消費者契約法の概括

消費者と事業者が取引する場合、情報の質や量、交渉力という点で必然的な格差があります。消費者契約法はこの格差を解消するため、事業者の一定の行為で消費者が誤認・困惑した場合、契約の申し込みや承諾の意思表示を取り消すことができると定め、事業者の損害賠償の責任免除条項や「消費者の利益を不当に害する他の条項」の全部か一部を無効としています。 消費者の保護など国民生活の安定向上と経済の健全な発展を目的とし、個々の商品やサービスごとに規制するのではなく、消費者と事業者間の一般的な法律として平成13年に施行されました。法改正を経て、同19年からは、消費者被害の発生又は拡大を防止するため、「適格消費者団体」が事業者などに差し止め請求できることになりました。適格消費者団体は不特定かつ多数の消費者の利益を図るため、差し止め請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人「消費者団体」(消費者基本法に要件を規定)として、内閣総理大臣の認定を受けた団体です。事業者は契約条項を定めるに当たり、契約内容が明確で平易になるよう配慮し、勧誘に際して消費者に必要な情報を提供するよう努めなければなりません。

消費者契約

消費者契約法では、消費者と事業者の間で結ばれる契約を「消費者契約」と定義し、規制対象としています。「消費者」は事業として又は事業のために契約当事者となる場合を除く個人。「事業者」は法人その他の団体、事業として又は事業のために契約当事者となる場合の個人を言います。 消費者は「不実告知・確定的判断の提供」による誤認▽「不利益事実の不告知」による誤認▽「不退去・監禁」――に当たる場合に取消権(消費者契約の申し込み又は承諾の意思表示の取消)が与えられます。誤認は「詐欺」の拡張として、不退去・監禁は「脅迫」の拡張として認められた権利です。消費者の側が詐欺や脅迫の故意を立証する必要はありません。 「不実告知」は消費者が契約を締結するか否かを判断する際に影響を及ぼす重要事項に関して「一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」「二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」について事実と異なることを告げることで、消費者が誤認した場合です。また、「確定的判断の提供」は「物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものに関し、将来の価額、将来消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき、断定的判断を提供することや、提供された断定的判断の内容が確実であると誤認させること」を言います。 「不退去」は「事業者に対し、消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと」と定められ、「監禁」は「事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から消費者を退去させないこと」と規定されています。 取消の規定は、事業者が第三者に対し、事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介するよう委託し、委託を受けた第三者が消費者にこれらの行為をした場合に「準用」されます。なお、契約の取消権は、追認できる時から6カ月又は契約締結の時から5年経過した時も時効消滅します。契約締結から5年経過した場合も同様です。 契約の取り消しを認めたケースとしては、別荘地の販売において隣地に産業廃棄物の最終処分場と中間処理施設の建設計画があることを説明しなかったことが消費者契約法上の「不利益事実の不告知」に当たると認定した事例▽新築マンションを販売する際、眺望・採光・通風の状況を説明しなかったことが「不利益事実の不告知」に当たると認めた事例▽投資用マンションを販売する際、不動産の客観的な市場価格を提示せずに非現実的なシミュレーションを示し、買い主に月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させたと認定した事例があります。 一方で、裁判所が契約の取り消しを否定したケースとしては、新築マンションの一室を販売する際に電柱や他の障害物が盛り込まれていない完成予想図を示して説明したものの、実際はベランダの近くに電柱が立っていたことについて買い主が「不実告知」に当たると主張したが、認められなかった事例▽新築マンション販売でペット飼育に関する説明について「不利益事実の不告知」があったと主張した買い主の言い分が認められなかった事例▽マンション南側に別のマンション建設が予定されていることの説明を受けなかったと買い主が主張したのに、認められなかった事例▽新築マンションを購入する際、駐車場の取得が確実であると説明したことが事実でなかったと主張したものの、「不利益事実の不告知」と認められなかった事例――などがあります。また、新築マンション販売でシックハウスに基づく契約不適合責任としての契約解除・損害賠償請求は認められたものの、消費者契約法に基づく取消理由として原状回復請求権の成否は検討するまでもないと判断された裁判例があります。 民法に基づき、契約が取り消されると、最初から無効であったものとみなされます。このため、売買代金などが支払われていれば「不当利得」となってしまうため、売り主が買い主に返還する義務が生じます。 消費者契約法は「不当条項」を無効としています。この条項は五つあり、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」「事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項」「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項」「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項」「消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵がある時に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項」です。 このうち最後の条項は「瑕疵のない物の引き渡しや瑕疵修補」「他の事業者による責任負担」に該当する場合は無効となりません。つまり、瑕疵のない物の引き渡しや瑕疵修補は、消費者契約で契約の目的物に「隠れた瑕疵」がある時に事業者が「瑕疵のない物」をもってこれに代える責任又は瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合です。 また、他の事業者による責任負担は、消費者と事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は事業者と他の事業者との間の消費者のためにする契約で、契約締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて契約の目的物に「隠れた瑕疵」がある時に、他の事業者が瑕疵によって消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、「瑕疵のない物」をもってこれに代える責任を負い、又は瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合です。 「消費者が支払う損害賠償の予定」の条項に関し、「平均的損害超過」と「遅延損害14・6パーセント超過」の消費者契約の条項は規定部分について無効となります。前者は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項です。これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものを言います。 後者は、消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ)までに支払わない場合の損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項です。これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払いをする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に14・6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるものを言います。 民法や商法、他の法律の公の秩序に関しない規定を適用する場合に比べ、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であり、民法に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効です。 ある裁判例は、土地購入後に地中に鉛などの有害物質があり、かつ大量の皮革や生活ゴミの燃え殻が埋設されていたケースで、売買契約に「契約不適合責任の行使期間を本件土地の引き渡し日から3カ月以内とする」旨の特約が付されていたものの、この特約は同法の規定により無効だと判断しています。

