判断基準

瑕疵担保責任で問題となる「瑕疵」ですが、瑕疵が存在するかどうかはどのように判断するのでしょうか。瑕疵の判断基準について検討してみましょう。 瑕疵の存否を判断するのに一般的抽象的な基準が存在するわけではありません。瑕疵の存否は個別具体的に判断されます。つまり、問題となっている契約の契約内容や目的物の性質などに応じて、瑕疵の存否が判断されるのです。 具体的にはどのような事情を考慮して、瑕疵の存否を判断するのでしょうか。 瑕疵を判断する際に基準となるべき事情としては、次のものが挙げられます。 ①売買契約の趣旨・目的 ②売買代金 ③目的物の特性 ④売り主の指示・保証、当事者の合意 ⑤社会通念、一般常識 判例においては、これらの事情を総合考慮し、社会通念や一般常識に照らして、その物が保有すべき品質・性能を具備しているか否かが判断されています。 また、ある裁判例も、売買契約において目的物の用途がどのようなものと想定されているかという点と、売買契約において目的物の用途がどのようなものと想定されているかという点と、売買代金額その他の売買契約の内容に目的物の性状(品質)がどのように反映されているかという点とに照らして判断される、と判示しています。

契約目的

瑕疵の存否を判断するに際し、売買契約の趣旨や目的は重要な判断材料となります。判例でも、売買契約の趣旨、当事者が意図した契約の目的に照らして、瑕疵の存否を判断し、契約において明示されていなくても、取引通念上予想される用途が前提となるとされています。 このように判例においても瑕疵の判断事情として認められている売買契約の趣旨・目的ですが、具体的にはどのように考慮されるのでしょうか。居住用建物の売買のケース、建物の敷地である土地の売買のケース、建て替えを前提とする建物の売買のケースについて、それぞれ検討してみましょう。 まず、「居住用建物の売買」のケースです。 居住用建物について考えた時に、まず備わっていなければならない品質・性能は、物理的安全性といえるでしょう。住居が通常有すべき物理的安全性を備えていなければ、居住用建物としては瑕疵があるといわざるを得ないでしょう。 判例においても、安全な居住のために通常有すべき機能を欠けば瑕疵があるとされていますし、契約締結当時既にシロアリにより土台を侵食され、建物の構造耐力上、危険性を有していた時には、住居としての建物の安全性という機能を欠くものとして瑕疵が認められるとされています。 このような物理的観点からの安全性のみならず、法律的観点からの安全性も問題となります。法律的観点からの安全性としてよく問題となるのは、建物の建蔽率についてです。 建蔽率違反が問題となった建売住宅の事例について、判例は「違法建築物は建築基準法第9条により除却、移転、改築、その他の措置を免れない運命にあり、その使用は遠からず制限されるおそれがあるほか、当局からの調査、呼出、折衝その他によってXの生活の平穏がはなはだしく乱されることになるのも十分予測されるところである。本件売買の目的物がこのような状態にあることは一見しては必ずしも明白でなく、このような状態そのものは住宅としての効用に害あることはもちろんであるから、これを一のかくれた瑕疵というにさまたげない」と判断しています。つまりこの判例では、建蔽率違反は居住用建物の売買において「瑕疵」になると判断されています。 しかし、建蔽率違反が問題となる事例全てにおいて瑕疵と認められるわけではありません。ある裁判例では「本件建物には建蔽率規制違反があるが、本件売買契約は現況有姿売買とされ、本件建物においてそのまま居住することを目的としており、上記建蔽率規制違反が当該目的を阻害するものとは考えられないこと、建蔽率規制違反の程度が必ずしも大きなものとはいえないことからすると、上記建蔽率が隠れた瑕疵であるとは認められない」と判断されています。現況有姿売買、つまり建物の現在のそのままの状況での売買の事例であったことにポイントがあります。売買当時のそのままの状況の建物にそのまま居住することを目的とする居住用建物の売買契約においては、建蔽率違反があったとしても、建蔽率違反がある状況のままの建物が売買の目的物になっていることから、建蔽率違反がただちに瑕疵と認められるわけではないのです。 このように、同じ建蔽率違反という事情であっても、売買の目的が何であるのかによって、瑕疵が認められるかに違いが生じます。 居住用建物が通常有すべき品質・性能として、安全性のほかにはどのような要素を挙げることができるでしょうか。 たとえ建物の構造や外観に問題がなく、安全性に問題がないとしても、住み心地の良さを欠くということであれば、その居住用建物は通常有すべき品質・性能を欠くといえるでしょう。判例においても、居住用建物が通常有すべき住み心地の良さを欠くことは瑕疵に該当するとしています。 具体的な判例の事例を見てみますと、小学生の子ども2名との4人家族で、永続的に居住するために建物を購入したにもかかわらず、購入の6年前に縊首自殺があり、その後もその家族が居住していた事案において、「本件建物を、ほかのこれらの類歴のない建物と同様に買受けるということが通常考えられないことであり、右居住目的からみて、通常人においては、右自殺の事情を知った上で買い受けたのであればともかく、子供も含めた家族で永続的な居住の用に供することははなはだ妥当性を欠くことは明らかであり、また、右は、損害賠償をすれば、賄えるというものでもないということができる」として、瑕疵を認めました。つまり、売買の目的物に自殺や殺人事件などの嫌悪すべき歴史的背景などがある場合についても瑕疵に該当すると判断しているのです。 もっとも、自殺や殺人事件という事情があった場合に必ず瑕疵の存在が認められるというわけではありません。自殺や殺人事件が発生してから売買がなされるまでの経過年数、事故後の利用状況、建物の所在する地域(都市部、郊外、山村など)、周辺環境、建物の種類・利用態様、近隣住民の関心度合、取引の経緯、契約の目的などを総合的に考慮して判断されることになります。 次に「建物の敷地である土地の売買」のケースです。 建物を建築するためには敷地が必要となります。その敷地として利用することを目的とする土地の売買のケースについて検討してみましょう。 建物建築のための敷地である以上、契約に基づいて建築しようとしている建物を実際に建築することが可能であり、その建物の安全性が確保されている必要があります。建築しようとしている建物を建築することができないのはどのような場合でしょうか。考えられる原因について、以下検討します。

①法令上の制限

まずは土地に法令上の制限が存在する場合が挙げられます。 建物を建築する際、建築基準法や都市計画法などの建築関連法令により規制を受けます。そのため、敷地の上に建物を建築する場合には、建物がこうした建築関連法令に違反しないものでなければなりません。では、建物の敷地である土地の売買において、建築関連法令に基づく規制により、契約に基づいて建築しようとしていた建物を建築することができなかった場合、瑕疵が存在するといえるのでしょうか。 判例では、建物の敷地である土地の売買について、法令上の制限がある場合に瑕疵の存在を肯定するケースと否定するケースがあります。 瑕疵の存在を肯定するケースとしては、次のような判例があります。最判昭41・4・14は、「Xは本件土地を自己の永住する判示規模の居宅の敷地として使用する目的で、そのことを表示してYから買受けたのであるが、本件土地の約8割が東京都市計画街路補助第54号の境域内に存するというのである。かかる事実関係のもとにおいては、本件土地が東京都市計画事業として施行される道路敷地に該当し、同地上に建物を建築しても、早晩その実施により建物の全部又は一部を撤去しなければならない事情があるため、契約の目的を達することができないのであるから、本件土地に瑕疵があるものとした原判決の判断は正当であり、所論違法は存しない」としています。また最判昭56・9・8は、「宅地造成を目的とした土地の売買取引にあっては、対象土地が、森林法等宅地造成目的を阻害する公法上の制限区域内にあることは、重大な瑕疵(法律的障害自由)であることは明らかである」とした高裁の判断(名古屋高判昭54・12・11)について、「所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、右事実関係のもとにおいて、保安林指定のある本件山林の売買につきYに売り主の瑕疵担保責任があるものとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない」として高裁の判断を維持しました。そのほかにも、多くの裁判例が建物の敷地である土地の売買における法令上の制限について、瑕疵の存在を肯定しました。 一方、瑕疵の存在を否定した判例もあります。ある裁判例では、売買対象の土地と隣接地との両方を敷地とするマンション建築を目的とすることが契約の内容であったか否かという問題点ついてこれを否定し、隣接地と一体して利用した場合の法的な規制について、隠れた瑕疵であることを否定しました。

