建物全般
構造

建物を購入する際に、最も重視すべき価値は何でしょうか。デザインや間取りも重要ですが、安全性が最も重視されるべきでしょう。建物の安全性の確保を目的として、建物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めているのが建築基準法です。

建築基準法では、遵守すべき基準として、個々の建物の構造基準(単体規定、具体的な技術基準は政省令などで詳細に定められている)と、都市計画とリンクしながら、都市計画区域内の建物用途、建蔽率、容積率、建物の高さ等を規制する基準(集団規定)が定められています。

また、これらの基準を適用し、その遵守を確保するため、建築主事などが建築計画の法令適合性を確認する仕組み(建築確認)や違反建築物などを取り締まるための制度が規定されています。建築基準法は警察的な機能を担うので、同法の規制は「建築警察」と表現されます。

建築基準法は、時代背景や技術発展に即し、改正されてきました。平成19年施行の改正法で、建築確認・検査が厳格化されましたが、建築確認手続きの停滞が生じ、建築確認件数が大幅に減少するなどの影響があったことを踏まえ、建築確認審査の迅速化や申請図書の簡素化などを図るため、平成22、23年の2度にわたって建築確認手続きなどの運用改善が図られました。

平成24年8月には国土交通大臣が社会資本整備審議会に「今後の基準制度のあり方」を諮問し、同9月より同審議会建築分科会に設置された建築基準制度部会において特に見直し要請の強い項目について優先して検討が進められました。うち「住宅・建築物の耐震化促進方策のあり方」については、平成25年2月に第一次答申が取りまとめられ、これに基づき、同11月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」の改正法が施行されました。

判例においても、建築基準法の要求する強度に満たない建物について瑕疵の存在を認めたものがあります。ある裁判例は、被告らから建物を購入などした原告らが被告らに対し、購入建物が建築確認申請図面と異なり十分な強度がないなどとして、瑕疵担保責任ないし不法行為に基づき損害賠償等を求めた事案で、建物の売買は建築確認を経て構造計算上も法令の要件を満たした強度を有することを前提としているというべきであるから、現況建物の強度が売買当時の建築基準法の要求する強度を満たしていないことは瑕疵であるということができるとして、売り主の瑕疵担保責任を肯定しています。

他の裁判例においても、造成された土地及び地上建物を購入した原告らが、建物建築業者ないし土地の売り主である被告らに対し、購入した土地や建物の瑕疵などを理由に損害賠償を請求した事案で、売買契約当時には、取引上、一般通常人の視点では容易に発見することのできなかったと考えられる欠陥(整備不十分な盛土地盤が次第に不等沈下を起こすこと、建物が支持力の異なる基礎地盤に跨って建築されること)が存していたことが認められるとし、敷地の不等沈下も建物の構造に影響を与えるものであるから、土地と建物の瑕疵に該当すると判断しています。

一方、中古建物については、上記判例のように建築基準法の要求する強度に満たないことについて、瑕疵の存在を認めるという判断ではなく、建築基準法の要求する強度を前提としない判例もあります。

土地建物の売買契約において接面道路が私道であり、道路敷地所有者全員の承諾に基づく道路協定が成立していなかったことが瑕疵に当たるかが問題となった裁判例で、①本件土地は区画整理地区として計画決定された区域内にあるが、本件契約において地下に車庫が建築可能であること、又は南側に緑が一望できることが契約の内容になっていたとは認められないこと、②浄化槽について買い主らは埋設の事実を知っており、撤去費用を売り主らに負担させたこと、③本件建物が違法建築であるとは断定できないのみならず、買い主らにおいて解体撤去する予定であったこと、④道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなくても、建築基準法43条1項ただし書きの適用を受けられること(現に原告らは一戸建ての住宅を新築するための建築確認を得ていた)から、瑕疵の存在を否定しました。特に建て替えを予定して購入した建物は解体撤去されることを前提としていることから、建物の安全性は求められないとしたのです。

また、被告らから中古ビルをその敷地とともに買い受けた原告が、買い受け後、当該ビルの耐震性能が極めて低いことが判明したとして、売買契約の目的物に「隠れた瑕疵」があったことを理由に損害賠償を求めた事案でも、中古ビルの売買契約の内容を踏まえる限り、本件ビルの耐震性能が現在の耐震性能基準に照らし極めて低いという事実をもって、本件契約の目的物に「隠れた瑕疵」があったということはできないとして、瑕疵の存在を否定しました。

傾斜

建物は水平面と垂直面の組み合わせを基本に造られています。しかし、元々、完全な水平ではない地盤の上に建物が建てられるのですから、ある程度の施工誤差が生じる可能性があります。

「完全な水平」や「完全な垂直」は不可能であるとしても、どの程度の施工誤差まで許容されるのでしょうか。つまり、どの程度の施工誤差がある場合に、その建物に瑕疵があると判断されるのでしょうか。

建物の傾斜については様々な考え方があるものの、実際のところ「これ以上の傾斜なら欠陥となる」「これ以下の傾斜は許容範囲」というような明確な判断基準はありません。しかし、法律や判例で一定の基準は示されています。

品確法の「住宅紛争処理の参考となるべき技術基準」(平成12年建設省告示第1653号)では以下のように定められています。

3/1000未満の傾斜→「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が低い」

3/1000以上6/1000未満の傾斜→「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が一定程度存する」

6/1000以上の傾斜→「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が高い」

もっとも、これは「長さが3メートル程度以上(壁や柱など垂直面については2メートル程度以上)の2点間」における傾斜の目安で、3メートル未満の2点間についてはこの基準に必ず当てはまるわけではありません。

6/1000というのは1メートルにつき6ミリメートルの傾斜に相当し、10メートルでは6センチメートルになります。「こんなに傾いていたら十分に欠陥住宅だ」と感じるかもしれませんが、一定方向に傾斜が続くことはまずありません。ミクロの視点で考えれば、傾斜が上がったり下がったりを繰り返しながら、全体的なバランスを保っていることになります。逆に、一定方向への傾斜が続いているようであれば、不等沈下によって家全体が傾いている可能性を疑うべきでしょう。

では、判例はどのように判断しているでしょうか。

ある裁判例は、被告から土地及び中古木造建物を購入した原告が、建物の傾斜について「隠れた瑕疵」に当たるとして、被告に瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求したという事案です。このケースで裁判所は、1000分の5の傾斜角で壁と柱の間に隙間が生じ、壁やタイルに亀裂が入り、窓・額縁や出入口枠の接合部に隙間が生じ、犬走りやブロック塀など外部構造物に被害が生じるとされ、1000分の10の傾斜角で柱が傾き、建具の開閉が不良となって床が傾斜して支障を生じるとされ、1000分の15の傾斜角で倒壊の危険があり使用困難であると判断しました。その上で、本件建物が本件売買契約当時、築16年が経過した木造建物であることを考慮しても、通常有すべき品質を備えていなかったものと評価でき、本件建物の傾斜は瑕疵にあたると判示しました。

また、別の裁判例は、70分の1の勾配の較差が瑕疵に該当するかが問題となった事案で、本件建物の傾斜は経年変化によるものではなく、敷地である本件土地の不等沈下に起因するものであると認定した上で、買受人が、傾斜の存在を承知して買い受けたり、価格が傾斜の存在を前提に決定されたりしたような事情がある場合を除き、瑕疵に該当すると判断しました。

このように、建物が傾斜していることも瑕疵となり得ます。もっとも「床の傾斜が6/1000以上なら欠陥」と断定することも難しいといえます。同様に3/1000未満の傾斜であっても「欠陥はない」と断定できませんし、部分的に10/1000の傾斜があっても「生活に支障がなければ許容すべき」とするケースもあり得ます。建物の傾斜については、様々な要素を考慮して、総合的に判断する必要があります。一般的には、新築住宅の場合に3/1000、中古住宅の場合に6/1000までを許容範囲の目安とする考え方が多いものの、新築マンションや建売住宅の売り主業者によっては、4/1000~5/1000程度を施工精度の社内基準としている場合もあるようです。

