明渡しをめぐるトラブルと解決法

借家契約が終了する場合に問題となるのは、立退料の算定、造作買取請求権の有無、造作買取が認められた場合の買取額の算定などです。

■立退料の算定

立退料は、借家契約の更新拒絶や家主からの解約申入れの際に、家主に正当事由が不足しているときに、正当事由の補完として支払われる金銭です。 立退料を算定する場合には、借家権価格と併せて借家が営業用に利用されていた場合の営業補償が問題になります。 借家権価格の算定は、本来は土地鑑定委員会が設定した不動産鑑定評価基準に基づいて行われるものですが、それによれば「慣行的に取引の対象となっている当該経済的利益の全部または一部」とされています。具体的には、比準方式、収益還元方式、割合方式などの算定方法がありますが、明確な基準はなく、専門家である不動産鑑定士に相談することが一般的です。 営業補償の額については、これも明確な基準はなく、借家権の価格も含めて話合いで決定されることが多いようです。

■造作買取請求権と買取価額

造作買取請求権は認められる場合には、その買取価額の算定が問題となります。 この場合の買取価額は建物買取請求権行使時の時価相当額とされています(大審院昭和7年9月30日判決)。 そして、時価とは、「建物に付加したままの状態で、造作自体の本来有する価格」(大審院対象15年1月29日判決)とされています。現実問題としては、争いとなれば、鑑定評価を依頼するしかないでしょう。 なお、借地借家法の施行により、造作買取請求は任意規定となり、特約により排除すれば家主は買い取らなくてもよいことになりました。

借家権の価格

 上記、割合方式とは、土地の更地価格を100として地主、借地人、借家人にそれぞれ帰属する割合を配分する方法です、例えば、路線価地域での借家権価格は、路線価格(税務上の土地評価額)×借地権割合×借家権割合となります。この借地権・借家権割合は、相続税評価基準を基にします。

1 借地借家法28条における正当事由について

借地借家法26条1項 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6カ月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。 借地借家法28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) 建物の賃借人による第26条1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の利用状況及び建物の現状並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

【正当事由ルール】

賃貸借契約の期間満了に際し、賃貸人が契約を終了させるには、期間満了の1年前から6カ月前までの間(通知期間)に更新拒絶通知(更新をしない旨の通知または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知)をしておけなければなりません(26条1項本文)。通知期間内に更新拒絶通知がなければ、法定更新(26条1項)となり、従前の契約と同一の条件で、期間の定めがない契約を更新することとなります。 しかし、賃貸人からの更新拒絶通知だけで契約が終了し、建物からの退去を強いられることは、その建物を生活の基盤としている賃借人にとって不利益となり得ます。 そこで本条(28条)により、正当事由がなければ更新拒絶通知が有効とはならないものとされました。 すなわち、賃貸人からの更新拒絶の場合、通知期間内の更新拒絶通知がなされただけでは契約は終了せず、更新拒絶通知に正当事由がある場合に限って更新拒絶に効力が認められ、契約が終了します。 また、期間の定めのない賃貸借、または期間の定めがあっても期間内に解約できる旨の特約がある賃貸借の場合の解約申入れも、賃貸借の終了事由ですが(27条1項)、解約申入れによる賃貸借終了にも、期間満了による終了と同様、正当事由が必要とされます。 本条は一方的強行規定であり(30条)、本条と異なる特約は、建物の賃借人に有利ならば有効ですが、不利であれば無効となります。

【正当事由の意味】

正当事由とは、賃貸借を終了させ明渡しを認めることが、社会通念に照らして妥当と認められる理由です(最判昭和29.1.22)。正当事由に関しては、①総合的な考慮の必要性、②要因の軽重、③立退料の性格が、重要となります。

①総合的な考慮の必要性 正当事由の有無は、賃貸借当事者双方の利害関係その他諸般の事情を総合的に考慮して判断されます(例えば、最判昭和46.6.17)。 旧借家法では、正当事由の要因につき、条文上、賃貸人が使用する必要性だけではなく、多くの要因を考慮して正当事由を判断するという判例理論が、築き上げられていきました(最判昭和25.2.14、最判昭和25.6.16、最判昭和27.12.26、最判昭和29.1.22)。本条は、借地借家法の制定に際し、判例法理が類型化され、明確化された規定です。 ②要因の軽重(基本的な要因と補充的な要因) 正当事由判定において考慮されるべき要因には、基本的な要因(中心的・主要な要因)と補充的な要因(補完的・副次的な要因)があります。 基本的な要因は、当事者双方の建物使用の必要性(建物の賃貸人が建物の使用を必要とする事情と、建物の賃借人が建物の使用を必要とする事情)です。正当事由は、まずこの基本的要因を比較考量して、存否が判断されます。 それ以外のものが、補充的な要因です。基本的要因だけでは、賃貸人に有利な要因と賃借人に有利な要因の比重が同等であるなど、正当事由の有無を決められないときに、基本的要因にその他の要因をあわせて、正当事由の有無が判断されることになります。 ③立退料の性格 立退料は、その他の要因では完全な意味での正当事由には至らない場合に、正当事由の不足分を補充・保管するための要因です。立退料さえ提供すれば他に理由がなくても正当事由が認められるというものではありません。最判昭46.11.25は、『金員の提供は、それのみで正当事由の根拠となるものではなく、他の諸般の事情と綜合考慮され、相互に補完しあって正当事由の判断の基礎となる』と判示しています。