②土壌汚染・地中障害物

土壌汚染や地中障害物が問題となる場合についても、瑕疵の存在が認められるか問題となります。 研究施設やガソリンスタンドとして利用されていた土地を購入したところ、土壌中から規制基準値を上回る有害物質が検出されたり、油部による汚染が見つかったりすることがあります。また、マンションや商業施設の建築工事中や基礎工事中に、土壌中から旧建物の基礎部分やコンクリート片、配水管などの地中障害物が発見されることはしばしばあります。では、建物の敷地である土地の売買において、その土地に土壌汚染や地中障害物が存在する場合、瑕疵の存在が認められるのでしょうか。土壌汚染や地中障害物が問題となった判例を検討してみましょう。 ある裁判例は、原告が被告に対して、購入した土地から環境基準値を超えるヒ素が検出されたと主張して、瑕疵担保責任等に基づく損害賠償を請求したという事案において、売買契約における瑕疵担保責任期間制限条項は有効であり、その期間を経過しているとして、被告は瑕疵担保責任を負わないとしましたが、被告は土地に環境基準値を上回るヒ素が含まれていることを事前に知っていたのであるから、信義則上、土地の汚染浄化義務を負うとして、請求の一部を認容しました。つまり、契約当時から土壌中に環境基準値を超えるヒ素が存在していたことは隠れた瑕疵に該当するとしたものの、売買契約で定めた瑕疵担保責任期間を経過しているので瑕疵担保責任は負わないとした上で、信義則上の汚染浄化義務を認めたのです。 また、別の裁判例は、原告が被告に対して、マンション建設のために購入した土地から、建物のコンクリート基礎やオイル類といった障害物が発見されたと主張して、瑕疵担保責任特約に基づく損害賠償を請求したという事案において、被告の瑕疵担保責任を認めました。 一方、瑕疵担保責任を否定した判例もあります。被告から土地を購入した原告が、被告に対し、売買契約締結後の法令に基づく規制の対象となったフッ素が売買契約締結当時から本件土地の土壌に基準値を超えて含まれていたと主張して、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求したという事案において、最高裁は瑕疵の存在を認めました(最判平22・6・1)。つまり、売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念を斟酌して判断すべきとした上で、①本件売買契約締結当時、取引観念上、フッ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害が生じるおそれがあるとは認識されておらず、②本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、フッ素が含まれていないことや、本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生じるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情も窺われないとして、本件売買契約の当事者間において、フッ素が人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に基準値を超えるフッ素が含まれていたことは、瑕疵に当たらないと判断したのです。ポイントとなるのは、瑕疵の有無の判断において、抽象的にとらえるのではなく、具体的に当該契約締結当時における当事者の合意や契約の趣旨に照らして、通常又は特に予定されていた品質・性能を欠くものであったかどうかを判断するという点です。

③通路

建物を利用するにあたって、通常存在するとされるものがない場合も瑕疵に該当します。 たとえば通路が該当するでしょう。人や自動車が出入りすることができなければ、その建物は期待されていた役割を果たすことができません。そのため、通路がない場合には瑕疵の存在が認められることになります。 今度は「建て替えを前提とする建物の売買」のケースです。 土地建物を購入する場合、現在建っている建物をそのまま利用するケースもありますし、現在建っている建物を壊して一度更地にし、その上で新たに建物を建築するケースもあります。 前者のケースでは、売買契約の目的として建物を利用することも含まれるといえます。一方、後者のケースでは、不動産の売買契約後に建っている建物を取り壊すことが前提となっているといえますから、たとえ既存の建物に欠点や欠陥があったとしても。売買契約の目的を達成するためには問題ないといえるでしょう。従って、建物を建て替えることを前提とした不動産の売買契約においては、建物の欠点や欠陥が瑕疵と認められ、瑕疵担保責任の問題となる可能性は低いといえます。 判例でも、原告が被告から、既存建物を取り壊す予定で、土地と建物を買い受ける契約を締結し、手付金を支払ったところ、①本件契約においては本件土地に自動車2台分の近い車庫が築造可能であり、南側に緑を一望できるとの条件が付されていたのにこの条件を満たしていないこと②本件土地には除去解体に多額の費用のかかる浄化槽が埋設されていたこと③本件建物は建築確認を得ていなかったこと④本件土地の接面道路は私道であり、道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなかったことという隠れた瑕疵が存在すると原告が主張したという事案において、本件土地は区画整理地区として計画決定された区域内にあるが、本件契約において地下に車庫が建築可能であること又は南側に緑が一望できることが契約の内容になっていたとは認められないこと、浄化槽について原告は埋設の事実を知っており、撤去費用を被告に負担させたこと、本件建物が違法建築であるとは断定できないのみならず、原告において解体撤去する予定であったこと、道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなくても、建築基準法43条1項ただし書きの適用を受けられることから、隠れた瑕疵の存在は認められないと判断しました。 また、既存建物を取り壊して、新たに建物を建築し、その敷地と新築建物を第三者に売却する目的で、建物とその敷地を被告から購入した原告が、既存建物を取り壊した後に、建物内で被告の母親が首吊り自殺していたことを知るに至り、この事実は本件売買契約の目的物である土地及び建物の隠れた瑕疵に該当すると主張した事案において、確かに継続的に生活する場所である建物内において、首吊り自殺があったという事実は瑕疵に該当する余地があると考えられるが、本件において問題とされているのは、かつて本件土地上に存していた本件建物内で首吊り自殺があったという事実であり、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない一空間内におけるものに変容していることや、土地にまつわる歴史的背景に原因する心理的な欠陥は少なくないことが想定されるのであるから、その嫌悪の度合いは特に縁起をかついだり、因縁を気にしたりするなど特定の者はともかく、通常一般人が本件土地上に新たに建築された建物を居住の用に適さないと感じることが合理的であると判断される程度には至っておらず、原告が本件土地の買い主になった場合においてもおよそ転売が不能であると判断することについて合理性があるとはいえないとして、瑕疵の存在を認めませんでした。

【メモ】建蔽率と容積率
建蔽率は風通しや火災などの防災のため、土地のぎりぎりまで建物を建てないようにする規制基準です。建物を真上から見た場合の面積(建築面積)を、建物を建てる土地の面積(敷地面積)で割り、100を掛けた数値(単位はパーセント)をいいます。建蔽率の制限は、住宅地域か商業地域かなどで異なります。耐火建築物や角地などの要件を満たしていれば、率が緩和される場合があります。 また、容積率はインフラ整備の実情に応じて地域に住む人口をコントロールするための規制基準です。延べ床面積(それぞれの階の床面積の合計)を敷地面積で割り、100を掛けた数値(単位はパーセント)です。こちらも建蔽率と同様、住宅地域か商業地域かなどで異なります。容積率は市町村ごとの都市計画で定められていますが、建物全面の道路の幅で調整されます。

