錯誤や詐欺

瑕疵担保責任と他の制度との関係を検討する際に、一番問題となるのが錯誤です。

錯誤とは、意思と表示の不一致を表意者が知らないことをいいます。民法95条本文は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があった時は、無効とする」と定めています。

錯誤は「表示と真意との食い違い」であったり「情報不足や不注意から不本意な意思表示をすること」であったりしますから、瑕疵担保責任が問題となる場面と重なる部分があるのです。

住宅を建て替える予定で土地付中古住宅を購入したところ、その土地は都市計画道路に指定されており、建て替えることができないことが判明したという事案で考えてみましょう。法律上の瑕疵も民法570条の「瑕疵」に含まれますが、売買の目的物に隠れた瑕疵が存在する場合に当たりますので、売り主の瑕疵担保責任を追及することができます。

一方、買い主としては、完全な宅地であると信じて土地を購入したのに、実は不完全な土地だったということになりますから、買い主に「錯誤」があったといえます。もっとも、意思表示の動機に錯誤があるに過ぎない場合は、その動機が表示されている場合に初めて意思表示が無効となりますが、建て替え予定であるとして売買契約を締結している以上、完全な宅地であることは暗黙のうちに表示されているといえるので、やはり買い主は錯誤無効も主張できそうです。このように、瑕疵担保責任と錯誤とが競合する場合、両規定の関係をどのように考えるべきかが問題です。

この問題について、最高裁判例は契約の要素に錯誤がある場合は瑕疵担保責任の規定の適用は排除されると示しています。この判例は「原判決は、本件代物弁済の目的物であるジャムに所論のごとき瑕疵があったが故に契約の要素に錯誤を来たしているとの趣旨を判示しているのであり、このような場合には、民法瑕疵担保の規定は排除されるのであるから、所論は採るを得ない」と判示し、瑕疵担保責任と錯誤の関係性について錯誤を優先して検討することを明示しています。すなわち、まず錯誤が成立するか否かを検討し、錯誤が成立しない場合には瑕疵担保責任が認められるかを検討するという順序になります。

では、瑕疵担保責任と錯誤のいずれが主張しやすのか、買い主の立場で考えてみましょう。

買い主としては、できるだけ緩やかな要件の方を主張したいと考えるのが自然です。瑕疵担保責任を主張する場合には、権利行使に期間制限がある点がネックとなります。原則として、買い主が瑕疵の存在を知ってから1年以内に瑕疵担保責任の主張をしなければならないからです。

これに対し、錯誤無効を主張する場合には、期間制限がありません。期間制限という観点からみれば、瑕疵担保責任より錯誤無効の方が買い主にとって主張しやすいといえるでしょう。しかし、要件や効果についても併せて考えると、必ずしも錯誤無効の方が主張しやすいとはいえません。錯誤無効を主張するためには、「要素の錯誤」であることを主張しなければならず、厳格な要件が必要です。「要素の錯誤」とは①表意者が意思表示の内容の重要部分について錯誤がなかったなら意思表示をしなかったであろうと考えられるもの(因果関係)で、かつ②意思表示をしないことが一般取引上の通念に照らして(通常人を基準とし)もっともであると認められるもの(重要性)をいいます。

錯誤に陥った人の保護と相手方の保護とのバランスを図るため、無効を主張することができるケースを「重要な錯誤があった場合」に限定するという趣旨です。不動産のような特定物の売買においては、目的物の土地や建物の同一性に関する錯誤は「要素の錯誤」に該当します。また、たとえ錯誤無効の主張が認められたとしても、直ちに損害賠償が認められるわけではありません。別途、不法行為などに基づく損害賠償請求を行う必要があります。

このように、瑕疵担保責任を主張すべきか錯誤無効を主張すべきかについては、いずれも一長一短であることから判断が難しいといえます。瑕疵担保責任や錯誤無効を主張することにより保護を受けようとする場合には、どちらの主張をするのが有利なのか、両方とも主張した方がよいのかについて専門弁護士に相談するとよいでしょう。

