瑕疵担保責任と時効・除斥期間について

買い主は瑕疵担保責任によって保護されますが、不動産の引き渡しで履行を済ませたと安心する売り主への考慮も必要です。売買から長時間経ってしまうと、売り主にとって履行の証拠を得にくくなるというデメリットもあります。こうした双方の利益のバランスに配慮し、解除や損害賠償請求を行う場合、買い主は事実を知った時から1年以内にしなければなりません。この期間制限はかつて、法律上の「除斥期間」に当たるのか「短期消滅時効」に当たるのかで裁判所の解釈が分かれていました。決着したのは平成4年です。最高裁は、「除斥期間」の規定だと結論づけました。

除斥期間と時効の違いは分かりにくいですが、4点あります。①除斥期間の起算点は「権利発生時」ですが、時効の起算点は「権利を行使できる時」②裁判所が権利消滅を判断する場合、除斥期間は当事者の援用は不要ですが、時効は援用が必要(つまり、除斥期間の場合、裁判所は職権判断が可能)③除斥期間は期間内に「裁判上の権利」を行使する必要はありませんが、時効は行使が必要(つまり、除斥期間は裁判外で権利を行使しても、権利を保存できる=時効のような「中断」という考え方がない)④除斥期間は権利消滅の効果が遡及しないが、時効は遡及効(法律行為の効果発生を遡らせる)がある――となります。

上記のように、除斥期間内に権利を保存する場合は裁判外の請求で足り、裁判上の請求までは不要です。ただ、裁判外の請求は「明示的」でなければなりません。明示的であるためには、具体的な瑕疵内容と損害賠償請求する意思を明らかにした上で、請求する損害額の算定根拠を挙げ、売り主に明確に担保責任を問う意思を示す必要があります。こうして裁判外で権利行使する意思を明確にしておけば、売買目的物の引き渡しを受けた時点から進行する時効期間の満了によって請求権が消滅するまで、瑕疵担保責任を追及できることになります。ある裁判例では、新築マンションの遮音性能の瑕疵について、除斥期間内に管理組合の理事長が売り主に是正を請求することで、買い主との関係でも権利が保存されたとの解釈を示しています。

起算点

既に述べたように、民法は期間制限の起算点について、買い主が「瑕疵の事実を知った時」と定めています。しかし、売買目的物に瑕疵があるか否かは容易に分かるとは限らず、一定の時間を経なければ判明しないこともあります。このため、判例では「事実を知った時」の解釈について「具体的な瑕疵の存在と損害額の両方」に関して「一般通常人が解除や損害賠償請求をするかどうか判断できる程度に瑕疵の内容程度を知ったことを要する」とされています。「建物の瑕疵」や「土地の瑕疵」の具体的な除斥期間の起算点に関しては、多くの裁判例があります。

除斥期間と消滅時効の関係

「事実を知った時から1年以内」という除斥期間のルールは、1年以内であればどの段階で事実を知っても、いつ権利を行使しても構わないように思われますが、民法は「100年間、債権を行使しない時は時効消滅する」と定めています。

このため、債権である損害賠償請求権も権利行使が可能となる引き渡し時から10年行使しなければ、時効消滅するとの解釈もできるように思われます。つまり、引き渡しから10年経過後に瑕疵を知った場合、その時から1年以内なら権利を行使できるのか、あるいは消滅時効で行使できなくなるのかという問題です。最高裁は平成13年、この点について瑕疵担保による損害賠償請求権も引き渡しから10年間の消滅時効にかかるとの判断を示しています。

瑕疵担保による損害賠償請求権の消滅時効は「引き渡しの時」です。消滅時効の起算点は、権利の行使に当たり、法律上の障害がなくなった時とされるからです。なお、判例は数量指示売買の減額請求の期間制限において消滅時効の適用は排斥されないとしています。

期間制限の特約

民法は、売買目的物に隠れた瑕疵がある場合、買い主が事実を知った時から1年以内なら責任追及が可能▽買い主が事実を知った時から1年を経過すると責任追及が不可能になる――とする原則を定めています。ただ、瑕疵担保責任に関する規定は任意なので、瑕疵担保責任を免除する特約や責任期間を限定する特約も有効です。

基本法の民法に対し、宅建業法、消費者契約法、品確法といった特別法には、瑕疵担保責任に関する特別の定めがあります。これらの法律による規定の多くは強行規定であり、法規定と異なる特約は無効です。

まず、宅建業法は宅建業者が自ら売り主となる土地建物の売買契約の瑕疵担保責任について、引き渡しから2年以上とする場合以外は、買い主に不利な特約を認めず、これに反する特約を無効としています。実務上、宅建業者が売り主となる売買は、多くの場合、瑕疵担保責任を引き渡しから2年以内に制限する特約(いわゆる「2年特約」)が付されています。宅建業法の規定も、こうした特約の有効性を前提としているのです。

次に、消費者契約法は「隠れた瑕疵」により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項は、原則として無効と定めています。事業者が売り主、消費者が買い主の売買では瑕疵担保責任を全て免除する特約に効力はありません。

最後に、品確法は新築住宅の売買において建物の基本構造部分について10年間の責任を義務化しています。これに反し、責任期間を短縮したり、責任を免除したりする特約は無効です(特約で期間を20年間まで延長することは可能)。

買い主の義務

商法は「商人間の売買で、買い主が売買の目的物を受領した時は、遅滞なく、その物を検査しなければならない」とし、商人間売買における目的物の検査義務を定めています。さらに「買い主が検査で売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見した時は、直ちに売り主にその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約解除や代金減額若しくは損害賠償請求をすることができない」「売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合、買い主が6カ月以内にその瑕疵を発見した時も同様」としています。商取引は迅速性が尊重されます。商人は商取引の専門知識を持っていますから、売買目的物を受け取り、検査可能になった以上、瑕疵がないか即座に検査しなければなりません。

買い主による検査通知規定は、専門性を前提に迅速で円滑な商取引を確保するために設けられたと言えます。その通知義務は不動産売買でも適用されますので、商人間売買であれば、買い主が通知義務を果たさないと、瑕疵担保責任の期間制限を受けることになります。なお、検査通知義務に関する定めは「売り主が瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合(知っていた場合)」は適用されません。判例では、この規定の「悪意」に「重過失」は含まれないと解されています。

この検査通知は、売り主が発見された瑕疵について迅速に処置・対応できるよう考慮する機会を付与するためのものです。このため、通知内容は瑕疵の種類や大まかな範囲を明らかにするものであれば足ります。最高裁は、買い主が損害賠償請求権を保存するには裁判外で売り主の担保責任を問う意思を明確に示せばよく、裁判上の権利を行使する必要はないと判断しています。ただ、瑕疵の存在に気づいて売り主に通知したとしても、売買契約の解除自体は(その時点から1年以内の)除斥期間内にしなければなりません。

商法に基づく買い主の検査通知義務も民法の瑕疵担保責任免除特約と同じく任意規定なので、法規定と異なる内容の特約も有効です。判例では、買い主に対して売買契約から6カ月以内に瑕疵の発見と通知の双方を行う義務を負わせた特約を有効と判断したケースや、不動産の引き渡し後に土壌汚染が判明した場合も売り主が責任を負うとの特約で商法の検査通知義務の適用が排除されていたと判断したケースがあります。

2020-03-18 17:51 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所