【正当事由判断の時点】

正当事由は、更新拒絶通知・解約申入れが有効となるための要件です。したがって、通知・申入れの時に存在し、かつその後6カ月間持続されなければなりません。通知・申入れの時に存在し、かつその後6カ月間持続すれば、更新拒絶・解約申入れは、有効です。 この6カ月の期間経過後に生じた事情は正当事由の有無の判断資料にはならないのが、原則です(最判昭28.4.9)。 もっとも、解約申入れ当時に正当事由がなくても、賃貸人が明渡しを請求し、明渡し訴訟が係属している間に、事情が変わって正当事由が具備され、6カ月間その事由が存続したときも、解約の効果は生じます(東京地判昭56.10.7、最判昭41.11.10、最判昭34.2.19、最判昭29.3.9、いずれも解約申入れ)。 また、立退料については、賃貸人が解約申入れ後に提供し、または増額を申し出た金額も参酌することができるとされています(最判平3.3.22)。

【正当事由の判断材料】

正当事由は、 (A)賃借人の事情(賃借人が建物の使用を必要とする事情) (B)賃貸人の事情(賃貸人が建物の使用を必要とする事情) (C)建物の賃貸借に関する従前の経過 (D)建物の利用状況 (E)建物の現況 (F)立退料 を総合的に考慮して、その存否が判定されます。 ここで総合的に考慮するのは、賃貸人と賃借人双方それぞれに有利なファクターと不利なファクターを、まずは、基本的な要因について比較衡量して正当事由の存否判定を試み、もし、基本的な要因だけでは判断できないときには、補充的な要因を加えて比較考慮し、社会通念上明渡しが妥当といえるかどうかを判定することを意味します。

【基本的な要因】

(A)賃貸人の事情(賃貸人が建物の使用を必要とする事情) 正当事由の存否は、賃貸人と賃借人にどのような建物使用の必要性があるかを個別に検討し、それぞれを比較し、相対的により必要性が高いのはどちらかを判断するという方法によって判定されます。賃貸人が建物の使用を必要とする事情は、正当事由判定における重要な要因です。 賃貸人の事情として典型的なものは、自らが建物を居住・営業に使用する必要性ですが、必ずしも賃貸人において賃貸建物を自ら使用することを必要とする場合に限りません(最判昭27.10.7)。賃貸人の家族や従業員、また、賃貸人と関係がある第三者が使用する必要性も、考慮されます。例えば、東京地判平19.8.29は、『賃貸人の娘が使用する目的であって、賃貸人が娘のために、新築を準備し、その育児に携わる必要があるというのは、本件建物の建て替え及び明け渡しの必要性があるものというに足りる』としています。 老朽化した建物を取り壊し新築建物に建て替えるなど、土地を有効利用し、また、安全性の高い建物を建築しようとすることも、賃貸人が建物の使用を必要とする事情となります。例えば、東京地判平20.4.23は、昭和4年頃に築造された木造3階建てアパートについて、賃貸人の目的は自ら建物を使用するものではなく、不動産を有効利用するものであるところ、このような利用方法を『営利を追求する企業として合理的なものとして肯認することができる』としています。 ところで、借地借家法制定の経緯の中で、当初国会に提出された法案において条文に入っていた「建物の存する地域の状況」という文言が削除されて本条が立法化されたことなどから、借地借家法制定の当初は、建物建替え・敷地の有効利用について正当事由を基礎づける事情として重視すべきではないと論じられていました(『新版注釈民法(15)』938頁)。しかし、その後の裁判例の動向をみれば、建物建替え・敷地の有効利用が、賃貸人側の事情として、重要な要因として考慮されていることは明白です。 そしてこのように建物建替えが重要な要因として考慮されていることは、平成7年1月に阪神大震災、平成16年10月に新潟県中越地震、平成19年7月に新潟県中越沖地震、平成23年3月に東日本大震災が発生し、あるいは、平成17年11月に耐震強度偽装事件が発覚するなど、建物の安全に対する社会的な認識が高まってきたことと無縁ではないと考えられます。居住の安全性確保は建物所有者の責務であり、裁判所も、居住の安全性確保という社会的な要請に無関心ではいられなくなっているからです。 もっとも、建物の取壊しと建築計画を主張しても、容易に正当事由が認められるわけではありません。建築計画の具体性、建物の老朽化、立退料提供の有無・金額などが考慮の対象とされ、賃借人側の必要性と比較されることになります。 なかでも、建替えが必要であることを正当事由の要因とするケースにおいては、ほとんどの場合に、高額の立退料の提供があってはじめて、正当事由が認められています(『実務解説借地借家法』389頁)。 ところで、区分所有法は、区分所有の建物について、集会での多数決による建替え決議を行うことを認めています(区分所有法62条1項)。しかし、専有部分の賃借人には、建替え決議の効力は及びません。そこで、建替え決議がなされた建物の専有部分に賃借人がいる場合、賃貸人から、建替え決議があったことを理由として、賃貸借が更新拒絶または解約され、賃貸人に対して明渡しが求められることがあります。 東京地判平20.7.18は、賃貸借契書に、「取壊日が確定した場合、賃借人は、本件建物を賃貸人に明け渡す」とする明渡し条項があった賃貸借について、『本件明渡し条項が建替え決議の成立のみをもって他に何らの正当事由なくして本件契約を解除し得るものとする趣旨と解する限りにおいては無効というべきであるが、同条項は、将来ビルの建替えがある得ること、その際には賃貸人は本件契約を終了させる意思であることを賃借人に予告したものとして正当事由を構成する一要素として考慮することを妨げない』として、立退料支払いを条件とせず、無条件で、正当事由を肯定しています。 これに対し、東京地判平20.1.18も、建替え決議が成立していたケースにおいて、賃借人が理容室を営業して生計を立てており、建物の必要性が高いことを理由に、正当事由は否定されました。 賃貸人が、借金返済や相続税納付など建物売却による現金準備の必要性をもって、正当事由を主張することもありますが、一般的には正当事由は認められていません(東京地判平20.12.26、東京高判昭26.1.29)。ただし、借財返済のための売却(最判昭38.3.1)、相続税納付のための売却(大阪地判昭39.5.30)によって、正当事由が肯定されたケースも、ないことはありません。 借地上の建物の賃貸借につき借地人(建物賃貸人)が地主に対して収去義務を負うからといって直ちに建物賃借人との関係で正当事由があるとはいえないとしたケースがあります(東京地判平8.1.23)。

