特約で瑕疵担保責任を免責について

法律の規定には、強行規定と任意規定があります。

強行規定とは、当事者の合意があっても排除することができない規定のことです。「公の秩序に関する規定」であって、この規定に反する行為は無効となります(民法90条)。

これに対し、任意規定とは、当事者の合意があると排除することができる規定のことです。「公の秩序に関しない規定」であって、この規定に反したとしても無効にはならず、当事者間の合意が優先されます(民法91条)。

瑕疵担保責任に関する規定はどうでしょうか。

結論からいうと、不動産の売買契約における瑕疵担保責任に関する規定は任意規定です。従って、不動産の売買契約の当事者間の合意が優先され、民法の規定とは異なる特約を定めることができます。民法に定められている責任内容よりも軽い責任とすることもできますし、民法に定められている責任内容よりも重い責任とすることもできます。瑕疵担保責任自体を排除する特約も認められます。瑕疵担保責任の存在や軽重のみならず、責任の分担方法に関する特約も有効であり、民法の規定とは異なる責任負担方法とすることもできます。

民法の規定よりも軽い責任とする特約を瑕疵担保責任限定特約、民法の規定を排除する特約を瑕疵担保責任免除特約といいますが、判例においてもこれらの特約は原則として有効であると認められています。ある裁判例は「そもそも担保責任の規定は、特定物売買における対価的不均衡によって生じる不公平を是正するために、当事者の意思を問うことなく、法律が特別に定めた法定責任ではあるが、もともと売買契約当事者間の利害を調整しようとするためのものであるから、当事者間の特約によっても、法定の担保責任を排除・軽減することができるのが原則である。ただし、当事者間の特約によって信義に反する行為を正当化することは許されないから、民法572条は信義則に反するとみられる二つの場合を類型化して、担保責任を排除軽減する特約の効力を否認しているものと解される」と判示しました。

民法の規定よりも重い責任とする特約についても、判例はその効力を認めています。

そもそも、売買契約の目的となった土地や建物に隠れた瑕疵がある場合でなければ、瑕疵担保責任免除特約は問題となりません。では、どのような場合に瑕疵担保責任免除特約が成立したといえるのでしょうか。売り主が買い主に対して、一方的に瑕疵担保責任免除の意向を伝えただけでも瑕疵担保責任免除特約が成立するのかが問題となります。

特約とは、文字通り、当事者間における特別の合意・約束のことですから、当事者間において合意が成立した場合にのみ認められるものです。そうすると、瑕疵担保責任免除特約についても、売買契約の当事者、すなわち売り主と買い主の間で合意があった場合に成立するということになります。

従って、単に一方的に、売り主が買い主に瑕疵担保責任免除の意向を伝えただけでは、瑕疵担保責任免除特約が成立したとはいえません。

判例においても、重要事項説明書に、売り主は買い主に対して瑕疵担保責任を負わない旨が記載されていたとしても、それだけでは瑕疵担保責任免除特約が成立したとは認められないとしています。売買契約の一方当事者が差し入れた確約書のなお書きに「境界形状、地積の不足等の瑕疵が発見された場合等については、甲(原告)と乙(代替地提供者)が責任をもって解決し、公団に対してはいかなる名目の請求も行わないことを確約します」と明記されていたとしても、瑕疵担保責任免除特約が成立したとは認められないとした裁判例もあります。この判例では、「本件確約書中の『なお書き』部分は、それが被告の瑕疵担保責任を免除するという重大な効果を有する内容でありながら、それについて原告に十分に理解させた上で承諾してもらうという手続が踏まれていないものである」「原告と被告のそれぞれの立場、専門的知識能力の格差などを総合すると、本件確約書中の『なお書き』の記載について、単なる被告内部の事務手続に関する書類という以上に、文言どおりの効力を認めることは相当でなく、本件確約書により、原告と被告間で、本件買受土地に瑕疵があった場合の被告の担保責任を免除する特約が成立していたと認めることはできないというべきである」とした上で、「仮に、本件確約書を有効であるとしても、前記の諸事情のもとでは、本件確約書の効力は、法律の知識や不動産取引の経験を持たない通常人が、本件確約書を一読してそれなりに理解できる程度で、すなわち、現地の境界確認が行われたことを前提として、土地の境界形状、面積など、外形的な調査によって判定することが可能な瑕疵について、被告の担保責任を免除する趣旨として限定して解釈すべきであり、それ以上に、土中から産業廃棄物が発見された場合など、隠れた瑕疵についてまでも被告の担保責任を免除する効力は有しないと解するのが相当である」と判示しました。

もちろん、瑕疵担保責任免除特約の存在が肯定され、売り主は瑕疵担保責任を負わないとされた判例もあります。売買契約書に「本物件の地中埋設物及び土壌瑕疵の瑕疵担保責任を売り主は負わないものとする」との約定があったという裁判例で「本件障害物の存在の問題については、本件報告書の内容のみからそれを容易に知りえたとは認め難いところであり、被告が、本件報告書を得ていたことをもって、本件障害物の存在について悪意と同視すべき重大な過失があるとも言えず、被告が本件報告書を本件売買契約締結前に原告に交付している以上、信義則上、瑕疵担保責任免除特約の主張が許されないとすべき事情もない」と判示して瑕疵担保責任免除特約の存在を肯定し、売り主の瑕疵担保責任を否定しました。その他の多くの裁判例が瑕疵担保責任免除特約の存在を肯定し、売り主の瑕疵担保責任を否定しています。

