値下げ販売
建売住宅やマンションの分譲は、対象区画や部屋数が多いため、分譲開始から終了まで時間がかかります。このため、市場価格が変動し、当初の販売価格と後の販売価格に差が生じるケースも出てしまいます。この差があまりに大きいと、不満を抱く購入者も出てくるでしょう。市場価格の変動に伴い、売り主が販売価格を下げた場合に、当初の購入者との間で違法となる場合はあるでしょうか。
不動産の価格は、需要と供給の関係で決まる以上、市況に応じて変動します。従って、売買契約で「値引き販売はしない」と約定していない限り(そもそも有効な約定と言えるかどうかという問題がありますが)、売り主に「値下げ販売をしない義務」があるとは言えません。実際、値下げ販売に及んだ売り主の責任を否定した裁判例は多くあります。
一方、「値下げ後の価格が市況相場に照らし著しく低廉で、当初に販売された同種同等の建売住宅の資産価値が市況相場より大きく引き下げられたと認められる場合」や「売買の目的物と同種同等の物件が今後も売買額と同等の価格で販売され続けるだろうとの期待を買い主が抱いても無理はないといえるような言動があった場合」について、売り主の責任を肯定した判例があります。
また、住宅供給公社が分譲したマンションについて、「公社は価格設定において一般の分譲業者と比べてより重い責任が課せられており、消費者は同公社の公的性格から譲渡価格の設定が適正になされるものと信じてこれを購入しているのだから、売残住宅が生じた場合、完売を急ぐあまり、市場価格の下限を大きく下回る廉価でこれを販売すると、既購入者らが有する住戸の評価を市場価格よりも一層低下させるなど損害を被らせるおそれがある」とした判例があり、公社に対して慰謝料の支払いを命じています。
さらに、住宅・都市整備公団が建替事業に当たり、建て替え後の分譲住宅を旧賃借人に優先的にあっせんした後、未分譲分の一般公募を直ちにし、一般公募の譲渡価格と旧賃借人の譲渡価格を少なくとも同等とすると決めた上で、旧賃借人が住宅を明け渡し、実際に公団から建て替え後の住宅を購入したものの、公団がその後直ちに一般公募せず、3年後に至って、ようやく一般公募をしたという事案で、「公団側が一般公募を直ちにする意思がないことを一切説明しなかったことで、旧賃借人が分譲住宅の価格の適否を十分に検討した上で本件各譲渡契約を締結するか否かを決める機会を奪った」として、公団に対して慰謝料の支払いを命じた判例もあります。