生き物の棲息

ある裁判例は「人間の居住する住宅において一定の生物が生息することは通常不可避であって、特段の保障がない限り、消費者においても一定の生物が目的物件に生息していることは当然に予想し甘受すべきことであり、仲介業者としても、蝙蝠などが居住の妨げになるほど生息しているかどうかを天井裏まで確認調査すべき義務までは、それを疑うべき特段の事情がない限り負わないというべきである」とされている通り、建物に生物が棲息している可能性は避けられません。たとえ生物が棲息していても、即座に居住者の起臥寝食に支障を来たすわけではなく、生物が棲息していること自体だけでは瑕疵に当たりません。

もっとも、どのような状況であったとしても瑕疵の存在が認められないわけではありません。生物が棲息していることが、建物が通常備えるべき快適性を欠く場合や建物の安全性に影響を与える場合などにおいては、瑕疵の存在が肯定されます。

よく問題となるのはシロアリが棲息していたケースです。

ある裁判例は、不動産売買契約において対象建物にシロアリの侵食による欠陥があるとして、宅建業者である売り主に瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を求めた事案で、売り主の瑕疵担保責任を認めました。判決では「本件建物は本件売買契約締結当時既にシロアリにより土台を侵食され、建物の構造耐力上、危険性を有していたということができるところ、本件売買契約は居住用建物をその目的物の一部とする土地付き建物売買契約であり、取引通念上、目的物たる土地上の建物は安全に居住することが可能であることが要求されるものと考えられるから、本件建物が本件売買契約当時既に建築後約21年を経過していた中古建物であり、現況有姿売買とされていたことを考慮しても、瑕疵の存在を肯定することができる」と判断しました。シロアリによる浸食により建物の構造耐力上危険性を有している場合には、建物の安全性を欠くことになり、シロアリが棲息していたことが瑕疵に該当するとされたのです。

別の裁判例では、築後12年の中古木造建物の雨漏りによる腐食及びシロアリによる侵食の一部が瑕疵に該当するかが問題となった事案で、本件売買契約締結時における本件建物内の雨漏りによる腐食及びシロアリによる侵食を認定し、その範囲及び程度並びに本件売買契約の目的(居住利用目的)を考慮した上で、買い主らが主張する瑕疵の一部分(サンルームの部分)について瑕疵の存在を肯定しました。建物の一部がシロアリによる浸食被害を受けている場合、その建物の一部だけに瑕疵が認められるとしたのです。

また、別の裁判例は、購入した中古住宅の屋根裏に多数のコウモリが住み、この駆除が必要なことについて売り主の瑕疵担保責任が認められるかが問題となった事案で、裁判所は瑕疵の存在を肯定しました。判決では、住居用建物は人がそこで起居することを目的とするものであり、人が生活する建物については、一定の生物が棲息することは通常不可避であるし、生物が棲息したからといって当然にそこでの起居に支障を来す訳ではないが、住居は単に雨露をしのげればよいというものではなく、休息や団欒など人間らしい生活を送るための基本となる場としての側面があり、かつ、それが住居用建物の価値の重要な部分を占めているといえるとした上で、その建物としてのグレードや価格に応じた程度に快適に起居することができるということもその備えるべき性状として考慮すべきであると判示しました。

そして、巣くった生物の特性や棲息する個体数によっては、一般人の立場からしても、通常甘受すべき限度を超え、そのグレードや価格に応じた快適さを欠き、そこでの起居自体に支障を来すこともあるから、そのような場合には、かかる生物の棲息自体が建物としての瑕疵となり得るとしたのです。

設備

配管の割れ、水の濁りなどの給排水設備に関する欠陥や消防設備に関する欠陥についても、それらの設備が通常有すべき品質・性能を備えていない場合には瑕疵の存在が認められることになります。

設備に関する瑕疵について判断した判例を見てみましょう。

まずは瑕疵が肯定された判例についてです。

ある裁判例は、新築の鉄筋コンクリート造住宅の売買について、地下二重壁の不設置など居住用建物が備えるべき防水・排水設備に瑕疵があり、建物内部への雨水などの浸水被害が生じたという事案です。判決では、コンクリート製の地下壁を施工する際には、材質上、雨水などが浸水する可能性があることから、二重壁構造を採用し、その間に十分な空間をとって外壁からの浸水を排する最終的な手段を確保するのが通常であるところ、本件建物の施工においては、工事監理者らの承諾を得ないまま二重壁の施工が変更され、排水のための空間をほとんど塞いでしまったことから、二重壁による排水機能が働かず、それによって本件建物内部に雨水等が浸水したことを認定しました。そして、二重壁による排水設備は、地下壁を有する本件建物の構造上重要な排水設備であり、また、原告と被告の不動産業者との間で、本件建物の売買契約の際、具備すべき設備として合意されていたことから、本件建物が右のような施工であることは、構造上及び売買契約上の瑕疵にあたると判断しました。

別の裁判例は、マンションにおける火災について、屋内の防火扉の不作動などのマンションの瑕疵のために損害が拡大したことが問題となった事案です。判決では、本件マンションは防火扉を備えていながら、その電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたため、売買目的物に「隠れた瑕疵」があったと認定し、売り主は本件防火扉が作動しなかったことにより買い主が被った損害を賠償すべき義務を負うべきだと判断し、瑕疵の存在を肯定しました。

また、別の裁判例は、原告が被告管理組合管理のマンションの一戸を、被告会社から購入したところ、この建物に浸水が生じたとして、売り主の被告会社に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求した事案です。判決では、建物が地下に位置する場合は、地中からの漏水対策が不可欠であるところ、本件建物については、地中外壁や床面からの漏水対策として、本件建物内において防水措置を講じることが予定されていたといえるから、被告会社が本件建物を改装した後、本件建物内の壁面や床面に防水措置が講じられていない状態にあったことは、本件建物として本来備えているべき性状ないし設備を欠いたものであり、瑕疵にあたると判断しました。

また,区分所有法により、区分所有建物においては専有部分と共用部分の持分との分離処分が原則として禁止され、本件売買契約でも本件建物と共用部分の持分が売買目的物となっていたことに加え、本件建物と地中躯体壁は共に1棟の建物の一部で、地中躯体壁の瑕疵は直ちに本件建物の利用に支障を来たすこととなることに照らせば、共用部分である地中躯体壁の瑕疵(=漏水が生じる損傷)も、本件売買契約の目的物の瑕疵にあたると判断しました。

さらに他の裁判例は、購入した不動産に付属する汚水管及び雑配水管の一部に勾配不足があることが瑕疵に該当するかが問題となった事案です。判決では、①本件不動産に付属する汚水管及び雑排水管ともに所要の勾配が取れておらず、汚物の滞留などの不具合が発生していると考えられ、補修の必要があること、②本件建物においては,以前、汚水管にトイレットペーパーや排せつ物が詰まったために汚水管から臭い水があふれ出したり、トイレから臭い水が逆流したりする事故が発生し、その後も汚水管の円滑な水流は回復していないことから、本件不動産に付属する汚水管及び雑排水管の本件勾配不足は、瑕疵というべきであると判断しました。

また、別の裁判例は、買い主が売り主から、営業用の建物及びその敷地を購入したところ、購入の3年5か月前に消防署の立入検査で屋内消火栓の不設置及び地下1階駐車場部分における特殊消火設備の不設置につき、消防法違反の事実を指摘され、検査結果の通知書の交付を受けていたものの、違反が改善されないまま売買がなされ、その事実が購入後に判明したという事案で、瑕疵の存在を認めました。判決では、①屋内消火栓の不設置については、消防法17条1項及び同法施行令11条に、②地下1階駐車場部分における特殊消火設備の不設置については、消防法17条1項及び同法施行令13条に違反し、立入検査結果通知書により、所轄の消防署から改善を求められていたというのであり、本件建物を、消防法との関係で適法に使用するためには、相応の改修費用の支出が必要となるのであるから、本件違反事実があることは本件建物の瑕疵に当たると判断しました。