表示行為から推測される表意者の意思と真意が一致せず、表意者自身がそのことについて気づいていないことを「錯誤」といいます。簡単にいえば、勘違いのことを「錯誤」というのです。

民法95条本文では、意思表示は、法律行為の要素に錯誤があった時には無効になると定められています。もっとも、表意者に重大な過失があった時は、表意者は、自らその向こうを主張することができません(同条ただし書き)。

錯誤無効を主張するためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

<1>問題となっている錯誤が「要素の錯誤」であること

<2>表意者に「重大な過失」がないこと

まず、<1>の要件について見てみましょう。「要素の錯誤」は、その錯誤がなかったらその意思表示をしなかったし、通常人もそのような意思表示をしなかったであろうといえる程度の客観的に重要な錯誤であることが必要です。重要な錯誤についてのみ無効主張を認め、錯誤に陥った人の保護と相手方の保護のバランスを図っているのです。

なお、効果意思を生成する過程に誤解や不注意があった場合を「動機の錯誤」といいますが、動機は意思表示の要素ではないことから、動機の錯誤の場合には表示に対応する内心の意思が存在することになります。従って、動機の錯誤には民法95条が適用されません。もっとも、動機が相手方に表示されて意思表示の内容となった場合には、動機の錯誤も要素の錯誤となり、民法95条が適用されます。

次に、<2>の要件ですが、「重大な過失」とは、通常人であれば注意して錯誤に陥ることはなかったにもかかわらず、著しく不注意であったために錯誤に陥ったことをいいます。錯誤に陥った人に重大な過失がある場合にまで、無効の主張を認めて保護すべきではないとう考え方から、表意者に「重大な過失」がある場合には無効主張を認めないとしているのです。

このような要件が必要となる錯誤無効の主張ですが、瑕疵担保責任免除特約も問題となることがあります。売買の目的物である土地の土壌汚染が問題となった裁判例は、土地中の有害物質が基準値以内に留まる程度に除去されたものとして売買契約が締結されたものの、当時において客観的には土壌汚染が存在していたと認定し、瑕疵担保責任免除の合意の意思表示には要素の錯誤があり無効と判断しています。

この判例は、「原被告は、本件汚染処理工事により、本件土地中の有害物質は基準値以内に留まる程度まで除去されたものとして本件売買契約締結の意思表示をしたところ、客観的には、本件売買契約締結当時、本件土壌汚染が存在していたというのであるから、原告の瑕疵担保責任免除の合意の意思表示には動機の錯誤があり(被告の意思表示にも動機の錯誤がある)その動機は表示されている(その動機は表示されていると認められる)というべきであるから、瑕疵担保責任免除の合意は、当事者双方の錯誤により無効と解するのが相当である。」と判示しました。

一方、錯誤無効の主張が認められず、瑕疵担保責任免除特約の効力を肯定した判例もあります。ある裁判例は、「本件契約書を一読すれば、本件特約の存在は明らかであって、被告において、本件特約の孫座右を原告に秘匿するために、例えば、本件契約書を読む機会を与えなかったなどという事情でもあれば格別、そうとは窺われない本件においては、本件契約書に明記されている契約事項については、本件特約に限らず、これに従う意思で当該契約書を作成しているものと認めるほかなく、原告においては、本件契約書の内容をよく読まなかったとしても、そのことから本件契約書に記載された契約条項に従う意思それ自体が否定されるべきものではなく、その契約条項の一つである本件特約の不存在をいう原告の主張は失当といわざるを得ない」と判示し、瑕疵担保責任免除特約の成立を肯定しました。

その上で、「本件特約の成立が認められるとしても、原告の意思表示に錯誤があるから、本件特約は無効である」との原告の主張に対し、原告の主張は「本件契約書に本件特約が存在するころは知らなかったというに過ぎないところ、契約書を取り交わして契約を締結しているはずであって、それにもかかわらず、契約書を読まなかったというのは」「いずれにしても契約書に記載された契約条項に従う意思であるため、契約書を読む必要もないと自ら判断した結果にすぎず、これによって、後日になって、反対に、契約書に従う意思がなかったというような主張が許されるとすれば、契約社会を否定するに等しく、そのような主張が許される道理はない」と判示し、原告の錯誤無効の主張を認めませんでした。

瑕疵担保責任免除特約に関し、錯誤無効の主張をする場合には、要件を充足しているのか、同様の事案において判例はどのような判断をしているのか等について慎重に検討する必要があります。

不動産の瑕疵には、売買契約の当事者が予想していたものと、売買契約の当事者が予想すらしていなかったものがあります。

売買契約の当事者間で瑕疵担保責任免除特約が定められていた場合、売買契約の目的物である土地や建物に瑕疵があったとしても、買い主は売り主に対して瑕疵担保責任を追及することはできません。発見された瑕疵が当事者の予想範囲内ものであれば、このような結論も納得できます。一方、売買契約の当事者の予想を超えた瑕疵が発見された場合においても、瑕疵担保責任免除特約の効力は認められるのでしょうか。