代金

土地とその上に建っている建物が共に売買契約の目的物となる場合、その売買代金はどのように決められるのでしょうか。たとえば、新築の建物とその敷地が売買契約の目的物になっているのであれば、もちろん、売買代金には土地の代金のみならず建物の代金も含まれることでしょう。 一方、建物が老朽化しているような場合はどうでしょうか。老朽化が進んでいて取り壊さなければならないような場合や、大幅な修繕工事を必要とするような場合には、売買代金を決める際に土地の価格のみに基づいて決定し、建物の価格が考慮されていないものと考えられます。このような場合において、たとえ売買契約の目的物となった建物に欠点や欠陥があったとしても、建物の瑕疵は認められないのが原則です。 もっとも、判例において、以下のような事情が認められれば瑕疵の存在を肯定するとされています。すなわち、土地建物の売買において、建物の価格を考慮せずに売買代金を決定したとしても、特別の出来事の存在が明らかとなり、さらに価格の低下が予想される場合には、特別の出来事による減価分については瑕疵になるとされています。また、売買契約の目的物となった建物が老朽化していても、通常の経年変化だけが売買代金に考慮され、通常の経年変化を超える特別の損傷等が代金に織り込まれていなければ、代金設定において考慮されていなかった事情は、建物の瑕疵となるとされています。 売買契約は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することにより成立します。売買契約においては、売買代金と売買の目的物の経済的価値が等しいことが前提となっています。つまり、売買代金の支払いと売買契約の目的物の取得は対価関係にあるのです。 売買代金が低額であれば、売買の目的物についても高い品質の物であることは求められません。一方、売買代金が高額である場合には、売買の目的物についても相応の高品質の物であることが求められます。そうすると、売買代金が高額である場合、売買の目的物の品質が売買代金に見合わない物である場合には、瑕疵の存在が認められることになります。瑕疵の存在を判断する際に、売買代金の額も考慮要素のひとつとなるのです。 判例においても、売買代金の多寡が瑕疵の存在を判断する際の考慮要素になるとされています。たとえば、相場よりも売買代金が安かったことが瑕疵を否定する理由のひとつになった事例があります。この判例では、瑕疵担保責任が売買契約当事者間の衡平という観点から定められていることに鑑み、瑕疵の存否は、売買契約の内容、目的、代金額、契約に際し売り主が指示した内容、当事者の通常の意思等を総合して、当該取引においてその物が保有すべき品質、性能等を具備しているか否かを判断して決すべきとしています。 また、売買代金が高額であったことが瑕疵の存在を肯定する理由のひとつとなった事例もあります。この判例は、コウモリが多数棲息する中古住宅を購入してしまった原告が、売り主を被告として瑕疵担保責任を追及したという事案です。判例は、住宅用建物は、その建物のグレードや価格に応じた程度に、快適に起居できることも備えるべき性状として考慮すべきであり、生物の特性や個体数によっては、生物の棲息自体が建物の瑕疵になり得るとした上で、本件建物においては、コウモリの数が極めて多数で、糞尿の量もおびただしく、甚だしく汚損し、不潔となっているから、本件建物はその価格に見合う清潔さ、快適さを備えておらず、隠れた瑕疵があると判断しました。 このように、売買代金が高い場合も低い場合も、瑕疵の存在の判断に影響を与えることになります。売買代金が重要なポイントとなる場面としては、土壌汚染や地中埋設物の存在が瑕疵に当たるかの判断も挙げられます。汚染除去費用や地中埋設物撤去費用が売買代金を決定する際に考慮され、その分だけ売買代金が低くなっているのであれば、瑕疵の存在は認められないことになりますし、汚染除去費用や地中埋設物撤去費用を考慮せずに売買代金を決定したのであれば、瑕疵の存在が認められることになります。 判例の中には、廃棄物や土壌汚染の処理に要する買い主負担の費用の高額化は、売買の目的物である土地の実質的価値とその対価である売買代金との等価性を著しく損なうと論じているものもあります。この判例では、「民法570条にいう隠れた瑕疵とは、売買契約締結当時社会通念上買い主に期待される通常の注意を用いても発見することのできないような目的物の瑕疵をいい、瑕疵の存在につき買い主の善意無過失を要求するものである」とした上で、「本件売買においては、本件土地の地中の廃棄物の存在それ自体については、社会通念上買い主に期待される通常の注意を用いても発見することのできない目的物の瑕疵とまでは直ちにいえないものの」「地中の特定有害物質による汚染及び石綿等の存在並びにこれに起因する廃棄物や土壌汚染の処理に要する費用の高額化については、これにより、本件売買の目的物である本件土地の実質的価値とその対価である売買代金との等価性を著しく損なうものであり、民法570条にいう隠れた瑕疵に当たるといわざるを得ない」と判断されたのです。 また、建物建築のための増加コストが売買代金額に反映されていたかが問題となった判例もあります。この裁判例は、被告からと土地を購入した原告が同土地上に12階建てマンションを建築しようとしたところ、地中に岩塊、コンクリート埋設物、アセチレンボンベ等の埋設物が存在したため、当初予定した工法を用いることができず、工法変更を余儀なくされたという事案で、「中高層建物の建築用地の売買においては、通常一般人が合理的に選択する工法によっては中高層建物を建築できない程の異物が地中に存在する場合には、価格を含めた売買契約の内容はそのような事態を反映したものとなっていない時は、土地の瑕疵が存在するというべきである」と判断しました。 購入した土地の地盤が軟弱で、建物建築に適さず、地盤改良工事が必要であったとして、瑕疵担保責任が問題となった事案においても、ある裁判例は「造成地分譲のパンフレットに、地盤改良が必要となった場合の費用が買い主負担となるから、販売価格が低額になっている旨の記載がないこと」、及び「土地代金額が、土地の造成費用その他の積算原価に、平成14年以降の地価の値下がりなどの要因を勘案する方式によって決定されており、地盤が軟弱である可能性等を勘案して、一定の減額がなされたような形跡は窺うことができないこと」から瑕疵の存在を認めました。 建物の経年変化について、その状況が売買代金に反映されている場合はどうでしょうか。 この場合は瑕疵の存在が否定されることになるでしょう。判例においても、被告から築40年以上の中古建物と土地を購入した原告が、建物に売買契約締結当時説明を受けなかった給排水管の腐食があり、そのために購入直後に立て続けに漏水事故がおきたとして、補修工事や配管の取替えをしなければならなくなったことについて、また、建物に消防法上必要な設備が具備されていないことやガス管及び給水ポンプが劣化しているために、その改善のための費用の支出を余儀なくされたことについて、被告に対し、瑕疵担保責任を追及したという事案で、瑕疵の存在を否定しました。この判例は、「排水管の老朽化はまさに本件建物の通常の経年変化によるものであって、本件売買契約締結時にそのような経年変化のある物件を現状有姿のまま譲渡することで、その点は代金設定において考慮されているのであり、当該老朽化から生じる欠陥は買い主たる原告が予測できた範囲内のものである」こと、「原告が買い受ける以前の漏水事故については、被告側で既に修理済みであり、他にも排水管の老朽化により腐食している箇所があったとしても、直ちに中古建物として通常備えるべき品質を保持していないとはいえないし、原告は、購入後に本件建物全体の給排水管を好感しており、これにかかる費用も考慮して本件売買代金の値引き交渉をしたものと認められる」こと、「原告の主張するガス管の老朽化や給水ポンプ設備の劣化等についても、本件建物の通常の経年変化によるものであると認められる」こと、「本件建物が消防法上具備すべき設備を備えていなかったとしても、そのことから中古建物として一般に備えるべき品質を保持していないとは言い難いし、そのような設備に不備のある建物として極めて低廉な価格で現状有姿のまま譲渡する旨の契約なのである」ことから、瑕疵の存在を否定しました。つまり、築40年以上を経過した中古建物の売買において、排水管の老朽化による腐食などがあったものの、建物の通常の経年変化は売買代金に織り込み済みであり、売り主はこうした点に関する瑕疵担保責任を負わないと判断したのです。 売買代金を決定する際に考慮される事情として、これまで述べてきたものもほかに、その土地の特性を挙げることができます。地域ごとの特性や、風土に基づく特性等、それぞれの土地によって異なる特性があります。土地の価値を高める特性もあれば、逆にその特性ゆえに土地の価値が低くなることもあるでしょう。土地の特性は、その土地の価値にも影響し、売買代金にも反映されるのです。 土地の特性が売買代金に反映されている以上、その特性が土地の瑕疵であるとは認められないことになります。 判例においても、冠水した土地の性状が隠れた瑕疵に該当するか問題となった事案で、「売買の目的物に隠れたる瑕疵がある場合、売り主は瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を負う。ここにいう瑕疵とは、当該目的物を売買した趣旨に照らし、目的物が通常有すべき品質、性能を有するか否かの観点から判断されるべきである。そして、本件のような居住用建物の敷地の売買の場合は、その土地が通常有すべき品質、性能とは、基本的には、建物の敷地として、その存立を維持すること、すなわち、崩落、陥没等のおそれがなく、地盤として安定した支持機能を有することにあると解される。もっとも、地盤が低く、降雨等により冠水しやすいというような場所的・環境的要因からくる土地の性状も、当該土地における日常生活に不便が生じることがあるのであるから、その土地の経済的価値に影響が生じることは否定できない、しかしながら、そのような土地の性状は、周囲の土地の宅地化の程度や、土地の排水事業の進展具合など、当該土地以外の要因に左右されることが多く、日時の経過によって変化し、一定するところがないのも事実である。また、そのような冠水被害は、一筆の土地だけに生じるのではなく、附近一帯に生じることが多いが、そのようなことになれば、附近一帯の土地の価格評価に、冠水被害の生じることが織り込まれることが通常である。そのような事態になれば、冠水被害があることは、価格評価の中に吸収されているのであり、それ自体を独立して、土地の瑕疵であると認めることは困難となる」と判断して、瑕疵の存在を否定しました。つまり、付近一帯が冠水しやすいという土地であれば、冠水しやすさを考慮して付近一帯の土地の売買代金が決められるのであるから、冠水しやすさは瑕疵に該当しないということです。

