媒介契約
宅建業者に不動産の売買・賃貸借・交換の媒介を依頼する契約を「媒介契約」と呼びます。不動産業を営んでいない個人が自力で価格や引き渡し時期などの条件が合致する相手方を見つけるのは困難ですから、専門家の宅建業者に取引相手を見つけてくれるよう依頼することになります。 宅建業法により、媒介契約を締結した場合は、後々に契約の有無や内容、報酬などを巡ってトラブルが生じることのないよう、宅建業者が遅滞なく一定の契約内容を記した書面を作成し、依頼者に交付することを義務付けられています。 媒介契約には、依頼者が他の宅建業者に重複して依頼できない「専任媒介契約」と、重ねて依頼できる「一般媒介契約」があることは、上述した通りです。前者にはさらに、媒介を依頼した業者が探した相手以外の者と売買などの契約をしてはならないという縛りが付加される「専属専任媒介契約」があります。つまり、依頼者が自分で見つけた相手との契約も禁じるルールの契約です。
標準媒介契約約款
標準媒介契約約款は、不動産売買における依頼者の保護や紛争の防止、不動産流通の円滑化を図る目的で示された「標準ルール」です。旧建設大臣が住宅宅地審議会の答申を踏まえて昭和57年に発出した「告示」で、平成2年と同9年に改正されています。 宅建業者が媒介契約書を作成する場合は、このルールに基づくものか否かを、契約書に記載しなければなりません。旧建設省は通達で、通常の取引の媒介契約にはこのルールを用いるよう宅建業者に呼びかけています。 なお、不動産の賃貸借については、同6年の住宅宅地審議会の答申に基づく「住宅の賃貸借媒介等及び管理委託に関する標準契約書」が標準ルールとなっています。
約款によらない契約
標準媒介契約約款に基づかない契約を締結したとしても法律上無効ではありません。ただ、旧建設省は同約款が施行された昭和57年以降は、この標準ルールを用いるよう指導してきています。 このルールは、不動産取引に不慣れな一般の依頼者が専門家の宅建業者との間で不利な契約を締結させられないように定められ、依頼者と業者の間のトラブル防止を図っています。媒介契約書の冒頭に契約がこのルールに基づいているかどうかを明記する必要があり、記載がないと行政処分の対象となります。
専属専任媒介契約
「専属専任媒介契約」は、専任媒介契約の一種で、自己発見取引禁止の特約を付したものです。業者はこの専属専任媒介契約を締結した場合、専任媒介契約の場合と同様に契約の相手方を探すため、旧建設省令で規定された期間内に契約目的物の所在や規模、形質、価額などの事項を「指定流通機構」に登録し、週に1回以上、業務処理状況を報告する義務を課されます。一方で、専属専任媒介契約を結びながら、依頼者が業者を介さずに自ら発見した相手方と契約した場合(自己発見取引)、業者は依頼者に違約金の支払いを求められます。機構への登録内容は、物件の評価額や都市計画法などの法令制限などです。
契約書の作成
宅建業法により、宅建業者は不動産の売買などの媒介契約を締結した場合は、一定事項を記載した書面(通常は媒介契約書)を作成し、依頼者に交付しなければなりません。もし、業者が交付しなかった場合は、行政処分を受けます。この書面の作成は宅建業者にとって、後日の紛争を防止する有効な手段です。媒介契約が成立したら、直ちに作成しなければなりません。
契約成立
不動産売買に向けた媒介契約の成立時点は、依頼者が売り主か買い主かで異なります。 依頼者が売り主の場合、宅建業者との間で取引物件の売却価格について明確な合意に至った時点か、宅建業者が依頼者の希望により店舗での物件の掲示や情報リストへの掲載など広告宣伝を行った時点となります。 一方で、依頼者が買い主の場合、依頼者が宅建業者に明確に媒介を依頼して業者が承諾した時点▽依頼者が物件を特定し、購入の媒介を求め、業者が承諾した時点▽依頼者が複数の物件を検討する段階から、さらに進んで特定物件に絞り、宅建業者が具体的に媒介行為を始めた時点――となります。 なお、依頼者が買い主の場合、宅建業者が手持ち物件を紹介して現地案内などをした時点▽業者が売り主の氏名や住所やを知らせただけの時点▽買い主の検討物件が複数ある時点▽業者が依頼者から購入したい物件の希望条件を聞き出して顧客リストに搭載しただけの時点▽業者が依頼者のための積極的な行動を起こしていない時点――は契約成立に至ったとは言えません。
売りの媒介
宅建業者が、売り主から不動産を売りたいと媒介依頼を受けた場合、最も重要なのは物件の売り出し価格について、どう助言するのかになります。不動産取引について専門的な知識を持たない一般の人では、適正な価格が判断できないからです。もちろん、売り主の希望を考慮する必要はありますが、売り主の「言い値」そのままで売買契約に至るとは限りません。専門知識や携わった実例などを踏まえ、売り主の希望額から調整するのが通常です。なお、宅建業法や標準媒介契約約款により、業者が売り出し価格について意見を述べる場合は、根拠を示して説明する義務を負います。