判例の考え方は、売買契約の当事者の予想を超えた瑕疵が発見された場合には、瑕疵担保責任免除特約の効力が否定されるというものです。

ある裁判例は、土地建物の売買において建物内で売り主の親族が首吊り自殺していたことが目的物の瑕疵に該当するかが問題となった事案で、「被告らは、本件不動産売却に当たり、右出来事を考慮し本件建物の価格は殆ど考慮せずに売値をつけ、本件建物の隠れた瑕疵につき責任を負わない約束のもとに本件不動産を原告に売却したのであるが、本件売買契約締結に当たっては、本件土地及び建物が一体として売買目的物件とされ、その代金額も全体として取り決められ、本件建物に関し右出来事のあったことは交渉過程で隠されたまま契約が成立したのであって、右出来事の存在が明らかとなれば、後記のようにさらに価格の低下が予想されたのであり、本件建物が居住用で、しかも右出来事が比較的最近のことであったことを考慮すると、このような心理的要素に基づく欠陥も民法570条にいう隠れた瑕疵に該当するというべきであり、かつ、そのような瑕疵は、右特約の予想しないものとして、被告らの同法による担保責任を免れさせるものと解することはできない」と判示し、瑕疵担保責任免除特約の効力を否定して売り主らの瑕疵担保を肯定しています。予想外の瑕疵が存在した場合における瑕疵担保責任免除特約の効力を否定した裁判例は他にも多くあります。

土地建物の売買契約において、売り主は買い主に対し、どのような状態で土地や建物を引き渡さなければならないのでしょうか。

売り主としては、できれば、あるがままの状態、すなわち常識的な掃除を行い、修理などまではしないそのままの状態で引き渡したいと考えるでしょう。一方、買い主としては、クロスや畳などを修理して引き渡してほしいと考えるでしょう。

「現状有姿」つまり現在あるがままの状態で引き渡すと定められる場合があります。売買契約書中に「現状有姿で引き渡す」旨記載して取引するのです。このような契約を「現状有姿売買」といいます。なお、山林や原野などを造成工事せずに販売することを「現状有姿分譲」といい、市街化調整区域の別荘地などの分譲でよく行われています。通常は、電気、ガス、水道などの生活インフラが整備されていないため、そのままの状態では生活することができません。分譲広告の際には、現状有姿分譲地であっても、そのままでは生活しうる設備が整っていない旨表示しなければなりません。

ここでは、瑕疵担保責任を検討する際に現状有姿売買がどのように取り扱われるのかについて見て考えてみます。

民法上、契約の目的物が特定物である時は、引き渡し時における現状でその物を引き渡さなければならないと定められています(民法483条)。つまり、売り主としては、引き渡し時の現状で目的物を引き渡せば、売り主の義務を履行したことになります。土地や建物は特定物ですから、不動産に関する現状有姿売買は特別の意味を有するものではありません。引き渡しについて当然の内容を確認しただけものとも考えられるのです。そうすると、引き渡し後に雨漏りをもたらす不具合が建物に存在することが判明した場合でも、売り主としては、「現状有姿売買なのだから瑕疵担保責任を負わず、そのままの状態で引き渡せば足りるはずだ」と主張することになるでしょう。

しかし、裁判実務では、単に当然の内容を確認したものとして現状有姿売買を取り扱うわけではありません。

裁判所は、現状有姿売買である旨の規定とともに瑕疵担保責任免除特約の規定がある場合には、瑕疵担保責任免除特約の適用が可能であれば瑕疵担保責任を認めないと判断しているようです。すなわち、現状有姿売買であると定める契約条項を瑕疵担保責任免除特約の規定と解するのです。ある裁判例は「本契約における瑕疵担保責任免除特約は、土地につき公簿売買とすること、本件建物につき現状有姿売買とすることと相俟って、単なる建物の構造上の瑕疵や土地建物の権利についての瑕疵だけでなく、建物内及び土地上の残置物の質・量についての認識の違いがあった場合についても、その処理費用等についての売り主(被告)の責任を免責する趣旨のものとして合意されたものと解するのが相当である」とした上で、「原告代表者は、1階車庫のシャッターを開けた状態で内部の検分をすることを勧められたがこれを断ったこと、敷地の範囲・境界についても説明を受けて検分し、脇の竹藪付近にベッドマットレス等が放置されている状況を確認していること、被告が1階車庫内部の残置物の状況や、土地上の残置物の状況について、ことさら事実と異なる説明をしたと認めるに足る証拠はないことからすると、原告代表者は本件土地建物の状況を実地検分により十分認識し、又は認識しうる状況で前記瑕疵担保責任免除特約に合意したものと推認するのが相当である」と判示し、現状有姿売買であることが瑕疵担保責任免除特約の解釈に影響を及ぼすとしています。

