不動産担保のトラブル

金銭債権の確保のため、抵当権を設定して不動産を担保にとることがあります。目的物の交換価値を優先的に支配して、債権の弁済にあてる制度です。抵当権は競売の申立てをし、裁判所の開始決定があって進行しますが、競売申立てが有効であるための要件は①有効に抵当権が設定されたこと②担保される債権が約束時に弁済されなかったことです。

債権額の争いといった被担保債権の内容や、担保として提供された物件の真の所有者は別におり、所有者の同意がないなどの抗議で、抵当権の実行に関するトラブルは、表面化します。

競売手続きは、申立てまでになすべき準備があります。抵当権の設定後に所有権、地上権、永小作権を取得して、その本登記か仮登記をした第三者がいれば、その者に抵当権の実行通知を出さなければなりません。こうした手続きの瑕疵を理由に紛争が起きることもあり、競売手続きの進行中に、利害関係人から異議が出ると、手続きは一時ストップすることがあります。

地震などの災害によって抵当権の付いている建物が全壊した場合には、その抵当権も消滅することになります。残った建物の廃材にまで抵当権の効力が及ぶことはありません。そのため、債権者である抵当権者も、このような事態を想定して、抵当権設定契約を結ぶ際に、追加担保の条項を入れたり、期限の利益がなくなる旨の条項を入れたりします。どのような特約が契約に盛り込まれているか把握しておきましょう。もちろん、全壊した建物を再築した場合、抵当権の効力は再築した建物には及びません。しかし、抵当権者は再築建物に対して、強制執行をできる旨の公文書を取得して、強制執行や仮差押えをしてくるかもしれません。この点には注意が必要です。

また、全壊という段階に至らなかったが、債務者がこれを壊してしまったという場合には、担保保持義務違反となり、抵当権者から損害賠償を請求されるおそれがあります。

不動産登記のトラブル

売買契約が成立しても、売主から買主への所有権移転登記を経ていない間に、売主が第三者に無断で譲渡をして、この第三者が買主よりも先に移転登記を行ってしまうこともあります。この場合、たとえ買主が代金を払っていても、先に買った買主は登記がないために、あとから買った第三者に所有権者としての権利主張ができないとされています(民法177条)。

こうしたことを防ぐには、契約書の中で登記に関する事項、代金支払いの方法に関する事項、損害賠償に関する条項など履行確保の約定を入れておく必要があります。その上で、契約を済ませ、売主から登記に必要な書類を受け取ったら、すぐに登記手続きを済ませることが必要です。

また、その後のトラブルを避けるためにも、土地や建物を購入する際、購入前に購入物件の不動産登記事項証明書(登記簿謄本)を取り寄せてチェックすることが大切です。不動産業者の仲介物件の場合には業者が取り寄せてくれますが、直接、売主から購入する場合には自分で取り寄せる必要があります。その不動産の所在地を管轄する法務局やその出張所で、誰でも登記事項証明書を取ることができます。登記簿は土地と建物と別々になっているので、土地付き家屋の場合は、両方の登記事項証明書を取らなければなりません。

登記事項証明書を取り寄せたら、①所有権に関する確認②土地の所在、番地、地目、地積の調査を行います。現在の所有者が誰になっているのか。もし、所有者が売主になっていれば交渉を進めてもよいですが、所有者名義と売主が違っている場合には注意をしなければなりません。現在の売主が所有者である場合でも、自分の名義にしないままで、前の所有者から新しい買手の名義へと直接移す中間省略登記は、現在認められていません。また、土地建物の所在・地番・家屋番号、土地の地目・地積(面積)、建物の面積などが広告や実物と異ならないかチェックします。

加えて、抵当権、根抵当権の有無、各種仮登記、仮処分仮差押登記、予告登記、差押登記などの登記が付いているかどうかを見ます。とくに、抵当権、根抵当権などの各種登記には賃貸借仮登記、代物弁済仮登記が同時に登記されていることが多く、原則として、これらの登記は、売主に抹消させた上で買い受けるべきです。