契約更新
宅建業法に基づき、宅建業者は媒介契約の有効期間を定めなければなりません。この有効期間が満了する場合、標準媒介契約約款により業者は依頼者との合意に基づいて有効期間を更新できます。 この更新手続きでは、有効期間の満了に際し「依頼者から」宅建業者に文書で期間更新の申し出をすることになっています。「文書による申し出」が必要なのは、更新が依頼者の明確な意思であることを証拠として残し、後々のトラブルを防止する意味合いがあります。文書による申し出は、更新ごとに必要で、2回目の更新以降は不要ということはありません。従って、業者と依頼者の双方が合意していたとしても「自動更新」は認められていません。なお、専任媒介契約と専属専任媒介契約の場合は、依頼者からの申し出が「法律上の要件」です。
専任媒介契約違反
「専任媒介契約」は、依頼者が特定の宅建業者に媒介を委ね、他の業者には依頼しないことを約束するものです。業者からすると、独占的な依頼を受けることで、専任でない契約より優先的に契約成立に向けて努力することになります。 この契約では、宅建業者は媒介契約締結後7日以内に流通機構に登録して相手方を探すべく積極的に行動し、2週間に1回以上、依頼者に経過を文書で報告する義務を課されます。また、専任媒介契約の一種で、自己発見取引の禁止が加わる「専属専任媒介契約」の場合は義務内容がさらに強まり、宅建業者は媒介契約締結後5日以内に流通機構に登録して相手方を探すべく積極的に行動し、1週間に1回以上、依頼者に経過を文書で報告する義務を課されます。 もし、依頼者が契約に反して他の宅建業者に媒介を依頼した場合、専任媒介契約を結ぶ業者は依頼者に対し「約定報酬額に相当する金額の違約金」の支払いを求めることができます。後々、依頼者から「そんな契約だとは知らなかった」と言われてトラブルにならないよう、専任媒介契約を締結する際は趣旨を入念に説明しておく必要があります。
自己発見取引
媒介契約を結んでいたのに、依頼者が自分で発見した(宅建業者以外の知人や親類などから紹介された場合を含みます)相手方と取引してしまった場合はどうなるのか、改めて整理しましょう。 専任媒介契約であっても「専属専任媒介契約」でなければ、自己発見取引自体を禁止しているわけではありません。ただし、標準媒介契約約款では、こうした場合に依頼者に対して業者への通知を義務付けています。そして、通知を受けた業者は依頼者に対し「専任媒介契約の履行のために要した費用」を請求できます。 費用の内訳としては、不動産物件の現地調査や権利調査に要した費用、広告や通信など物件販売に要した費用、契約交渉に向けて要した費用などがありますが、標準媒介契約約款は、約定報酬額を超えてはならないとしています。また、費用を請求する場合は明細書を作成し、領収書類で具体的に金額を証明して請求するよう国の通達が求めています。 そして、「専属専任媒介契約」の場合は、自己発見取引を禁じているため、依頼者に違約金を請求できます。 「一般媒介契約」の場合も、標準媒介契約約款により、依頼者が自ら発見した相手方と物件の売買契約を締結した時は、業者に「遅滞なくその旨を通知しなければならない」とされます。そして、依頼者が通知を怠った場合、業者が「媒介契約の事務の処理を要する費用」を支出していれば、依頼者に費用を請求できます。ただ、この費用の額は上記の「履行費用」より相当少額になると考えられます。
代理契約書
宅建業法により、宅建業者に不動産の売買などの「代理」を依頼する契約については、媒介契約に関する規定が準用されます。業者は媒介契約に準じ、宅建業法34条の2第1項に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者に交付しなければなりません。なお、国は通達で、通常取引の代理契約の場合、契約の相手方や対象物件、取引価格などの諸条件が確定した後に「代理権」を受けるよう業者に指導しています。
媒介契約の解除
