能となります。

○パンフレットに「最上級の防音性」などとうたった新築マンションの部屋を購入したにもかかわらず、外の騒音が室内に響くような場合も、瑕疵として売り主や仲介業者に対する責任追及が可能な場合があります。

ただ、防音性は部屋の補修工事で欠陥が解消される場合が多いため、損害賠償請求が可能でも、契約の解除は認められないと考えた方がいいでしょう。また、防音性不足が一つの部屋にとどまらず、マンション全体の問題なら、まず管理組合に相談するといいでしょう。新住民共通の問題なら、管理組合が窓口となって意思統一を図った上で売り主や業者に補修工事の実施などを求めた方が、個人で行うより効果が大きいはずです。売り主や業者がかたくなに拒んだ場合は、集団提訴を起こす選択肢もあります。

○購入した住宅に入居したところ、玄関の建て付けがおかしくなったり、壁の一部にひび割れができたりした場合は、池や沼といった場所の埋め立て地であるなど地盤が不安定なケースが考えられます。

ただ、埋め立て地であるということがイコール「地盤の欠陥」につながることはありません。十分な基礎工事が行われていないなど、人為的欠陥であることも考えられます。こうした場合、補修工事などで問題を解消できれば、売り主に対して工事費相当額の損害賠償請求が可能です。工事によって問題が解消できるのであれば、契約の解除はできません。

○購入した住宅をしばらく使用していたところ、天井の一部にシミが発生し、水漏れが起きた場合はどうしたらいいでしょうか。

まず、水漏れが発生している状況を「証拠保全」する必要があります。どの部分にどの程度のシミが発生し、どう広がったのか写真撮影をしておきます。その上で売り主や仲介業者や補修工事を求めます。

売買契約書には一般的に補償に関する規定がありますので、それに基づいて交渉しましょう。もし、当方に落ち度がないのに、相手方が「(住宅購入後の)使用の仕方が悪い」と反論してきたら、自治体ごとに設けられている「宅地建物取引業法保証協会」への苦情申し立ても可能です。協会は相談に応じた上で、相手方との交渉を取り持ってくれます。交渉が決裂した場合でも、状況によっては協会が補修費を負担してくれる場合があります。

水漏れが契約前の説明と異なるなど、相手方に明らかな否がある場合は、解除や損害賠償請求を検討する余地もあるでしょう。

○住宅を建てる場合は、通常、まず建築事務所に設計を依頼し、その事務所所属の建築士が「工事監理者」となります。その上で、実際に建物を建てる建築業者を決めます(建築事務所の推薦であることも多いです)。この際、建築事務所と業務委託契約を締結し、建築事務所が建築業者との間で請負契約を締結します。

依頼する側からは、建築事務所に建ててもらいたい住宅のデザインなど希望を伝えるわけですが、完成した際に希望が反映されていない場合はどうしたら良いのでしょうか。

通常は建築途中で依頼者が随時、現場を見学するでしょうから、希望と大幅に異なるようなケースはほぼないでしょうが、意思疎通がうまく行かず、希望通りにならなかったとか、建築士の裁量に委ねたらイメージと異なる結果になったといった事態が起こるかもしれません。

そうした場合、契約内容を故意に無視した悪意ある設計になっていたら、契約の解除が可能かもしれませんが、通常は工事のやり直しを求めて交渉することが現実的です。契約上、建築士に大きな裁量が認められている場合、建築事務所が工事のやり直しを否定するかもしれません。建築士に裁量があり、建築業者が請負契約通りに住宅を建てていれば、依頼者が追加料金を求められても拒否できない場合があるので注意が必要です。

特に斬新なデザインの住宅を建てたい場合は、建築士のプライドやこだわりもあるでしょうから、業務委託契約を締結する段階から十分な意思疎通を図り、綿密に合意しておく必要があります。

○「リフォーム詐欺」が時折、ニュースになりますが、主に独居高齢者を狙った悪質な事件が後を絶ちません。突然、見知らぬ業者が家を訪れ「無料で耐震性を診断できる」と言って屋根裏や床下を調べたように装い、住人に補強工事を勧めます。住人の高齢者は誰かに相談するいとまもないまま、契約を結ばされ、高額な費用を支払わされてしまうのです。こうしたケースでは、補強工事として安価なボルトが打ち付けられる程度のずさんな工事が行われ、悪質業者に利得が転がり込みます。

契約後、工事が行われる前なら「クーリングオフ」で契約を無効にできますが、工事が行われてしまえば、契約を解除し、支払った費用を取り戻すしかありません。もし、仮に業者が契約を結ぶ前に「この家は震度4の地震で倒壊する」などと虚偽の話をしていることが証明できれば、住人の契約時の意思表示を取り消したり、契約を解除したりすることができます。また、「倒壊の可能性」が事実であったとしても、工事費が高額すぎる場合は、契約の解除を求めたり、損害賠償請求したりすることができます。

○建設会社に建ててもらった住宅に入居してまもなく、内装のクロスがはがれてきた場合はどうしたらよいでしょうか。

多くの場合、建設会社との請負契約において内装や植栽の保証期間は1年となっています。この期間内なら、建設会社に無料補修を請求できます。1年の起算点は、購入者が住宅の引き渡しを受けた日です。

外部塗装の剝離や梁の反り、基礎部分の沈下や屋根周りの雨漏りなども多くの場合、保証期間は1年です。購入者は引き渡しから1年が経つ前に、保証対象となっている内装や外装などに補修の必要な変化が生じていないか確認する必要があるでしょう。

2020-03-18 17:58 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所