【コメント中の判例】

①東京地判平20.4.23判タ1284.229

東京地方裁判所判決/平成18年(ワ)第9959号

【判示事項】
  1. 1.信頼関係の破壊を理由とする賃貸借契約の解除が認められなかった事例
  2. 2.立退料の支払を正当事由の補完事由として、老朽化した建物の解約申入れに基づく明渡請求が認容された事例
〔判旨〕
  1. 1.賃貸人が本件建物を使用する必要の急迫性と、賃借人が本件建物を使用する必要の急迫性を比較すると、賃貸人におけるそれの方が賃借人のものに比べて一層高いものである
  2. 2.本件建物は築約80年の木造建築であり、防災上の観点から新しい建物の建築が必要である
  3. 3.賃借人の建物の使用状況をみても、相当の立退料の提供により、賃貸人による賃貸借契約の解約申入れに正当事由が具備されるというべきである
②東京地判平9.2.24判タ968.261

東京地方裁判所判決/平成6年(ワ)第13913号

【判示事項】

再開発計画に基づく高層建物建築を目的とする建物賃貸借の解約申入れにつき、原告に計画の実現能力がないとして正当事由が存しないとされた事例

〔判旨〕

賃貸人が、その資力から判断して、ビル新築に必要な能力を有していないという理由で正当事由を否定する。(建替え計画があっても、これを実現する能力が賃貸人になければ、正当事由は認められない。)

③大阪地判昭63.10.31判時1308.134判タ687.166

大阪地方裁判所判決/昭和57年(ワ)第9279号

【判示事項】

土地の高度利用を目的とする借家契約の解約申込につき当事者の主張する明治額約5300万円を超える9000万円の立退料の支払と引換えに明渡を認容した事例

〔判旨〕
  1. 1.賃貸人と賃借人双方の使用必要事情に照らすと、賃貸人の使用必要事情は、これが賃借人側のそれを上回るとまでは認められないものの、両者の間にはおよそ賃貸人の明渡請求を不当とする程に確たる差はないというべきである。
  2. 2.賃借人に対しては、一時的な営業中断のための補償、新規に店舗を賃借するための保証金等立退きのための諸費用を填補するに足りる相当額の立退料の提供により、賃貸人の本件明渡についての正当事由は補完され具備されるものというべきである。
④東京高判平元.3.30判時1306.38判タ臨時増刊735.110

東京高等裁判所判決/昭和61年(ネ)第1291号

【判示事項】

金1億6000万円の立退料の支払いを条件に建物(店舗及び住居)賃貸借契約の解約が認められた事例 賃貸人の「使用の必要性」(建替えの必要性=建物の現況)と高額の「立退料提供」によって正当事由が認められた典型的なケースである。ここでは、「建替えの必要性」に付随して、次の1~4の要素が斟酌されている。すなわち; 1)建物の現況:建物はすでに老朽化しており、おそくとも今後数年のうちに朽廃する運命にある 2)地域の事情:本件ビル建築は、豊島区及び地元住民の総意である本件土地周辺地域の活性化及び防災、不燃化等の公益に沿うものである 3)高額の立退き料の提供 4)従前の経過:新家主による地上げケースである