次に、瑕疵の存在が否定された判例についても見てみましょう。

ある裁判例は、マンションにおける共用部分や専有部分に瑕疵があるとして、売り主もしくは売り主の地位を承継した被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案です。判決では、防潮板に関する瑕疵について、①本件マンションの設計・施工時点においては、ハザードマップも公表されていなかったこと、②隣接する川には治水対策が順次施され、従前と比較すると浸水の危険性が低下していること、③防潮板の仕様や高さの基準となる法令上の定めもないことからすると、本件マンションに設置された防潮板の品質が当初設計と異なるという一事をもって、被告らが、本件マンションに設置された現状の防潮板及び防潮シートより、上等な仕様の防潮板又は防潮シートを設置すべき契約上又は条理上の義務を負っていたとは到底認められないと認定し、瑕疵の存在を否定しました。次に、1階フロント内部の施工に関する瑕疵について、①本件パンフレットには、パンフレットの表示が完成予想図のため実際とは異なる場合がある旨明示されていること、②本件パンフレットと現況との差異は4点のみであること、③本件パンフレットに記載されている表題が1階フロント部分の品質などに全く触れておらず、パンフレット上のコンピューターグラフィックのみから、1階フロント内部の各所に使用される部材や照明器具などを必ずしも特定できる訳ではないことなどからすると、被告売り主らは,購入希望者に対し、本件パンフレットによって1階フロント部分についてのイメージを提供したに過ぎないのであって、パンフレットの記載どおりの施工を約束したものとは到底いえないと認定しました。その上で、被告売り主らが、1階フロント部分の外観や意匠に関し、パンフレットの表示に従って施工する義務を負うとは認められないし、本件パンフレット中のコンピューターグラフィックと現状の写真を比較してみても、本件パンフレットを見た者が抱くであろう本件マンションの1階フロント内部についてのイメージと被告らの施工にかかる現状との間に合理的な範囲を超えるほどに大きな差異があるとまでいうこともできないとして、瑕疵の存在を否定しました。

なお、雨漏り被害が発生した場合、居住者を守る法律は品確法です。

2000年施行の品確法により、売り主は瑕疵に対して建築後10年間、無償補償や賠償責任を義務付けられました。もっとも、全ての瑕疵が補償対象となるわけではありません。同法の瑕疵担保責任の対象となるのは、住宅の瑕疵のうち「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」の瑕疵のみです。

さて、この「雨水の浸入を防止する部分」について検討します。

「雨水の浸入を防止する部分」とは、屋根、外壁、開口部に設ける戸、枠その他の建具、雨水を排するため住宅に設ける配水管のうち、住宅の屋根若しくは外壁の内側又は屋内にある部分をいいます。雨漏りについては、雨水の浸入を防止する部分のいずれかに瑕疵があるものとして、補修を請求することができます。

なお、品確法は「新築住宅」に限って適用されます。新築住宅とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して1年を経過したものを除く)をいいます。購入前に他人が居住していた場合や、他人が居住していたことはなくとも竣工後1年を経過した後の住宅に関しては、品確法の適用外となります。

判例において、雨漏りの原因となる建物の欠陥が瑕疵と認められるのはどのようなケースでしょうか。

ある裁判例は、新築後間もない鉄筋コンクリート造マンションの売買について、建物全体にわたる雨漏りと、水道管の破裂、出水事故の危険性及び浄化槽からの汚水漏れが瑕疵に当たると判断しました。この判例は、新築後3年足らずの鉄骨造りの共同住宅(マンション、入居者あり)を賃貸して収益を挙げる目的で買い受けたところ、そのマンションには、著しい雨漏りや、水道管の破裂事故が発生する欠陥があり、買い主がこのマンション及びその敷地の売買契約を解除し、原状回復として支払済みの売買代金の返還を求めたという事案です。

本判決では、鑑定結果を踏まえ、本件マンションの瑕疵は、①建物全体にわたる大規模な雨漏りと、②水道管の破裂、出水事故の危険性及び浄化槽からの汚水漏れであるところ、売買契約時、本件マンションの居室の一部に雨漏りが発生していたほか、外壁の一部に亀裂も存在し、それだけでは新築間もない本件マンションに建物全体にわたる大規模な雨漏りが存在することを予期できないこと、また、水道管の破裂や浄化槽からの汚水漏れについても、一般人にとって異常が起こって初めて問題の存在に気付く性質のものであるとして、「隠れた瑕疵」に該当すると判断しました。

上記判例は新築マンションにおける事例でしたが、中古建物については、雨漏りや漏水の被害が発生している場合であっても、必ずしも瑕疵の存在が認められるとは限りません。

ある裁判例は、被告から中古建物と土地を購入した原告が、建物に売買契約締結当時説明を受けなかった給排水管の腐食があり、そのために購入直後に立て続けに漏水事故が起きたとして、補修工事や配管の取替えをしなければならなくなったことについて、また、建物に消防法上必要な設備が具備されていないことやガス管及び給水ポンプが劣化しているために、改善費用の支出を余儀なくされたことについて、被告の瑕疵担保責任を追及したという事案です。

判決では、中古建物に関する「瑕疵」について、売買契約当時、経年変化などにより一定程度の損傷があることは当然前提とされて値段が決められるのであるから、当該中古建物として通常有すべき品質・性能を基準とし、これを超える程度の損傷がある場合にのみ「瑕疵」に該当するとしました。そして本件売買契約については、①築後40年以上を経過した中古ビルをその敷地と共に現状有姿で譲渡するというものであること、②本件建物代金も売買代金全体の3パーセントほどに過ぎないものであることから、本件建物の通常の経年変化は代金に織り込み済みであり、売り主はこの点に関する瑕疵担保責任は負わないとしました。

その上で、本件建物は、本件売買契約当時、既に排水管が老朽化により腐食しており、原告の購入直後に当該老朽化が原因である漏水事故が発生したのみならず、原告の購入直前にも同様の原因で漏水事故が発生していたが、老朽化はまさに本件建物の通常の経年変化によるものであり、売買契約締結時にそのような経年変化のある物件を現状有姿のまま譲渡することで、その点は代金設定において考慮されているのであり、老朽化から生じる欠陥は買い主である原告が予測できた範囲内のものだと認定し、瑕疵の存在を否定したのです。

また、別の裁判例は、原告が被告らから買い受けた区分所有建物について、漏水の「隠れた瑕疵」があり、かつ、大規模修繕を行わなければならない可能性があったのに、これを認識していた被告らから、過去に雨漏りや水漏れがあったがいずれも修理済みで大規模修繕の予定はないと虚偽の説明を受けたなどと主張し、被告らに瑕疵担保責任を追及した事案です。

判決では、①本件建物の構造上の問題点が漏水の原因であったのか疑わしいこと、②過去の水漏れは内装業者が防水工事をしていなかった、あるいはその後になされた補修防水工事が不十分であったことが原因と考えられること、③雨漏りも建物が経年劣化していた状態であったところ、記録的な台風による豪雨に見舞われた結果、不可抗力的に生じたものとも考えられること、④雨漏りの箇所や原因が必ずしも具体的に特定されているとはいえないことなどから、雨漏りを生じさせる構造上の欠陥というべき瑕疵があったとまで認めることはできないとして、瑕疵の存在を否定しました。

このように、中古建物に関する瑕疵については、「中古建物」として通常有する品質・性能を有しているかどうかが基準となり、「新築建物」と異なります。中古建物においては、当然のことながら、経年変化が前提となりますから、欠陥があっても経年変化によって不可抗力的に生じたものと判断されることがあります。

それでは、漏水や浸水に関する瑕疵について検討する際、判例はどのような判断をしているのか見てみましょう。

ある裁判例は、被告から買い受けた新築マンションの各区分所有建物の専有部分及び共用部分に多数の隠れたる瑕疵があり、その引き渡しを受けた後、その修補に長期間を要し、しかも、未修補の瑕疵もあるとして、買い主が売り主の瑕疵担保責任を追及した事案です。判決は、本件マンションのパティオ内の池から地下駐車場への漏水につき、パティオ及びスカイガーデンについて瑕疵の存在を認め、売り主の瑕疵担保責任を肯定しました。

別の裁判例は、築後12年の中古木造建物の雨漏りによる腐食が問題となった事案です。判決は、本件売買契約締結時における建物内の雨漏りによる腐食を認定した上で、その範囲及び程度並びに本件売買契約の目的(居住利用)を踏まえ、原告らが主張する瑕疵の一部分(サンルームの部分の欠陥)について瑕疵の存在を認めました。