なお、瑕疵担保責任と錯誤無効の両方を同時に主張することは可能ですが、実務上、瑕疵担保責任の主張のみがなされている場合には、錯誤については判断されません。瑕疵担保責任を主張すべきか、錯誤無効を主張すべきか、その両方を主張すべきか、という選択はこうした点からも慎重に検討すべきでしょう。

それでは、瑕疵担保責任と錯誤無効の主張が同時になされた場合、瑕疵担保責任の主張より錯誤無効の主張が優先的に判断されるのでしょうか。

ある裁判例は、既存建物を取り壊して新たに建物を建て、その敷地と新築建物を第三者に売却する目的で平成10年に建物とその敷地を被告から購入した原告が、この建物を取り壊したのちに建物内で平成8年に被告の母親が首吊り自殺していることを知り、この事実は本件売買契約の目的物である土地建物の隠れた瑕疵に該当するとして、本件売買契約を解除したうえ、違約金を請求したという事案で、「確かに継続的に生活する場所である建物内において、首吊り自殺があったという事実は民法570条が規定する『物の瑕疵』に該当する余地があると考えられるが、本件においては、本件土地について、かつてその上に存していた本件建物内で平成8年に首吊り自殺があったということであり、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定されるのであるから、その嫌悪の度合いは特に縁起をかついだり、因縁を気にしたりするなど特定の者はともかく、通常一般人が本件土地上に新たに建築された建物を居住の用に適さないと感じることが合理的であると判断される程度には至っておらず、このことからして、原告が本件土地の買い主となった場合においてもおよそ転売が不可能であると判断することについて合理性があるとはいえない。従って、本件建物内において平成8年に首吊り自殺があったという事実は、本件売買契約において、『隠れた瑕疵』には該当しないとするのが相当である」とした上で、「右事実が『隠れた瑕疵』に該当しない以上、右事実について、被告らに説明義務を認めることはできず、また、本件売買契約について、原告に要素の錯誤があるともいえない」と判断しています。

また、別の裁判例では、購入したマンションは環境物質対策基準に適合した住宅との表示であったにもかかわらず、いわゆるシックハウスであり居住が不能であるとして、第1に消費者契約法4条1項に基づく売買契約の取消し、さらに、売買契約の錯誤無効又は詐欺取消しを理由とする不当利得返還請求として、第2に売り主の瑕疵担保責任による契約解除及び損害賠償請求として、第3に環境物質対策が不完全な目的物をそのような対策が十分な建物として売却した債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求として、売り主に対して売買代金等相当額ないし損害賠償の支払いを求めたという事案において、瑕疵の存在を認定し、売り主に対する瑕疵担保責任の追及を認めた上で、「瑕疵担保責任としての契約解除と損害賠償請求が認められる以上、消費者契約法による取消し、錯誤無効又は詐欺取消しを理由とする原状回復請求権の成否については検討するまでもない」と判断しています。

このように、現在の裁判実務においては、錯誤無効の主張が瑕疵担保責任の主張よりも優先するという考え方はなされていません。

また、瑕疵担保責任に関して問題となるのは錯誤無効に限りません。

他に問題となるテーマとしては、売り主の説明義務を挙げることができます。売買の目的物である土地や建物に瑕疵がある場合、直ちに土地や建物の売り主の説明義務違反が認められるのでしょうか。

本来、売買の目的物である土地や建物に瑕疵があることと、土地や建物の売り主に説明義務違反があることは別の問題のはずです。そうすると、たとえ売買の目的物である土地や建物に瑕疵があり、売り主の瑕疵担保責任が問題となるような場合でも、ただちに売り主の説明義務違反が問われることにはならないはずです。瑕疵担保責任と説明義務はそれぞれ、問題となる場面や検討すべき要件が異なることから、別個の問題として捉えるべきと考えられます。

