契約上の義務を債務者が故意・過失によって、履行しない場合には、債権者は契約解除・損害賠償請求をすることができます。

家賃の不払いと債務不履行

借家契約が成立したら、借家人には家賃(賃料)を支払う義務が発生します。したがって、民法の一般原則によって、家賃の不払いがあった場合には、家主は借家契約を解除することができます。また、遅延損害金の約定があれば、損害金の請求ができます。 しかし、家賃の滞納があったからといって、わずかな滞納(たとえば1か月)があっただけで、借家契約の解除を認めると、借家人にとっては、非常に酷な結果となってしまいます。 そこで、判例は軽微な違反で家主と借家人の信頼関係が破壊されていない状況の場合には、契約解除は認められないとしています。

借家契約と信頼関係

例えば、たまたまその月の収入が少なく家賃の一部が不足した場合や支払期日が多少遅延した場合(2か月分の不払いを解除原因とする説がある)には、解除権は発生しないとされています。 しかし、判例の動向をみても、確固としたものはなく、ケース・バイ・ケースの判断によることになります。

契約解除の方法

家賃の滞納が、信頼関係を破壊するといえる程度に至っている場合であっても、その場ですぐに契約を解除することは認められません。 この場合でも、家主は相当の期間(1週間程度)を定めて、その期間内に支払えと催告をし、期間内に支払いがない場合に初めて解除が可能となります。 また、家賃の滞納を理由に契約を解除しても借家人が家屋を明け渡さない場合には、訴訟を起こして判決を得た上で、明渡しの強制執行をすることになります。

賃料滞納による物件の明渡しに関する手続き

まず、賃貸借契約を結んだ以上、賃借人は賃貸物件を使用した期間分の賃料を賃貸者に対して支払う義務があります(民法601条)。もし、賃借人が賃料を滞納するようなことがあれば、それは賃借人の賃貸借契約に対する契約義務違反にあたるといえます。この場合、賃貸人は賃借人に滞納している賃料の支払いを請求することが出来、請求したにも関わらず、賃借人が賃料の支払いがなされないときは、滞納分の賃料を請求するための裁判を起こすことが出来るようになります。 しかし、賃貸人からすれば賃料の支払いをしない賃借人に、賃貸物件からの退室を考えることもあります。そのときに、どのような方法を取るべきなのかの基本的な流れは次の通りになります。 本来、賃貸借契約を結ぶと、賃借人は賃料を支払うかわりに物件を使用することが出来る権利を得ることが出来ます(これを賃借権といいます。民法601条)が、賃貸料の支払いが滞るなどした場合、賃借人は契約上の義務に違反したことになります。ただし、契約義務違反があったからといっても即刻賃貸物件から退室しなければならないというわけではなく、賃借権が自動的に消滅することもないです。これは、一見して見れば賃貸人にとって不利なものに思えますが、賃借人が1回でも賃料の支払いが遅れてしまったことで契約を解除されるということは酷であるといえます。また、賃貸人によっては、ある程度の義務違反であるならば、契約を継続させたいと思う人もいます。よって、賃料の滞納があったとしても、契約を自動的に解除させるのではなく、賃借人に対して、一定期間の猶予を与え、それにも関わらず賃借人が義務違反を続けるのであれば、契約の解消を行うと定められています。つまり、義務違反の賃借人を退室させるためには、まずは賃貸借契約を解除し、賃借人の賃借権を消滅させる必要があります。

賃料滞納による物件の明渡しに関する手続き

①賃貸借契約の解除

賃貸借契約の解除に関しては、民法541条および民法540条1項に定められています。 この規定によれば、賃借人が家賃の支払いを行わない場合、まずは賃貸人に対し、相当の期間(一般的には1~2週間あれば法的にも十分である)を定め、滞納している賃料の支払いを請求します(これを法律では催告という)。 しかし、賃借人がその期間を過ぎても滞納分の家賃を支払わなかったときは、賃貸人は賃貸借契約を解除する旨を賃借人に対して伝えます(これを法律では意思表示といいます)。この手順を踏むことで賃貸借契約が解除されることになり、賃借人は「賃借権」を失います。 ちなみに、解除する旨の伝え方は特には決まっていないので、口頭によるものでも問題はありません。 ただし、後に伝えた・伝えていないなどのトラブルの可能性を考えるのであれば、内容証明郵便などを利用するほうが安心です。 賃貸人によって賃貸借契約が解除されれば、法律上、賃借人は物件に対する賃借権を失うことになるので、即刻物件の使用を停止し、賃貸人に物件を明渡すことになります。ですが、必ずしも賃借人がすぐに納得し、明渡すとは限らないのです。 だからといって、賃貸人自身が強制的に明渡しを実行することは原則不可能です(自力救済の禁止)。 もし、賃借人の許可なく物件内へ立ち入ったり、また、室内のものを処分するなどすれば、民事上で損害賠償の請求をされたり、もしくは、器物損壊罪等で刑事処罰の対象になり得ることも考えられます。 よって、賃借人を退室させ、物件の返還を求めるためにも、賃貸者は法律に則った「強制執行」の手続きをとる必要があります。この「強制執行」の手続きは、国によって強制的に賃貸者の権利を取り戻す制度になります。 つまり、賃貸者自身は自ら権利を取り戻すことが難しいため、裁判所の手続きに則った「強制執行」を行使することによって、自身の権利を主張することになります。 「強制執行」は具体的にどのような手順を踏むのかですが、これは2つの手順に分けることができ、 ①賃借人に対して退去を求める権利があるかを裁判所が判断するための手続き(裁判の訴訟手続き) ②裁判所によって確定された権利を実行する手続き(強行執行手続き) になります。

②訴訟により判決正本の取得

まず、賃貸人は裁判所に対して物件の明渡しを求める訴訟を提起します。賃貸人の訴えが正当なものであるかを裁判所が判断し、正当であると認められると、裁判所は賃借人に対して物件の明渡しを命じる「判決」を出すことになります。裁判所から「判決」が出ると、裁判所は賃貸人に対して「判決正本」という書類を渡します。この「判決正本」は強行執行手続きを行うにあたり必要になります。 つまり、強行執行によって賃貸人の権利を守るためには、裁判所の訴訟手続きで、「判決」をだしてもらうことが必要不可欠であるといえます(強行執行のために必要な書類を「債務名義」といいます)。

③強制執行を申し立てる

次に明渡しに対する強制執行手続きですが、これは裁判所の執行官によって行われる手続きです(民事執行法2条、168条1項)。ここでは、賃貸人は裁判の訴訟手続きで渡された「判決正本」をもとにして行われ(民事執行法25条)、裁判所の執行官が強制執行の申し立てをすることになります。なお、民事執行法に則り、強制執行の申し立てに必要な書類は①強制執行の申立書、②判決正本債務名義、③裁判所書記官の付与する執行文、④判決正本送達証明書、⑤判決確定証明書となっています。

2020-11-10 11:29 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所