民法570条が定める「売買契約の瑕疵担保責任」における「隠れた瑕疵」は、①通常有すべき品質・性能を欠いていること、②そのため、その物の価値が逸失あるいは減少していること、③売買契約当時一般取引上要求される通常の注意によっても知ることができなかったこと、という各要件を充足することで存在が肯定されますが、中古建物においてどのような場合に「隠れた瑕疵」が認められるかということについては、各要件に照らし個々の事案を具体的に検討する必要があります。

【メモ】工事監理者

建築基準法により、工事が設計図書通りに行われているかどうか確認する「工事監理」を実施する人で、原則として建築士が担う(小規模な工事は、建築士でない人も工事監理者になれます)。施工者と建築主の間に入る立場となり、施工者からの質疑に回答したり、工事監理報告書を自治体に提出したりする役割も果たします。建築物の設計を行った建築士がそのまま監理者になる場合が多いですが、別の建築士がなっても構いません。

共用部分

区分所有法により、マンションは「専有部分」と「共有部分」に分かれます。

区分所有権の目的たる建物の部分、すなわち躯体(コンクリート)で区画された住戸の内側を専有部分といい、専有部分以外の建物の部分(廊下、階段など)は共有部分と定義され、具体的な区分については各マンションの管理規約に規定されています。

専有部分と共有部分の違いは、所有権の有無です。専有部分は壁や床、天井に囲まれた居住空間で、厳密にいうと壁や床、天井を形作っているコンクリートの表面から部屋側の空間のことです。注意が必要なのは、コンクリート部分そのものは専有部分ではなく、共有部分であるという点です。一方、共有部分はエントランス、共有廊下、屋上など専有部分以外の建物部分やエレベーターや電気・給排水などの共有設備のことです。

専有部分は、専有部分の所有者が所有していますが、共有部分は区分所有者全員の所有とされ、持分は専有面積割合に応じて決められます。このような共有部分に瑕疵があった場合、専有部分の売り主が瑕疵担保責任を負うか否かについては判例でも結論が分かれます。

ある裁判例は、マンションの共有部分の瑕疵に関する売り主の瑕疵担保責任を肯定しました。このケースは、竣工後間もなくマンションを購入した買い主が売り主に対し、外壁の剥離・剥落に関して損害賠償請求をしたという事案です。判決は、本件マンションの瑕疵により、原告が購入した各室の経済的価値が、いずれもその購入時において、瑕疵がない場合と比較して低下していることは否定しがたいと認定しました。

その上で、本件補修工事によって上記瑕疵が修復された結果、外壁としての機能上の問題は今のところ解消されたということができるが、本件マンションの外観上の完全性が回復されたということはできず、本件マンションの上記瑕疵が顕在化したことから一度生じた、本件マンションの新築工事には外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感、ひいてはこれらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事をもってしても払拭しがたいと認定しました。そして、マンション分譲における各室の購入者は、その経済的価値としては、各室の使用価値とともに交換価値にも重大な関心を有していることが一般であるから、外壁タイルの施工不良が新築直後から顕在化していることからしても、この瑕疵による各室の交換価値の低下分を売り主の瑕疵担保責任で填補する必要性は大きいといわなければならないとして、売り主の瑕疵担保責任を肯定したのです。

別の裁判例も、マンションの共有部分の瑕疵に関する売り主の瑕疵担保責任を肯定しました。このケースは、被告からルーフバルコニー付きのマンションを買受けた原告が、上階のバルコニーのアルミ製手すりの縦格子(本件部材)がルーフバルコニーに落下したことが問題となった事案です。判決は、本件部材は長さ145センチメートル、幅3・5センチメートルのアルミ製の棒であり、落下の際にはコンクリート破片の落下も伴ったものであり、ルーフバルコニーに人がいた場合には身体への危険が及ぶと認定し、本件建物に付属するルーフバルコニーは、通常備えるべき品質・性能を欠いていたものというべきであるとし、瑕疵の存在を認めました。

そして、ルーフバルコニーは、本件マンションの共用部分であり、本件建物そのものではないけれども、規約上、玄関扉や窓ガラスなどと同様、区分所有者である本件建物所有者がその専用使用権を有することが承認されていることに照らせば、本件建物に付随するものとして、本件売買の目的物に含まれるというべきであるとして、本件瑕疵について売り主は瑕疵担保責任を負うと判断したのです。

このように、専有部分の売り主の瑕疵担保責任を肯定する判例がある一方、これを否定する判例もあります。

マンションの共有部分の瑕疵は、一筋縄ではいきません。マンションの場合は戸建住宅と異なり、構造上の特殊性や、所有者(区分所有者)が多数いるということからも、共用部分の瑕疵ついては管理組合が対応窓口になることが多いでしょう。

マンションの瑕疵は、その原因の多くが共用部分(建物の外壁や躯体部分、共用配管など)にあることが多いため、区分所有法は建物についての瑕疵はその原因が専有部分にない限り、共用部分にあるものと推定しています。従って、分譲後のマンションの「隠れた瑕疵」に対する売り主としての対応は、施工会社はもとより管理組合とも一体になって、事にあたる必要があるでしょう。

法的制限

瑕疵担保責任における「瑕疵」は、雨漏りやシロアリなどの物理的瑕疵に限りません。売買契約の目的である土地に法令上の建築制限がある場合など、法令などにより売買契約の目的物の自由な使用収益が阻害されているという法律的瑕疵も含まれます。法律的瑕疵が瑕疵担保責任における「瑕疵」に該当することは、判例法理として確立されていますが、どのような瑕疵であれば法律的瑕疵に該当するのでしょうか。判例を見てみましょう。

ある裁判例は、建売住宅で建蔽率違反があった場合に瑕疵が認められるかが問題となった事案です。判決は、①被告は当初から本件建物が現実には建蔽率に著しく違反するものであることを熟知していたこと、②被告は建築確認申請をするに際し、形式上本件土地の周囲には塀がないものとして私道部分を敷地に含めたばかりか、隣接する他人の土地まで本件建物の敷地面積に流用していたこと、③被告はこのような違反が当局に露顕した場合の処罰をおそれ、申請人も架空名義にするという方法で建築確認を得たことが認められること、④このような違法建築物の使用は遠からず制限されるおそれがあるほか、当局の調査、呼出、折衝その他によって原告の生活の平穏が甚だしく乱されることになるのも十分予測されることなどから、瑕疵の存在を肯定しました。

別の裁判例は、建売契約の目的物である土地が都市計画区域内にあって住居地域に指定されているため、契約所定の建物の建築が建築基準法上規制されていたという事案です。判決は、①建築基準法によれば、本件土地は契約で予定された本件建物の敷地としての使用上の適性を欠くこと、②本件売買契約は売り主において本件土地上に本件建物を建築して、土地建物ともども売り渡すという内容のいわゆる建売契約であることから、本件売買契約はその目的の全部にわたって瑕疵あるものというべきであるとして、瑕疵の存在を肯定しました。

また、別の裁判例は適法な建築確認を受けておらず、建築基準法上の接道義務を満たさない土地建物の売買について、売り主の瑕疵担保責任が問題となった事案です。判決は、①本件建物は一戸一棟式の建物であるにもかかわらず、隣家と二戸一棟の長屋として建築確認申請をして建築確認を受けていること、②売り主は①の事実を認識しながら、買い主らに告げなかったこと、③買い主らは本件土地建物の引き渡しを受けた後の調査により初めて①の事実を知ったことを認定した上で、建築基準法違反の事実は本件建物の隠れた瑕疵に該当するというべきであるとしました。

これらの他にも、排煙設備や避難所が確保されていないことが瑕疵に該当するとされた判例や、屋外消火栓の不設置などの消防法違反の事実が瑕疵に該当するとされた判例があります。