宅建業法は、媒介契約を書面化する際は、契約解除に関する事項を必ず記載するよう定めています。そして、標準媒介契約約款は、二つの解除条項を示しています。一つは、民法上の履行遅滞に基づく契約解除の規定と同趣旨の内容です。つまり、宅建業者が媒介契約に定める義務の履行をしない場合、依頼者は相当の期間を定めて履行を催促し、その期間内に履行されない時は媒介契約を解除することができるとするものです。 もう一つは、業者に一定の背信行為があった場合、依頼者に一方的な解除権が認められるとするものです。この一方的な解除を認めるケースは、宅建業者が媒介契約上の義務について「信義を旨とし誠実に遂行する義務」に違反した場合▽業者が媒介契約上の重要な事項について故意か重過失で事実を告げず、又は不実を告げる行為をした場合▽業者が宅建業に関して不正又は著しく不当な行為をした場合――です。こうした「解除事由」がなければ、依頼者は合意された期間内に(依頼者の責めに帰すことができない場合を除き)自己都合で一方的に媒介契約を解除することは認められていません。
指定流通機構
宅建業者が依頼者と「専任媒介契約」か「専属専任媒介契約」を締結した場合、取り扱う物件の情報を指定流通機構に登録しなければなりません。業者が媒介契約締結後にこの登録をしなかったり、依頼者に登録済証を交付しなかったりした場合は、行政処分の対象となり得ます。また、登録に要した費用は業者が負担し、依頼者に請求できません。
【メモ】指定流通機構
宅建業者間で広く物件情報を交換し、不動産取引を迅速に進める目的で国土交通大臣が指定した公益法人。全国に四つの公益法人が地域ごとに指定されており、各宅建業者は入会審査を経て会員となる。会員業者は、機構が運営する物件情報ネットワークシステム「レインズ」を利用できる。宅建業者のうち「専属専任媒介」と「専任媒介」の物件は機構への登録が義務付けられている。レインズは「Real Estate Information Network System」の略で、平成2年に開設されました。このシステムでは、標準化された不動産情報が登録され、ネットワークを通じて会員に公開されるため、リアルタイムで売却希望者と購入希望者の情報交換が可能となります。借地権付建物
借地借家法の定めにより、建物の所有を目的とする借地権には「地上権」と「土地賃借権」の二つがあります。 前者は、地主と地上権設定契約を締結することによって生じます。この契約で、借地人は直接、借地を支配し、使用収益をすることができます。また、地主の承諾を得ずに第三者に譲渡、転貸も可能です。 後者は、地主が賃借人に土地の使用収益を認め、賃借人が賃料を支払う土地賃貸借契約によって生じます。この契約の使用権は「債権」となるため、地主の承諾なしに第三者に譲渡、転貸することはできません。 業者が依頼を受けて「借地権付建物」の売却を媒介する場合、土地の所有者は誰か▽売り主が適法な借地権を有しているか▽建物の登記はどうなっているか▽買い主の土地使用について地主の承諾が得られるか――などを慎重に調査する必要があります。これらを確認しないまま媒介すると、予想外のトラブルに巻き込まれ、依頼者から損害賠償を請求されることにもなりかねません。
売り主の代理人
売買契約を媒介するに当たり、売り主が「代理人」を立ててきた場合は、どのような注意が必要でしょうか。 民法により、代理人が代理権の範囲内で本人のためにすることを示してなした意思表示の効果は、直接本人に対して効力を生じます。売り主が代理人を立てたということは、代理人が売り主から委任状を受け取り、売り主に代わって売買契約の交渉や締結を担うことになります。 宅建業者は取引の媒介に当たり「信義誠実を旨とし、善良なる管理者としての注意義務」を求められます。この義務を怠って依頼者が損害を被れば、損害賠償を請求されます。このため、業者としては「代理人の資格や権限」について十分に調査、確認をする必要があります。 具体的には、売り主本人が本当に代理人としての資格を与えたのか、代理権限はどの範囲になるのか、を売り主に直接照会します。照会は電話やメールで済ますのではなく、売り主との面会で確認するべきです。この際、売り主に対しては、委任状や印鑑証明、権利証など代理権の存在を確認できる書類の提示を求めます。
売り主の買い取り請求
宅建業者が土地の売却依頼を受け、専任媒介契約を締結しました。依頼者の強い希望で売り出し価格を高めに設定せざるを得ず、その結果、なかなか買い手が付かず、さらに依頼者から「媒介契約の有効期間中に売れなかったら、債務不履行だ。土地を買い取ってほしい」と要求されたとしましょう。業者に土地の買い取り義務は発生するのでしょうか。 専任媒介契約を締結した業者は、標準媒介契約約款で「契約の相手方を探索するとともに、契約の相手方との契約条件の調整などを行い、契約の成立に向けて積極的に努力すること」と規定されています。つまり「契約の成立に向けて積極的に努力する義務」はありますが、売買契約を成立させなければならない「義務」までは課されません。このため、上記のような例で「買い取り義務」は生じません。依頼者に対し、買い手が付かない理由を説明し、価格を下げるなどして柔軟に対応する必要があるでしょう。
直接取引