契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒む行為

 今契約しないと売れてしまうと急がされて
中古の一戸建てのチラシを見て、参考程度の軽い気持ちで夫婦で見に行きました。ところが、営業担当の方から「銀行ローンを組めば買える、前向きに契約を検討しているお客さんが2組いるので売れてしまう、売主だから仲介手数料も必要ない、今日契約すれば100万円値引きする」と熱心に契約を勧められました。「よく考えたい」と言いましたが、事務所に連れていかれ、結局、契約させられました。近くのATMで手付金の20万円を引き出し、その場で支払いました。やはり、ローン返済が不安なのでやめたいのですが……。このような強引な営業は問題ないのでしょうか。

購入の気持ちもなく軽い気持ちで見学に行ったのに、思いがけず契約をさせられてしまった。宅建業法は「契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒む行為」を禁止し、消費者契約法は消費者がその場所から退去する意思表示をしたにもかかわらず退去させないことを禁じています。
本件では強引と思える営業行為があったことは想像できますが、しかし業法違反や契約取り消しができるまでの行為があったのかを立証することは極めて困難なことです。手付金の20万円を放棄して契約を解除せざるを得ない場合が多いと思います。不動産の契約は「決める勇気」「断る勇気」の両方が必要であることを知っておきましょう。

クーリングオフ、消費者契約法による取り消し、手付金の放棄

帰ってくれと言っても何時間もしつこく……
マンションのモデルルームを見に行き、アンケートに答えたところ、数日後の夜、売主業者の営業マンが自宅を訪ねてきました。購入の予定はないと何度も断りましたが、帰ろうとせずに契約を迫ります。夜中の12時近くになりましたが、「誠心誠意ご説明差し上げています(当方はたいへん迷惑なのですが)。何もなしでは帰ることができません」と帰ってもらえず、仕方なく契約書に記名押印し、手持ちの3万円を手付金として支払いました。このような強引な営業は許されるのでしょうか。契約の解除はどのようにするのが一番いいですか。会わずに済ませたいのですが。

宅建業法は「長時間の電話勧誘その他の私生活の平穏を害する方法により相手方を困惑させること」を禁止しています。また、消費者契約法は帰ってほしいと申し出たにもかかわらず退去せず、それによって行った契約の意思表示は取り消すことができるとしています。
契約を解除する方法として、①クーリングオフ②消費者契約法による取り消し③手付金の放棄が考えられます。クーリングオフ・消費者契約法に基づく取り消しの場合、支払った3万円は返還してもらえることになります。しかし、3万円を返してもらうことにこだわると、返還折衝などですぐに関係が断ち切れないことになります。すぐに関係を断ち切りたいのなら、3万円が帰ってくることはあきらめることも1つの判断でしょう。

2020-03-19 10:36 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所