売買目的物

目的物の特性が瑕疵の判断に影響を及ぼす場面としてよく問題となるのは、中古建物の売買です。新築建物と異なり、建築年数が経過した中古建物は売買契約締結当時において、経年変化による損傷や劣化が一定程度見られることは当然であり、売買契約の当事者としてもそうした経年変化については当然の前提として考えているでしょう。売買代金を決める際にも、経年変化による一定程度の損傷や劣化を考慮して決定することになります。 そうすると、中古建物の売買契約においては、売買契約の当事者は一定程度の損傷や劣化があることを前提に、その建物が通常有すべき品質・性能をとらえており、これを超える損傷等がある場合に瑕疵の存在が認められることになります。判例でも同様に考えられているようです。 瑕疵の存在を判断するにあたり、中古建物であるという特性を考慮して判断した判例は数多く存在します。各事案の事情によって瑕疵の存在が肯定されるのか、否定されるのか、結論に差が生じます。 瑕疵の存在を肯定した判例を紹介しますと、ある裁判例は、原告が被告から買い受けた建物において旅館を開業しようと準備していたところ、保健所から前所有者に改善命令が出されていることが判明し、そのままでは開業できなくなったため、やむなく大改造工事をすることになったという事案で、本件建物の浴室、脱衣室は、その天井が落ちそうになるなど破損老朽が甚だしく、旅館営業を再開しようとしても、そのままでは使用不能の状態にあったのであるから、瑕疵の存在が認められると判断しました。もっとも、 この判例では瑕疵が隠れたものではないと判断しています。 別の裁判例は、コウモリが多数棲息する中古住宅を購入してしまった原告が、売り主を被告として瑕疵担保責任を追及したという事案で、住宅用建物は、その建物のグレードや価格に応じた程度に、快適に起居できることも備えるべき性状として考慮すべきであり、生物の特性や個体数によっては、生物の棲息自体が建物の瑕疵になり得るとした上で、本件建物においては、コウモリの数が極めて多数で、糞尿の量もおびただしく、甚だしく汚損し、不潔となっているから、本件建物はその価格に見合う清潔さ、快適さを備えておらず、隠れた瑕疵があると判断しました。 また、他の裁判例は、買い受けた建物に売買当時説明を受けなかった火災による焼損、冠水があったという事案で、売買の目的建物が火災に遭ったことがあり、これにより焼損を受けているということは、通常の経年変化ではなく、その程度が無視し得ないものである場合には、通常の経年変化を超える特別の損傷等があるものとして、建物の瑕疵に当たるとした上で、本件火災の具体的痕跡が本件焼損として残存しており、消火活動が行われないまでも消防車が出動したという事情は、買い手側の購買意欲を減退させ、本件建物の客観的交換価値を低下させるものであるから、瑕疵の存在が認められると判断しました。 別の裁判例は、買い受けた中古建物に白ありの侵食による欠陥があったという事案で、本件建物は本件売買契約締結当時既に白ありにより土台が侵食され、建物の構造耐力上、危険性を有しており、居住用建物としては欠陥を有していたと認められるとして瑕疵の存在を肯定しました。 中古木造建物を購入したところ、建物に傾斜があったという事案では、本件建物が本件売買契約当時、築16年が経過した木造建物であることを考慮しても、通常有すべき品質を備えていなかったものと評価でき、本件建物の傾斜は瑕疵に当たると判断しました。 一方、瑕疵の存在を否定した判例も多数あります。いくつかを紹介しますと、ある裁判例は、中古建物と土地を購入したところ、建物に売買契約締結当時説明を受けなかった給排水管の腐食があり、そのために購入直後に立て続けに漏水事故が起きたため、補修工事や配管の取替えをしなければならなかったうえ、建物に消防法上必要な設備が具備されておらずガス管及び給水ポンプが劣化していたという事案において、本件売買契約は築後40年以上を経過した中古ビルをその敷地と共に現状有姿で譲渡するというものであり、本件建物代金も本件売買代金全体の3パーセントほどに過ぎないものであることから、本件建物の通常の経年変化は売買代金に織り込み済みであるとした上で、排水管の老朽化はまさに本件建物の通常の経年変化によるものであって、本件売買契約締結当時にそのような経年変化のある物件を現状有姿のまま譲渡することで、その点については代金設定において考慮されているのであり、当該老朽化から生じる欠陥は買い主たる原告が予測できた範囲内のものであること、原告が買い受ける以前の漏水事故については、被告側で既に修理済みであり、他にも排水管の老朽化により腐食している箇所があったとしても、直ちに中古建物として通常備えるべき品質を保持していないとはいえないうえ、原告が負担した給排水管の交換費用も考慮して本件売買代金の値引き交渉をしたものと認められること、ガス管の老朽化や給水ポンプ設備の劣化等についても、本件建物の通常の経年変化によるものと認められること、本件建物が消防法上具備すべき設備を備えていなかったとしても、そのことから中古建物として一般に備えるべき品質を保持していないとは言い難く、そのような設備に不備のある建物として極めて低廉な価格で現状有姿のまま譲渡する旨の契約であることから、瑕疵の存在を否定しました。 別の裁判例は、中古ビルとその敷地を買い受けたところ、買い受け後に当該ビルの耐震性能が極めて低いことが判明したという事案で、本件建物の入札要綱及び本件契約に係る契約書によれば、本件建物は昭和52年6月に竣工した中古物件であることが明らかであり、取引条件としても、格別の補強工事等を行うことなく現状有姿で引き渡すものであることが入札要綱及び契約書に明記されていたのであるから、原告としては本件建物が現在の耐震性能を満たしていないことは当然承知の上で本件建物を買い受けたと認められること、本件建物は昭和52年当時の建築法規上適法に建築された後、本件契約締結当時まで、貸しビルとして使用され、特段の問題も生じていなかったことを併せ考えるならば、本件建物の耐震性能が現在の耐震性能基準をいかに下回るものであったとしても、本件建物を、その耐震性能を含め現に存在する状態で売買することが本件契約の内容であったことから、瑕疵の存在を否定しました。 このように、中古建物であるという目的物の特性を考慮して瑕疵の存在を判断する場合、問題となっている中古建物ごとの個別の事情に応じて結論に違いが生じることになります。 中古建物のほかに、瑕疵の存在を判断する際に目的物の特性が問題となる場面として、売買契約の目的物となった土地に地中埋設物が存在したケースです。 土地の地中埋設物が問題となった判例を見てみましょう。被告(瀬戸市)から買い受けた土地に産業廃棄物が埋設されており、これは売買の目的物である土地の隠れた瑕疵であると被告の瑕疵担保責任が問題となった事案で、本件廃棄物の性質はコンクリート塊、陶器片、製陶窯の一部又は本体、煙道と思われる煉瓦造り構造物等であり、これは産業廃棄物に当たるものであること、建物の基礎部分に当たり確認できた範囲においても、平均で深さ1.184メートル付近まで本件廃棄物が存在したこと、それが地中に占める割合においても三分の一を超えるものであったことからすれば、本件廃棄物の存在が目的物の隠れた瑕疵に当たると認めるのが相当であると判断しました。

当事者の合意

土地建物の売買契約において、売買契約の目的物の品質に関し、売り主と買い主との間で合意が存在する場合があります。また、売り主が売買契約の目的物の品質に関して指示したり保証したりしている場合もあります。こうした場合においては、合意内容や指示内容・保証内容を考慮して、瑕疵の有無を判断することになります。判例においても、売り主が一定の性能の指示・保証をし、あるいは一定の品質の合意があれば、それらの内容も瑕疵の存否の判断基準となることを認めています。 判例の事案に基づいて検討してみましょう。まず、土地建物の売り主が目的物の品質に関して指示・保証し、あるいは売り主と買い主との間で品質に関する合意があったとして、瑕疵の存在が肯定されたケースですが、ある裁判例は、ラン栽培用の温室が設置できるマンションを物色していたところ、目当てのマンションの売り主から、同マンションの南側隣接地の所有者との間で、隣接地には木造2階建ての建物を建築する合意がされている旨の説明を受け、将来にわたり日照が確保されると信じてマンションの売買契約を締結したところ、契約後になって南側隣接地に鉄筋コンクリート造り4階建ての建物が建築されて日照が阻害されたため、予定していた園芸活動をすることが不可能になった事案で、たとえ、マンションの所有者と南側隣接地所有者との間でそのような合意がされていたとしても、第三者に南側隣接地の所有権が移転されれば、上記のような4階建ての建物が建築される可能性は十分に存在したのであるから、上記日照阻害の要因は売買契約の隠れた瑕疵に当たると判断しました。 別の裁判例は、土地の売買契約を結び手付金を支払った原告が、土地所有者に対し、当該土地に面する崖が条例の適用を受けて契約目的を達成できず、瑕疵があると主張した事案で、本件土地の条例による建築制限は瑕疵に該当すると判断しました。もっとも、この判例では、「隠れた」の要件に該当しないとして瑕疵担保責任自体は否定されました。 一方、土地建物の売り主が目的物の品質に関して指示・保証していたとは認められない、あるいは売り主と買い主との間で品質に関する合意があったとは認められないとして、瑕疵の存在が否定された裁判例としては、敷地である土地とともに中古建物を買い受けたところ、買い受け後に当該中古建物の耐震性能が極めて低いことが判明したという事案で、本件建物の入札要綱及び本件契約に係る契約書によれば、本件建物は昭和52年6月に竣工した中古物件であることが明らかであり、取引条件としても、格別の補強工事等を行うことなく現状有姿で引き渡すものであることが入札要綱及び契約書に明記されていたのであるから、原告としては、本件建物が現在の耐震性能を満たしていないことは当然承知の上で本件建物を買い受けたと認められるとし、本件契約の内容を踏まえる限り、本件建物の耐震性能が現在の耐震性能基準に照らし極めて低いことは瑕疵に当たらないと判断しました。他の複数の裁判例も、売り主の指示・保証や当事者の合意が認められなかった事案として挙げられます。