専任媒介契約を締結している物件について売り主に対して購入希望者を紹介したところ、最終的に購入希望者から断りの連絡があり、媒介契約も更新しなかったとします。しかし、その1年後、売り主と購入希望者が直接取引をして売買契約を結んでいることが分かった場合、どのような措置を取ることになるでしょうか。 標準専任媒介契約約款は「専任媒介契約の有効期間中又は期間満了後2年以内に、依頼者が宅建業者の紹介によって知った相手方と業者を排除して売買又は交換の契約を締結した時は、業者は依頼者に対し、契約成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができる」と規定しています。従って、上記のようなケースでは、業者は売り主に相当額の報酬を請求できます。ただ、請求できる報酬額はあくまで「契約成立への寄与割合」であることに注意が必要です。
買い替え不調
所有している住居を売却し、売却資金で新たな住居を買い取る「買い替え」を計画しているとします。宅建業者に依頼したところ、購入する住宅が見つかって売買契約の締結に至ったものの、支払期限の直前に至っても、現在の住居の買い取り相手が見つからない場合はどうしたらいいでしょうか。 まず、住宅の買い取り契約を結んだ相手方に対しては、既に代金支払い義務が生じています。新たに購入する住宅が決まっていないからといって、代金を支払わないと、相手方は債務不履行を理由に契約解除と損害賠償を求めてくるかもしれません。まず、支払期限を猶予してもらえるよう、交渉する必要があるでしょう。 その上で、買い手が見つかるよう業者にさらなる努力を促すべきですが、埒があかなければ、別の業者に依頼し直す手もあります。仮に業者が「買い手がつかなければ、自分のところで買い取る」と約束していれば、買い取りを請求してもいいでしょう。
解除条件付契約
住宅の「買い替え」を計画し、宅建業者から売り主の紹介を受け、売り主と「今所有している住宅の買い手がなければ、宅建業者が下取りする。それができない場合は、契約を解除する」という特約付きの売買契約を結んで手付金払いました。結局、買い手が見つからず、業者も下取りに応じないので、契約を解除する場合、手付金は戻るのでしょうか。 不動産売買契約のルールとしては、契約締結時に交付した手付金は「放棄することにより解約できる」ことになっています。ただし、契約自由の原則から、当事者間でこのルールとは異なる取り決めをすることは可能です。上記のようなケースは、条件が満たされなかった場合、契約の効力が失われるという「解除条件付売買契約」になります。こうした契約では、特約に従って無条件に契約を解除し、手付金の返還も請求できることになります。
下取りトラブル
住宅の「買い替え」を計画し、まず、宅建業者から新居の紹介を受けて購入契約を結びました。手付金を払い、元の住まいは業者に下取りしてもらったところ、業者は早々に購入希望者を探してきました。業者から手付金を受け取ったのですが、当方の急な事情で「下取り契約の解除」を業者に求めたところ、「購入希望者に対し、その人が納めた手付金の倍額を支払う必要がある」と説明されました。果たして、そうなのでしょうか。 こうした場合、購入希望者は一度結んだ契約を解除される以上、手付金の倍返しを受ける権利があります。しかし、この場合に倍返しをするのは、元の住まいの売り主となる宅建業者となります。ただ、契約解除の原因は依頼者にあるわけですから、業者に発生する損害は依頼者が賠償することになります。 ただ、上記のようなケースでは、宅建業者が新居の購入が「完了」した後に元の住まいを売却していれば、こうしたトラブルは起きていないはずです。業者の不注意とも言えますから、業者が手付金の倍返しを負担するという選択肢も生じます。
買い替えと欠陥
住宅の「買い替え」を計画し、新居(中古住宅)の購入と旧居の売却の双方について売買契約を締結し、新居の売り主に手付金を納める一方、旧居の買い主から手付金を受け取りました。しかし、旧居に欠陥が見つかり、いずれの契約も解除することにしました。こうした場合、手付金の扱いはどうなるのでしょうか。 まず、新居の欠陥は、民法上の「隠れたる瑕疵」となります。従って、欠陥を発見した新居の買い主は契約を解除し、売り主に損害賠償を請求できます。この場合は「手付金を放棄することによる解除」には当たりませんから、手付金を放棄する必要はありません。このケースでは、契約解除の原因は新居の売り主にあるわけですから、新居の買い主は手付金の返還を求められます。 これに対し、旧居の売り主(=新居の買い主)は、旧居の売却について別の人と別の売買契約を結んでいるわけですから、新居の欠陥や契約解除は旧居に関わる契約関係に影響しません。従って、旧居の買い主との間では、通常の売買契約の原則に従う必要があり、契約を解除する場合は手付金を倍にして返さなければなりません。