同様に、別の裁判例も瑕疵担保責任免除特約の解釈の際に、現状有姿売買であることを考慮して判断しています。

もっとも、現状有姿売買であれば当然に瑕疵担保責任が否定されるというわけではありません。最終的には、他の条項との関係で判断することになりますから、注意が必要です。

一方、単なる現状有姿売買であるとする規定の場合には、経年変化に伴うものは売買代金に評価されているとして、そもそも瑕疵に当たらないとするのに対し、経年変化以上の劣化や不具合については、売り主の瑕疵担保責任を認めると判断しているようです。また、現状有姿売買であるという契約条項について、補修工事を行わない旨の合意として解釈するケースもあります。つまり、現状有姿売買であるとの文言を、土地建物の引き渡し前あるいは引き渡し後において売り主が補修工事を行わない旨の合意があるという意味と捉えることもあるのです。

このように、現状有姿売買についての解釈は画一的になされるものではありませんので、注意が必要です。判例の中でも統一した見解があるわけではなく、現状有姿売買の定めにより瑕疵担保責任が否定されるものもあれば、現状有姿売買の定めがあっても瑕疵担保責任が肯定されるものもあります。事案ごとに判断が分かれることもありますから、問題となる土地建物の売買契約書に「現状有姿売買」という文言がある場合には、不動産売買契約に詳しい弁護士などに相談した方が無難でしょう。

【メモ】錯誤

錯誤は、辞書を引くと「あやまり、まちがい」「事実と観念が一致しない」などとあり、一般的に使われる用語として「時代錯誤」があります。民法上の「錯誤」は、内心意思と表示行為が対応せず、意思表示をした本人がその不一致を認識していない状況を指します。こうした錯誤については、内心意思を欠く意思表示となるため、錯誤に基づく法律行為は無効とし、意思表示をした人を保護するのが原則です。しかし、一方でその意思表示を信じた相手方の保護が必要な場合もあり、民法の規定が調整を図っています。

効力のない特約

原則として有効とされる瑕疵担保責任免除特約ですが、例外的に効力が認められない場合もありますので注意する必要があります。

どのような場合に瑕疵担保責任免除特約の効力が否定されるかというと、<1>民法規定に基づく例外、<2>特別法規定に基づく例外が考えられます。

それぞれについて詳しく見てみましょう。

<1>民法の規定に基づく例外

民法572条は、「売り主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をした時であっても、知りながら告げなかった事実・・・については、その責任を免れることができない」と定めています。売り主が売買の目的物である土地や建物に瑕疵が存在することを知っているにもかかわらず、買い主に瑕疵の存在を告げなかった場合には、瑕疵担保責任免除特約の効力は否定されます。

先述した通り、売買契約の当事者間で売り主の瑕疵担保責任を免除する旨の特約がある場合には、法律で定められている売り主の瑕疵担保責任を免除したり軽減させたりすることができるのが原則です。しかし、売り主が売買目的物の土地や建物に瑕疵が存在することを知っていたにもかかわらず、敢えて買い主に瑕疵の存在を告げなかった場合に瑕疵担保責任免除特約の効力を認めることは、あまりにも買い主に酷といえますし、信義則に反します。いくら当事者間で合意があったとしても、売り主が瑕疵の存在を知っていたのに買い主に伝えなかった場合には、特約の効力を否定せざるを得ないと考えられます。

具体的な事案に対する裁判所の判断には、この例外を肯定したものと否定したものがあります。民法572条が定める例外を肯定した裁判例としては、売買契約の目的物である建物が火災にあって焼損したことが隠れた瑕疵に当たるかが問題となった事案で、瑕疵担保責任免除特約の効力が争われたものがあります。この例では、焼損は建物の瑕疵に当たるとした上で、「売り主は、本件焼損を本件火災の約一週間後に自ら確認しており、本件焼損等を忘れたというだけであって、知らなかったというのではないから、『知りながら』告知しなかったことに当たるということも可能である」などと判示し、瑕疵担保責任免除特約の効力を否定しました。他の複数の裁判例も民法572条が定める例外を肯定した上で、瑕疵担保責任免除特約の効力を否定しています。

一方、民法572条が定める例外を否定した判例もあります。売り主が瑕疵の存在を知りながら買い主に告げなかったことから、民法572条が定める例外を認めず、原則通りに瑕疵担保責任免除特約の効力を肯定した裁判例です。

売り主が瑕疵の存在を知っていた、つまり売り主が悪意であった場合について見てきました。では、売り主が悪意ではないものの、過失がある場合はどう判断すればよいでしょうか。一口に過失と言っても、重大な過失から軽度の過失まで幅があります。どのような場合に例外的に瑕疵担保責任免除特約の効力が否定されることになるのか見てみましょう。

この点について、判例は割れています。例外的に瑕疵担保責任免除特約の効力が否定される場面を、売り主が悪意の場合に限定する判例もありますし、売り主が悪意である場合に限らず、悪意と同視すべき重大な過失がある場合にも例外を認める判例もあります。