上記で紹介した裁判例は、建蔽率違反について瑕疵の存在を肯定していますが、建蔽率違反があっても、必ずしも瑕疵の存在が認められるわけではありません。

ある裁判例は、①現況有姿売買である本件売買契約では、本件建物にそのまま居住することを目的としており、建蔽率違反が当該目的を阻害するものとは考えられないこと、②建蔽率違反の程度が必ずしも大きなものとはいえないことから、建蔽率違反が「隠れた瑕疵」であるとは認められないと判断されました。同じ建蔽率違反の事案であっても、契約の目的や違反の程度により、司法判断が分かれています。

その他、法令上の制限が瑕疵に当たらないとされた判例として以下のものが挙げられます。

ある裁判例は、区分建物のバルコニーが避難通路として制限を受けていることが瑕疵に該当するかが問題となった事案です。判決は、①本件バルコニーがマンション7階居室に附属するバルコニーとして通常の構造を有するものであること、②バルコニーの利用制限という点も、火災等緊急時の避難通路として使用を妨げるだけで、その制限の程度は大きくないこと、③バルコニーの利用として通常考えられる、植木を置いたり、余り大きくない椅子、テーブル、その他ロッカーを置いたりすることなども可能であること、④本件マンシヨンでバルコニーが火災等緊急時の避難通路として利用されることは必ずしも特異なことではないことなどから、本件バルコニーは、特に売り主が避難通路としての利用制限がない旨明示したような格別の場合のほか(本件ではそのような事実は認められない)、売買の目的物として通常有すべき構造、性状を有しないものとも認められないとして、瑕疵の存在を否定しました。

別の裁判例は、車庫の上に建築基準法上適法な建築をすることができないことが瑕疵に該当するかが問題となった事案です。判決は、①本件土地は相場より40万円から50万円程度安かったこと、②車庫の上の制限される部分が全体の土地に比してわずかで、建物建築目的売買にとって影響が少ないこと、③被告が原告らに本件車庫上に建物が建つ旨説明して契約を締結させたということを認めることができないことから、車庫の上に建物が建てられないという制約は瑕疵に該当しないと判断しました。

さらに別の裁判例は、土地建物の売買契約において本件建物が建築確認を経ておらず、建坪率違反の違法建築物であるかどうかが問題となった事案です。判決は、①原告らは本件土地上の本件建物を解体撤去して建物を建て替える予定であったのであり、本件売買契約は原告らの予定を前提に、本件建物の解体撤去を契約内容に含むものであること、②本件建物の解体撤去の後に原告らにおいて本件土地に建物を新築するため建築確認を得ることは可能であったことから、本件売買契約上解体撤去されることとされている本件建物が違法建築物であるとしても、瑕疵には該当しないと判断しました。

【メモ】建築確認

建築物の新築や増改築を行う場合は、確認申請書や建築計画概要書などをそろえて自治体などに提出し、建設予定の建築物が関係法令の基準に適合しているかどうかの確認を受けます。この建築確認の審査を行うのは、自治体の建築主事か民間の「指定確認検査機関」。建築計画が適法だと確認すれば「確認済証」を交付します。工事の施工者は建築確認を受けたことを現場の見やすい場所に示した状態で、工事に着手します。工事完了後は「完了検査申請書」を提出し、適法な建築物が完成したことを証明する「検査済証」を受け取ることになります。

賃料収入や過去の火災

賃料や過去の火災に関する裁判例は以下のようなケースがあります。

ある裁判例は、賃料収入が月12万円であることを前提にアパートの売買価格を取り決めたにもかかわらず、実際の収入は月8万円に過ぎなかった場合での売り主の瑕疵担保責任が問題となった事案です。

判決は、民法570条は、買い主の代金額を決定する際に考慮された想定上の財産権と比較し、売り主から給付された実在の財産権が不完全なものであり、買い主の代金債務との等価的均衡が欠如した場合に、それを回復、確保することを目的とする制度であるから、買い主が売り主に請求できる損害額は、通常、賃料月額収入を12万円とした場合の売買価格と8万円とした場合の差額であると判示し、瑕疵の存在を前提に売り主の瑕疵担保責任を認めました。

別の裁判例は、土地建物の売買において、売買契約の8年7カ月前に建物内の台所の一部が焼ける火災が発生し、消防車が出動した事案です。判決は、本件売買契約は、15年前に増築されてはいるが、築後26年以上を経た中古住宅を敷地と共に現状有姿で譲渡するものであり、代金も敷地と合計した額のみを定めているものであるから、本件建物の通常の経年変化は代金に織り込み済みであるが、通常の経年変化を超える特別の損傷等は代金設定において考慮されていなかった事情であり、本件建物の瑕疵に当たると解すべきであるとしました。

その上で、中古建物である本件建物については、規模は小さくても本件火災に遭ったことがあり、その具体的痕跡が本件焼損(炭化)として残っており、消火活動が行われないまでも消防車が出動した(それに伴い、火災の事実が近隣に知れ渡った)という事情は、買い手側の購買意欲を減退させ、その結果、本件建物の客観的交換価値を低下させるというのが相当であるから、本件焼損は瑕疵に該当すると判断しました。

また、他の裁判例は、投資用不動産の売買契約における事案です。判決は、最低月額100万円の賃料収入を保証したと認めるのが相当であったにもかかわらず、全く賃料収入が得られていないことについて瑕疵の存在を認めました。

以上は売り主の瑕疵担保責任を認めた判例ですが、認めなかった判例もあります。キャバレーやバーなどの用途に供することを目的に建物を購入した買い主が、避難階段又は地上に通ずる二つ以上の直通階段が設けられておらず、建築基準法違反があること、又は売り主がその説明をしなかったことは瑕疵に該当するとし、瑕疵担保責任を追及したケースなどです。

「隠れた瑕疵」要件

不動産の売り主の瑕疵担保責任が認められるには、売買対象となった建物に瑕疵が存在するだけでは十分ではありません。単に瑕疵が存在するというのみならず、その瑕疵が「隠れた」ものであるという要件を満たす必要があります。

「隠れた瑕疵」とは、買い主が取引において一般的に要求される程度の通常の注意を払っても知り得ない瑕疵(買い主が瑕疵の存在について善意・無過失)を言います。買い主瑕疵の存在を知っていた場合に加え、取引において一般的に要求される程度の通常の注意を払っていなかった場合は「隠れた瑕疵」と認められません。

瑕疵の存在を肯定しながら、売り主の瑕疵担保責任を否定した判例は数多くあります。

たとえば、購入した旅館の浴室や脱衣室の老朽化は、民法570条の「瑕疵」にあたるが、「隠れた」ものではないとして、売り主の瑕疵担保責任を否定した裁判例があります。このケースでは、浴室や脱衣室は天井が落ちそうになるなど老朽具合が甚だしく、旅館営業を再開しようとしても、そのままでは使用できない状態にあったから、瑕疵があったと解するのが相当であるが、本件土地建物を買い受けようとする買い主としては、本件建物を予め検分する程度の注意は払うべきであり、買い主がこうした注意を払って本件建物を検分すれば、直ちに浴室や脱衣室の状態を知ることができたと認められることから、本件建物の瑕疵は「隠れた」ものではないと判断されました。

他の裁判例では、不動産仲介業者の原告が、被告ら所有の土地とその上の3階建店舗付住宅と2階建居宅を計8億5000万円で購入したところ、店舗の東側壁面は東側に隣接するビルの西側壁面と共用状態(いわゆる一枚壁)となっており、これは店舗の隠れた瑕疵に当たるとして、被告らに損害賠償を請求したという事案です。

判決では、店舗図面を検討し、現地で本件店舗を検分すれば、本件店舗と東隣り建物とが壁面を共用するいわゆる一枚壁の構造になっていることは認識可能だったと指摘。しかし、原告が検分の際にこうした調査を怠り、過失があったと認められるから、一枚壁になっているという事実は「隠れた瑕疵」とは言えないとし、売り主の瑕疵担保責任を否定しました。

また、不動産仮差押について争われた事案で、建築基準法に違反した土地建物の売買契約で売り主の瑕疵担保責任を否定した裁判例があります。この判決では、買い主は本件建物に建蔽率違反のあること及び本件土地の敷地面積の是正は特定行政庁の形式上の届出に止まることを知りながら本件契約を締結したことを認定し、この違反の事実は「隠れた瑕疵」には該当しないと判断されました。このように、不動産の買い主が瑕疵の存在を知り得た場合は瑕疵の存在が認められても、売り主の瑕疵担保責任は否定されます。こうしたケースがあるため、買い主が当該不動産について不安を感じた時点で、売買契約を締結する前に売り主に十分な説明を求めるべきです。