契約打ち切り
不動産を購入するため、Aという宅建業者と専任媒介契約を結び、ある物件の購入を検討しましたが、価格が高くて断念しました。その後、複数の物件について新たに検討しましたが、折り合いが付かず、Aに「これ以上の紹介は結構です」と告げました。 半年後、今度はBという業者に頼んだところ、以前断念した物件が2割も安い価格で販売されていたので、購入することにしました。ところが、Bのみならず、Aからも成功報酬の一部を求めてきました。Aにも報酬を支払うべきでしょうか。 もし、依頼者が宅建業者と「専任媒介契約」を交わし、その契約の有効期間内に他の業者の媒介で同一物件を売買した場合、双方から報酬を請求されてもやむを得ません。しかし、上記の場合は「これ以上の紹介は結構です」といったん媒介契約を打ち切っており、Aとの媒介契約が継続しているということはできません。従って、依頼者はAからの報酬請求に応じる必要はありません。
想定外の自己発見
住宅を売却しようと、宅建業者に依頼し「必ず早期に買い手を見つけます」と言われて専属専任媒介契約を締結しました。しかし、直後に親族から「買いたい人がいる」と購入希望者を紹介されてしまいました。買い取り額も希望にかなう条件を示してきたので、この際、売ってしまいたいとなった場合はどうなるのでしょうか。 宅建業者との間で締結する媒介契約のうち「一般媒介契約」は、別の業者にも媒介を依頼したり、自分で直接売却先を探して売買契約を締結したりすることが可能です。次に「専任媒介契約」は、他の業者に媒介を依頼することができません。さらに「専属専任媒介契約」は、専任媒介契約に自己発見取引禁止の特約が付いたものです。この特約では、同一物件に関し、依頼者が媒介を頼んだ業者が探した相手方以外の人と売買契約を締結することができません。つまり、自ら見つけた相手に勝手に売却することができないのです。 上記のようなケースでは、専属専任媒介契約の有効期間中に、業者に媒介を依頼していた物件について「自己発見」した相手に売却することになり、明確な契約違反となります。仮に売却すれば、業者から違約金として事実上の報酬を請求されます。
誇大広告
不動産取引を希望する人が誤った判断をしないよう、「誇大広告」は法律で規制されています。まず、商品全般に適用されるのが「不当景品類及び不当表示防止法」(景表法)です。景表法は、提供する商品やサービスの内容又は価格などの取引条件について、実際のもの又は他の事業者のものよりも著しく優良、有利であると一般消費者に誤解させ、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示について「不当表示」に当たるとして禁止しています。 また、不動産の広告に限定すると、宅建業法が取引対象となる物件の内容や代金などで著しく事実と異なる表示をしたり、実際のものよりも著しく優良、有利であると誤解されても仕方のない表示をしたりすることを「誇大広告」に当たるとして禁じています。一般消費者は、不動産の専門家である宅建業者と知識などの点で格差がありますから、法律が弱者を保護しているのです。
手付金を建て替えて契約
手付金を建て替えて契約をしたが……
A社から受託している新築建売住宅のオープンハウスに来場した顧客が気に入ったようなので、事務所に来てもらい契約の交渉をしました。手付金200万円で残りは住宅ローンということで契約の同意を得ましたが、手付金の準備に時間がかかるので用意できてから契約したといいます。そこで手付金200万円を当社がいったん立て替えることで同意し、貸付(無利息)の書面を交わしたうえで契約を締結しました。ところが、2日後に、買主から「契約を解除したい」との電話があり、貸し付けた200万円の支払いをめぐりトラブルになっています。
売主買主間の合意のもとで契約が有効に成立すると、買主がこの時点で契約を解除するには手付金を放棄することになります。本件トラブルの民事の争いについての判断はできませんが、宅建業法の側面からみると……。
見学したその日には契約を締結させたことが直ちに違法とは言いませんが、宅建業法47条3号は「手付金について貸し付けをすることにより契約の締結を誘引する行為」を禁止しています。手付金を貸し付けて契約させたことは、契約の誘因行為違反として厳しい処分の対象となります。売主業者に事情を説明して、契約の白紙解除(合意解除)に同意してもらえるように交渉し、買主が手付金の返還を受けられるように尽力することが何より大事です。あくまでも請求すると、さらに大きなトラブルになる可能性があります。