瑕疵の確定性

土地や建物に瑕疵の存在が認められ、瑕疵担保責任を肯定するためには、その土地や建物の欠陥・欠点が確定的なものであることは必要なのかという問題点について検討しましょう。 土地や建物に関する瑕疵を考える場合、その土地や建物に欠陥・欠点があり、通常有すべき品質・性能を欠いているかを検討することになります。しかし、問題となっている欠陥・欠点が瑕疵に該当するか否かの判断は容易ではありません。瑕疵に該当するか否か不確定であることも多いのです。 土地や建物の欠陥・欠点が不確定である場合において、瑕疵の存在が認められるのでしょうか。判例は認めるものと認めないものとに分かれます。 まず、土地や建物の欠陥・欠点が不確定である場合でも瑕疵の存在を認める判例を見てみましょう。 ある裁判例は、土地の売買において目的物とされた土地に都市計画によるいわゆる隅切りの制限があったという事案で、瑕疵を肯定しました。この判例では、本件契約の際、売り主である被告らが、本件土地は15坪であり南西角の隅切りが5・1メートルであると示しましたが、後日都市計画により本件土地の南西角の隅切りの長さが6メートルであることが判明し、建物の敷地面積が減少するうえ建築物の種類・構造・階数等が制限されるおそれがあることは、わずか15坪に過ぎない本件土地の利用上致命的な欠陥であるといえ、それがひいては原告が契約上予定された店舗兼住宅として本件土地を使用することの適正を著しく減少する結果となり、原告は店舗兼住宅の建築という本件土地買受けの目的を達成することができなったと判断されました。 ある裁判例は、売買の目的物である土地に接する私道が建築基準法上の道路位置指定を受けていなかったため、当該土地上の建物について建築確認を得られなかったという事案で、瑕疵を肯定しました。この判例では、「本件売買の目的とされた本件土地は、道路位置指定を受けていないため、同地上に適法な建物を建築することが許されないのであるが、本件土地周辺の状況、とりわけ本件土地に接して現況道路が存在していたこと、控訴人は本件土地を不動産業者である被控訴人から買受けたものであること等からして、道路位置の指定がないため、建築確認が得られないものであることを知らないで右買受けに及んだものであり、売り主である被控訴人もまた造成業者から本件土地を買受けたこと及び現地の状況からして、同様にこのことを知らないで本件土地を控訴人に売渡したものであるから、本件土地につき、道路位置の指定がないため建築確認が得られないとの点は、仮に今後もこれらを受けられないことが確定的になったものではないとしても、目下それが絶望的である以上、本件売買の目的とされた本件土地につき隠れた瑕疵が存すると認めるのが相当であり、右の瑕疵により控訴人は結局本件土地買受けの目的を達することができなかったものというべきである」と判断し、不確定である欠陥・欠点について瑕疵が肯定されたのです。 一方、土地や建物の欠陥・欠点が不確定である場合に瑕疵の存在が否定された判例もあります。ある裁判例は、売買契約の目的となった土地に地中埋設物があったという事案で、土地の欠陥・欠点が不確定なものであることを理由のひとつに挙げて、瑕疵の存在を否定しました。地中埋設物は境界沿いのわずかな幅の部分に埋設されているに過ぎないのであって、「新築建物を目的とする本件各契約においては直ちに現実化することのない不確定なものであるから、これらの際に本件構造物が支障となりうることを過大視するのは相当ではない」と判断し、瑕疵の存在が否定されたのです。

瑕疵の存在

瑕疵担保責任を問題にする際、どの時点で瑕疵が存在している必要があるのでしょうか。 判例における瑕疵の定義や捉え方から考えてみます。判例では、「売買契約締結当時社会通念上買い主に期待される通常の注意を用いても発見することのできない」ものについて瑕疵であると判断しています。つまり、売買契約締結時を基準に、瑕疵の存否を判断しているのです。このように判断している判例は、他にも多くあります。たとえば、ある裁判例は「売買の目的たる特定物が、契約の当時から、その種類のものとして通常の使用に適する性質を欠く場合で、その欠陥が外部に現れないもの」を瑕疵というと定義しており、瑕疵の存否の判断基準は「契約の当時」であるとしています。 そうすると、瑕疵担保責任における瑕疵は、売買契約締結当時に存在している必要があるということになります。 ここで問題となるのが、売買契約締結当時には瑕疵の存在が認識されていなかったが、その後において認識されるようになった場合、「隠れた瑕疵」があるといえるのかという点です。 売買契約締結当時において、売買契約の目的となった土地に大量のフッ素が存在していたが、その時点では通常の取引観念上フッ素は有害であると認識されておらず、また、フッ素を規制の対象とする都条例も制定されていなかったため、フッ素は有害物質として規制を受けていなかったにもかかわらず、本件売買契約締結当時から本件土地にフッ素が存在していたことが、本件売買契約の目的物たる本件土地の瑕疵といえるかどうかが問題となった事案において、ある高裁判断は隠れた瑕疵の存在を肯定しました。この判決では「居住その他の土地の通常の利用をすることを目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に人の生命、身体、健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは、上記売買契約の目的に照らし、売買契約の目的物である土地が通常備えるべき品質、性能に当たるというべきである。従って、上記売買契約の目的物である土地の土壌に実際には有害物質が含まれていたが、売買契約締結当時は取引上相当な注意を払っても発見することができず、その後売買契約の目的物である土地の土壌に売買契約締結当時から当該有害物質が人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことが判明した場合には、目的物における上記有害物質の存在は民法570条にいう隠れた瑕疵に当たると解するのが相当である」とし、このことは、「売買契約の目的物である土地の土壌に含まれていた物質が当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが、売買契約後に有害であると社会的に認識された場合」にも「当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが売買契約後に有害であると社会的に認識されたために、当該物質を土壌を汚染するものとしてこれを規制する法令が制定されるに至った場合」についても当てはまると判示しました。その理由として、同判決では、「民法570条に基づく瑕疵担保責任は、売買契約の当事者間の公平と取引の信用を保護するために特に法定されたものであり、買い主が売り主に過失その他の帰責事由があることを理由として発生するものではなく、売買契約の当事者双方が予期しなかったような売買の目的物の性能、品質に欠ける点があるという事態が生じた時に、その負担を売り主に負わせることとする制度であると判示しています。この判決では、売買契約締結当時の知見、法令等が瑕疵の有無の判断を決定するものではないとして、隠れた瑕疵の存在を否定したのです。 しかし、最高裁は上記判断を覆しました(最判平22・6・1)。最高裁は、「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき」とした上で、原審が認定した「事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、物質αが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生じるおそれがあるとは認識されておらず、被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、物質αが、その土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生じるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、物質αが含まれていないことや、本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生じるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生じるおそれがあるとは認識されていなかった物質αについて、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超える物質αが含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである」と判示しました。つまり、土壌汚染に対する社会の認識の変化によって取引観念が変化する場合に、売買契約の当事者間において目的物が有することが予定されていた品質・性能について斟酌すべき取引観念は、売買契約締結当時における取引観念であって、契約締結後に変更された取引観念ではないとしたのです。 では逆に、売買契約締結当時には瑕疵が存在したが、その後、瑕疵が存在しなくなった場合において、瑕疵担保責任が認められるのでしょうか。この問題点については、瑕疵担保責任を否定した判例も、肯定した判例も存在します。 瑕疵担保責任を否定した判例もあります。売買契約締結時に存在していた瑕疵が後になくなったとして、瑕疵担保責任を否定したのです。 一方、肯定した判例では、売り主(被控訴人)から新築マンションの各室を購入した原告ら(控訴人ら)が、その外壁タイルの剥離・剥落及びその補修工事の騒音等により損害を被ったと主張して、民法570条が定める売り主の瑕疵担保責任を追及したという事案で、新築マンションの共有部分の外壁タイルに大規模な補修工事を要する瑕疵がある場合、補修によりその機能上の問題が解消された後においても、その瑕疵に起因して一般的に受ける不安感・不快感が認められることなどにより、区分所有権の交換価値が低下しているという事情の下では、区分所有者は売り主の瑕疵担保責任に基づき交換価値の低下分について損害賠償を請求することができると判示しました。つまり、補修工事によって機能上の問題が解決したとしても、その目的物の交換価値や経済的価値の低下が存続していることは否定できないとして、売り主の瑕疵担保責任を肯定したのです。交換価値の低下分が現存しているかどうかがポイントとなるでしょう。

隠れ要件

民法570条本文は、瑕疵が「隠れた」ものであることが必要であると定めています。「隠れた」の意味については、多くの判例が定義していますが、要するに、売買契約時において買い主が欠陥・欠点の存在を知らず(善意)、かつ、欠陥・欠点の存在を知らないことについて過失がないこと(無過失)を意味します。欠陥・欠点の存在について無過失であるというのは、社会通念上買い主に期待される通常の注意、すなわち取引上要求される一般の注意をもってしても欠陥・欠点の存在を発見できないことを意味します。わかりやすく表現すると、欠陥・欠点が外部に現れていない状態を「隠れた」というのです。売り主から欠陥・欠点の存在を告げられていた場合や、買い主が欠陥・欠点の存在を知っていた場合、買い主が通常の注意をしていれば欠陥・欠点の存在を知ることができた場合には、「隠れた」瑕疵には該当しないことになります。 買い主が自分の手足として使用する使用人や従業員などのような者(履行補助者)が欠陥・欠点の存在を知っていた場合や、通常の注意をしていれば欠陥・欠点の存在を知ることができた場合においても、「隠れた」瑕疵とはいえないとされます。 瑕疵担保責任の要件として「隠れた」瑕疵であることを要求するのは、契約当事者間の衡平を考慮してのことです。すなわち、一般的な注意をもって発見することができる欠陥・欠点は、既に売買代金に反映されているものと考えられます。売買契約の有償性から考えて、このような場合には欠陥・欠点の存在による不利益を買い主に負担させるのが、売買契約の当事者間においては衡平といえるでしょう。一方、問題となっている欠陥・欠点が一般的な注意をもってしても発見することができないものであった場合には、欠陥・欠点の存在が売買代金に反映されているとはいえないことから、その欠陥・欠点の存在による不利益を買い主負担とするのは衡平ではなく、売り主負担とすべきであると考えられるのです。欠陥・欠点の存在を知っている場合には、その欠陥・欠点の分だけ売買代金を安くしてもらっているのが通常と考えられますから、買い主に欠陥・欠点の存在による不利益を負担させても問題ないと考えるのです。 瑕疵が「隠れた」ものであるかどうかは、どのように判断されるのでしょうか。 「隠れた」瑕疵と認められるためには、売買契約時において買い主が欠陥・欠点の存在を知らず(善意)、かつ、欠陥・欠点の存在を知らないことについて過失がないこと(無過失)が必要となります。買い主が欠陥・欠点の存在を知っている場合や、欠陥・欠点の存在を知らないことについて買い主に過失がある場合には、「隠れた」瑕疵があるとは認められず、売り主に瑕疵担保責任を追及することはできません。 そうすると、瑕疵が「隠れた」ものであるかどうかの判断においても、欠陥・欠点の存在に関する買い主の認識を基準に検討されることになります。具体的には、次のような観点に基づいて判断されることになります。 ①瑕疵について買い主に説明がなされたか(説明の有無) ②買い主が瑕疵の存在を知っていたか(買い主の悪意) ③買い主が瑕疵の存在を知り得たか(買い主の過失) 各観点について詳しく見てみましょう。

