概括
不動産取引を巡って裁判を起こす場合は、法的な専門知識が不可欠となるため、多くの場合は弁護士に委任します。この際、弁護士費用が必要となります。その費用は損害として相手方に請求できるのでしょうか。
最高裁はこの点について「請求が不法行為に基づく場合には損害に含まれる」との判断を示しています。一方で、「請求が債務不履行に基づく場合、弁護士費用は損害に含まれない」と指摘しています。
また、弁護士費用を損害と認める場合、金額は他の請求認容額の1割とされることが通常です。もっとも、認容額が高くなるほど弁護士費用の認容額に対する割合は低くなり、認容額が低くなるほど割合は高くなる傾向があります。
具体的には、6億円の認容額に弁護士費用を2000万円とした事例や、10万円の認容額に弁護士費用を2万円、200万円の認容額に弁護士費用を40万円としたケースがあります。
契約不適合責任
「契約不適合責任」については、弁護士費用が損害として認められるのでしょうか。契約不適合責任に基づく請求に対し、弁護士費用を肯定した裁判例は多くあり、理由について「訴訟の中でも極めて専門性や難度の高い部類に属する」「反社会性や反倫理性の程度において不法行為責任に匹敵すべき違法性がある」「争いつつも補修を考えるに当たり、代理人の存在が不可欠」「売り主の行為は不法行為にも匹敵」ことを挙げています。
ある裁判例は「土地の瑕疵(埋設物および汚染土壌の存在)を知らなかったために、訴訟代理人に訴訟の提起及び追行を委任することを余儀なくされたのであるから、契約不適合責任に基づき、(売り主に対し)相当額の弁護士費用の賠償を請求できると解するのが相当」とし、審理の経過や内容と難易度などの事情を考慮し、弁護士費用の額を2000万円と算定しています。別の裁判例は「売買契約における建物の瑕疵を知らなかったために、代理人に本件訴訟の提起、追行を委任することを余儀なくされたものというべきである」として認容額の1割に相当する70万円を「相当因果関係のある損害として損害賠償の範囲に含め」ています。
また、別の裁判例は「当然に含まれるものであるか否かはともかくとし、本件では相当因果関係の範囲内で、訴訟の提起、追行のために支出した金銭については、賠償する義務がある」とし、「訴訟の事案の難易、訴訟物の価額、認容額、その他諸般の事情を斟酌すると、(売り主に)賠償を求め得る弁護士費用としては、350万円をもって相当と判断する」とした裁判例もあります。他にも、擁壁の崩壊に関して契約不適合責任を認め、弁護士費用も肯定した裁判例があります。
逆に弁護士費用を否定する裁判例もあります。そうした判断では「不法行為で生じた損害の賠償を訴求するものではないこと」などが理由として挙げられています。
説明義務違反
売り主の説明義務違反による損害賠償には「債務不履行」と「不法行為」に基づくものがあります。最高裁は「債務不履行」による損害賠償請求に弁護士費用は含まれず、「不法行為」による損害賠償には弁護士費用が含まれるとしています。
ただ、債務不履行に基づく損害賠償請求では、不法行為構成も可能とされ、不法行為責任に匹敵する違法性があるとして、弁護士費用を肯定した裁判例もあります。逆に弁護士費用を否定した裁判例で、「不法行為を構成するほどの強度の違法性を有するものではない」と理由を示したケースもあります。
他に売り主の説明義務違反について弁護士費用を肯定した裁判例として、新築マンションの値下げ販売▽新築マンションの眺望▽原野商法▽崖条例▽接道条件▽土地計画道路区域内▽自動ドア▽土壌汚染浄化特約▽消費者契約法違反▽マンションからの眺望▽新築マンションでのペット飼育▽完了検査を受けていない新築建物の売却▽建築制限▽隣地の状況▽暴力団関係者へのマンション販売を回避する義務▽土砂崩れ死亡事故▽詐欺▽日照▽新築マンションの駐車場▽検査済証の交付▽在日韓国人の入居拒否▽不等沈下――などに関するものがあります。
逆に否定した裁判例には、第二種高度地区における規制▽土地区画整理事業の賦課金▽土壌汚染浄化義務――などに関するものがあります。
仲介業者の説明義務違反について弁護士費用を肯定した裁判例には、崖地▽新築マンションの眺望▽原野商法▽土壌汚染▽他人物売買▽接道条件▽土地計画道路区域内▽都市計画道路敷地▽シロアリ被害、柱等の腐食▽賃貸借契約書案の作成▽境界紛争▽私道通行▽日照▽雨漏り▽売り主の権限▽代理権限――などに関するものがあります。
賃借人や賃貸媒介業者の義務違反に関して弁護士費用を肯定した裁判例には、飲食店経営のための用途変更手続きの必要性が瑕疵だった事案▽無断転貸▽高齢者向け緊急対応サービスの提供義務違反▽外国籍を理由とする交渉破棄▽賃貸での根抵当権の説明▽外国籍を理由とする交渉破棄――などがあります。