新築建物における瑕疵担保責任

構造

新築住宅の構造・躯体に関する瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例から検討します。

【横浜地判昭60・2・27】

横浜地判昭60・2・27は、建売住宅が地盤沈下により傾斜したことについて、売り主及び建築業者の損害賠償責任が問題となった事案です。原告らが被告らから土地建物を買い受けたところ、売買契約から約3年経過した頃から土地の地盤沈下と建物の傾斜がみられ、建物のドアの開閉ができなくなり、タイルや壁のひび割れが生じました。そこで、原告らは、宅地造成に不備があり、建物の基礎工事に手落ちがあったとし、これが売買契約時の瑕疵に当たるとして、被告らに対し損害賠償請求したのです。

これに対し、被告らは、建物が建築されて3年以上も経過した後に傾斜が始まっていること、この傾斜は埋立てをした隣接地の方向へ向かっていること、隣接地の埋立てを中止すると傾斜の進行も止まったことなどからすれば、建物の傾斜の原因は、隣接地の埋め立て工事による盛土の圧力により土地の地盤が沈下を来たしたことによるものと考えるほかないとし、土地建物の瑕疵担保責任は問題とならないと主張しました。

判決では、原告ら所有の建物の傾斜の原因について、土地の地盤の軟弱性とかかる軟弱地盤上における建物建築に際してとるべき建築工法の過誤によるものと認め、地盤沈下の原因について隣地の盛土の影響を全く否定し去ることはできないとしても、それをもって主たる原因と認めることはできないから、原告ら購入の土地建物には売買契約時に隠れた瑕疵があったものと判断しました。その上で、売り主に対しては瑕疵担保責任として損害賠償責任を認め、建売住宅の施工・販売業者についても、あらかじめ地盤の地質調査をすることなく、極めて短期間のうちに簡単な盛土工事を行い、かつ、有機質土層を破壊するような摩擦杭を打ち込んだ過失があったとして民法709条、716条ただし書きによる損害賠償責任を認めました。

【大阪高判平13・11・7】

大阪高判平13・11・7は、新築建売住宅の購入者が建物の施工者及び建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士に対して、建物の瑕疵を理由とする不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。原告が被告らから土地建物を購入したところ、この建物には相当な構造耐力や耐火・防火性能につき欠陥が存するなどと主張して、売り主に対して瑕疵担保責任に基づき売買契約を解除し原状回復として売買代金相当額の返還及び損害賠償を請求するとともに、建築主や施工主、建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士に対して共同不法行為に基づき損害賠償を請求したのです。

原審は、本件建物には重大な欠陥が存在し、住居として使用するという売買契約の目的を達することが不可能であるとして、瑕疵担保責任に基づく解除を認め、売買代金返還及び損害賠償請求を認容し、建築主に対しても不法行為責任を認めました。しかし、施工主及び建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士に対する請求については、不法行為が成立するためには、当該行為により生命・身体・健康、所有権等の法益(いわゆる完全性利益)が侵害されたことが必要であって、単に、契約に従った目的物の給付を受ける権利が侵害されたというのみでは、原則として不法行為が成立する余地はなく、詐欺的な行為等により不当に勧誘して契約を締結させたというような場合にのみ不法行為が成立しうるに過ぎないと判示して、両者に対する請求を棄却しました。

控訴審における判決では、本件建物に重大な欠陥が存在すること、並びに売り主及び建築主に対する請求については、原審の判断をほぼ引用しました。一方、施工主に対しては、建築基準法は国民の生命、健康及び財産の保護を図るため、建築物の構造等に関する最低基準を定めているところ、建築物を建築する者は建築基準法に従い、他人の生命、健康及び財産を侵害しないようにしなければならないにもかかわらず、これに違反して買い主に損害を被らせたから、不法行為責任を負うと判断しました。また、建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士については、建築確認申請書に自ら工事監理者と記載して提出し、建築確認を受けたのであるから、同申請書に添付した図面に従った建物が建築されるよう監理しなければならないところ、これを怠ったことにより、施工主が同図面と異なり、建築基準法に違反する欠陥のある建物を建築したのであるから、不法行為によって買い主の財産を侵害したと認め、不法行為責任を肯定しました。

【東京地判平15・4・10】

東京地判平15・4・10は、購入した新築マンションの1階部分に毎年のように浸水被害が発生する場合に、建築主兼売り主である不動産業者に対して瑕疵担保責任に基づく契約解除が認められるかが問題となった事案です。被告Aが建築・販売した被告Bの設計・監理にかかるマンションの1階部分の各室をそれぞれ購入した原告らが、当該マンションには、①基礎杭の長さが基準より短縮されているために安全性に欠陥がある、②その1階部分に毎年のように浸水被害が発生する欠陥がある、③その構造計算上も建築確認を異なる建築工事が実施されている欠陥があると主張して、被告Aに対しては債務不履行責任、瑕疵担保責任、不法行為責任等を理由として、被告Bに対しては不法行為責任を理由として、各自が被った損害の賠償を求めました。

判決では、①及び③については瑕疵の存在を認めなかったものの、②について、本件マンションの1階部分に浸水事故が発生し、その防水対策のために防潮板を設置し、仕切りをせざるを得ないことは、居住用の本件マンションの機能を著しく損なうものであると認定し、本件マンションに盛り土をせず、他に十分な浸水対策をとっていない点で、本件マンションに欠陥があると言わざるを得ないとして、瑕疵の存在を認め、被告Aに対する契約解除を認めました。

次に、瑕疵担保責任を否定した判例を検討します。

【東京地判平19・3・28】

東京地判平19・3・28は、原告が被告から購入したマンションの1室に、購入時には隠れていて表見していなかった瑕疵があり、これがその後発見されたとして、原告が被告に対して、瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求したという事案です。この事案では、購入したマンションの天井高が2200㎜であったことが瑕疵に当たるが問題となりました。

判決では、本件マンションの1階の階高は3060㎜であり、問題となっている住居の天井高は2200㎜であるところ、本件マンションの1階の他の住居棟の天井高も、居室については2400㎜前後であるが、玄関、廊下及び洗面所等は2100㎜前後であることから、問題となっている住居のみが低いわけではないとしました。そして、問題となっている住居は、通常の居住を目的としていたのではなく、薬局として経営する者が賃借することを予定しているところ、当該住居の天井高は調剤薬局を営むに当たり必要とされる薬事法上の規制を満たしており、現に特に支障もなく調剤薬局として営業を続けており、賃借人が退去することも想定されていないと認定しました。その上で、これらの事実に照らせば、当該住居の天井高について、これにより心理的圧迫感が生じ、ゆったり感がなく、住居の売買価格が住居部分と比較して安価に設定されていたとしても、調剤薬局として通常有すべき品質及び性能を欠いているものと認めることはできないことから、「瑕疵」は存在しないと判断しました。

防音

新築住宅の遮音性に関する瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例について検討します。

<1>騒音被害を伴うマンションについて、このマンションを新築分譲した売り主に債務不履行があるといえるかが問題となった裁判例があります。この事案では、売り主の債務不履行責任について判断していますが、瑕疵の存否に関する判断と債務不履行の有無に関する判断は重なります。

判決では、①本件マンションのパンフレットに「高性能サッシ」「快適なくらしのためにAマンションでは遮音性、気密性に優れた高性能防音サッシを使用しています」などと説明されていること、②本件マンションの購入に際しては、本件マンションが鉄道の線路に接していることから、鉄道の騒音に対する防音について相当の関心を有していていたこと、③被告会社のセールスマンが、高性能防音サッシを使用しているから騒音は大丈夫だという発言をしていたこと―などから、被告会社は本件マンションの購入者である原告らに対し、通常人が騒音を気にしない程度の防音性能を有するマンションを提示する債務を負っていたと認定しました。

