借家権と貸家の相続・オーナーチェンジ

何らかの事情で家主が変更することもあります。その際に、元の家主との契約がそのまま継続されるのか、もしくは、新しい家主と新たに契約を締結しなければならないのかが問題となってきます。 また、借家人側の変更の場合では、借主が変わった場合に、借家人の同居人がこれからも住み続けることが出来るのかが問題となります。 人の死亡によって相続は発生します。現金、預金、株式、負債、不動産の他、借地権などの権利や、賃貸人としての法的地位も相続財産に含まれます。

■借家権の相続

借家契約の途中で、借家人が死亡した場合には、借家人の相続人が借家権を相続することになります。実際には、相続人が数人いる場合には遺産分割協議で借家権の相続人を決めて家主に通知することになります。家主はこのような場合、借家権が借家人から相続人に譲渡されるとして、承諾料を請求したり、名義の書き換えが必要だとして名義書換料の名目で金銭の支払いを要求したりすることがあります。しかし、相続によって借家権が移転する場合には譲渡とはいえず、地主の承諾や、名義書換料の請求は認められません。

■同居の内縁の妻や養子の保護

借地借家法は同居していた事実上の夫婦(内縁関係)や事実上の養親子の借家権(居住用に限る)の承継を認めています。ただし、この規定が適用されるのは、相続人がいない場合だけです。したがって、現行規定では、相続人が他にいる場合には、借家権を承継することはありません。 こうした問題を解決するために、「借地・借家法改正要綱試案」(平成元年法務省公表)では、相続人がいる場合でも事実上の妻および養親子について、借家権が承継できる内容となっていますが、現在のところ改正はなされていません。

■家主の地位の相続

 家主が死亡して、貸家が相続人に相続された場合には、家主としての法的地位も相続人に相続されます。したがって家主の相続人は、家賃を借家人に請求することができます。 なお、家主の地位の相続は、権利の相続だけでなく、義務も相続します。したがって契約が終了したような場合には、敷金の返還義務なども相続します。 なお相続しても、登記をしていない場合があります。登記をしていないと、自分の相続分を売却しようとする場合や、借金をしてその不動産に抵当権を設定しようとする場合には、不便な思いをすることになります。また、相続人が複数存在する場合には、遺産相続分割協議で決めた相続分についてきちんと登記しなければなりません。不動産売買の場合のように、他の相続人が勝手に自分名義に登記してしまう、その相続持分を第三者に売却してしまうなどといったことがあります。 自分が得た権利を守りたければ、必ず登記するべきです。登記する時期については、実際に相続した分が法定相続分どおりであればさほど急ぐ必要はありません。ただし、法定相続分と異なる遺産分割をした場合には、遺産分割協議がまとまり次第、直ちに登記した方が安全です。

借地借家法36条(居住用建物の賃借権の承継) 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻または縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦または養親子と同様の関係にあった同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。(但書略)
2020-03-19 15:58 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所