⑤東京地判平3.9.6判タ785.177

東京地方裁判所判決/平成2年(ワ)第9433号

【判示事項】

地方国立大学教授であった者が都内の大学教授に転職したため賃貸建物を自己使用する必要が生じた場合において、700万円の立退料の提供により賃貸借契約の解約申入れの正当事由を認めた事例 平成3年ころまでは、居住用建物の明渡しが問題となった事例では、「移転に伴う経済的損失等諸般の事情」(東京地判昭59.2.28判タ527.119)、「Xの申出額を上回り、かつ、これと格段の差がない範囲の額」(大阪地判昭59.7.20判タ537.169)、「本件に現われたすべての事情を考慮して」というような形で立退料の算定根拠を明らかにしない判決がほとんどであった(他に、東京地判平1.11.28判時1363.101)。この時期のものとしては唯一、東京地判平3.9.6判タ785.177は、「不動産鑑定評価基準」に近い考え方を取っている。

不動産鑑定評価基準:不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行う際に拠り所とする統一的基準。不動産の鑑定評価に関する法律に基づいて1964年に制定された。http://tochi.mlit.go.jp/kantei/additional1.pdf#search='%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E9%91%91%E5%AE%9A%E8%A9%95%E4%BE%A1%E5%9F%BA%E6%BA%96' 平成14年改正:不動産の証券化等土地・建物一体の複合不動産の収益性を重視する取引が増大する中で、これに的確に対応する鑑定評価手法を確立する必要があり、1990年(平成2年)に改正されて以来の大きな改正がされた。 平成19年改正:証券化対象不動産の鑑定評価に関する基準の明確化等を受け、各論3章を新たに設けるなどの措置が施された。http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/03/030402_.html 平成21年改正:CRE戦略に関係するものなど、不動産鑑定評価基準によらない価格等調査のニーズの増大が想定されることに対応した改正がなされた。

⑥東京地判平3.2.28判タ765.209

東京地方裁判所判決/平成元年(ワ)第8293号

【判示事項】

都市部商業地域の賃貸住宅において、事務所転用目的による解約申入に正当事由がないとされた事例  賃料の増収を図るために事務所への転用を行いたいという理由で賃貸借の解約申入れをしたケースで、立退料の提供をしたとしても正当事由は具備されないとする。賃料の増収目的は、およそ自己使用の必要性には当たらないと判断されたものと思われる。

(B)賃借人の事情(賃借人が建物の使用を必要とする事情)

賃借人が建物の使用を必要とする事情も、正当事由判定における基本的な要因です。転借人がいるときは、転借人の事情も、賃借人者側の事情として考慮されます(28条かっこ書)。 賃借人に居住の必要性があることは、重要な要因となります。都市部商業地域の賃貸住宅において、賃貸人が事務所に転用して賃貸収入を得るために明渡しを求めたのに対し、賃借人は現時点では建物を時々しか使用していないけれども、将来は生活の本拠として使用する計画があるという事案について、正当事由が否定されています(東京地判平3.2.28)。 賃借人の営業上の必要も正当事由否定の要因です。立地条件のよい場所で営業していること(東京地判平16.3.30)、営業権(のれん)を生じていること(東京地判平3.5.13)なども考慮の対象です。 賃借人が、建物を使用せずに放置している場合には、正当事由肯定の要因となります(東京地判昭26.6.26乙)。

【補充的な要因】
(C)建物の賃貸借に関する従前の経過

建物の賃貸借に関する従前の経過は、正当事由の補充的な要因になります。賃貸借契約締結の基礎事情、基礎事情の変更の有無、賃料等の契約条件、当事者間の信頼関係の存否、賃貸借期間などが考慮の対象です。 ここでは、好意賃借、雇用関係、親族関係等があるか、これらの事情があれば、その事情の基礎となる状況の変化があるか、賃料は相当か、賃料不払い等信頼関係を損なう事情がなかったか、賃貸借が長期間にわたっているかなどが問題とされます。 例えば、賃料滞納が繰り返されていれば、正当事由肯定の要因になり(東京地判平20.8.28乙)、反対に、長期的に信頼関係を損なうようなことがなければ、正当事由を否定する要因になり得ます。明渡し交渉の局面において、賃貸人の態度に誠意がないことが、正当事由を否定する方向への要因になることもあります(東京地判平1.6.19)。 賃貸人が解約を申し入れたとき、あるいは、その他一定の事実があったときに当然明け渡すとの条項は、一方的強行規定違反として無効です。東京地判平20.7.18も、『「建替え、取壊し日が確定した場合、賃借人は、本件建物を賃貸人に明け渡すものとする」との条項が建替え決議の成立のみをもって他に何らの正当事由なくして本件契約を解除し得るものとする趣旨と解する限りにおいては無効というべきである』としています。 しかし、賃貸借の終了についての特別な合意を、正当事由のひとつの要因として考慮し得ることは、合意の有効性とは異なる問題であり、賃貸借の終了についての特別な合意を、「賃貸借に関する従前の経過」として、正当事由判断のひとつの要因とみることは可能です。賃貸人の要求があれば建物を明け渡すなどの約定がある場合には、正当事由肯定の一要因として認められています(東京高判昭51.8.31、東京地判平1.8.28)。 東京地判平20.7.18も、『取壊し日が確定した場合、賃借人は、本件建物を賃貸人に明け渡すものとする』との条項について、『将来ビルの建替えがあり得ること、その際には賃貸人は本件契約を終了させる意思であることを賃借人に予告したものとして正当事由を構成する一要因として考慮することを妨げない』としています。