ただ、判例の考え方は一通りではありません。瑕疵担保責任を肯定しつつ説明義務違反を否定したものや、瑕疵担保責任を否定しつつ説明義務違反を肯定するもののように、瑕疵担保責任と説明義務違反を別個の問題として判断した判例もありますし、瑕疵担保責任が認められない以上、説明義務違反も認められないと判断したケースもあります。

瑕疵担保責任と説明義務違反を別個の問題ととらえた裁判例では、被告らから宅地を買い受けた原告らが、宅地上に住宅を建築しようとしたのに対し、隣家の住人から脅迫的な言辞で設計変更を要求されるなどしたところ、そのような住人が隣家に居住していることは宅地の「隠れた瑕疵」に当たる、又は、被告らがそのような住人が隣家に居住していることを原告らに説明しなかったのは説明義務違反に当たる、と主張して被告らに対し、瑕疵担保責任又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、損害金約5600万円とこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めたというものでした。裁判所の判断は「A(原告らが買い受けた宅地の隣家の住人)は、本件売買契約前から、被告らに対しても、脅迫的な言辞をもって、本件セットバック部分だけでなく、Aによる建築禁止要求部分にも建物を建築してはならないという、誠に理不尽な要求を突き付けていたのであり、このような脅迫罪や強要罪等の犯罪にも当たり得る行為を厭わずに行う者が本件私道のみを隔てた隣地に居住していることが、その上に建物を建築、所有して平穏な生活を営むという本件売買土地の宅地としての効用を物理的又は心理的に著しく減退させ、その価値を減ずるであろうことは、社会通念に照らして容易に推測されるところである」「Aは、自己が実質的に経営する会社の所有していた本件売買土地を購入した被告らや原告らに対して、脅迫的言辞による要求を突きつけて本件敷地部分における建物の建築を妨害していることからすると、本件売買土地を購入した者から不当に低廉な代金額でこれを自己又は自己の関係者において買い戻すことを意図して、そのような要求をしているのではないかと疑われるのであり、そうであるとすれば、そのようなAによる要求は、一時的なものではあり得ず、今後も継続することが予想されるところである。そうすると、本件売買土地は、宅地として、通常保有すべき品質・性能を欠いているものといわざるを得ず、本件売買土地には、本件瑕疵、すなわち、脅迫的言辞をもって本件敷地部分における建物の建築を妨害する者が本件隣地に居住しているという瑕疵があるというべきである」として、売り主の瑕疵担保責任を肯定しました。

一方、売り主の説明義務違反については、「売買契約の目的物に存する瑕疵の存在が要素の錯誤に当たる場合やその存在について売り主に告知義務がある場合に、その売買契約が無効事由又は取消し事由のあるものになり、あるいは、売り主に不法行為が成立し得ることはあるとしても、売買契約成立前の締結過程において瑕疵の存在を告知しなかったことが、売買契約の売り主としての債務不履行になるとはいえないというべきである」とした上で、「本件において、被告らは、原告らに対して、本件瑕疵の存在、すなわち、本件敷地部分における建物の建築を脅迫的言辞でもって妨害する者が本件隣地に居住している事実を告知しなかったのではあるが、そのような事実が存在しないとの虚偽の事実を積極的に告知したものではないから、被告らには作為による説明義務違反が成立する余地はないというべきである」「また、本来、不動産を買い受けようとする者は、それを買い受けるかどうかについての意思決定の自由を有し、基本的には、自己の責任において近隣の状況を含む不動産の性状・品質を調査すべきものと考えられるところ、本件において、本件敷地部分における建物の建築を脅迫的言辞でもって妨害する者が本件隣地に居住していること、という本件売買土地の瑕疵は、被告らが作出したものとは認められないし、原告らによる調査を被告らが妨げたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、被告らは、上記のような本件売買土地の瑕疵の存在を認識していたとしても、積極的にそれを原告らに告知する義務を負うものではなく、従って、被告らには不作為による説明義務違反成立の前提となる作為義務があったとはいえないというべきである」として、売り主の説明義務違反を否定しました。