隣近所や住環境のトラブル

隣地との境界や境界線付近の工作物の設置、隣地通行に関する問題は、相隣関係と言われ、従来、家と土地をめぐる隣近所とのトラブルの大半を占めるものでした。しかし、近年では、高層マンション建設による日照権の侵害やプライバシーの侵害、ペットの鳴き声や悪臭、カラオケの騒音など、住宅環境のトラブルも、また大きな問題となっています。この他、高層ビルやマンションによる電波障害や景観侵害、建築工事の振動なども紛争になることがあります。

隣近所とのトラブルである相隣関係については、民法に規定があります。(209条~238条)
民法が相隣関係として定めるのは、以下のものです。

  1. ①隣地の使用に関するもの(隣地使用権、公道に至るための他の土地の通行権)
  2. ②排水・流水に関するもの(排水権、流水利用権)
  3. ③境界に関するもの(境界標設置権、囲障設置権、境界線上の工作物の共有)
  4. ④竹木切除に関するもの
  5. ⑤境界線付近での工作物築造の関するもの(距離の制限、目隠し設置義務)

ただし、これらは任意規定であり、また慣習があれば原則としてそれに従うこととなります。
マンションについては建物区分所有法に定めがありますし、日照権や騒音といった住宅環境は、建築基準法や騒音防止法で規制されます。また、紛争の解決には、民事訴訟法や民事調停法、公害紛争処理法のほか、裁判外紛争解決手続きの利用促進に関する法律も定められました。

隣近所や住宅環境のトラブル解決手続き

近隣とのトラブルが発生し、権利を侵害された場合、問題を解決するには、まず当事者間の話し合いが一番です。いきなり法的手段を取る方法もありますが、お互いに意見を出し合うと、意外と簡単に解決する場合があります。相手が話し合いに応じない場合や互いに妥協点が見つからない場合は裁判所に調停や訴訟を起こすしかありません。

訴訟による解決とは、裁判所という国家権力を背景にして、強制的に紛争を解決することです。一方、民事調停による解決は、不動産トラブルのような民事に関する紛争中の当事者について、管轄する裁判所の調停委員会が話し合いの仲介をし、当事者双方の歩み寄りによって紛争を解決する手続きをいいます。民事調停と似た解決法に、訴え提起前の和解(民事訴訟法275条 即決和解ともいう)というものがあります。これは、訴訟手続きに入る前の段階でなされる和解のことです。多くの場合、紛争解決の約束事を和解調書として残しておきたい場合に利用されます。

マイホーム購入と住宅ローン

一戸建て、マンション、新築、中古と種類はさまざまですが、マイホームを購入する際、大半の人が住宅ローン計画をたてると思います。どこから、いくら借りるか考えることは、それはそれで楽しいプラン作りですが、ローンは借金だということを忘れてはなりません。いくら借りられるかではなく、いくらなら今の生活を維持しながら返せるかに重点を置いて計画を立てる必要があります。

返済不可能になった場合

住宅ローンの返済は、20年、30年というように長期間に及びます。その間に、病気、火災、会社倒産など、どんな不測の事態が起こらないとも限りません。では、万一、住宅ローンの返済ができなくなった場合には、どうすればよいのでしょうか。

返済できない事態に至ったときは、金融機関に対して早めに事情説明をし、実現可能な今後の方針を説明し相談すべきです。住宅ローンを取り扱っている金融機関に相談に行けば、何らかの対策を考えてくれます。金融機関で構成している各地の銀行協会では「銀行とりひき相談所」を設けており、消費者の相談に応じています。また最悪の場合でも、個人版民事再生法を利用する手段もあります。しかし、決め手となるのは実際に融資を受けた金融機関の窓口ですので、そこで相談をするのがよいでしょう。

 

震災の被害に遭い、住む家がなくなり、職を失い収入が無くなったからといって、住宅ローンの支払義務が消滅するわけではありません。しかし、これまで自然災害の場合には、何らかの施策が講じられてきています。たとえば、阪神・淡路大震災の場合には、公的機関の住宅ローンばかりではなく、民間の金融機関の住宅ローンでも、支払期間の延長、一定期間の支払猶予などの軽減措置がとられました。被災者のできることは、自己の融資先の窓口に問い合わせ、特別な措置がとられていないかどうか、とられていない場合でも粘り強くこちらの事情を伝え交渉するしか方法はありません。また、場合によっては裁判所の手を借りて、調停手続きを利用し、支払猶予の話し合いをすることも一つの手段です。

