第6節 新築住宅

新築建物における瑕疵担保責任

構造

新築住宅の構造・躯体に関する瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例から検討します。

【横浜地判昭60・2・27】

横浜地判昭60・2・27は、建売住宅が地盤沈下により傾斜したことについて、売り主及び建築業者の損害賠償責任が問題となった事案です。原告らが被告らから土地建物を買い受けたところ、売買契約から約3年経過した頃から土地の地盤沈下と建物の傾斜がみられ、建物のドアの開閉ができなくなり、タイルや壁のひび割れが生じました。そこで、原告らは、宅地造成に不備があり、建物の基礎工事に手落ちがあったとし、これが売買契約時の瑕疵に当たるとして、被告らに対し損害賠償請求したのです。

これに対し、被告らは、建物が建築されて3年以上も経過した後に傾斜が始まっていること、この傾斜は埋立てをした隣接地の方向へ向かっていること、隣接地の埋立てを中止すると傾斜の進行も止まったことなどからすれば、建物の傾斜の原因は、隣接地の埋め立て工事による盛土の圧力により土地の地盤が沈下を来たしたことによるものと考えるほかないとし、土地建物の瑕疵担保責任は問題とならないと主張しました。

判決では、原告ら所有の建物の傾斜の原因について、土地の地盤の軟弱性とかかる軟弱地盤上における建物建築に際してとるべき建築工法の過誤によるものと認め、地盤沈下の原因について隣地の盛土の影響を全く否定し去ることはできないとしても、それをもって主たる原因と認めることはできないから、原告ら購入の土地建物には売買契約時に隠れた瑕疵があったものと判断しました。その上で、売り主に対しては瑕疵担保責任として損害賠償責任を認め、建売住宅の施工・販売業者についても、あらかじめ地盤の地質調査をすることなく、極めて短期間のうちに簡単な盛土工事を行い、かつ、有機質土層を破壊するような摩擦杭を打ち込んだ過失があったとして民法709条、716条ただし書きによる損害賠償責任を認めました。

 【大阪高判平13・11・7】

大阪高判平13・11・7は、新築建売住宅の購入者が建物の施工者及び建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士に対して、建物の瑕疵を理由とする不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。原告が被告らから土地建物を購入したところ、この建物には相当な構造耐力や耐火・防火性能につき欠陥が存するなどと主張して、売り主に対して瑕疵担保責任に基づき売買契約を解除し原状回復として売買代金相当額の返還及び損害賠償を請求するとともに、建築主や施工主、建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士に対して共同不法行為に基づき損害賠償を請求したのです。

原審は、本件建物には重大な欠陥が存在し、住居として使用するという売買契約の目的を達することが不可能であるとして、瑕疵担保責任に基づく解除を認め、売買代金返還及び損害賠償請求を認容し、建築主に対しても不法行為責任を認めました。しかし、施工主及び建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士に対する請求については、不法行為が成立するためには、当該行為により生命・身体・健康、所有権等の法益(いわゆる完全性利益)が侵害されたことが必要であって、単に、契約に従った目的物の給付を受ける権利が侵害されたというのみでは、原則として不法行為が成立する余地はなく、詐欺的な行為等により不当に勧誘して契約を締結させたというような場合にのみ不法行為が成立しうるに過ぎないと判示して、両者に対する請求を棄却しました。

控訴審における判決では、本件建物に重大な欠陥が存在すること、並びに売り主及び建築主に対する請求については、原審の判断をほぼ引用しました。一方、施工主に対しては、建築基準法は国民の生命、健康及び財産の保護を図るため、建築物の構造等に関する最低基準を定めているところ、建築物を建築する者は建築基準法に従い、他人の生命、健康及び財産を侵害しないようにしなければならないにもかかわらず、これに違反して買い主に損害を被らせたから、不法行為責任を負うと判断しました。また、建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士については、建築確認申請書に自ら工事監理者と記載して提出し、建築確認を受けたのであるから、同申請書に添付した図面に従った建物が建築されるよう監理しなければならないところ、これを怠ったことにより、施工主が同図面と異なり、建築基準法に違反する欠陥のある建物を建築したのであるから、不法行為によって買い主の財産を侵害したと認め、不法行為責任を肯定しました。