①瑕疵について買い主に説明がなされたか(説明の有無)

売買契約締結前に、瑕疵について買い主に説明がなされている場合には、買い主は瑕疵の存在について悪意又は過失があったものと考えられますので、その瑕疵は「隠れた」ものと判断することはできません。 判例においても、瑕疵について買い主に説明がなされていたことから、「隠れた」とはいえないと判示しているものが存在します。 ある裁判例は「本件契約に当たって、本件土地に係る本件説明書および本件別紙の交付を受け、その内容の説明を受けた通常の者が、本件土地の買い主となった場合、普通の注意を用いれば、本件土地に本件崖が存在し、そのために本件条例による建築制限があることを認識し、あるいは容易に認識することができたというべきである」とした上で、「本件土地に関する本件条例による建築制限が瑕疵にがいとうするということはできても、本件契約時において、それが隠れたもの、すなわち、通常人が本件土地の買い主となった場合、普通の注意を用いても発見することができないものであったとまでいうことはできない」と判示しました。 別の裁判例は「買い主が、売り主に対し、瑕疵担保責任を請求する場合の『隠れた』瑕疵とは、売買契約締結の当時、当該瑕疵が表見しておらず、一般人の見地から容易に発見できないことをいう」とした上で、「本件売買契約に当たり原告及び被告に交付された重要事項説明書の中に、本件埋設物の詳細が記載された図面が含まれていることなどに照らすと、本件埋設物の存在が「隠れた」状態にあったとは言い難く、原告が認識していなかったとすれば、そのことに過失があるというべきである」と判示しました。 これらの判例と同様に、瑕疵について買い主に説明がなされていたことから、「隠れた」とはいえないと判示している判例もあります。 以上のような判断は、買い主になされた説明の内容が正しいことが前提です。たとえ買い主に対して瑕疵に関する説明がなされたとしても、その説明内容に誤りがあったのであれば、買い主に過失があったということはできません。判例においても同様の結論をとっています。ある裁判例は、宅地用に買受けた山林への通路が村道ではなく通行できない私道であることが、売買の目的物に隠れた瑕疵があるといえるかが問題となった事案で、「被控訴会社の当時の代表であつたAが右瑕疵の存在に気づかなかったのは前認定のごとく売り主たる控訴人の代理人であり、不動産業者(宅地建物取引主任者)であるBの前記の指示説明を信じたためであり、一般常識として不動産業者の物件に関する説明の中には、契約成立を希うあまり時として物件の長所を過大に、その短所を過小に表現することがあり、これらをすべて真に受けてはならないことはいうまでもないが、公道からの出入のために通路の有無は、そのような曖昧な説明を許さない重要な問題であり、従ってAがBの右説明をそのまま信用して、本件土地に県道へ出入りするための通路があると信じた、すなわち前記の瑕疵に気づかなったことについてAに過失があつたということはできない」と判示し、隠れた瑕疵の存在を肯定しました。

②買い主が瑕疵の存在を知っていたか(買い主の悪意)

瑕疵が「隠れた」ものであるというためには、その瑕疵の存在について買い主が善意無過失でなければならないということは説明しました。 そうすると、買い主が瑕疵の存在を知っていれば、買い主は悪意ということになり、問題となっている瑕疵を「隠れた」ものということはできません。 判例においても、買い主が瑕疵の存在について悪意である場合には、売り主の瑕疵担保責任が否定されています。 たとえば、ある裁判例は、建築基準法に違反した土地建物の売買における売り主の瑕疵担保責任が問題となった事案で、「債権者は、本件契約締結の際、本件建物に建ぺい率違反のあることを知っていたことが認められるので、右違反の事実が民法五七〇条にいう『隠れた瑕疵』に当たらないことは明らかである」と判示しています。 別の裁判例は、購入した土地に油分が含まれていたことが瑕疵に当たるか問題となった事案で、「原告は本件調査検出油分の存在を知っていたから、本件土地に本件指導基準を超える油分が存在することを知っており、少なくともそれを知るべきであるから、本件土地の瑕疵について悪意・有過失であったと認めるべきである」と判示しました。 これらの判例と同様に、瑕疵の存在について買い主が悪意であることから、「隠れた」とはいえないと判示している判例もあります。

③買い主が瑕疵の存在を知り得たか(買い主の過失)

瑕疵が「隠れた」ものであるというためには、その瑕疵の存在について買い主が善意無過失でなければならないのですから、買い主が瑕疵の存在を知っていなくても、瑕疵の存在を知り得た場合、すなわち、社会通念上、買い主に期待される通常の注意を用いて発見することができた場合には、買い主に過失が認められ、問題となっている瑕疵を「隠れた」ものということはできなくなります。 もっとも、「過失」という概念は抽象的なものです。買い主に過失があったというためには、どのような事項を検討することになるのでしょうか。 まずは目的物に関する事項として㋐売買の目的物の利用状況を挙げることができます。次に売買契約に関する事項として㋑交渉期間・交渉経緯や、㋒売買代金が考えられます。さらに買い主に関する事項として㋓専門性を挙げることができます。 各々の事項について詳しく見てみましょう。

㋐売買の目的物の利用状況

売買の目的物とされた土地建物がどのように利用されていたかについて検討し、買い主の過失の有無を判断します。 たとえば、ある裁判例は、かつて鉄工所の敷地として利用されていた土地を宅地に利用する目的で購入したところ、その地中に大量の材木片等の産業廃棄物、コンクリートの土間や基礎が埋設されていたという事案で、「A会社が本件土地を売却したのが本件売買契約の約四年前の昭和五十八年のことと認められる上、鉄工所の敷地として利用されていたということだけから、通常その地中に土間コン等が埋設されている蓋然性が高いと判断すべきことにはならないから、右の点と原告が不動産業者であることをあわせ考慮したとしても、原告が本件土地に土間コン等が埋設されていることを認識しなかったことにつき過失があると認める根拠とすることはできない」と判示し、買い主の過失を否定しました。 一方、別の裁判例は、ガソリンスタンドの敷地として利用されていた土地の売買に関する事案において、その土地がガソリンスタンドの敷地として利用されていたことなどから、土壌汚染を知っていたか、そうでないとしても取引上相当な注意を払えば知ることができたと認定されて、買い主の過失を肯定しました。