そして、債務不履行の有無、すなわち瑕疵の存否については、公害対策基本法第9条に基づく昭和46年の閣議決定「騒音に係る環境基準について」によると、主として住居用に供される地域の生活環境を保全し、人の健康に資する上で維持されるに望ましい基準として「昼間50ホン以下、朝夕45ホン以下、夜間40ホン以下」とされているとした上で、本件マンションにおいては、電車・貨車が早朝から深夜にいたるまで本件マンションの横を通行していることから、少なくとも朝夕及び夜間には上記基準をかなり上回る騒音が聞こえることが認められるとしました。

そして、その騒音の影響で、寝付けない、眠りが浅いといった不眠、不快感を受けており、この騒音は通常人の受忍限度を超えるものと認定し、被告に債務不履行責任があると判断しました。つまり、本件マンションの防音設備に瑕疵があると判断されたのです。

次に、瑕疵担保責任を否定した判例を検討します。

<2>防音工事契約において定められた防音水準がS(スペシャル)防音(S防音)なのか、A(アドバンス)防音(A防音)に過ぎないのかが問題となった事案です。なお、S防音やA防音は一般的な防音水準を示す用語ではなく。被告会社が独自に用いているものです。S防音、A防音の他に、B(ベーシック)防音(B防音)もあります。被告会社によりますと、S防音が最も防音性能が高いもので、優れた防音性能と美しい音響が求められる部屋のための特別仕様であり、プロの使用に応える本格的な防音構造を有するものを指します。A防音は、大きな音を出しても隣近所に余り気兼ねせずに過ごせる防音レベルで、子どものピアノ練習室や自宅でカラオケを楽しみたい場合などに適合するもの、その下のランクとしてB防音が存在するとのことです。

判決では、①原告らが本件防音工事契約を締結する際に、被告に要求した防音性能としては「人に迷惑をかけない防音」というあいまいなもので、S防音に相当するような現在の技術水準における最高水準の本格的な防音工事を施すよう明確に求めなかったこと、②原告は被告担当者から、事前に本件建物には窓や換気扇などの換気口があるから、多少の音漏れは避けられないと告げられながら、人に迷惑が掛からない程度の防音をすることを求めたに過ぎなかったこと、③本件防音工事契約の請負代金はS防音を前提とする算定となっていないことなどからすると、本件防音工事契約で原告らと被告との間で、S防音の性能を前提とする契約が成立したと認めることはできないと判示し、本件防音設備における瑕疵の存在を否定しました。

この判例では、S防音の設備設置について明確に契約書に記載がなかったことを前提とした上で、上記①~③の事情を考慮して瑕疵の存在を否定しています。当事者間の契約書に明確な記載がない以上、契約締結段階において、当事者間でどのような交渉ややり取りがなされたかを検討して契約内容を確定することになります。

<3>マンションの建設販売などを「業」とする被告からマンションの区分所有建物を購入した原告が、同区分所有建物には遮音性能及び「すす」状の塵埃の流入という点に瑕疵があるとして、売り主に売買契約上の瑕疵担保責任を追及したという事案です。

判決では、被告が本件売買契約の締結に当たり原告に交付した本件マンションの仕様に関するパンフレットには床の施工や遮音等級について記載され、このパンフレットに記載された通りの性能基準を有する部材及び工法が採用されていることが、本件売買契約の内容となっていたことは認めました。もっとも、①実際の建物の遮音性能は、床構造以外の諸条件によっても異なってくるものであること、②上記パンフレットに記載されている遮音等級とは、日本建築学会の定めた床材に使用される製品の性能基準を指すものであって、建物全体の遮音性能に関する基準ではないことから、上記パンフレットの記載をもって本件建物全体が特定された一定レベルの遮音性能を備えていることを保証したものと認めることはできず、本件マンション建物の遮音性能について瑕疵を認めることはできないと判断しました。

また、本件建物の実際の遮音性能についても、隣室及び地下室からの騒音に対する本件建物の遮音性能は、床衝撃音レベル、室間音圧レベル差ともにいずれも2級以上の適用等級に該当し、その多くはむしろ1級以上に該当するのであって、その水準は全体として劣っていると評価することはできないうえ、本件建物内の実際の騒音状況の程度も小さく、室内騒音レベルの適用等級は1級に該当することから、本件建物の遮音性能や本件マンションの構造、設備等に瑕疵があると認めることはできないと判断しました。

<4>購入したマンションが、上階の居住者のトイレ給排水音などの生活騒音のため住居としての使用に耐えられないとして、債務不履行に基づく、又は売買の瑕疵担保責任に基づく解除等を請求した事案です。

判決では、債務不履行責任の有無について、本件パンフレットには、「快適さを極限までに追及した、これからのステータスともいえる永住志向型都市住宅」「満足度の高い永住志向型都市住宅」との記載があるが、上記のような文言は、新築マンションの宣伝用パンフレットでよく用いられるセールストークの類であって、抽象的な表現にとどまり、これをもって特別の品質保証約定が成立したと認めることはできず、被告の債務不履行は認められないと判断しました。

売り主の瑕疵担保責任については、①原告は入居後、引き続き本件建物に居住していたところ、当初は何の苦情も述べていないばかりか、入居後2ケ月経過した頃には、被告に対して感謝の言葉を述べていたにもかかわらず、入居後6ケ月以上経過してから、洋室の出窓部分の結露と分電盤の不都合に加えて、初めて、階上のトイレ、風呂場及び台所の各流水音について改善の余地はないものか検討いただきたい旨の苦情を述べたこと、②被告は原告の要求に応じて、本件建物内のトイレのパイプシャフト及び天井にグラスウール並びに遮音シートを巻き付ける改善工事を実施し、その結果、原告自身も騒音が改善された旨の報告をしていること、③本件マンションの住民に対して実施された、トランクルームとトイレ流水音についてのアンケート調査の結果によると、トイレ流水音に悩まされているのは1世帯のみであったこと、④本件建物で測定された騒音レベルは学会推奨基準1級を満たすもので、社会通念上要求される遮音性能を十分に満たすものであることなどを勘案し、本件建物は通常の居住用建物として、通常の居住上支障のない程度の遮音性能を有することに問題はなく、マンション建物に通常要求される品質、性能を具備しない瑕疵があるとすることはできないと判断しました。

設備

次に新築住宅の設備に関する瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例について検討します。

<1>Aが購入した本件マンションにおいてAの寝室から出火した火災につき、屋内の防火扉の不作動などの本件マンションの瑕疵又は売り主側の説明義務違反のために損害が拡大したと主張して、Aの死亡後、同人の妻が本件マンションの売り主に瑕疵担保責任を追及した事案です。

判決では、本件マンションは、防火扉を備えていながら、その電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたことが、売買の目的物の隠れた瑕疵に当たると判断し、売り主は本件防火扉が作動しなかったことにより買い主Aが被った損害を賠償すべき義務を負うとしました。

<2><1>の差し戻し審判決は、本件マンションの専有部分は、防火扉を備えていながら、その電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたから、売買の目的物に隠れた瑕疵があるといえ、売り主は本件防火扉が作動しなかったことにより買い主が被った損害を賠償すべきであると判示しました。

なお、上告審においては、売り主の説明義務違反についてのみ論じられ、売り主の瑕疵担保責任については明示的には論じられませんでした。

共有部分

今度は、新築マンションの共有部分に関する瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例について検討します。

<1>マンション分譲業者から新築マンションを購入した買い主らが、外壁タイルの剥離・剥落及びその補修工事の騒音などにより損害を被ったと主張し、民法570条が定める売り主の瑕疵担保責任に基づき、マンション分譲業者に対し、交換価値の下落による財産的損害及び慰謝料等の支払いを求めた事案です。

原判決は買い主らの精神的損害はマンション分譲業者に予見し得ない特別損害であるとし、財産的損害に関しては交換価値の下落がその補修工事後も存在していることを認めるに足りないとして、いずれの請求も棄却しました。これに対し、買い主らが控訴し、控訴審の判断が示されました。