まず、売り主が悪意の場合に限定する判例では、住宅分譲用に購入した土地に環境基準値を超えるヒ素が残留していたという事案において、「本件売買契約は本件土地を原告において戸建て住宅分譲事業を行うことを目的とするものであるから、本件瑕疵担保責任制限特約の対象となる本件土地の地表から地下1メートルまでの部分に環境基準値を大幅に超える高濃度のヒ素が含まれることは、宅地として通常有すべき性状を備えたものということはできず、本件土地の瑕疵に当たる。そして、原告は、本件売買契約の際に、被告から本件土地につき本件浄化工事を行い、浄化効果の確認の結果、環境基準値を下回ったとの報告を受けた」のであって、「本件土壌に環境基準値を大幅に超える高濃度のヒ素が含まれていることを知らなかったのであるから、上記瑕疵は『隠れた』瑕疵に当たる」と認定した上で、「民法572条は、売り主は567条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をした時であっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることはできない旨規定している。この規定は、売り主が知りながら告げない事実については、公平の見地から瑕疵担保責任の免責特約の効力を否定する趣旨のものである。このような同条の文言及び趣旨に照らせば、本件瑕疵担保責任制限条項は、本件土地に環境基準値を超えるヒ素が残留していたことにつき被告が悪意の場合に無効となるが、本件土地の土壌に環境基準値を超えるヒ素が残留していたことを知らない場合には、知らなかったことにつき重過失があるとしても、その効力が否定されることはないと解するのが相当である」と判示し、例外が認められるケースを売り主が悪意の場合に限定しました。

一方、売り主が悪意の場合に限らず、悪意と同視すべき重大な過失がある場合にも瑕疵担保責任免除特約の効力を否定した裁判例では、売買契約の目的物である土地の地中にコンクリートがら等の埋設物が存在していたという事案において、「本件土地は、宅地であり、原告は、一般木造住宅用の宅地として分譲販売することを目的として、本件土地を購入したものであり、被告はこれを認識していたものであるところ」、「本件地中埋設物の存在状況からすると、本件土地に一般木造住宅を建築し、浄化槽埋設工事を行うに当たっては、本件地中埋設物が存在しなければ本来必要のない地盤調査、地中埋設物の除去及びこれに伴う地盤改良工事等を行う必要があり、かかる調査・工事等を行うために相当額の費用の支出が必要となるものと認められるから、本件土地は、一般木造住宅を建築する土地として通常有すべき性状を備えていないものと認めるのが相当であり」、「本件地中埋設物の存在は、本件売買における目的物の『瑕疵』に当たり、「本件地中埋設物の存在は、本件売買契約後の地盤調査等によって初めて明らかになったものであり、本件売買契約当時、原告において本件地中埋設物が存在することを予想することなく、本件土地を買い受けたものであるから、本件地中埋設物は容易に認識しうる状況になかったものといえ、本件地中埋設物は、『隠れた瑕疵』に当たる」と認定した上で、「被告が本件地中埋設物の存在を知らなかったことにつき被告に重過失が認められる場合にも、民法572条が適用あるいは類推適用されるかどうか、あるいは、本件免責特約を主張することが信義則に反しないか否か」について、「そもそも担保責任の規定は、特定物売買における対価的不均衡によって生じる不公平を是正するために、当事者の意思を問うことなく、法律が特別に定めた法定責任ではあるが、もともと売買契約当事者間の利害を調整しようとするためのものであるから、当事者間の特約によっても、法定の担保責任を排除・軽減することができるのが原則である。ただし、当事者間の特約によって信義に反する行為を正当化することは許されないから、民法572条は信義則に反するとみられる二つの場合を類型化して、担保責任を排除軽減する特約の効力を否認しているものと解される。そして、本件において、被告は、少なくとも本件地中埋設物の存在を知らなかったことについて悪意と同視すべき重大な過失があったものと認めるのが相当であるとともに」「本件売買契約時における原告からの地中埋設物のないことについての問いかけに対し、被告は、地中埋設物の存在可能性について全く調査をしていなかったにもかかわらず、問題はない旨の事実と異なるまったく根拠のない意見表明をしていたものであって、前記のような民法572条の趣旨からすれば、本件において本件免責特約によって被告の瑕疵担保責任を免除させることは、当事者間の公平に反し、信義則に反することは明らかであって、本件においては民法572条を類推適用して、被告は、本件免責特約の効力を主張し得ず、民法570条に基づく責任を負うものと解するのが当事者間の公平に沿うゆえんである」と判示しました。

この判例においては、被告の売り主が地中埋設物の存在を知らなかったことについて悪意と同視すべき重大な過失があり、加えて調査もしていないのに問題ないと答えているため、免責特約に基づき瑕疵担保責任を免除させることは信義に反するとして、民法5722条を類推適用し、売り主の瑕疵担保責任を肯定している点がポイントです。