(D)建物の利用状況

建物の利用状況とは、賃借人が建物を利用しているかどうか、また契約に従って建物を利用しているかどうかを意味します。 賃借人が建物を使用していなければ、正当事由は肯定されます(東京地判昭26.2.26乙)。賃借人の使用目的違反があったとき、解除事由にまでは至らない程度であったとしても、正当事由の要因になり得ます。事務所として使用する契約であるのに英語学習用教室として使用した東京地判昭54.10.29が、その例です。 もっともこれら建物の利用状況は、補充的な要因としての建物の利用状況ではなく、基本的な要因である賃借人が建物の使用を必要とする事情として考慮されるものです。その意味で、建物の利用状況を正当事由の判断基準のひとつとした意味はないともいわれています。

(E)建物の現況

建物の現況とは、建物全体の物理的な状況です。建物が老朽化するなど、物理的あるいは社会的経済的効用を失い、建替えや改築が必要とされていることを指し示します。 建物が朽廃しその効力を失ったときは、建物賃貸借契約は終了しますが(最判昭32.12.3)、朽廃の程度に至らなくても、老朽化、機能の陳腐化等により取壊し・改築の必要が生ずる場合があります。最判昭35.4.26は、『賃貸家屋の破損不朽の程度が甚しく朽廃の時期の迫れる場合、賃貸人たる家屋の所有者は、その家屋の効用が全く尽き果てるに先立ち、大修繕、改築等により、できる限りその効用期間の延長をはかることも亦、もとより所有者としてなし得る所であり、そのため家屋の自然朽廃による賃貸借の終了以前に、意思表示によりこれを終了せしめる必要があり、その必要が賃借人の有する利益に比較衡量してもこれにまさる場合には、その必要を以って家屋賃貸借解約申入れの正当事由となし得るものと解すべきを相当とする』として、大修繕、改築を正当事由の要因としています。 建物の老朽化は、補充的な要因のうちでも、重要性の高いものです。正当事由を肯定する場合には、多くの事案において、建物が老朽化していることが、その理由のひとつとされており、例えば、東京高判平3.7.16は、『賃貸人に建物またはその敷地を自己使用する必要性はないが、建物の状況に照らし、本件賃貸借契約を解約することが合理性ないし社会的相当性を欠くということはできない』として、明治37、38年頃に建築され、著しく老朽化した建物について、立退料支払いを条件とする正当事由を肯定しています。 もっとも、ある程度老朽化していることが認められても、賃借人の必要性が高い場合には、必ずしも正当事由が認められるとは限りません(東京地判昭54.12.14(歯科医師))。東京地判昭55.6.30(住宅)では、すでに朽廃に近い状態にあるが、建物としての効用を喪失するまでにはなお5年を要するとして、正当事由が否定されています。また、老朽化に至った原因として賃貸人の管理運営上の問題があるときは、正当事由を否定する方向の要因となります(東京地判平4.9.25(洋菓子製造販売))。

2 定期借家法について詳しく解説

1 建物の賃貸借と借地借家法
(1)建物の賃貸借と法律

賃貸建物の種類には、アパート、賃貸マンション、貨家、貸事務所、貸店舗などがあります。このような建物の賃貸借に対しては、民法の賃貸借(601条~621条)の規定、又は民法の特別法である借地借家法の規定などが適用されます。 ただし、建物の賃貸借において民法と借地借家法との関係は、特別法である借地借家法が優先して適用されるため、借地借家法(26条~40条)こそが最も重要な法律となります。

(2)普通借家権と定期借家権

借地借家法には、借家人を保護する規定も数多くあります。 その1つとして更新拒絶における正当事由の規定があります。貸主が契約の更新を拒絶する際には、更新が出来ない正当な理由を、貸主が借主に対して示す必要があります。 また、賃貸借では、当事者同士で期間を定めていることも多く、期間満了と同時に賃借人(借主)は賃貸人(貸主)に対して、賃借物(部屋や建物など)を返還することが義務付けられています(民法616条、597条1項)。 ですが、期間を定めるにあたって、法律上、20年が上限となっているため、たとえ当事者間で20年を超える期間の定めであったとしても、満了は20年となり(民法604条1項)、さらに契約における目的物が建物であり、期間を1年未満で設定した場合は、期間の定めがないということになります(借地借家法29条1項)。 さらに契約における目的物が建物であれば、たとえ期間の定めが設けられていたとしても、必ずしも期間満了と同時に契約が終了になるとは限りません。期間満了の1年~6か月前までに賃借人から相手方に対して、更新をしない旨を通知しなければならず、通知をしない、または、満了まで6か月未満のときは、従来通りの条件で契約を更新したとみなされます(借地借家法26条1項)。さらに、普通の借家契約では、期間が満了しても、必ず終了というわけではなく、満了後も借主が住み続けたいと主張すれば、自動的に更新が可能となります。 賃貸人からの解除は、賃貸人からの解除の申し入れに正当事由があるとみなされたときのみ、認められます(借地借家法28条)。ですが、賃貸人側からの申し入れが認められることは少なく、賃借者側からすると、半永久的に住み続けることが出来るため、普通借家権は借主にとってとても有利です。 その反面、賃貸人からすると、いったん貸してしまうと、よほどのことがない限り、返してもらえないということになります。もし、正当事由はないが、どうしても返してもらいたいと思うのであれば、賃借人に対して高額な立退料を支払う必要があります。立退料の相場が「家賃の200か月分以上」と言われたこともありました。「高額な立退料を支払わなければならないのなら、貸さないでおいたほうがよい」と考える賃貸人が出てくるようになります。つまり、借主を保護しようと借地借家法のおかげで、良質な賃貸住宅の供給が阻害されることになるのです。 このような事態を避けるために、「定期借家契約」が平成12年(2000年)3月1日より導入されました。定期借家契約では、期間が満了した後の更新ができないとされています。(借地借家法38条1項)つまり「2年」や「3年」の約束で定期借家契約をした場合、約束の期間が経過したときに期間満了となり、必ず契約が終了するのです。定期借家契約であれば、期間が満了すれば立退料を請求されることもありません。高額な立退料の支払うことを恐れるあまり貸すことをしぶっていた貸主も、部屋を貸すようになります。現に定期借家契約が導入されてから、この制度を利用した賃貸事例が増えてきています。ただし、期間満了と共に退去しなければならないことから、一般的に通常の賃料より多少安くなるというデメリットもあります。 。

