使用目的違反と債務不履行

建物を借りる目的は主として居住用か営業用です。こうした借りる目的を変更して使用した場合には使用目的違反となり、契約解除できるかが問題となります。 アパートや共同住宅で、一定の用法制限を設けるのは、その特殊性からいって仕方のないことです。このような特約を求めるのは、建物全体の統一的利用、建物の品位保持のために必要なことです。したがって、借家人は、この用法を守る義務があります。借家人がこの特約に違反した場合、契約違反として契約の解除が認められるかが問題となります。契約に当たり、用法制限を特約した事実があるからといって、違反があれば直ちに契約を解除できるというものではありません。貸主と借主の信頼関係がそれによって破壊されたか否かで判断する必要があります。信頼関係の破壊とは、居住用として貸したのに、事務所や店舗として使用している場合、廊下に禁止されている物を放置する、犬や猫を飼うなどした場合、貸主の何度かの注意にも耳を貸さないなどの事実があった場合ということを指し、この場合には契約を解除できるでしょう。

■契約違反となる場合

借家などの賃貸借契約においては、賃借人は契約または目的物の性質によって定まった用法に従って使用収益しなければなりません。したがって、建物の使用目的は契約または建物の性質によって決まることになります。 居住用に賃貸したのにその建物で営業している、職種を限定して賃借したのに職種の変更をしたなどの場合に問題となります。 こうした使用目的に違反した場合、借家契約を解除できるかどうかが問題です。

■使用目的の変更と契約解除

 使用目的違反で契約解除ができるかどうかは、借家人と家主の間の信頼関係が破綻しているかどうかが判断基準となります。 信頼関係が破綻しているかどうかは、①特約の有無、②従前の経緯、③家主の制止の有無、④家主・借家人の事情、などを総合的に判断してなされます。 (1)居住用から営業用への変更 一般的には、契約の目的違反となるが、その程度・対応によって契約解除が肯定・否定された例がある。 (2)営業用から居住用への変更 その程度・対応によって肯定・否定された例がある。 (3)営業用家屋で営業内容を変更した場合 営業内容の変更禁止あるいは家主の許可を必要とする特約がない場合には、原則として解除権は発生しない。特約がある場合には、解除権を肯定・否定した例がある。特約に合理性があり、解除の必要がある場合には、解除が認められるようである。

■家屋の使用が汚いなどの場合

家屋の汚損・損傷が著しい場合で、注意しても改めないときには、契約解除ができます。家屋の通常使用による汚損の場合には、当然、契約解除や賠償請求は認められません。

民法594条(借主による使用及び収益) ①借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。

子供禁止の特約は有効でしょうか

子供禁止の特約は有効でしょうか

最近では、契約書に「子供禁止」の条件を記載していることがあります。 しかし、「子供禁止」の条件は、無効とみなされ、入居後に子供が生まれたとしても、借主は部屋を出て行く必要はないのです。 なぜかというと、本来賃貸借契約では、借主が契約内容に違反した場合、契約を解除などになりますが、法律で契約内容の大まかな部分は決まっており、法律の規定(ここまでなら認められる)に違反する、借主にとって不利とみなされる条項に関しては無効とされています。 「子供禁止」を契約内容に組み込んだ大家さんとしては、子供が生まれることによって、部屋の痛みも早くなるので、いつまでも部屋を綺麗に保ちたいという考えから「子供禁止」の条項を加えたのかもしれませんが、部屋を貸すことは入居者がそこで生活をすることを認めるということに繋がるので、子供を育てることは生活の一部とみなされ、契約という形で縛るには行き過ぎた内容であると言えるので、借主にとっては不利となり、無効が認められます。 よって、子供が生まれたからといって、部屋を出る必要はありません。 ただし、建物の構造上近隣に迷惑がかかってしまうようであれば、部屋の位置を変えてもらうなり、階数を変えてもらうなりの対処法を大家さんと話し合い、住み続けるための工夫を考えていくこともよいです。 また、他にも借主からの要求があった時は、立ち退かなければならなくなることや、期間が満了したら更新は出来ず、契約は終了しなければならない(ただし、定期借家契約の場合は含まない)なども借主に不利な条項なので、無効が認められます。 しかし、「夜10時以降は麻雀禁止」や「深夜のカラオケ禁止」、「ペット禁止」など一見個人の事由に思える内容であっても、近隣や地域の生活環境に迷惑がかかる可能性のあるものについては、有効となるものもあります。 有効な条項に対する違反の場合、契約を解除され、立ち退かなければならなくなることもあるので、注意が必要です。