また、別の裁判例は土地建物の売買において、建物が火災にあって焼損したことが瑕疵に当たるが問題となった事案で、「本件売買契約は、約15年前に増築されてはいるが、築後26年以上を経過した中古住宅を敷地と共に現状有姿で譲渡するものであり、代金も敷地と合計した額のみを定めているものである。従って、本件建物の通常の経年変化は代金に織り込み済みというべきである。しかし、通常の経年変化を超える特別の損傷等がある場合には、当該損傷は、代金設定において考慮されていなかった事情であり、本件建物の瑕疵に当たると解すべき」であり、「売買の目的建物が、火災に遭ったことがあり、これにより焼損を受けているということは、通常の経年変化ではなく、その程度が無視し得ないものである場合には、通常の経年変化を超える特別の損傷等があるものとして、建物の瑕疵に当たるということができる。そして、この火災や焼損の事実を買い主が知らされていなかった場合には、隠れた瑕疵に当たる」とした上で、被告は「本件焼損を本件火災の約1週間後に自ら確認しており、本件焼損等を忘れたというだけであって、知らなかったというのではないから、『知りながら』告知しなかったことに当たるということも可能」であり、瑕疵担保責任を負わない旨の特約を「『認識していながら』と解するとしても、瑕疵担保責任を負わない旨の特約の効力を瑕疵を知りながら告知しなかった場合に否定するのは、特約の適用を認めることが信義則に反するからであることにかんがみれば、容易に思い出すことができ、当然に思い出して告知すべき事項を、思い出さずに告知しなかった場合は故意と同視すべき重大な過失があるというべきであり、そのような場合に上記特約の適用を認めることも、同様に信義則に反するというべきである。そうすると、仮に被告が思い出さなかったために告知しなかったというのであっても」、「本件建物が本件火災に遭ったことは、容易に思い出すことができ、当然に思い出して告知すべきことであったというべきであるから、特約の適用を認めることは、信義則に反して許されないということができる」と判示しました。この判例でも、特約の適用を認めることが信義則に反しないかという観点から判断されています。

売り主に過失があるが、重過失ではなく軽過失である場合にはどのように判断されるのでしょうか。この問題点についてある裁判例は、欠陥マンションの買い主から建築主兼売り主である不動産業者に対して責任追及がなされたという事案で、瑕疵担保責任を負う期間を制限する特約があるため責任を負わないとの被告の主張を排斥し、「同特約を締結した際の当事者の合理的意思を推測すれば、同特約の趣旨が売り主に瑕疵の存在について故意又は過失があった場合にまで、民法の規定に比べて短期間で、売り主の瑕疵担保責任を免除させてしまうことにあったとは解されず」、「同特約は、要するに、売り主が瑕疵の作出あるいは存在について無過失である場合に限定して適用されると解すべきである」と判示し、瑕疵担保責任免責特約が有効とされるのは売り主が無過失の場合であって、瑕疵の存在について重過失のみならず軽過失があった場合においても、例外的に瑕疵担保責任免責特約の効力が否定されると判断しました。

当事者間において締結した特約の効力が認められるか否かは、契約当事者にとって非常に重要です。瑕疵担保責任免責特約を締結しているので瑕疵担保責任を負わないと高を括っていたら、買い主から責任追及された、ということになりかねません。逆に、瑕疵担保責任免責特約を締結してしまったので、売買契約の目的物である土地や建物に瑕疵があり売り主に責任追及したくてもできないと思い込んでいたところ、実際には瑕疵担保責任免責特約の効力は認められず、売り主に瑕疵担保責任を追及することができる事案だったということもあるのです。どういった場合に売り主の過失が認められるか、の判断は慎重にすべきですから、瑕疵担保責任免責特約の効力が問題となった場合には専門弁護士に相談した方がいいでしょう。

<2>特別法の規定に基づく例外

これまで見てきた民法の規定に基づく例外のほかに、特別法の規定に基づく例外も存在します。どのような特別法が問題となるのか具体的に見てみましょう。

(ア)消費者契約法の規定に基づく例外

まず、消費者と事業者との間で締結された消費者契約における例外についてです。

両者の間には、不動産売買などの取引に関する情報の質と量、そして交渉力について、構造的格差が存在します。例えば、不動産の売買契約の場面では、消費者が契約当事者という立場になるのは、通常、一生のうちせいぜい数回ですが、事業者は日常的に不動産売買を業務としており、両者の経験値には歴然とした差があります。消費者契約法は、こうした格差に鑑み、事業者の行為により消費者が誤認・困惑した場合に申し込みや承諾の意思表示を取り消すことができ、また、事業者の損害賠償責任を免じる条項や消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすると定めています。

このように消費者の保護を重視する消費者契約法では、瑕疵担保責任免責特約の効力も消費者に有利に解されます。すなわち、消費者と事業者との間における消費者契約においては、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する特約(損害賠償全部免除条項)は原則として無効とされ、原則的に売り主の瑕疵担保責任の全部を免除することはできません。

もっとも、瑕疵のない物でこれに代える責任又は瑕疵を修補する責任を負うこことされている場合などには、例外的に損害賠償を免除する特約の効力が認められると定められています。瑕疵修補義務などを特約で定めておけば、消費者契約においても、売り主の損害賠償義務を免除できます。

この損害賠償全部免除条項以外についても、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申し込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」は無効です。責任の全部免除ではなく一部免除の場合も、消費者の利益を一方的に害するものとして、当事者間の契約内容が無効とされるケースがあります。どのような契約内容が無効となるのかは、各当事者間の属性や契約自体の個性にもよります。

【メモ】消費者契約法

一般消費者が事業者と契約を結ぶ場合、両者の間には必然的に情報の質や量、交渉力に格差があるため、消費者の権利を守る目的で平成13年4月に施行された法律。事業者による不当勧誘で結ばれた契約の取り消しや、不当な契約条項の無効を規定している。平成18年の改正により、新たに消費者団体訴訟制度が導入され、契約トラブルにより被害額は少額でも被害者が多数に上る業者に対し、一定の要件を満たす消費者団体が各被害者に代わって訴訟を起こせるようになった。その後の法改正で、同制度の対象は景品表示法、特定商取引法、食品表示法にも拡大された。

