消費者契約

消費者契約法では、消費者と事業者の間で結ばれる契約を「消費者契約」と定義し、規制対象としています。「消費者」は事業として又は事業のために契約当事者となる場合を除く個人。「事業者」は法人その他の団体、事業として又は事業のために契約当事者となる場合の個人を言います。

消費者は「不実告知・確定的判断の提供」による誤認▽「不利益事実の不告知」による誤認▽「不退去・監禁」――に当たる場合に取消権(消費者契約の申し込み又は承諾の意思表示の取消)が与えられます。誤認は「詐欺」の拡張として、不退去・監禁は「脅迫」の拡張として認められた権利です。消費者の側が詐欺や脅迫の故意を立証する必要はありません。

「不実告知」は消費者が契約を締結するか否かを判断する際に影響を及ぼす重要事項に関して「一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」「二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」について事実と異なることを告げることで、消費者が誤認した場合です。また、「確定的判断の提供」は「物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものに関し、将来の価額、将来消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき、断定的判断を提供することや、提供された断定的判断の内容が確実であると誤認させること」を言います。

「不退去」は「事業者に対し、消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと」と定められ、「監禁」は「事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から消費者を退去させないこと」と規定されています。

取消の規定は、事業者が第三者に対し、事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介するよう委託し、委託を受けた第三者が消費者にこれらの行為をした場合に「準用」されます。なお、契約の取消権は、追認できる時から6カ月又は契約締結の時から5年経過した時も時効消滅します。契約締結から5年経過した場合も同様です。

契約の取り消しを認めたケースとしては、別荘地の販売において隣地に産業廃棄物の最終処分場と中間処理施設の建設計画があることを説明しなかったことが消費者契約法上の「不利益事実の不告知」に当たると認定した事例▽新築マンションを販売する際、眺望・採光・通風の状況を説明しなかったことが「不利益事実の不告知」に当たると認めた事例▽投資用マンションを販売する際、不動産の客観的な市場価格を提示せずに非現実的なシミュレーションを示し、買い主に月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させたと認定した事例があります。

一方で、裁判所が契約の取り消しを否定したケースとしては、新築マンションの一室を販売する際に電柱や他の障害物が盛り込まれていない完成予想図を示して説明したものの、実際はベランダの近くに電柱が立っていたことについて買い主が「不実告知」に当たると主張したが、認められなかった事例▽新築マンション販売でペット飼育に関する説明について「不利益事実の不告知」があったと主張した買い主の言い分が認められなかった事例▽マンション南側に別のマンション建設が予定されていることの説明を受けなかったと買い主が主張したのに、認められなかった事例▽新築マンションを購入する際、駐車場の取得が確実であると説明したことが事実でなかったと主張したものの、「不利益事実の不告知」と認められなかった事例――などがあります。また、新築マンション販売でシックハウスに基づく瑕疵担保責任としての契約解除・損害賠償請求は認められたものの、消費者契約法に基づく取消理由として原状回復請求権の成否は検討するまでもないと判断された裁判例があります。

民法に基づき、契約が取り消されると、最初から無効であったものとみなされます。このため、売買代金などが支払われていれば「不当利得」となってしまうため、売り主が買い主に返還する義務が生じます。

消費者契約法は「不当条項」を無効としています。この条項は五つあり、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」「事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項」「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項」「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項」「消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵がある時に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項」です。

このうち最後の条項は「瑕疵のない物の引き渡しや瑕疵修補」「他の事業者による責任負担」に該当する場合は無効となりません。つまり、瑕疵のない物の引き渡しや瑕疵修補は、消費者契約で契約の目的物に「隠れた瑕疵」がある時に事業者が「瑕疵のない物」をもってこれに代える責任又は瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合です。

また、他の事業者による責任負担は、消費者と事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は事業者と他の事業者との間の消費者のためにする契約で、契約締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて契約の目的物に「隠れた瑕疵」がある時に、他の事業者が瑕疵によって消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、「瑕疵のない物」をもってこれに代える責任を負い、又は瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合です。

「消費者が支払う損害賠償の予定」の条項に関し、「平均的損害超過」と「遅延損害14・6パーセント超過」の消費者契約の条項は規定部分について無効となります。前者は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項です。これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものを言います。

後者は、消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ)までに支払わない場合の損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項です。これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払いをする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に14・6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるものを言います。

民法や商法、他の法律の公の秩序に関しない規定を適用する場合に比べ、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であり、民法に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効です。

ある裁判例は、土地購入後に地中に鉛などの有害物質があり、かつ大量の皮革や生活ゴミの燃え殻が埋設されていたケースで、売買契約に「瑕疵担保責任の行使期間を本件土地の引き渡し日から3カ月以内とする」旨の特約が付されていたものの、この特約は同法の規定により無効だと判断しています。

2020-03-19 10:42 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所