 【東京地判平15・4・10】

東京地判平15・4・10は、購入した新築マンションの1階部分に毎年のように浸水被害が発生する場合に、建築主兼売り主である不動産業者に対して瑕疵担保責任に基づく契約解除が認められるかが問題となった事案です。被告Aが建築・販売した被告Bの設計・監理にかかるマンションの1階部分の各室をそれぞれ購入した原告らが、当該マンションには、①基礎杭の長さが基準より短縮されているために安全性に欠陥がある、②その1階部分に毎年のように浸水被害が発生する欠陥がある、③その構造計算上も建築確認を異なる建築工事が実施されている欠陥があると主張して、被告Aに対しては債務不履行責任、瑕疵担保責任、不法行為責任等を理由として、被告Bに対しては不法行為責任を理由として、各自が被った損害の賠償を求めました。

判決では、①及び③については瑕疵の存在を認めなかったものの、②について、本件マンションの1階部分に浸水事故が発生し、その防水対策のために防潮板を設置し、仕切りをせざるを得ないことは、居住用の本件マンションの機能を著しく損なうものであると認定し、本件マンションに盛り土をせず、他に十分な浸水対策をとっていない点で、本件マンションに欠陥があると言わざるを得ないとして、瑕疵の存在を認め、被告Aに対する契約解除を認めました。

次に、瑕疵担保責任を否定した判例を検討します。

【東京地判平19・3・28】

東京地判平19・3・28は、原告が被告から購入したマンションの1室に、購入時には隠れていて表見していなかった瑕疵があり、これがその後発見されたとして、原告が被告に対して、瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求したという事案です。この事案では、購入したマンションの天井高が2200㎜であったことが瑕疵に当たるが問題となりました。

判決では、本件マンションの1階の階高は3060㎜であり、問題となっている住居の天井高は2200㎜であるところ、本件マンションの1階の他の住居棟の天井高も、居室については2400㎜前後であるが、玄関、廊下及び洗面所等は2100㎜前後であることから、問題となっている住居のみが低いわけではないとしました。そして、問題となっている住居は、通常の居住を目的としていたのではなく、薬局として経営する者が賃借することを予定しているところ、当該住居の天井高は調剤薬局を営むに当たり必要とされる薬事法上の規制を満たしており、現に特に支障もなく調剤薬局として営業を続けており、賃借人が退去することも想定されていないと認定しました。その上で、これらの事実に照らせば、当該住居の天井高について、これにより心理的圧迫感が生じ、ゆったり感がなく、住居の売買価格が住居部分と比較して安価に設定されていたとしても、調剤薬局として通常有すべき品質及び性能を欠いているものと認めることはできないことから、「瑕疵」は存在しないと判断しました。

防音

新築住宅の遮音性に関する瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例について検討します。

<1>騒音被害を伴うマンションについて、このマンションを新築分譲した売り主に債務不履行があるといえるかが問題となった裁判例があります。この事案では、売り主の債務不履行責任について判断していますが、瑕疵の存否に関する判断と債務不履行の有無に関する判断は重なります。

判決では、①本件マンションのパンフレットに「高性能サッシ」「快適なくらしのためにAマンションでは遮音性、気密性に優れた高性能防音サッシを使用しています」などと説明されていること、②本件マンションの購入に際しては、本件マンションが鉄道の線路に接していることから、鉄道の騒音に対する防音について相当の関心を有していていたこと、③被告会社のセールスマンが、高性能防音サッシを使用しているから騒音は大丈夫だという発言をしていたこと―などから、被告会社は本件マンションの購入者である原告らに対し、通常人が騒音を気にしない程度の防音性能を有するマンションを提示する債務を負っていたと認定しました。