(イ)宅建業法の規定に基づく例外

次に、売り主が宅建業者である場合における例外です。

売り主が宅建業者である場合は、宅建業法上の瑕疵担保責任に関する規定を考慮する必要があります。

売り主が宅建業者であり、かつ、買い主が宅建業者ではない場合、宅建業者は瑕疵担保責任の期間が目的物の引き渡しの日から2年以上となる特約を結ぶ場合を除き、民法に定める責任より買い主に不利な特約を結べず、これに反する特約は無効です。

もっとも、売り主と買い主の双方が宅建業者である場合、すなわち宅建業者間の取引には宅建業法40条1項は適用されません。業者間の取引においては瑕疵担保責任免責特約も有効であり、判例も同じ立場です。業者間における土地の売買契約を扱った裁判例では「本件売買契約書によれば、原告と被告は、本件土地に隠れた瑕疵があった場合、原告が被告に対し、本件土地の引き渡し日から1年以内に請求すれば、被告がその瑕疵担保責任を負うことを合意していたということができ、原告と被告は、本件売買契約について売買の目的物の検査通知に関する商法526条を適用しないことを合意していたというべきである」として、特約の効力を肯定しました。

(ウ)住宅品質確保法(品確法)の規定に基づく例外

最後に、品確法に基づく例外についてです。

この法律は平成11年6月に成立し、平成12年4月に施行された法律です。この法律により、施行以降に売買契約が締結された新築住宅については、10年間の瑕疵担保責任が強制され、この規定と異なる特約の効力は認められません。売買契約の当事者間で締結した瑕疵担保責任免責特約の効力は認められないのです。

もっとも、上記の品確法の規定は、住宅に関する全ての瑕疵に適用されるわけではありません。住宅の瑕疵のうち「構造耐力上主要な部分」及び「雨水の侵入を防止する部分」の瑕疵についてのみ適用されます。「構造耐力上主要な部分」とは、基礎、基礎ぐい、壁、小屋根、土台、筋かいなどのことを指し、「雨水の侵入を防止する部分」とは、屋根、外壁、これらの開口部に設ける戸、枠その他の建具、雨水を排除するため住宅に設ける配水管のうち、住宅の屋根若しくは界壁の内側又は屋内にある部分を指します。例えば、購入した新築建物で雨漏りが発生した場合、「雨水の侵入を防止する部分」のいずれかに瑕疵が存在するものとして、補修を請求できます。

品確法に基づく瑕疵担保責任の特例を検討する際に注意すべきポイントは同法が適用されるのは新築住宅に限定されるという点です。新築住宅とは、新たに建築された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して1年を経過したものを除く)をいいます。他人が居住していた住宅を購入した場合や、他人が居住していたことはなくても、建設工事完了日から1年を経過した後に購入した住宅に関しては適用されません。

【メモ】住宅品質確保法

正式名称は「住宅の品質確保の促進等に関する法律」といい、平成12年4月に施行された。新築住宅(注文・建売)における瑕疵担保期間の10年の義務化と、住宅性能表示制度の二つが柱。前者の義務化の対象は、建物の「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」で、瑕疵担保期間を10年未満に短縮する契約は無効となる。また、後者は新築住宅の基本的性能について客観的に示し、第三者が確認することを通じて表示させる制度。国の基準により、専門機関が作成した評価書の交付を受け、契約内容として実現することで、安全な住宅取得を担保する。

限定特約

これまで見てきた通り、瑕疵担保責任免責特約は原則として有効です。「免責」ですから、売り主が瑕疵担保責任を全く負わないとする特約も有効です。では、売り主の瑕疵担保責任を限定する特約、すなわち瑕疵担保責任限定特約は有効なのでしょうか。

結論から言いますと、瑕疵担保責任限定特約も有効です。

売り主の瑕疵担保責任を全て免除する特約が有効であると解する以上、売り主の瑕疵担保責任を軽減する瑕疵担保責任限定契約も有効と解するのが合理的です。実際に判例も瑕疵の内容によって瑕疵担保責任を制限する特約は有効だとしています。

また、瑕疵担保責任の制限を認める法律も存在します。宅建業法は、瑕疵担保責任を負う期間を制限しうる場合があると定めています。すなわち、宅建業者を売り主とする不動産売買では、瑕疵担保責任は引き渡しの日から2年間に制限されています。民法の規定では、売買契約の目的物である不動産を引き渡した後、3年経っていたとしても5年経っていたとしても、買い主が瑕疵を発見してから1年間は瑕疵担保責任を追及できます。従って、宅建業法の規定はこの民法上のルールを軽減することになります。つまり、買い主が瑕疵を発見することができずに2年経過した場合、買い主は売り主に瑕疵担保責任を追及することができなくなります。