2 普通借家契約と定期借家契約の相違点

普通借家契約は定期借家契約に比べ、貸主と借主の合意があれば契約が成立するなどの点で、手続きは容易です。 反面、定期借家契約は、契約が終了する前に借主に対して通知が必要であるなど、一定の手続きが要求されるなど、手続きが面倒です。

①定期借家契約を結ぶには

定期借家契約を結ぶには、普通借家契約とは異なり、次のような手続きが必要となります。 (1)公正証書などの書面によること(借地借家法38条1項) 定期借家契約では、口頭でも成立する普通借家契約とは違い、必ず書面を作らなければなりません。その際の書面には「この契約は定期借家契約であり、平成○年○月○日をもって終了する。」「この契約は更新されない。」という旨の条項を入れる必要があります。 必ずしも公正証書にする必要はないのですが、慣れていないのであれば、少なくとも最初の契約では、公正証書を利用する方が無難です。一度でも公正証書を使用すれば、2回目以降はその書式を参考にして自分で書面を作ることも出来ます。 「公証人役場」に行けば、公正証書は作ってもらえます。 また、公正証書について誤解されがちなことがあります。 公正証書は、場合によっては「債務名義」になり得ることもありますが、建物の返還を請求する強制執行手続においては、「債務名義」となることはありません。公正証書が「債務名義」になり得るには、民事執行法22条5号に定められている場合に限定されています。 つまり、金銭の賃借などでは、債務者が強制執行において直ちに従う旨を契約書などに記載し、その内容を公正証書で作成することで、差押などの強制執行の場合に「債務名義」として扱うことができるのです。 しかし、建物明渡請求のように、金銭ではない特定の物を対象とする請求に関しては、どんなに公正証書に記載されたとしても、「債務名義」として扱うことはできないのです。 以上のことから、賃借人を強制的に退去させたいということがあれば、賃貸人は必ず裁判手続をとらなければならないということになります。

(2)契約書とは別に、定期借家であることを記載した書面をあらかじめ交付して直接説明すること(借地借家法38条2項) 契約を結ぶ際に、契約書をよく読まない借主も少なくないため、契約書の中に定期借家であると書かれているにもかかわらず、その条項に気付かず契約を結んでしまうことも考えられます。 このようなことがないように定期借家契約を結ぶ際には、貸主は事前に借主に対し、契約書とは別に、「この契約においては更新がないこと」また、「期間が満了したときに契約が終了すること」などの内容を記載した書面を交付し、定期借家契約であることを賃借人に対して説明する必要があります。 ただし、「書面の交付」又は「定期借家である説明」のどちらかがされなかった場合は、その契約は普通借家契約(自動的に更新される契約)であるとみなされることになります(借地借家法38条3項)。 (3)その他 定期借家契約の対象は住居用のみに限りません。営業用建物や倉庫などに関する建物であっても定期借家契約を結ぶことが出来ます。 ただし、住居用の建物なのかその他の建物なのかによって異なる点もあり、普通借家契約(自動的に更新)で契約が結ばれていた場合、引き続き賃貸借をする建物が居住用以外の建物であれば、定期借家契約に変更することは可能ですが、居住用の建物の場合、変更することは出来ないのです。 また、定期借家契約の期間は、1年以内であってもよい(借地借家法38条1項)ことになっています。夏の数カ月のみ貸すという契約も可能(ただし、このような場合、借地借家法40条の一時使用の契約にあたります。)ですし、長期の制限もないので、20年を超える定期借家契約を結ぶことも出来ます(借地借家法29条2項)。ただし、契約上20年を超える期間であっても、記載は20年と定めます(民法604条1項)。