そして、債務不履行の有無、すなわち瑕疵の存否については、公害対策基本法第9条に基づく昭和46年の閣議決定「騒音に係る環境基準について」によると、主として住居用に供される地域の生活環境を保全し、人の健康に資する上で維持されるに望ましい基準として「昼間50ホン以下、朝夕45ホン以下、夜間40ホン以下」とされているとした上で、本件マンションにおいては、電車・貨車が早朝から深夜にいたるまで本件マンションの横を通行していることから、少なくとも朝夕及び夜間には上記基準をかなり上回る騒音が聞こえることが認められるとしました。

そして、その騒音の影響で、寝付けない、眠りが浅いといった不眠、不快感を受けており、この騒音は通常人の受忍限度を超えるものと認定し、被告に債務不履行責任があると判断しました。つまり、本件マンションの防音設備に瑕疵があると判断されたのです。

次に、瑕疵担保責任を否定した判例を検討します。

<2>防音工事契約において定められた防音水準がS(スペシャル)防音(S防音)なのか、A(アドバンス)防音(A防音)に過ぎないのかが問題となった事案です。なお、S防音やA防音は一般的な防音水準を示す用語ではなく。被告会社が独自に用いているものです。S防音、A防音の他に、B(ベーシック)防音(B防音)もあります。被告会社によりますと、S防音が最も防音性能が高いもので、優れた防音性能と美しい音響が求められる部屋のための特別仕様であり、プロの使用に応える本格的な防音構造を有するものを指します。A防音は、大きな音を出しても隣近所に余り気兼ねせずに過ごせる防音レベルで、子どものピアノ練習室や自宅でカラオケを楽しみたい場合などに適合するもの、その下のランクとしてB防音が存在するとのことです。

判決では、①原告らが本件防音工事契約を締結する際に、被告に要求した防音性能としては「人に迷惑をかけない防音」というあいまいなもので、S防音に相当するような現在の技術水準における最高水準の本格的な防音工事を施すよう明確に求めなかったこと、②原告は被告担当者から、事前に本件建物には窓や換気扇などの換気口があるから、多少の音漏れは避けられないと告げられながら、人に迷惑が掛からない程度の防音をすることを求めたに過ぎなかったこと、③本件防音工事契約の請負代金はS防音を前提とする算定となっていないことなどからすると、本件防音工事契約で原告らと被告との間で、S防音の性能を前提とする契約が成立したと認めることはできないと判示し、本件防音設備における瑕疵の存在を否定しました。

この判例では、S防音の設備設置について明確に契約書に記載がなかったことを前提とした上で、上記①~③の事情を考慮して瑕疵の存在を否定しています。当事者間の契約書に明確な記載がない以上、契約締結段階において、当事者間でどのような交渉ややり取りがなされたかを検討して契約内容を確定することになります。

<3>マンションの建設販売などを「業」とする被告からマンションの区分所有建物を購入した原告が、同区分所有建物には遮音性能及び「すす」状の塵埃の流入という点に瑕疵があるとして、売り主に売買契約上の瑕疵担保責任を追及したという事案です。

判決では、被告が本件売買契約の締結に当たり原告に交付した本件マンションの仕様に関するパンフレットには床の施工や遮音等級について記載され、このパンフレットに記載された通りの性能基準を有する部材及び工法が採用されていることが、本件売買契約の内容となっていたことは認めました。もっとも、①実際の建物の遮音性能は、床構造以外の諸条件によっても異なってくるものであること、②上記パンフレットに記載されている遮音等級とは、日本建築学会の定めた床材に使用される製品の性能基準を指すものであって、建物全体の遮音性能に関する基準ではないことから、上記パンフレットの記載をもって本件建物全体が特定された一定レベルの遮音性能を備えていることを保証したものと認めることはできず、本件マンション建物の遮音性能について瑕疵を認めることはできないと判断しました。

また、本件建物の実際の遮音性能についても、隣室及び地下室からの騒音に対する本件建物の遮音性能は、床衝撃音レベル、室間音圧レベル差ともにいずれも2級以上の適用等級に該当し、その多くはむしろ1級以上に該当するのであって、その水準は全体として劣っていると評価することはできないうえ、本件建物内の実際の騒音状況の程度も小さく、室内騒音レベルの適用等級は1級に該当することから、本件建物の遮音性能や本件マンションの構造、設備等に瑕疵があると認めることはできないと判断しました。