㋑交渉期間・交渉経緯

売買契約の売り主と買い主との間で行われた契約交渉の期間や、契約成立に至るまでの交渉の経緯について検討し、買い主の過失の有無を判断します。 たとえば、ある裁判例は、買い受けた旅館の浴室や脱衣室が老朽化していたことから売り主の瑕疵担保責任が問題となった事案で、「本件土地、建物を買い受けるのは比較的大きな取引と認められるうえ、〈証拠〉によれば、控訴人は、本件建物の所在するX村の隣町に居住し、本件売買契約を締結する二箇月位前の昭和五十一年三月頃から被控訴人と本件土地、建物の買受について交渉していたこと、控訴人は、本件土地、建物を買い受けた後で本件建物において旅館を営業する予定であつたことが認められ、右認定の事情のもとでは、本件土地、建物を買い受けようとする控訴人としては、本件建物を予め検分する程度の注意は払うべきであり、控訴人が右の注意を払つて本件建物を検分すれば、直ちに前記浴室、脱衣室の状態を知ることができたものと認められるから、本件建物の浴室、脱衣室の前記瑕疵は隠れていたものとはみとめられない」と判示し、買い主の過失を認めて売り主の瑕疵担保責任を否定しました。この判例では、取引の規模にポイントが置かれており、規模の大きな取引を行うに当たっては、時間をかけたり現地を検分したりするなどして慎重に交渉することが求められているといえます。 この判例と同様に、現地検分の要否を検討して買い主の過失の有無を判断した判例は多数あります。隣接工場の騒音や振動が売買の目的物である土地建物の隠れた瑕疵に当たるかについて問題となった裁判例においては、「本件売買契約当時、右騒音、振動は、本件土地の西隣の工場から平日の昼間は排出されつづけていたのであるから、原告らは、平日の昼間に現場に赴いて周囲の環境、本件土地建物の立地条件等を調査、検分することにより容易にこれを知りえた筈であると思われ、原告らが右騒音、振動の発生源たる工場の存在を知らなかったことについては過失があったものというべきであるから、右隣接工場から騒音、振動が排出されていることをもって売買目的物たる本件土地建物に隠れた瑕疵があるということはできない」と判示しました。 買い受けた建物につき、南から北に約七〇分の一の勾配の傾斜があることが隠れた瑕疵に当たるかが問題となった裁判例では、「原告は、土地建物の測量を業としたことはない。のみならず、本件不動産の前居住者の訴外Aが、これを被告Bに売却するに際し、同被告及び仲介人の被告Cに対し、一見して明らかな、一階の階段そばの天井に染みがある事実のみを告げ、本件建物に傾斜のある事実を告げなかったこともあり、原告に本件不動産を仲介し、原告と共に本件建物内に入り、これを案内した被告Cの社員も、また、本件不動産を、訴外Aから買い受けるに際し、及びこれを原告に売却するに際し、何度か本件建物内に入り、自らこれを点検した被告Bの代表取締役も、同人の依頼により本件建物のリフォーム工事を担当した訴外Dの従業員も、誰も本件建物の傾斜に気付いていない」と認定して、原告の過失を否定しました。このように、買い主が現地検分をしていたならば瑕疵の存在が判明していたはずであり、売買契約を締結するに際しては、現地検分をするべきであったにもかかわらず、買い主が現地検分をしなかったという場合には、買い主の過失を肯定することになります。 このような判例の考え方は、法令上の制限に関する調査についても妥当し、「第一種住居地域に編入された事実を調査することは極めて容易だったにもかかわらず、この調査をしなかった」として、買い主の過失を肯定した判例があります。 他にも、交渉期間や交渉経緯に関する事情を検討して買い主の過失を判断した裁判例としては、かつて鉄工所の敷地として利用されていた土地を宅地に利用する目的で購入したところ、その地中に大量の材木片等の産業廃棄物、コンクリートの土間や基礎が埋設されていたことが問題となった事案があります。この判例は、「本件売買は、被告が本件土地を購入したあとの昭和六十二年一月初めにAが被告に持ちかけたものであり、原告はAから同年二月、買ってくれるようにいわれ、それから本件売買の交渉に入ったことが認められ、原告がそれ以前の本件土地の状況を知っていたとまで認めるに足る証拠はない」と判示して、買い主の過失を否定しました。

㋒売買代金

売買代金は瑕疵の存在を判断する際に重要なポイントとなりますが、買い主の過失の有無を判断する際においても同様に、重要な判断要素となります。 ある裁判例は売買された土地に岩塊等の地中埋設物があり、中高層建物を建築するに当たり工法変更が必要になったという事案で、「上記瑕疵が隠れたものであるかを検討するに、売買代金額その他の売買契約の内容において性状(品質)が低いこと又はその可能性があることが反映されていないのはもとより、売買契約締結の経緯によれば、売買契約締結過程を通し目的物の性状(品質)について取引通念上買い主が入手すべき資料に照らして、上記瑕疵の存在は判明しなかったものと認められるから、上記瑕疵は隠れたものであると認められる」と判示しており、目的物の性状と売買代金の関係性を基に、買い主の過失の有無について判断しているといえます。つまり、目的物の性状(品質)が低いことを考慮すれば、売買代金が安くなることになりますが、本件売買契約においては売買代金が安くなっていないのだから、本件売買契約において売買代金を決定する際に目的物の性状(品質)が低いことは考慮されておらず、買い主に過失は認められないということです。

㋓専門性

問題となっている瑕疵に関する買い主の専門性についても、買い主の過失の有無を判断するに当たり考慮されます。買い主が専門家であり、瑕疵の存在をについて調査すべきであったといえる場合には、買い主の過失が肯定されるのです。 判例も、買い主の専門性に着目し、買い主の過失を判断しています。ある裁判例は、敷地付建物の売買において建物がいわゆる一枚壁となっていたことが売買の目的物の隠れた瑕疵に当たるかが問題となった事案で、「原告は、不動産仲介業という土地建物取引の専門家として、建物の取毀しを予定しているのであるから、当然取り壊しが可能か否か調査すべきであるのに、本件土地を更地にして転売利益を得ることの方に関心があるのみで、本件建物一の取り壊しが可能か否かの調査については、これを怠ったものというべきであり、原告にはこの点において過失があったと認められる」として買い主の過失を肯定しました。 また、別の裁判例は、不動産業者がマンション建設用地として購入した土地に多量の廃棄物の埋設や石綿等による土壌汚染が判明したという事案で、「原告としては、本件土地の地中の状態につき買い主として自ら調査して確認しておくべきであったというべきであり、比較的簡単な試掘によって地中の多量の廃棄物の存在を容易に発見することができたはずである」として、買い主の過失を肯定しました。 一方、買い主が専門家ではなく、特殊な調査を行って初めて、瑕疵の存在を認識することができるような場合には、買い主の過失が否定されます。判例でも、購入したマンションについて環境物質対策基準に適合した住宅との表示があったにもかかわらずいわゆるシックハウスであり、居住が不可能であったことが問題となった裁判例は、「当該瑕疵は科学的な測定によってはじめて具体的に存在を知りうる性質のものであること、健康被害が具体的に発生するには相応の期間高濃度のホルムアルデヒドその他の化学物質に曝されていることを要することなどを考えると、当該瑕疵は取引上要求される一般的な注意を払っても容易に発見し得ないものであるというべきである」と判示して、買い主の善意無過失を認めました。 買い主に求められるのは取引上要求される一般の注意です。取引上要求される一般の注意を超えて、専門性の高い調査をすべきといえるためには、買い主が問題になっている瑕疵に関する専門家であることが必要とも考えられます。専門性が高い調査が必要となる場合、専門家ではない買い主にそのような調査を要求することはできず、過失が否定される方向になるのです。

主観的事情

これまで見てきた通り、買い主が瑕疵の存在を知っていたかどうかという主観は、問題となっている瑕疵が「隠れた」ものと認められるかどうかに影響を与えます。従って、買い主の主観的事情は瑕疵担保責任の成立要件といえます。 一方、売り主の主観的事情についてはどうでしょうか。瑕疵担保責任の成立要件となるのでしょうか。 売買契約における売り主は、売買の目的物をそのまま引き渡せば足りるところ、その目的物に瑕疵があった場合に、売り主が一切責任を負わないとするのは不当ですから、法が特別に設けた責任規定が瑕疵担保責任規定です。 法が特に設けた責任規定であることを考慮すると、売り主が負う責任は無過失責任と考えることになります。つまり、瑕疵担保責任を考える際に、瑕疵の存在について売り主が善意であったか、過失があったかは考慮しないということです。なお、売り主が瑕疵の存在を知っていたかどうかは、売り主がその瑕疵について説明責任を負うかどうかについては影響を与えます。 このように、買い主の主観的事情は瑕疵担保責任の成立要件ですが、売り主の主観的事情は瑕疵担保責任の成立要件ではありません。 もっとも、売り主の主観的事情が瑕疵担保責任の成否に全く影響を与えないというわけではありません。 売買契約の当事者間で、売り主は瑕疵担保責任を負わないという特約(瑕疵担保責任免除特約)を定めることがあります。このような特約を定めた場合、売り主が知りながら告げなかった事実について、売り主は責任を免れることができないとされています(民法572条)。 では、売り主に過失があった場合にも、瑕疵担保責任免除特約の効力は否定されるのでしょうか。 この問題点については、判例の考え方も分かれています。ある裁判例は、民法572条の文言及び趣旨に照らせば、売り主が悪意の場合には無効になるが、売り主が瑕疵の存在を知らない場合には、知らなかったことにつき重過失があるとしても、その効力が否定されることはないと判示しています。一方、別の裁判例は、売り主が悪意の場合だけではなく、悪意と同視すべき重大な過失がある場合にも、特約の効力が否定されると判示しています。 売り主の主観的事情は、瑕疵担保責任の成立要件ではありませんが、瑕疵担保責任免除特約が問題となる場合には、売り主の主観的事情が影響を及ぼすのです。

競売物件の購入

不動産の競売に参加したいが→登記済みの借地権に注意すること。
マイホームを購入しようと思い、妻にも相談したところ、妻は「不動産の競売物件なら一般の相場より安いそうですよ」とのことです。不動産のことについては、素人の私どもですが、競売物件はどのような手続きで手に入れたらよいのでしょうか。