居住用で借りたマンションを事務所として使いたい。

居住用で借りたマンションを事務所として使いたい。

賃貸住宅では、たいていの場合は契約書の中で使用目的が決められているため、原則的に使用目的を変更することは禁止されています。 原則的に禁止になる理由としては、 ①共同住宅から来る制約(周りの居住者に迷惑になる場合)、 ②建物の構造から来る制約(建物の強度から不適切になる場合)、 ③地域性から来る制約(地域的にふさわしくない場合) などが挙げられます。 また、大家さんに無断で契約書に記載されている使用目的以外の使用をした際には、違反となり、契約を解除され、退去しなければならないこともあり得ます。 さらに、賃貸者が建物を契約上とは違う利用状況であった場合、問題になることが多々あります。 賃借人の建物における利用状況が契約上の使用目的と違うと判断された場合、賃貸人側は現地調査に望み、証拠となる現地の写真やビデオおよび撮影日時や撮影した目的物などを記録として残し、退去などを求めることも考えられます。 なので、現地で建物の利用状況を確認し、賃貸借契約上、賃貸建物の利用目的が、契約上では居住となっているにもかかわらず、店舗や事務所として使用されているなどが事実であれば、用法遵守義務違反であるとみなされます。その際に、賃貸人側から違反であると主張されると、賃貸借契約の解除を要求されることもあります。 ちなみに用法遵守義務違反とは、賃借人は、賃貸借契約、または、賃借物の性質により定められた使用方法に則って、賃借物を使用・収益をしなければならず(民法616条、および、594条1項)、賃借人が契約上の用法とは異なった使用・収益をした場合は、債務不履行にあたるとみなされるので、賃貸人は相当の期間を定め、用法を改める旨を催告することになります。 しかし、催告したにも関わらず、賃借人が用法を改めなければ、賃貸人は解除権を行使することが可能になります(民法541条)。 用法遵守義務違反を原因とした賃貸借契約終了に基づく建物明渡請求権の条件はは、 ①当該建物について、当事者間で賃貸借契約が締結していること ②賃貸人が当該建物についての賃貸借契約に基づき、賃借人に対して本件建物を引き渡していること ③当事者間で、契約書の中で当該建物について住居として使用することを合意し、あるいは、当該建物が性質上、一般的に居住のための建物であるということ ④賃借人が当該建物を居住として使用することに合意し、または、建物の性質により定められた用法と異なり、店舗として使用収益をしていること ⑤ⓐ賃貸人が、用法違反について、店舗としての使用収益をやめるように催告していること または  ⓑ店舗にするために改造をした部分に対する修復を求める催告をしていること ⑥ⓐ使用収益をやめるように催告した後、賃借人が相当期間内に店舗としての使用収益をやめなかったということ または  ⓑ店舗として改造した部分の修復に関する催告の後、相当期間が経過していること ⑦賃貸人が催告に定められた相当期間が経過した後、賃借人に対して賃貸借契約を解除する意思表示をしていること が挙げられます。 なお、建物明渡請求訴訟において、現地の写真やビデオなどは証拠資料として使用することができるので、現状を正確に記録する必要があります。 もし、今後、他の使用予定がある時は、前もって契約時に特約としての条項を加えておくこともよいです。 しかし、事情によっては了承を得られることもあります。 例えば、1階の部屋であるや、周囲にも同じような使用目的の部屋があるなどの場合には、了承が得られる可能性があります。 ただし、家賃の値上げや権利金の要求などがあった場合、要求をのむ必要があります。