この判断を不服として、被告らは控訴しました。しかし、控訴審でも原審の判断が維持され、売り主の瑕疵担保責任は認められましたが、説明義務違反は認められませんでした。一方、この判例とは逆に、瑕疵の存在を否定した上で、売り主の説明義務違反を肯定した裁判例もあります。

瑕疵担保責任と説明義務違反を別個の問題と捉えながらも、瑕疵担保責任も説明義務違反も認めないという判断をした裁判例もあります。このケースは、建売業者から本件土地及び本件建物を買い受けたところ、本件土地は大雨の時などは容易に冠水し、宅地として使用することができないため、売買の目的物に隠れた瑕疵があるうえ、売買契約の際に売り主がその点について説明をしなかったことが債務不履行(説明義務違反)に当たるとして、買い主が売り主に1000万円の損害賠償を求めた事案です。この事案の裁判所の判断は「瑕疵とは、当該目的物を売買した趣旨に照らし、目的物が通常有すべき品質、性能を有するか否かの観点から判断されるべきである。そして、本件のような居住用建物の敷地の売買の場合は、その土地が通常有すべき品質、性能とは、基本的には、建物の敷地として、その存立を維持すること、すなわち、崩落、陥没等のおそれがなく、地盤として安定した支持機能を有することにあると解される」とした上で、「地盤が低く、降水等により冠水しやすいというような場所的・環境的要因からくる土地の性状も、当該土地における日常生活に不便が生じることがあるのであるから、その土地の経済的価値に影響が生じることは否定できない。しかしながら、そのような土地の性状は、周囲の土地の宅地化の程度や、土地の排水事業の進展具合等、当該土地以外の要因に左右されることが多く、日時の経過によって変化し、一定するところがないのも事実である。また、そのような冠水被害は、一筆の土地だけに生じるのではなく、附近一帯に生じることが多いが、そのようなことになれば、附近一帯の土地の価格評価に、冠水被害の生じることが織り込まれることが通常である。そのような事態になれば、冠水被害があることは、価格評価の中で吸収されているのであり、それ自体を独立して、土地の瑕疵であると認めることは困難となる」とし、売り主の瑕疵担保責任を否定しました。

また、売り主の説明義務違反については、「瑕疵に当たらないからといって、直ちにその販売業者に土地の性状等についての説明義務がないといえるものではない。このような事柄は、その程度いかんにもよるが、その性質上、当該土地建物の利用者に日常生活の面で種々の支障をもたらす可能性があるからである。また、本件のように売り主が宅建業者としての地位にある場合、当該業者は宅地建物の専門的知識を有するのに対し、購入者はそのような知識に乏しく、専門家を信頼して宅地建物を購入するのであるから、売り主たる当該業者は、この面からも、売買契約に付随する信義則上の義務として、その取引物件に関する重要な事柄については、これを事前に調査し、それを購入者に説明する義務を負うべきである」としました。

しかし、「場所的・環境的要因からする土地の性状は、その地域の一般的な特性として、当該物件固有の要因とはいえない場合も多く、そのような土地の性状等は、長年の土地の取引の積み重ねを通じて、一定程度、土地の評価にも反映し、それが織り込まれて土地の価格を形成している場合も多いと考えられ、そのような事柄は当該土地の用途地域(工業地域、住居専用地域)などと異なり、簡便に調べられる事柄ではない」とし、「当該業者が上記のような土地の性状に関する具体的事実を認識していた場合はともかく、そうでない場合にもその説明義務があるというためには、そのような事態の発生可能性について、説明義務があることを基礎付けるような法令上の根拠あるいは業界の慣行等があり、また、そのような事態の発生可能性について、業者の側で情報を入手することが実際上可能であることが必要である」と判断し、売り主の説明義務違反を否定しました。

以上の判例は、売り主の瑕疵担保責任と説明義務違反を別個の問題と捉え、別々に検討するという立場を採用しています。一方、売り主の瑕疵担保責任と説明義務違反を区別することなく検討した判例もあります。いくつかご紹介しましょう。