判決では、財産的損害については、①新築物件の売買であること、②本件外壁タイルの剥離・剥落は、既に本件マンションの竣工前から見られ、その後も継続、拡大したものであること、③入居後1年ないし2年足らずで、大規模な本件補修工事に至ったこと、④本件マンションの外壁タイルは高級感や意匠性が重視されていたものであったが、本件補修工事によっても外見上の完全性は回復されていないこと、⑤瑕疵が顕在化したことから一度生じた、本件マンションの新築工事には外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感や、これらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事をもってしても到底に払拭しがたいことなどを理由に、売り主の瑕疵担保責任を認めました。

慰謝料請求については、居住者は本件補修工事の施工そのものは受任しなければならないが、本件補修工事から受ける騒音、粉塵などによる生活被害までもその負担を強いられるものではなく、これらの生活被害については売り主の負担をもって回復されるべきであるとして、慰謝料は本件外壁タイルの剥離・剥落という瑕疵による損害であると認めました。

<2>原告らが被告に対し、被告から買い受けた新築マンションの各区分所有建物の専有部分及び共有部分に多数の隠れた瑕疵があり、その引き渡しを受けた後、その修補に長期間を要し、しかも、未修補の瑕疵があるとして、債務不履行(不完全履行)、売り主の瑕疵担保責任又は不法行為に基づき、修補費用、引越費用、仮住居費用、資産価値減少及び慰謝料相当額の損害賠償を求めた事案です。具体的には、水回りボードの取り付け用部品としてのビス、床材と根太(ねだ、床板を支えるため床板に直角に配した水平材)の間に設置する板材である置床捨張(すてばり)、パンフレットの表示と異なるパティオ及びスカイガーデンに関する瑕疵の存否が争点となりました。

判決では、まずビスについて、本件マンションの各区分所有建物の売買契約に基づきステンレスビスを水回りボードの取り付け用部品として使用すべき義務を被告は負うと認定し、被告がユニクロメッキビスを内装仕上げの下地材に使用したことは、同義務の違反すなわち「隠れた瑕疵」に該当すると判断しました。

パティオについては、被告が本件パティオを設置することを約して原告らと本件マンションの各区分所有建物売買契約を締結していることから、被告は原告らに対し、当初本件パンフレットなどにより宣伝広告され、又は施工が計画された通りの形で本件パティオを提供する義務があると認定した上で、改修工事後も瑕疵が完全に修補され対価関係が回復したものと評価することはできず、瑕疵が存在すると判断しました。

スカイガーデンについては、本件スカイガーデンの現況では、本件区分所有建物売買契約上の機能及び意匠ないし美観性能を満たしているとは認め難く、およそ、本件マンションに潤いを与えて高級感を醸し出し、各区分所有建物の財産的評価に付加価値をもたらす状態ではなく、殊に、出入口の段差や散水栓の欠如及び門扉については適切な改善工事を要する瑕疵があると判断しました。

次に、瑕疵担保責任を否定した判例を検討します。

<3>瑕疵を肯定した裁判例として上記に紹介したものと同じ事案において、問題となっていた置床捨張については瑕疵の存在が否定されました。

判決では、①メーカー仕様による施工上要求されていないこと、②原告らの主張するような耐水合板の捨張が仕様上予定されていないこと、③本件マンション工事で使用されているコンクリート型枠用合板は日本農林規格に基づく普通合板1類に分類され、断続的に湿潤状態となる場所ないし環境において使用可能な合板であり、長期間の外気及び湿潤露出に耐え、完全耐水性を有するよう接着しているものであることから、建設業界において、一般的に耐水合板として使用されるものであり、竣工図の具体的指示に何ら反していないことなどから、耐水ボード12ミリメートルの置床捨張がされていないことがいかなる意味においても瑕疵に該当するとはいえないと判断しました。

今度は新築住宅の事案ではありませんが、マンションの共有部分の瑕疵が問題となった事案について紹介します。

<4>中古マンションの共有部分に瑕疵が存在した場合の売り主の瑕疵担保責任について、区分所有建物の売買契約では、共有部分の構造等に由来する欠陥は、建物の瑕疵に該当しないと判断しました。

中古マンションにおける売り主の瑕疵担保責任については、当該瑕疵が専有部分を原因とするものか、共有部分を原因とするものかにつき、判別が困難であることがよくあります。また、共有部分を原因とする「隠れた瑕疵」は本来、管理組合、すなわち区分所有者全員が賠償責任を負うべきものと考えられ、売り主の瑕疵担保責任には限界があると考えられています。

環境面

新築マンションの環境関連の瑕疵担保責任について判断した判例をみてみましょう。

まずは瑕疵担保責任を肯定した判例について検討します。

<1>原告らが被告から購入したマンションは環境物質対策基準に適合した住宅との表示であったにもかかわらず、いわゆるシックハウスであり、居住が不可能であるとして、第1に消費者契約法4条1項に基づく売買契約の取消し、売買契約の錯誤無効又は詐欺取消しを理由とする不当利得返還請求として、第2に売り主の瑕疵担保責任による契約解除及び損害賠償請求として、第3に環境物質対策が不完全な目的物をそのような対策が十分な建物として売却した債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求として、被告に対し、売買代金等相当額ないし損害賠償の支払を求めた事案です。

判決では、①被告は、本件建物を含むマンションの分譲に当たり、環境物質対策基準を充足するフローリング材などを使用した物件である旨を本件チラシ等にうたって申し込みの誘引をしたこと、②原告らが本件チラシなどを検討のうえ、被告に対して本件建物の購入を申し込んだ結果、本件売買契約が成立したことから、本件契約においては、本件建物の備えるべき品質として、本件建物自体が環境物質対策基準に適合していること、すなわち、ホルムアルデヒドをはじめとする環境物質の放散につき、少なくとも契約当時行政レベルで行われていた各種取り組みにおいて推奨されていたというべき水準の室内濃度に抑制されたものであることが前提とされていたものと見ることが両当事者の合理的な意思に合致すると判断しました。

その上で、前提とされていたと見るべきホルムアルデヒド濃度の水準について、厚生労働省の指針値を出発点とするその後の一連の立法、行政における各種取り組みの状況を認定して同省の指針値をもってその水準とするのが相当であるとし、これによれば本件建物には瑕疵が存在するとして、売り主の瑕疵担保責任を認めました。

次に、瑕疵担保責任を否定した判例を検討します。

<2>マンションの床材につき、住戸の売買契約の締結及びマンションの建築後の法改正により化学物質過敏症を防止する見地から使用が禁止された床材が使用されたことが住戸の瑕疵に当たるかが問題となった事案です。

判決では、①本件マンションの建築当時、建築材料などから放出されるホルムアルデヒドの有害性が指摘されていたが、本件マンションで使用された床材はごく一般に使用されていたこと、②旧厚生省が室内のホルムアルデヒドの指針値を定めたのが平成12年6月30日であること、③被告が本件マンションの完成直後に本件住戸以外の6戸をサンプル調査した結果、上記指針値をわずかに上回る程度であり、本件マンションには、原告ら以外に住戸から放出されるホルムアルデヒドによる化学物質過敏症を訴える者がいないことなどから、床材に「E2」相当のパーティクルボードを使用することが法令上禁止されていなかったのみならず、「E2」相当のパーティクルボードを含む床材を用いることがマンションの通常有すべき性能に欠けることを意味するものということができないとし、瑕疵の存在を否定しました。

<3>購入されたマンションに隣接する会社ビルの喫煙室に出入りする従業員らにより、居室を観望され、心の平穏を害される状況に陥ったとして、販売会社らに説明義務違反による不法行為ないし瑕疵担保責任による賠償義務が請求されたという事案です。

判決では、周辺に倉庫・物流センター、事務所、集合住宅、学校・図書館などの公共施設が存在する「準工業地域」に位置する本件マンションにおいて、本件居室から約28メートル離れたところにある建物内に本件喫煙室が存在しているからといって、本件喫煙室から本件居室のベランダにいる人物は確認できるものの、本件居室内は容易にのぞける状況にはないから、本件喫煙室の存在をもって、本件居室がマンションの一室として通常備えるべき品質・性能に欠けるところがあり、これが瑕疵に該当するということはできないと判断しました。

2020-03-18 17:13 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所