目的物の減価分

媒介業者の説明義務違反が原因で買い主が損害を被ると、業者は買い主に損害賠償義務を負います。「売買代金」と「適切な説明がなされたことを前提とする適正価格」に差額がある時は、目的物の減価分が損害となります。目的物の減価分を損害とした裁判例は多くあり、説明義務違反の内容としては、隣人の迷惑行為▽崖による建築制限▽土地の一部が都市計画に基づく道路敷地▽接道条件▽土地計画道路区域内▽過去の火災歴▽土地の一部が区道だったという事実▽急傾斜地災害防止法の建築制限▽通行承諾の必要性▽高架道路の建設予定――に関するケースがあります。

また、マンションの居室が以前風俗営業に使われていたことの説明義務違反を肯定した裁判例では、売り主の契約不適合責任における損害と同様、説明義務違反に伴う損害も認定しています。他にも、取引対象の土地について公図と現況求積図の地形が大きく相違し、登記簿上の面積と実際の面積が異なっていたことの説明義務違反を肯定した裁判例では、売買代金の3割相当額を損害としました。

さらに、建物が安値転売されたケースで売買代金と転売代金の差額を損害とした裁判例や、転売差損を損害として肯定し「この土地を転売する時は、宅造法の適用ないし制限が障害となって、有利にこれを転売することは困難であることを当然予見し得たものと推認するのが相当」と指摘した裁判例もあります。なお、「得べかりし転売利益」が損害に当たると主張されることもありますが、私道通行承諾に関する説明義務違反の事案で、損害に当たらないと判断した裁判例があります。

他の損害

媒介業者の説明義務違反により契約が解除され、買い主が目的物の所有権を取得できない場合、買い主が支払った売買代金や手付金は損害となります。例えば、水没する可能性の高い土地の売買について、業者が河川法に関する説明義務を果たさなかったとして、支払済みの手付金を損害と認定した裁判例があります。

また、シロアリ被害で柱が腐食し、売却された建物が居住に適した性状や機能を備えていなかったとして、売買代金などを損害と認定した裁判例もあります。この事案では、取得不動産の価格から建物の取り壊し費用を差し引いた額が損益相殺されました。

別の裁判例は「他人物売買」に関する説明義務違反があったとして、買い主が結局は所有権を取得できなかった売買契約のために支払った手付金相当額を損害として肯定しています。この事案で、過失相殺は2割と認定され、手付金と別に支払われていた中間金については「売買契約では支払いの約束がなかったにもかかわらず支払ったもの」だとして、損害と認めませんでした。

また、売買契約が錯誤無効である場合に支払済みの売買代金を損害とした裁判例がある一方、「売買契約の代金は、買い主が錯誤無効に基づき、売り主に返還を求めることができるものであるから、損害とは認められない」とした裁判例もあります。他に、根抵当権の登記調査義務違反が問われた事案で、根抵当権の極度額を損害とした裁判例もあります。このケースで、過失相殺は5割とされました。

他には、海外の土地の価格説明義務違反が問われ、売買代金が鑑定評価額の2倍程度だった事案で、売買代金と鑑定評価額の差額を損害と認定した裁判例があります。また、海外のモーテルを投資目的で購入したものの経営不振となった事案で、支払済みの売買代金と契約締結費用を損害と認定した裁判例もあります。海外不動産投資に関する事案では、評価額から大幅につり上げた金額で土地を転売した業者に対し、その差額を損害として認定したケースもあります。

宅建業者が説明義務を果たさなかったことが原因で発生した修補費用や調査費用は損害と認定されます。具体的には、漏水の修補費用▽所有権移転登記手続費用や火災保険料▽法的規制の調査費用――が損害とされた裁判例があります。また、私道通行に関する説明義務違反により、他人の土地を購入せざるを得なくなった事案では、土地購入費が損害として認定されています。さらに、業者が税金に関して誤った説明をした事案で、買い主がこの説明が原因で支出してしまった税金相当額が損害とされています。擁壁の設置に関する調査説明義務違反の事案では、建物改築費用の一部を損害と認定した裁判例もあります。

2020-06-29 11:21 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所