まずは、不動産会社からマンションの専有部分を購入した買い主の相続人が、不動産会社及びその販売代理人であった宅建業者対し、本件専有部分に設置された防火戸の電源スイッチが切られた状態で引き渡されたなどとして、不動産会社に対しては売り主の瑕疵担保責任による損害賠償請求権に基づき、宅建業者に対しては不法行為責任による損害賠償請求権に基づき、損害賠償を求めたという事案です。このケースでは、本件専有部分に設置された防火戸は、電源スイッチが切られて作動しない状態で買い主に引き渡され、その後、本件専有部分の寝室から出た火災で専有部分は焼損し、買い主はその後、入院先で突然呼吸困難となり、急性心不全で死亡しました。この判例では「802号室は、防火戸を備えていながら、その電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたから、売買の目的物に隠れた瑕疵があったものとして、売り主は本件防火戸が作動しなかったことにより買い主が被った損害を賠償すべき義務を負う」とし、売り主の瑕疵担保責任を肯定しました。

また、「本件防火戸は、火災に際し、防火設備の一つとして極めて重要な役割を果たし得るものであるところ」、売り主からの委託で本件売買契約の締結手続きをした宅建業者は「本件防火戸の電源スイッチが、一見してそれとは分かりにくい場所に設置されていたにもかかわらず」、買い主らに何らの説明をせず、買い主は「上記電源スイッチが切られた状態で802号室の引き渡しを受け、そのままの状態で居住を開始したため、本件防火戸は、本件火災時に作動しなかったことが認められる」とし、売り主の説明義務違反を認定しました。そして、売り主の瑕疵担保責任又は債務不履行による損害賠償義務を負うとしています。

売買の目的物である建物内で焼死者が発生したことにつき、土地にまつわる心理的欠陥であり、買い受けた土地に心理的瑕疵があったとして、売り主らに対し、瑕疵担保責任又は債務不履行に基づく損害賠償を求めたという事案においても、売り主の瑕疵担保責任と説明義務違反を区別することなく検討しています。この判例では「売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであり、目的物に物理的欠陥がある場合だけではなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も含まれると解される」とした上で「本件土地あるいはこの上に新たに建築される建物が居住の用に適さないと考えることや、それを原因として購入を避けようとする者の行動を不合理なものと断ずることができず、本件土地上にあった建物内において焼死者が発生したことも、本件売買契約の目的物である土地にまつわる心理的欠陥であるというべきことになる」と瑕疵の存在を認め、その存在を「認識していた売り主には、信義則上、これを告知すべき義務があったことになる」として、売り主の説明義務違反も肯定しました。

このように売り主の瑕疵担保責任と説明義務違反を区別することなく検討する判例は他にも複数あります。いずれも瑕疵担保責任と説明義務違反を区別せず、売り主の責任について判断しています。

瑕疵担保責任と説明義務違反の関係について、いずれかの問題を検討すればもう一方の問題は検討しないとする判例もあります。ある裁判例では、不動産(本件土地)の買い主の訴訟承継人である原告(買い主の妻)が被告らに対し、買い主が被告Aを仲介者として被告Bから本件土地を買い受けたところ、その南側隣接地に高架道路が建設され、これによって本件土地及び同地上に建築した建物の減価等の損害を被ったとして、被告Aには本件土地の仲介者としての不法行為責任が、被告Bには本件土地の売り主としての債務不履行責任ないし瑕疵担保責任があるとして、被告両名に対し、連帯して損害賠償請求に及んだという事案において、被告らの債務不履行責任を認定した上で、説明義務違反があるから瑕疵担保責任の判断には立ち入らないとしました。