競売とは、売主が不特定多数の者に買い受けの申出を行わせて、その中で最高値の申出をした者に売却するという売買契約の方法のことです。
不動産の競売については、不動産業者が参加することが多いようですが、もちろん誰でも参加できます。
競売物件を購入する場合の第一段階としては、情報の入手から入ります。不動産情報誌や新聞の「裁判所の競売物件情報」欄などを見て、お目当ての不動産物件を探します。新聞などには取扱裁判所名、面積や間取りなどの当該物件についての情報、事件番号、入札期間、改札期日、売却決定日、入札方法などの情報が記載されています。
希望する物件が見つかったら、第2段階として、管轄する裁判所で事件番号をもとに「物件明細書閲覧コーナー備付資料ファイル」を閲覧します。この資料で、希望の物件には賃借権などがついているか、物件の現在の使用状況はどうなっているか、裁判所は不動産としての価値をどのように評価しているか、について調査できます。
調査の結果、競売物件の購入を決意したら、第3段階として裁判所所定の方式に従い最低売却価格額の20%の保証金を差し入れたうえで、入札に参加します。その後、無事に落札できたら残金を払い込んで目的とする物件の引き渡しを受けます。
ただ抵当権設定登記以前に賃借権が登記されている場合は、落札しても賃借人に対して引渡しを請求できないので注意してください。

日照権が阻害される

隣地に商業ビルの建設予定がありますが、完成すれば日照権被害が生じるのは明らかです。建築工事の差止請求をしたいのですが、どのような場合に請求は認められますか。

ビルやマンションの建築ではつきもののトラブルです。この場合、日照被害が認められるためには、それが受忍限度を超えるか否かが判断基準になります。

判断基準は以下のとおりです。

  1. ①被害の程度(日照阻害の時間の程度、採光、圧迫感)
  2. ②地域性(当該地域が都市計画法上の住居地域かどうか、商工業地域か、現在および将来の高層化の程度)
  3. ③加害回避の可能性(低層でも採算があうかどうか)
  4. ④被害回避の可能性(他の方法で日照を取り入れることは可能かどうか)
  5. ⑤被害建物の用途(住宅か事務所、店舗あるいは工場か)
  6. ⑥加害建物の用途(加害建物が単に営利目的の建物でなく、学校・病院・庁舎など公共性のある建物であるか)
  7. ⑦被害者の先住性(被害者が、前々から日照の恩恵を受けていたなどの最近移転したものではない事情)
  8. ⑧加害建物の建築基準法違反の有無(著しい違反か)
  9. ⑨交渉の経過(建築計画を説明するなど誠実に対応してきたか)

日照阻害の時間の程度、採光、圧迫感といった①被害の程度、当該地域が都市計画法上の住居地域かどうか、商工業地域か、現在および将来の高層化の程度のような②地域性、低層でも採算があうかどうかの③加害回避の可能性や④被害回避の可能性、住宅か事務所、店舗あるいは工場など⑤被害建物の用途、加害建物が単に営利目的の建物でなく、学校・病院・庁舎など公共性のある建物であれば、被害者に受忍を強いることになるため、⑥加害建物の用途、被害者が、前々から日照の恩恵を受けていたなどの最近移転したものではない事情といった⑦被害者の先住性、加害者の行動の評価である⑧加害建物の建築基準法違反の有無や⑨交渉の経過等の諸事情を考慮し、被害者の受忍限度を超えるか否かを判断し日照被害を決定します。

隣家の犬の鳴き声がうるさい

隣家は数匹の犬を飼っていて、その犬が夜間や早朝によく吠えるため安眠が妨害されます。また、放し飼いにされている犬もいるのですが、私の家の庭に入ってきて糞をするので汚くてしかたありません。何とかならないでしょうか。

ペットに関する法規として、動物の愛護及び管理に関する法律があります。この法律によると、「人に迷惑を及ぼすことのないように努める」ことが定められています(同法7条)。したがって隣家の犬の飼い方はこの法律に違反します。ただ、犬の鳴き声を規制したところで、相手は犬なので実行は簡単ではありません。 民事上の救済は人格権に基づく差止請求で、何らかの防音装置をとってもらうとか、不法行為による損害賠償を請求することが考えられます。民法718条は、動物の占有者または保管者は、その動物の加害行為につき損害賠償責任を負うとされています。よって犬の鳴き声や、糞による悪臭なども、受忍限度を超えれば加害行為となり、飼い主は被害者に損害賠償金の支払い、および具体的な犬の鳴き声対策を講じなければなりません。

隣の町工場の騒音や振動で生活が妨害されている

家の近くに町工場があって、騒音や振動がうるさくて困っています。このような工場の騒音や振動を取り締まることはできないでしょうか。

工場の騒音や振動は、騒音規制法と振動規制法によって規制されています。 騒音規制法は、著しい騒音を発する施設を設置する工場、事業所を規制します。規制の対象となる地域は、住宅が集合している地域、病院や学校の周辺をはじめ、都道府県知事が指定した地域です。規制の内容は、環境大臣の定める基準に適合しなければなりません。規制基準に適合しないときは、市町村長は改善を勧告し、さらに是正を命令することができます。命令違反には刑事罰を科すこともできます。 振動規制法も、騒音規制法とほぼ同様の規制です。都道府県または市町村の公害課に連絡し、規制の範囲内の騒音や振動か否かを調べてもらうことができます。この他、条例による規制もありますので、各地方公共団体の公害課に問い合わせて、その内容を知ることが必要です。 なお、飲食店のカラオケ騒音や振動も、各都道府県の生活環境保全条例や風営法施行条例などにより、一定の規制を受けます。カラオケ騒音で困っている場合、最寄りの警察署または市区町村の担当課に相談してください。

高層マンションの建築で別荘の眺望が悪くなる

眺望がよいことが気に入り別荘を購入しました。分譲した不動産会社も、将来にわたって眺望を害する建物は建たないことを保証してくれていたのですが、突然、隣地に高層マンションが建つことになりました。これが建つと、眺望は全く台無しになってしまいます。眺望権を主張して、マンション建設差止請求はできないでしょうか。

眺望の阻害とは、他人の土地の上部空間を通じて周囲の自然景観を眺望する環境の阻害をいいます。裁判所は、一定の要件がそろえば、眺望の阻害が被害者の受忍限度を超えるものとして、眺望の利益を保護し、差止請求を認める場合があります。 眺望利益が保護される一定の要件とは、観光地や別荘地のように①眺望保護に値する地域であること、眺望のよい旅館として営業している場合など②眺望被害の程度が大きいこと、分譲業者が眺望を害する建物を隣地に建てないことを約束して販売していた場合や、設計変更が容易であったといった③加害者の眺望を阻害するやり方に非難すべき点があること、といったことが挙げられます。 都市部や市街地では、マンションの建設に際し、住民説明会が義務付けられている場合があります。景観など生活環境が侵害される恐れがあるときは、業者に対し設計変更などを申し入れるといいでしょう。

抵当権の設定をしたビルに短期賃借権の登記がなされた

建築したビルに一番抵当権を設定して注文者に引き渡しましたが、間もなく暴力団関係の会社を権利者として、敷地と建物に短期賃借権が登記され、建物を占有しはじめました。債権者はどうすればよいでしょうか。

抵当権設定後に登記された賃借権を短期賃貸借と言います。従来は、短期賃貸借が結ばれていると、山林を除く土地は5年、建物は3年の期間内は賃貸人の権利が保護されていましたが、民法改正で短期賃貸借制度は廃止されました。よって、もし注文者が約束通り残代金を払わず債務不履行が生じた場合、債権者は抵当権に基づいて強制執行手続きを申し立てることができます。 賃貸人が競売を妨害する、買受人に対して物件引渡しの見返りに金品などを要求した場合、警察などに相談するのがよいでしょう。

抵当権の設定がある不動産を購入する際の注意点

信用金庫を債権者とする5000万円の極度額の根抵当権が設定されている土地を購入することになりました。信用金庫に対する残債務は3200万円です。この場合、一括して残債務を清算する余裕はありませんが、この物件を買いたいと思っています。どのようにしたらよいでしょうか。

通常、不動産の購入にあたって、その物件に抵当権などの担保権が設定されている場合には、債権者に残債務額を確認し、所有権移転登記手続きまでに残債務金を支払って、抵当権などの設定登記の抹消をしてもらうということになります。この場合、債務清算で債権者に支払った金額は、当然、売買代金額から控除されます。 今回の場合のように一括弁済できないというような事情がある場合、抵当権がついたままで不動産を買い、所有権移転登記を受けることもできます。その場合にも、債権者に残債務額を確認し、同様の条件で新しい所有権者が支払うことを承諾してもらう手続きが必要です。このような場合にも、売買代金の額を定める際、新所有者が負担する引受債務金が考慮されるべきです。 なお、今回のような根抵当権の場合、引き受けに際し、元本を確定させることが重要です。根抵当権とは、継続的取引から生じ、増減変動する多数の債権について、限度額をあらかじめ定めておき、将来確定する債権をその範囲内で担保する抵当権のことです。そのため、元本が確定しない限り、極度額まで債務が拡大する危険性があるため、元本確定が重要なのです。 また、物件に売主が話した以外の抵当権が設定されている場合もあります。ですので、売買に当たっては、必ず登記簿等謄本で権利関係を確認し、他の抵当権や仮登記がついていないか調べること、債権者に残債務額などを確認することが必要です。

2020-03-18 16:12 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所