それでは、瑕疵担保責任限定特約が存在する場合、売り主は一切責任を負わないことになるのでしょうか。

例えば、土地建物の売買契約の当事者間で瑕疵担保責任限定特約を締結している場合には、契約の目的を達成することができないとして、契約を解除することはできるのかという問題があります。こうした場合、判例は契約を解除できるとしています。この判例は、マンション建設用地として購入した土地に多量の廃棄物の埋設や石綿等による土壌汚染が判明したため、買い主が売り主の瑕疵担保責任を理由として売買契約を解除するとともに、契約の解除による原状回復として、原告名義の所有権移転登記の引取り及び売買代金相当額の支払請求をしたという事案です。その判断では「民法570条にいう『隠れた瑕疵』とは、売買契約締結当時、社会通念上買い主に期待される通常の注意を用いても発見することのできないような目的物の瑕疵をいい、瑕疵の存在につき買い主の善意無過失を要求するものであるところ」、「本件売買においては、本件土地の地中の廃棄物の存在それ自体については、社会通念上買い主に期待される通常の注意を用いても発見することのできない目的物の瑕疵とまでは直ちにいえない」ものの、「地中の特定有害物質による汚染及び石綿等の存在並びにこれに起因する廃棄物や土壌汚染の処理に要する費用の高額化については、これにより、本件売買の目的物である本件土地の掘削作業や廃棄物処理作業の実施に際して石綿の飛散を防止する必要があるため、本件売買代金額と対比して過分な高額の処理費用を要することが見込まれることからすれば、上記瑕疵の存在により、本件土地上での分譲マンションの建設という原告の本件売買の目的を達することができないものと認めるのが相当である」としました。その上で、約定により売り主の瑕疵担保責任は地中障害物や土壌汚染等の除去費用として1000万円を負担するにとどまると制限されていることから、これを超えて原告が本件売買を解除することはできないとの被告らの主張に対し、上記約定は「本件土地の地中障害物や土壌汚染等の隠れた瑕疵の存在が判明した場合に、それが契約の目的を達することができないほど重大なものではない時における売り主の損害賠償責任の上限を画したものであるにとどまり、上記瑕疵が重大で契約の目的を達することができない時における買い主の契約解除権を否定する趣旨のものとまでは解することができない」と判示して、被告らの主張を斥け、原告による契約解除を認めました。

また、土地建物の売買契約の当事者間で瑕疵担保責任限定特約を締結している場合であっても、売り主の債務不履行責任は免責されません。判例も同様の考え方です。ヒ素による土壌汚染が判明した場合に、売り主が信義則上の付随義務としての汚染浄化義務違反による債務不履行責任を負うかについて問題となった事案において、ある裁判例は「民法572条は、売り主は567条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をした時であっても、知りながら告げなかった事実…については、その責任を免れることはできない旨規定している。この規定は、売り主が知りながら告げない事実については、公平の見地から瑕疵担保責任の免責特約の効力を否定する趣旨のものである。このような同条の文言及び趣旨に照らせば、本件瑕疵担保責任制限条項は、本件土地に環境基準値を超えるヒ素が残留していたことにつき被告が悪意の場合に無効となるが、本件土地の土壌に環境基準値を超えるヒ素が残留していたことを知らない場合には、知らなかったことにつき重過失があるとしても、その効力が否定されることはないと解するのが相当である」とし、瑕疵担保責任の責任期間を引き渡しから6カ月とする特約を有効と判断しました。その上で、「本件売買契約の売り主である被告は、本件土地に環境基準値を超えるヒ素が含まれている土地であることを事前に知っていたのであるから、信義則上、本件売買契約に付随する義務として、本件土地の土壌中のヒ素につき環境基準値を下回るように浄化して原告に引き渡す義務を負う」とし、売り主の債務不履行責任を認めています。瑕疵担保責任は法律が特別に定めた責任であるのに対し、債務不履行責任は契約関係から生じる責任ですから、両者は制度趣旨や要件が異なる別個の制度といえ、瑕疵担保責任を負わないからといって債務不履行責任も免責されるということにはならないのです。

土地建物の売買契約の当事者間で瑕疵担保責任限定特約を締結している場合であっても、信義則に基づき損害賠償請求が認められることもあります。判例は、宅建業者の媒介で土地建物を購入した買い主が、建物に雨漏り等があったとして、売り主に瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求したという事案で、「本件建物が当時、建築後13年を経過しており、既に多数のひび割れが生じていたことからすると、雨漏りを疑わせる重要な事実でもあるので、これらの事実を売買契約締結に至る前に買い主に説明して、買い主が売買価格の相当性、契約条項の相当性を検討する機会を与える信義則上の義務があった」と認定し、信義則上、買い主が売り主に対して民法570条、566条に基づき損害賠償請求をすることは妨げられないと判示しました。

瑕疵担保責任制限は、売り主が悪意の場合は民法572条により効力が否定されるところ、この判例の事案では、配水管の漏水と誤認していた売り主に悪意はなかったとした上で、信義則上の義務である漏水の事実について説明を欠いたと認定して、瑕疵担保責任制限と排除した損害賠償請求を認められました。ただ、売買契約の条項に瑕疵担保責任を制限する条項を設けたとしても、雨漏りのような隠れた瑕疵に対する責任を完全に回避することはできないので注意が必要です。

2020-03-18 16:50 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所