この判例では、被告Bについて「不動産取引を含む宅建者であり、本件土地売買の際、南側隣接地に本件高架道路が建設されることを知悉していたものであって、自宅の建設のために本件土地を購入しようとしていた買い主に対し、土地利用に支障を来たすことが明らかな右事実を説明しなかったことは、不動産取引業者として重大な契約上の義務違反であるというべきである」とした上で、被告Bが買い主夫婦に対し、「本件高架道路建設計画を告知していれば、同人らにおいては、本件土地を購入しなかったものと推認され、仮に購入したとしても、売買代金の交渉や本件建物の設計が異なっていたことは容易に推測されるところであって、その意味において同被告の右義務違反は重大であり、その行為は悪質というべきである」と認定し、「瑕疵担保責任についての判断に立ち入るまでもなく、被告Bに本件土地の買い主に対し、債務不履行責任があることは明らかである」と判断しました。

ちなみに、被告Aについては、「宅建業者として本件土地売買を仲介(媒介)したものである」ところ、売り主である被告Bから「本件高架道路の建設計画を告知されなかったにせよ、その業務上、買い主側の購入目的にかなう土地の仲介をするために、周辺土地の環境を調査し、その結果を説明報告すべき義務があるところ、本件土地の南側隣接地に本件高架道路の建設計画があることは、登記簿謄本を閲覧するなど調査すれば容易に知り得たのに、これを怠った過失があるといわざるを得ない」とし、被告Aも「原告が主張する不法行為責任を免れない」と指摘しました。このように、説明義務違反が認められる以上、買い主側からの瑕疵担保責任の主張を検討しなくても、売り主側の損害賠償責任は認められると判断したのです。

瑕疵担保責任と説明義務違反を別個の問題として捉えるのではなく、瑕疵担保責任が求められない以上、説明義務違反は認められないとして、瑕疵担保責任について説明義務違反を包含するものと捉える判例もあります。いくつかの判例を見てみましょう。

ある裁判例は、既存建物の取り壊しを目的とする土地及び建物の売買契約において、その建物内で過去に売り主の母親が首吊り自殺をしていたことが「隠れた瑕疵」に該当するか否かが問題となった事案です。この判例については、前述しました。別の裁判例は、被告らから土地建物を購入して転売したところ、地中に杭が設置されていたため転売先から求められて杭撤去などの工事代金を負担することになったため、土地建物の買い主である原告が売り主である被告らに瑕疵担保責任などに基づく損害賠償を求めたという事案です。

このケースでは「地中に杭を打設するのはその土地上に建築される建物の不等沈下などを防止するためであるから、このように有益な杭の打設されていることをもって一般的に土地に瑕疵があるということができないことは明らかであり、これが瑕疵に当たり得るとすれば、それは本件の転売先のように地下室建築にあたって杭が障害となるような場合に限られる。そして原告と被告間の本件土地の売買は更生会社管財人らとの間の本件建物の売買と同時に行われたものであり、従って原告は本件土地建物を一体として買い受けたものであるから、本件における前記の地下杭は本件土地の瑕疵とはいえない」と判断し、「本件地下杭の存在が本件土地の瑕疵に当たらない以上、被告管財人らが本件土地建物の売買に際し、これを説明すべき取引上の注意義務を負うとは解し得ない」としました。

また、説明義務違反の債務不履行に基づく損害額は、瑕疵担保責任に基づく損害額を超えず、瑕疵担保責任が説明義務違反を内包すると判断した事例もあります。この裁判例は原告が被告との間で、原告を買い主、被告を売り主とする本件土地及び本件建物の売買契約を締結したところ、地中に埋設物及び汚染土壌が存在していたとして、被告に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求め、また、本件土地中の埋設物汚染土壌の存在などにつき、被告がこれを予め原告に説明しなかったとして、被告に説明義務違反の債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案において、埋設物及び汚染土壌が本件土地の瑕疵に該当すると認定し、被告の瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を認めた上で、「説明義務違反の債務不履行責任に基づく損害賠償請求は、原告主張の説明義務違反の有無を検討するまでもなく、上記瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求が認められる範囲を超えてはこれを認めることができない」と判断しました。

他の裁判例でも、説明義務違反の債務不履行に基づく損害額は、瑕疵担保責任に基づく損害額を超えるものではないとされています。

2020-03-18 17:01 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所