<4>購入したマンションが、上階の居住者のトイレ給排水音などの生活騒音のため住居としての使用に耐えられないとして、債務不履行に基づく、又は売買の瑕疵担保責任に基づく解除等を請求した事案です。

判決では、債務不履行責任の有無について、本件パンフレットには、「快適さを極限までに追及した、これからのステータスともいえる永住志向型都市住宅」「満足度の高い永住志向型都市住宅」との記載があるが、上記のような文言は、新築マンションの宣伝用パンフレットでよく用いられるセールストークの類であって、抽象的な表現にとどまり、これをもって特別の品質保証約定が成立したと認めることはできず、被告の債務不履行は認められないと判断しました。

売り主の瑕疵担保責任については、①原告は入居後、引き続き本件建物に居住していたところ、当初は何の苦情も述べていないばかりか、入居後2ケ月経過した頃には、被告に対して感謝の言葉を述べていたにもかかわらず、入居後6ケ月以上経過してから、洋室の出窓部分の結露と分電盤の不都合に加えて、初めて、階上のトイレ、風呂場及び台所の各流水音について改善の余地はないものか検討いただきたい旨の苦情を述べたこと、②被告は原告の要求に応じて、本件建物内のトイレのパイプシャフト及び天井にグラスウール並びに遮音シートを巻き付ける改善工事を実施し、その結果、原告自身も騒音が改善された旨の報告をしていること、③本件マンションの住民に対して実施された、トランクルームとトイレ流水音についてのアンケート調査の結果によると、トイレ流水音に悩まされているのは1世帯のみであったこと、④本件建物で測定された騒音レベルは学会推奨基準1級を満たすもので、社会通念上要求される遮音性能を十分に満たすものであることなどを勘案し、本件建物は通常の居住用建物として、通常の居住上支障のない程度の遮音性能を有することに問題はなく、マンション建物に通常要求される品質、性能を具備しない瑕疵があるとすることはできないと判断しました。

設備

次に新築住宅の設備に関する瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例について検討します。

<1>Aが購入した本件マンションにおいてAの寝室から出火した火災につき、屋内の防火扉の不作動などの本件マンションの瑕疵又は売り主側の説明義務違反のために損害が拡大したと主張して、Aの死亡後、同人の妻が本件マンションの売り主に瑕疵担保責任を追及した事案です。

判決では、本件マンションは、防火扉を備えていながら、その電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたことが、売買の目的物の隠れた瑕疵に当たると判断し、売り主は本件防火扉が作動しなかったことにより買い主Aが被った損害を賠償すべき義務を負うとしました。

<2><1>の差し戻し審判決は、本件マンションの専有部分は、防火扉を備えていながら、その電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたから、売買の目的物に隠れた瑕疵があるといえ、売り主は本件防火扉が作動しなかったことにより買い主が被った損害を賠償すべきであると判示しました。

なお、上告審においては、売り主の説明義務違反についてのみ論じられ、売り主の瑕疵担保責任については明示的には論じられませんでした。

共有部分

今度は、新築マンションの共有部分に関する瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例について検討します。

<1>マンション分譲業者から新築マンションを購入した買い主らが、外壁タイルの剥離・剥落及びその補修工事の騒音などにより損害を被ったと主張し、民法570条が定める売り主の瑕疵担保責任に基づき、マンション分譲業者に対し、交換価値の下落による財産的損害及び慰謝料等の支払いを求めた事案です。

原判決は買い主らの精神的損害はマンション分譲業者に予見し得ない特別損害であるとし、財産的損害に関しては交換価値の下落がその補修工事後も存在していることを認めるに足りないとして、いずれの請求も棄却しました。これに対し、買い主らが控訴し、控訴審の判断が示されました。