不動産会社のペット可の広告を見て入居したら話が違っていた。

不動産会社のペット可の広告を見て入居したら話が違っていた。

賃貸借契約を結ぶにあたり、賃貸借契約書は存在するが、契約書に記載されている契約内容と当事者間が認容している契約内容に食い違いが生じることがあります。なので、入居後、契約時の条件と異なるようなことがないか、まず賃貸借契約書を読み、契約時の条件が記載されているかを確認することが重要になります。 また、分譲マンションの場合、複数のオーナーがいる可能性があり、その場合、オーナー間での管理規約が存在し、賃貸契約書の中では、賃貸建物の利用目的が居住であるにもかかわらず、実際には店舗や事務所として利用している、また、契約書ではペットの飼育が禁止されているが、実際にはペットを飼育している人がいるなど契約書と管理規約では異なる部分があることも考えられます。 そのためオーナー同士でのマンションの管理規約があるときには、あらかじめ読んでおく必要があります。 もし、手元にないときは、大家さんに確認して見せてもらう必要があります。 そして、両方あるいはどちらかの書類の中に「ペット飼育の禁止」に関する条項がある場合は、飼育を中止しなければならなくなり、どうしても飼育を継続したいのであれば、退室をしなければならないのです。 さらに、賃貸借契約書と実際の状況が異なっている場合、契約時から入居までの間にマンション側の意向で契約内容が変更された可能性も考えられます。そのときは、契約書の内容がいつからそうなったのか、また、当事者がその事実を知ったのはいつなのか、さらにその事実を知った後にどのような対応をとったのかなどの詳細を調査し、賃貸借契約書の内容が実際に変更されたのかを詳しく聞き、検討する必要があります。 しかし、今回のように「ペット可」という条件で不動産会社が借主に対して仲介をしているのであれば、不動産会社側に問題があります。その場合、不動産会社は責任を持ち、借主に対して同じような条件の部屋を探し、再度仲介をしなければなりません。 ただし、賃貸借契約書及びマンションの管理規約のどちらにも「ペット飼育の禁止」について記載されていないのであれば、ペットの飼育を継続しても大丈夫です。そのように書かれていないにも関わらず、大家さんがペットの飼育を禁止するようであれば、禁止する理由がないということなので、仲介をした不動産会社に間に入ってもらい、話し合う必要があります。

バルコニーに物置を設置したら注意された。

バルコニーに物置を設置したら注意された。

ベランダは、火災などの緊急災害時に、避難通路として利用されるため、いざというときに避難の妨げとなる物は置かないように心がけておく必要があります。 そのため、隣との境が簡単に通過できるような造りになっている場合や、ベランダの床と天井に「避難口」といわれるものがある建物が多くなっています。 特に「避難口」の上などに大きな物や、重い物を置いておくと、火災などの災害に見舞われた際に、雛案する手段が塞がれてしまい、隣人や上下階の住人が逃げ遅れてしまうことも考えられます。 また、消防署などによる定期検査で、大きな物や重いもので避難口が塞がれていることがわかれば、厳重注意を受けることになり、隣人や上下階の住人、もちろん自分自身の安全を確保するためにも、即時に撤去するように指導されることもあり得ます。 さらに、建物によっては、管理規約によって定められているところもあるので、入居の際には、あらかじめその建物における管理規約の確認をしておくと安心です。 なお、ベランダが十分な広さがあり、差し支えがないのであれば、ある程度のものをベランダに置くことも許可されると思われますが、トラブルを避けるためにも、管理規約をよく確認し、独断しないようにすることがよいと思われます。

所有するアパートの居住者に一定の秩序を守ってもらうため、用法制限の契約書を作成しました。

所有するアパートの居住者に一定の秩序を守ってもらうため、用法制限の契約書を作成しました。契約書に基づいて、違反者には契約解除ができますか。

アパートや共同住宅で一定の用法制限を設けるのは、その特殊性からいって仕方のないことです。このような特約を求めるのは、建物全体の統一的利用、建物の品位保持のために必要なことです。したがって、借家人はこの用法を守る義務があります。ただし、契約に当たって用法制限を特約した事実があるからといって、違反があれば直ちに契約を解除できるというものではなく、貸主と借主の信頼関係がその違反によって破壊されたか否かで判断しなければなりません。「信頼関係の破壊」とは、居住用として貸したのに事務所や店舗として使用している、廊下に禁止されているものを放置する、犬や猫を飼うなどの 事実があり、そのことに対する貸主の何度かの注意にも耳を貸さないといった場合には、契約を解除できるでしょう。

夜勤勤務を隠して入居していたらバレて退去を要求されているが。

夜勤勤務を隠して入居していたらバレて退去を要求されているが。

「夜勤者の入居は不可」ということですが、これは不当な差別にあたり、外国人や高齢者に対する制限と同等であると言えます。 ですが、不当な差別にあたるとはいえ、誰に貸すかは大家さん次第であり、契約は原則的に自由であることからも、法律で条件を無効にすることは出来ません。よって、入居の際に条件があるならば、その条件を無視することや、不当だと主張することはできません。 また、契約の際に嘘をついたことに関しては、契約をする上で重要な事項であるならば、詐欺とみなされ、取消しの理由となります(民法96条)。この場合、立退きに応じる必要があります。 ただし、嘘の内容が賃貸借契約において、重要な事項でなければ、入居している以上、退室する必要はありません。

2020-03-19 15:56 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所