不動産の売却・買い替え・建て替え

1.売主となる際の注意点

売主はできるだけ高値で売りたいと思うものです。しかし、そのために抵当権が設定されていることや、家屋に損傷があることなどを黙って売りつけることはできません。物件に瑕疵がある場合は、重要事項説明書に記載し、必ず契約前の段階で、買主に対してその物件に関する重要な情報は与えなければなりません。重要事項説明書への記載を怠ると、後で損害賠償請求や契約の解除をされることもあります。 依頼した業者に対して、正直に申し出なければなりません。また、国土利用法や農地法等で、一定面積以上の土地取引をする場合は、都道府県知事等での届出や許可が必要な場合があります。取引が大規模な場合は気をつけなければなりません。

2.契約の際の注意点

後になって話が違うなどということがないように、証拠書類としての書面を作成して両当事者で確認の上、保管しておくことが大切です。また、必要な書類などは事前に準備して遺漏のないようにしましょう。

3.買い替えの注意点

買い替えで重要なことは、購入金額は売る物件から得ることになるので、いくらで売れるかの算定を厳密にすることです。したがって、甘い計画を立てていると物件が売れない、予定より安くしか売れないということになりかねないため、資金計画がすぐに破綻してしまいます。

また、買い替えは、売却と購入を同時にするのがよいとされていますが、売却がスムーズにいかない場合のことも考えて①購入を急いでしないこと②購入を急ぐ場合には、つなぎ資金のことも検討すること、といった対策を立てておくとよいでしょう。

買い替えでは、購入と売却の両方を一度に進めるため、動くお金も大きくなります。また、手続きも大変なので、事前に計画を綿密に立て、かつ信頼できる業者に依頼することが重要となります。

4.住宅建て替えの注意点

住宅の建て替えは、土地を買って建物を新築する場合と同様です。ただし、建て替え特有の問題もあります。

①建築規制の変更
現在の建物が建てられた時と、建築規制が変わっている可能性があります。そのため、土地によっては、規制をクリアできず、建築できたのに建て替えができない場合もあります。なお、建て替えができなくても、補修はできます。
②地主の承諾
土地が借地(賃借権)の場合には、地主の承諾が必要です。承諾なしに建て替えを行うと、契約違反として借地契約の解除原因となります。地主が建て替えを承諾しない場合には、裁判所に申し立てて、地主の承諾に代わる許可を得る必要があります。また、必ず見積もりを取り、契約書を作成してください。

欠陥住宅のトラブル・ 業者の修理義務

大きなニュースとなった耐震偽装マンションのように、建売住宅など建築をめぐる紛争は少なくありません。欠陥住宅とは、住宅としての機能を果たさない、本来の契約に従わない瑕疵のある住宅をいいます。

瑕疵判断の基準は以下の通りとなります。

①建築基準法等の法規違反があること
法規に違反した設計や施工がなされている場合
②売買・請負契約に違反していること
契約通りの材料が使われていない、契約通りの仕様が施工されていない、契約通りの器具が取り付けられていない場合
③通常の品質、性能に比して劣っていること
仕様どおりの性能が期待できない、部材の品質が仕様書通りの物でない、納品商品にキズがある、施工後の納まりが悪い場合
④経済的交換価値が損なわれていること
外観が見苦しい、安全性が損なわれている、居住性能(使い勝手)がよくない、維持保守のために異常な経費がかかる場合

当該の建築物を点検し、瑕疵があれば速やかに対処する必要があります。
なお、住宅性能表示と建物の基本構造部分について10年間の契約不適合責任を義務付けた担保責任の特例を内容とする「住宅品質確保促進法」が制定・施行されています。(20年以内まで伸長可能。同法97条)

2020-03-18 16:59 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所