判決では、財産的損害については、①新築物件の売買であること、②本件外壁タイルの剥離・剥落は、既に本件マンションの竣工前から見られ、その後も継続、拡大したものであること、③入居後1年ないし2年足らずで、大規模な本件補修工事に至ったこと、④本件マンションの外壁タイルは高級感や意匠性が重視されていたものであったが、本件補修工事によっても外見上の完全性は回復されていないこと、⑤瑕疵が顕在化したことから一度生じた、本件マンションの新築工事には外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感や、これらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事をもってしても到底に払拭しがたいことなどを理由に、売り主の瑕疵担保責任を認めました。

慰謝料請求については、居住者は本件補修工事の施工そのものは受任しなければならないが、本件補修工事から受ける騒音、粉塵などによる生活被害までもその負担を強いられるものではなく、これらの生活被害については売り主の負担をもって回復されるべきであるとして、慰謝料は本件外壁タイルの剥離・剥落という瑕疵による損害であると認めました。

<2>原告らが被告に対し、被告から買い受けた新築マンションの各区分所有建物の専有部分及び共有部分に多数の隠れた瑕疵があり、その引き渡しを受けた後、その修補に長期間を要し、しかも、未修補の瑕疵があるとして、債務不履行(不完全履行)、売り主の瑕疵担保責任又は不法行為に基づき、修補費用、引越費用、仮住居費用、資産価値減少及び慰謝料相当額の損害賠償を求めた事案です。具体的には、水回りボードの取り付け用部品としてのビス、床材と根太(ねだ、床板を支えるため床板に直角に配した水平材)の間に設置する板材である置床捨張(すてばり)、パンフレットの表示と異なるパティオ及びスカイガーデンに関する瑕疵の存否が争点となりました。

判決では、まずビスについて、本件マンションの各区分所有建物の売買契約に基づきステンレスビスを水回りボードの取り付け用部品として使用すべき義務を被告は負うと認定し、被告がユニクロメッキビスを内装仕上げの下地材に使用したことは、同義務の違反すなわち「隠れた瑕疵」に該当すると判断しました。

パティオについては、被告が本件パティオを設置することを約して原告らと本件マンションの各区分所有建物売買契約を締結していることから、被告は原告らに対し、当初本件パンフレットなどにより宣伝広告され、又は施工が計画された通りの形で本件パティオを提供する義務があると認定した上で、改修工事後も瑕疵が完全に修補され対価関係が回復したものと評価することはできず、瑕疵が存在すると判断しました。

スカイガーデンについては、本件スカイガーデンの現況では、本件区分所有建物売買契約上の機能及び意匠ないし美観性能を満たしているとは認め難く、およそ、本件マンションに潤いを与えて高級感を醸し出し、各区分所有建物の財産的評価に付加価値をもたらす状態ではなく、殊に、出入口の段差や散水栓の欠如及び門扉については適切な改善工事を要する瑕疵があると判断しました。

次に、瑕疵担保責任を否定した判例を検討します。

<3>瑕疵を肯定した裁判例として上記に紹介したものと同じ事案において、問題となっていた置床捨張については瑕疵の存在が否定されました。

判決では、①メーカー仕様による施工上要求されていないこと、②原告らの主張するような耐水合板の捨張が仕様上予定されていないこと、③本件マンション工事で使用されているコンクリート型枠用合板は日本農林規格に基づく普通合板1類に分類され、断続的に湿潤状態となる場所ないし環境において使用可能な合板であり、長期間の外気及び湿潤露出に耐え、完全耐水性を有するよう接着しているものであることから、建設業界において、一般的に耐水合板として使用されるものであり、竣工図の具体的指示に何ら反していないことなどから、耐水ボード12ミリメートルの置床捨張がされていないことがいかなる意味においても瑕疵に該当するとはいえないと判断しました。

今度は新築住宅の事案ではありませんが、マンションの共有部分の瑕疵が問題となった事案について紹介します。

<4>中古マンションの共有部分に瑕疵が存在した場合の売り主の瑕疵担保責任について、区分所有建物の売買契約では、共有部分の構造等に由来する欠陥は、建物の瑕疵に該当しないと判断しました。

