買い主に対する不法行為
民法は、故意か過失により他人の権利や法律で保護される利益を侵害した人は、侵害行為(=不法行為)によって発生した損害を賠償する責任があると規定しています。不動産売買においても、売り主の売却行為に不法行為があった場合は、買い主に対して損害賠償義務を負います。
例えば、「土地の価格が将来、値上がりする」と偽り、価値がない原野を売りつける行為(原野商法)や、それに類する行為を不法行為と認定した判例があります。また、不動産に瑕疵があると認識しながら「欠陥はない」と偽って買い主に売却した行為を不法行為と認定した判例もあります。急傾斜崩壊危険区域内に土地があり、そのままでは建築確認が下りない土地について「欠陥はない」として売却したケースや、売り主自らが建築した建物の地下室の防水工事が不十分だったことから、引き渡し後に擁壁が崩壊したケースなどで売り主の不法行為が肯定された判例もあります。
第三者に対する不法行為
新築住宅の場合、買い主は設計会社に設計を依頼したり、建設会社に工事を請け負わせたりします。このため、設計や工事にミスや問題があり、買い主に損害が発生した場合、買い主は債務不履行や瑕疵担保責任を根拠に、設計会社や建設会社の責任を追及することになります。しかし、中古住宅の場合は、買い主と設計会社や建設会社との間に契約関係はありません。このため、債務不履行や瑕疵担保責任を根拠とした追及はできず、不法行為に当たるとして損害賠償を請求します。
平成16年の高裁レベルの判例は、設計会社や建設会社の不法行為責任について「目的物に瑕疵があるからといって、当然に不法行為の成立が問題になるわけではなく、その違法性が強度である場合、例えば、請負人が注文者等の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵ある目的物を制作した場合や、瑕疵の内容が反社会性あるいは反倫理性を帯びる場合、瑕疵の程度・内容が重大で、目的物の存在自体が社会的に危険な状態である場合等に限って、不法行為責任が成立する余地が出てくる」としていました。しかし、同19年の最高裁判例は「建築物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命・身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工業者等は、不法行為の成立を主張する者が瑕疵の存在を知りながらこれを前提として建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。居住者等が建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない」と指摘しました。最高裁は事実上、設計会社や建設会社の責任の範囲を広げたのです。最高裁はさらに同23年、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に関し「居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる瑕疵」だと判示しています。
また、売り主が売買契約の相手方である買い主以外の「第三者」に対して不法行為責任を負うケースもあります。不動産の買い主から物件を譲り受けた第三者が、売り主の買い主に対する説明義務違反が元で損害を受けたと主張した裁判で、売り主の不法行為責任を認めた判例があります。また、売り主が完了検査を受けていなかった新築住宅について、買い主から買い取った第三者に対する売り主の不法行為責任を認めた判例もあります。