②定期借家契約を終了させるには

(1)貸主が期間満了により終了させる場合 定期借家契約は、契約の期間が満了することにより、更新はされずに終了となります。 しかし、定期借家契約の契約期間が1年以上である場合、契約が切れる1年から6か月前までの間に、「期間満了により契約は終了する」というような内容の通知をしなければならず、この通知がなされていない場合は、契約が終了したと主張することは出来ないことになっています(借地借家法38条4項)。 ただし、期間満了による契約終了の通知は必ずしも書面にする必要はなく、口頭による通知でも可能です。しかし、口頭による通知の場合、後日トラブルになることも考えられるので、できるのであれば内容証明郵便にした方がよいです。 また、書面で通知をする場合、郵便を出した日ではなく、相手に書面が届いた日が通知した日になりますので、注意が必要です。内容証明郵便には、配達証明をつけるべきです。 定期借家においてこの規定に関して借主に不利な内容の特約は、無効とされます。「この契約では更新がなく、期間が満了した時点で終了となる」という内容の通知が期間(1年前から6か月前)から遅れてしまった場合、通知が届いてから契約が終了するまで6か月以上(例えば契約が終了するまで7か月など)に設定する特約は有効ですが、6か月未満(例えば契約が終了まで5か月)に設定する特約は借主にとって不利であるため無効です。 内容証明郵便とはどのようなものでしょうか。 建物明渡請求事件でまずやるべきことは、適切な事実関係を相手方に対して通知することです。賃借人が賃料を延滞している場合、滞納賃料の支払いがないこと等の理由から、賃貸借契約を解除する旨を配達証明付内容証明郵便に記載し、相手方(賃借人)に送付します。 ですが、賃借人に対して、内容証明郵便を送付しても、留置期間満了(留置期間は原則7日間となっています。しかし、受取人の申出によっては、最大10日間まで延長することが可能となります。)に伴い、内容証明郵便が返送されてしまうことがあります。これは、配達の際に受取人(賃借人)が不在であれば「郵便物配達のお知らせ」が交付されることになっていますが、差出人の欄に賃貸人や代理人の名前が記載されていることで、賃借人が自身にとって不都合な内容が書かれていると思い、内容証明郵便を留置期間内に受領をしないように拒否しているためであると考えられます。 ただし、このような場合は、たとえ名あて人不在で内容証明郵便が返送されてきても、留置期間の満了をもって賃貸人の意志表示の到達はあったものとされることもあります。 また、相手方が内容証明郵便を受領しなかったとしても、内容を了知させるために、留置期間満了に伴い返送された内容証明郵便の差出人保管分をコピーし、いつ、何を送付し、留置期間満了により返送されたこと、さらに内容証明の写しを送付したことを記載した奥書を郵送することも1つの手段です。 なお、賃貸人が賃貸契約の解除を望んでいるにもかかわらず、催告後に延滞賃料を賃借人が全額支払ってしまうと、賃貸契約の解除はできなくなってしまいます。さらには、賃貸人の催告には応じないにもかかわらず、代理人の司法書士などの第三者からの催告であれば応じるという賃借人もいるため、未払い賃料などの催告を行う際は、支払期限等催告書の記載内容に十分注意が必要です。 賃借人が催告書の送付を受けた後に賃貸人に対して、未払い賃料の一部のみを支払った場合は、未払い賃料を一部充当した旨、また、支払期限後に全額あるいは一部を支払ったときには、期限後に支払いがあったことと、未払い賃料にあてられた旨を通知することになります。

(2)借主が期間満了前に終了させる場合 期間が決められている契約においては、定期借家契約に限らず、通常その期間が満了するまでは終了することはありません。 借主が転勤などそこに住めなくなるような理由が出来て、契約期間の途中で契約を終了したいと主張したとしても、貸主が同意しない限り終わらせることは出来ないのです。つまり、借主がその家を出て他の家に引っ越すことは可能ですが、その家の家賃は期間が満了するまで支払い続ける必要があるのです。 ただし、多くの契約には特約があり、その特約によって借主は保護されています。例えば、「借主が1か月の予告期間に持つ事によって契約を解約することが出来る。」また、「1か月の予告期間分の家賃を支払った場合も契約を解約することが出来る。」といった中途解約条項というものです。 しかし、最近では一度空き家になると、なかなか次のテナントが入らなくなってきているため、貸主が中途解約に応じないこともあり、借主は契約を結ぶ際に中途解約条項が入っているか注意して確認をする必要があります。 また、居住用の建物における定期借家契約では、建物の床面積が200平方メートル未満の場合、転勤や親族の介護、療養などのやむを得ない理由によりその建物における居住が困難となったときは特約がなかった場合でも、契約を中途解約出来るため、借主は解約の申し入れが出来、解約の申し入れから1か月後に契約を終了させることが出来ます(借地借家法38条5項)。 定期借家においてこの規定に関して借主に不利な内容の特約は、無効とされます。借主の解約の申し入れから1か月よりも短い期間での契約が終了する内容の特約は可能ですが、1か月よりも長い期間で契約が終了する特約は家賃なども発生するため、借主にとって不利な特約であると言えるので無効です。