中古マンションにおける売り主の瑕疵担保責任については、当該瑕疵が専有部分を原因とするものか、共有部分を原因とするものかにつき、判別が困難であることがよくあります。また、共有部分を原因とする「隠れた瑕疵」は本来、管理組合、すなわち区分所有者全員が賠償責任を負うべきものと考えられ、売り主の瑕疵担保責任には限界があると考えられています。

環境面

新築マンションの環境関連の瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例について検討します。

<1>原告らが被告から購入したマンションは環境物質対策基準に適合した住宅との表示であったにもかかわらず、いわゆるシックハウスであり、居住が不可能であるとして、第1に消費者契約法4条1項に基づく売買契約の取消し、売買契約の錯誤無効又は詐欺取消しを理由とする不当利得返還請求として、第2に売り主の瑕疵担保責任による契約解除及び損害賠償請求として、第3に環境物質対策が不完全な目的物をそのような対策が十分な建物として売却した債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求として、被告に対し、売買代金等相当額ないし損害賠償の支払を求めた事案です。

判決では、①被告は、本件建物を含むマンションの分譲に当たり、環境物質対策基準を充足するフローリング材などを使用した物件である旨を本件チラシ等にうたって申し込みの誘引をしたこと、②原告らが本件チラシなどを検討のうえ、被告に対して本件建物の購入を申し込んだ結果、本件売買契約が成立したことから、本件契約においては、本件建物の備えるべき品質として、本件建物自体が環境物質対策基準に適合していること、すなわち、ホルムアルデヒドをはじめとする環境物質の放散につき、少なくとも契約当時行政レベルで行われていた各種取り組みにおいて推奨されていたというべき水準の室内濃度に抑制されたものであることが前提とされていたものと見ることが両当事者の合理的な意思に合致すると判断しました。

その上で、前提とされていたと見るべきホルムアルデヒド濃度の水準について、厚生労働省の指針値を出発点とするその後の一連の立法、行政における各種取り組みの状況を認定して同省の指針値をもってその水準とするのが相当であるとし、これによれば本件建物には瑕疵が存在するとして、売り主の瑕疵担保責任を認めました。

次に、瑕疵担保責任を否定した判例を検討します。

<2>マンションの床材につき、住戸の売買契約の締結及びマンションの建築後の法改正により化学物質過敏症を防止する見地から使用が禁止された床材が使用されたことが住戸の瑕疵に当たるかが問題となった事案です。

判決では、①本件マンションの建築当時、建築材料などから放出されるホルムアルデヒドの有害性が指摘されていたが、本件マンションで使用された床材はごく一般に使用されていたこと、②旧厚生省が室内のホルムアルデヒドの指針値を定めたのが平成12年6月30日であること、③被告が本件マンションの完成直後に本件住戸以外の6戸をサンプル調査した結果、上記指針値をわずかに上回る程度であり、本件マンションには、原告ら以外に住戸から放出されるホルムアルデヒドによる化学物質過敏症を訴える者がいないことなどから、床材に「E2」相当のパーティクルボードを使用することが法令上禁止されていなかったのみならず、「E2」相当のパーティクルボードを含む床材を用いることがマンションの通常有すべき性能に欠けることを意味するものということができないとし、瑕疵の存在を否定しました。

<3>購入されたマンションに隣接する会社ビルの喫煙室に出入りする従業員らにより、居室を観望され、心の平穏を害される状況に陥ったとして、販売会社らに説明義務違反による不法行為ないし瑕疵担保責任による賠償義務が請求されたという事案です。

判決では、周辺に倉庫・物流センター、事務所、集合住宅、学校・図書館などの公共施設が存在する「準工業地域」に位置する本件マンションにおいて、本件居室から約28メートル離れたところにある建物内に本件喫煙室が存在しているからといって、本件喫煙室から本件居室のベランダにいる人物は確認できるものの、本件居室内は容易にのぞける状況にはないから、本件喫煙室の存在をもって、本件居室がマンションの一室として通常備えるべき品質・性能に欠けるところがあり、これが瑕疵に該当するということはできないと判断しました。

2020-03-18 17:08 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所