詐欺

民法において詐欺は「人を欺罔して錯誤に陥らせる行為」と定義され、詐欺による意思表示は取り消せます。詐欺の構成要件は<1>欺罔行為<2>意思表示した相手方の錯誤<3>故意の3つです。

<1>は「虚偽の事実を告げる行為」をいい、原則として積極的な告知が必要です。例えば、土地を購入後に近隣に暴力団事務所があることを知った事案で、売り主が事前に積極的に告知しなかったことについて「土地の売買に当たって、本件土地の近隣に暴力団事務所が存在するかという点が話題になった事実が認められず、欺罔行為に当たらない」と詐欺を否定した判例があります。
ただ、いかなる場合も積極的な告知が必要というわけではありません。錯誤状態になっていた相手方に、事実と認識に齟齬があると知らせる義務がある人がこれを怠った場合は「沈黙していたこと」も欺罔になり得ます。判例でも「宅地建物取引業者である売り主は、信義則上、買い主に右法律による制限のある事実を告知し、それを知らしめる義務があるというべきであるのに、ことさら、沈黙して右事実を告知せず、買い主との間で本件売買契約の締結に及び、これにより、本件各土地上には右のような制限がない状態で別荘を建築することができるものとの誤信を解くこともなく、買い主に本件各土地を買い受ける旨の意思表示をさせたものであり、買い主の本件買い受けの意思表示は、売り主の詐欺によるものということができる」としたケースがあります。<2>は、相手方に客観的事実と主観的認識との食い違いが生じていることをいいます。この「食い違い」=「錯誤」がなければ、欺罔行為の成立を判断するまでもなく、詐欺は成り立ちません。また、欺罔行為と錯誤の間に「因果関係」があることも必要です。<3>の故意は「だます故意」と「意思表示させる故意」の2段階の故意がいります。

詐欺の効果は「取消が可能になる」ということで、意思表示した人は行為を取り消すかどうかを選択できます。民法により、取り消された行為は最初から無効だったことになります。これを「遡及的無効」ともいいます。また、契約が取り消された場合は、無効の場合と同様、売り主から買い主に交付済みの目的物は不当利得に当たるとして返還されます。逆に、売り主が買い主から売買代金を受領済みであれば、返還しなければなりません。もし、詐欺によって損害を受けた場合は、故意に権利を侵害されたことになりますから、不法行為による損害賠償を請求できます。
不動産取引を巡り、詐欺行為に当たるかどうかが争われた裁判は多くあります。売買代金が高額に上るだけに、犯罪グループが暗躍しますから、十分な注意が必要です。

2020-03-19 10:25 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所