③定期借家契約での賃料の改定をするには

賃料の改定に関する特約があった場合、普通の借家契約(自動的に更新)では、特約にとらわれず、貸主及び借主双方が自由に賃料の増減を請求出来ます(借地借家法32条1項)。 ただし、「一定の期間は賃料増額しない」などの特約がある場合は、その特約に従う必要があります。 これに対し、定期借家契約では、貸主及び借主はその特約に従う必要があります(借地借家法38条7項)。

賃貸人が解除を申し入れることは出来ないのでしょうか

賃貸人が解除を申し入れることは出来ないのでしょうか

賃貸人からの解除の申し入れに正当事由があるとみなされたときのみ、賃貸人からの解除は認められます(借地借家法28条)。しかし、賃貸人からの申し入れが認められることは少なく、賃借人が半永久的に住み続けてしまうので、普通借家権は貸主にとって不利です。 借地借家法28条  建物の賃借人による第26条1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現状並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

正当事由はないが、借家から出ていってほしいという場合には

正当事由はないが、借家から出ていってほしいという場合には

賃借人に対して高額な立退料を支払う必要が出てきます。立退料の相場が「家賃の200か月分」といわれたこともありました。「高額な立退料を支払わなければならないのなら、貸さないでおいたほうがいい」と考える賃貸人が出てくるようにもなります。つまり、借主を保護しようとする借地借家法のおかげで、良質な賃貸住宅の供給が阻害されることになってしまいます。 建物に関する賃貸借契約では、借地借家法が適用され、アパートなどの居住者は借地借家法によって、「家を借りる権利」という意味を持つ、「借家権」という権利を有していることになります。借家権は強力な権利であるため、たとえ大家さんであってもむやみに借主から奪うことは出来ないのです。なので、居住者が「住み続ける」といえば、借主側に家賃滞納や契約違反など契約を解除せざるを得ないような問題が無い限り、原則として住み続けることを承認しなければならないということです。 ただし、大家さんがその部屋をどうしても使わなければならない理由があれば、契約の更新を認められないこともありますし、また、建物が古くなり、価値がなくなった場合は、契約が自動的に終了することもあるので、この場合は、借家権が失われることになります。 また、契約書の中に「貸主が立ち退きの要求があったときは、すぐに立ち退き、さらに、借主はどんな場合であっても、貸主に対して立退き料などの金銭的な要求をしてはならない」というような条項が記載されている場合は、借主にとって不利な条項であることから、これらは無効となります。 ですが、建て替えをするからには、それなりに古くなっていると考えられます。もちろん借家権がある以上、立ち退きを拒否することは可能ですが、1人で居座ることに抵抗があるならば、不動産会社に間に入ってもらい、次の部屋を見つけるまでの間、立ち退きを待ってもらうこともよいです。 さらに、部屋を立ち退く際に、引っ越し費用などが立ち退き料という名目で支払われることが一般的です。 大家さんの都合によって、借主が立ち退かなければならないのであれば、大家さんから借主に対して、一般的には立退料が支払われます。 バブル経済の頃は、新規の部屋に移るとなると、家賃も高騰していたため、より高い家賃を負担することになるので、高額の立退料をもらうことも少なくはなく、さらに、大家さんも借主が立退いた敷地を更地にして、売却することによって、莫大な利益を得ることが出来たため、高額な立退料を支払うことが出来たのです。 しかし、最近では、家賃相場が下がってきたため、前の借主が支払っていた家賃よりも、新規の借主の家賃が下回り、また、家賃相場が下がっていることで、立ち退く側も家賃の面で負担が軽減されるため、高額の立退料が必要というわけではないのです。さらに、大家さんも立ち退いてもらった土地を更地にしたところで、さほど利益は見込めず、高額な立退料を支払う余裕はないと言えます。 よって、立退き料の金額は、個人的な事情が関係してくるので、一般的な基準を出すことは難しく、借主及び貸主双方の話し合いで決めることになります。

退室予定日の延長

1か月退室が遅れそうだが予定通り退室してくれと言われ困っている。

退室予定日は守らなければならないです。 退室予定日の申し入れは、契約書の中でいつまでと定められていることが多く、その規定通りに退室の申し入れをしたのであれば、借主及び貸主の双方間で契約を終了させるという合意が成立したことになります。 また、契約が終了したにも関わらず、退室をせずに居座るという人もいますが、大家さんは借主の退室予定日に合わせて、次の入居者と賃貸借の契約を結んでいる可能性があります。ですが、借主が居座りをすることで、契約をしていた次の入居者が部屋の引渡しを受けられず、大家さんは損害賠償を請求されることになります。 このような問題が起こらないように、多くの契約書では、契約が終了したにも関わらず、居座っている者に対して、過怠約款として賃料の倍額またはそれ以上を違約金として支払うよう定められています。 さらに、契約が終了した後の居座りは重大な違反になるので、不動産会社の信用を失うことにもなり、今後の部屋探しにも影響してしまうので、退室予定日までに部屋をきれいにし、明け渡すことがよいです。 もしも、退室予定日が遅れそうであるならば、早い段階で大家さんに伝えてみることも必要です。次の入居者がまだ決まっていなかったときは、大家さんとの交渉次第では通常の家賃の支払いで退室日を延長してもらえる可能性があります。

2020-03-19 16:04 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所