不良物件だったfor sale

契約後に物件の問題が発覚することはよくあります。

不動産売買の現場では「瑕疵担保責任」という言葉をよく耳にします。不動産の売買契約において、売り主が負うことになる重要な責任の一つが瑕疵担保責任です。弁護士が介入せざるを得ないような不動産トラブルでは瑕疵担保責任の有無やその内容について問題となることが多いですから、詳しく見てみましょう。

瑕疵担保責任とは、売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合に、買い主はその瑕疵の存在によって契約の目的を達制することができない時は、損害賠償のみを請求できることを内容とする契約上の責任をいいます。ポイントは、そもそも「瑕疵」とは何を指すのかという点と、「隠れた」とはどのような状態のことを指すのかという点です。

まず「瑕疵」とは何を指すのでしょうか。

瑕疵とは端的に、物の欠点・欠陥、キズのことです。不動産売買の場合、「キズ」という表現でイメージすると建物のキズというように限定的に捉えてしまうため、「欠点・欠陥」という表現でイメージするほうがよいでしょう。判例では、瑕疵の中に、物の価値の逸失・減少を含める場合もあります。

この「欠点・欠陥」を法律的に表現すると、「通常有するべき品質・性能を備えていないこと」となります。たとえば、建売住宅を購入した場合に、家の中に雨漏りする箇所があれば、その建物に「瑕疵」があるということになるのが通常でしょう。雨漏りをするような状態は、建物が通常有するべき品質・性能を備えていないといえるからです。

では「瑕疵」があるかどうかはどのように判断するのでしょうか。

「瑕疵」があるかどうかは、一般的抽象的に判断するものではなく、契約内容と目的物の性質に応じて、個別具体的に判断されるということになっています。つまり、一般的客観的にみて物理的な「欠点・欠陥」が存在するかどうかだけで判断しないということです。契約の目的物の物理的瑕疵だけではなく、契約によって定められた使用目的などの当事者の意思も重視して判断するのです。この考え方によると、「瑕疵」に該当するかどうかの結論はケースバイケースで、同じ「欠点・欠陥」であっても、「瑕疵」に該当する場合と該当しない場合があるということです。個別具体的な判断をするのですから、契約ごとに結論が分かれることになるのです。たとえば、土地を購入したところ、以前に解体された建物の基礎の残骸が残っていた場合、その土地の地中に存在するもの自体は客観的にみて同じであっても、土地の「瑕疵」に該当すると判断されるケースもありますし、土地の「瑕疵」には該当しないと判断されるケースもあります。解体された建物の基礎の残骸が残っていることが、その土地売買契約の趣旨に照らして予定された水準に達しておらず、予定通りに建築ができないと判断される場合には、土地に「瑕疵」があるということになるでしょう。

また、「瑕疵」の有無を判断するに当たって、契約の目的物そのものの品質・性能だけではなく、買い主に引き渡された際の状況についても考慮されることもあります。判例でも、室内に設置された電動防火戸の電源スイッチが切られており、防火戸が作動しない状態で引き渡されたことが瑕疵とされているものがあります。

ちなみに、契約の目的が達成できるかどうかは、契約解除のための要件のひとつではありますが、契約の目的が達成できるのであれば「瑕疵」には該当しないというわけではありません。

「瑕疵」の判断基準について、民法制定当初より、個別具体的に判断するとされていたわけではありません。民法の立法者は瑕疵について「物ガ通常ニ有スベキ性質ノ欠除ナルコトヲ要ス」と解しており、一般的客観的に判断していたようです。しかし大審院が「売買ノ目的物ガ或性能ヲ具フコトヲ保証シタルに拘ラズ之ヲ具ヘセザルトキハ売リ主ハ瑕疵担保ノ責ニ任ズ可キモノトス」(大判昭8・1・14)と判断して、契約内容などの当事者の意思も重視する判決が出されて以来、「瑕疵」の判断基準について個別具体的に判断する考え方が判例法理されるようになりました。

このように、契約の目的物である不動産について、本来あるべき姿と比較して不完全な部分があり、取引上備えるべき品質・性能を備えておらず、あるいは、契約の趣旨に照らして予定された水準に達していない場合には「瑕疵」が認められることになります。備えるべき品質・性能が契約書に明確に規定されていない場合もあるでしょう。そのような場合には、契約の目的と目的物の性質からみて通常備えるべき水準が契約内容と解釈されるということになります。

「瑕疵」について考える際に1点注意しなければならないことがあります。

「瑕疵」と瑕疵から生じる「不具合」については明確に区別しなければならないという点です。判例では、建物に壁量が足りず、強度が不足しているために揺れが生じる場合について、「瑕疵」は強度不足であり、揺れは瑕疵から生じる「不具合」ということになるとされています。

次に「隠れた」とはどのような状態を意味するのかについて見てみましょう。

買い主が売り主に対して瑕疵担保責任を追求するためには、瑕疵が「隠れた」ものであることが必要です。

「隠れた」とは、売買契約時に買い主が瑕疵の存在を知らず(善意)、かつ瑕疵の存在を知らないことについて過失がなかった(無過失)ことをいいます。

買い主が欠陥を知りながら買ったのであれば、欠陥を承知の上での売買契約ということになりますから、後になって買い主が売り主に対して責任追及できるというのは虫が良すぎます。従って、売買契約時において、買い主が瑕疵の存在を知らなかったことが必要となります。

そして、買い主が瑕疵の存在を知らなかったのみならず、瑕疵の存在を知らなかったことについて無過失であることも要求されます。

無過失であるとは、取引上要求される一般的な注意(社会通念上、買い主に期待される通常の注意)をもってしても瑕疵を発見できなかったことをいいます。

買い主が瑕疵の存在を知っている場合や、社会通念上期待される通常の注意を払えば瑕疵を発見できるような場合であれば、その瑕疵が売買価格に反映されていると考えられ、瑕疵の分だけ価格が安くなるなどの等価的均衡は保たれていることになります。このような場合は瑕疵について買い主に負担を負わせても不均衡とはいえないでしょう。一方、買い主が瑕疵の存在を知らず、社会通念上期待される通常の注意を払っても瑕疵を発見できないような場合においては、その瑕疵が売買価格に反映されているとは考えられず、瑕疵の分だけ価格が安くなっているということはないのですから、等価的均衡は保たれているとはいえません。このような場合に買い主に瑕疵についての負担を負わせるのは公平とはいえないですから、売り主が負担すべきということになるのです。

このように瑕疵担保責任は、欠点・欠陥のある物の売買について、契約当事者間の等価的均衡を確保して公平を図るために、買い主に契約解除と損害賠償を認めているのです。この瑕疵担保責任の存在により、取引の信用確保も図っているといえます。

すなわち、本来であれば、売買契約の目的物に欠点・欠陥があったとしても、売り主は欠点・欠陥のある状態のままで引き渡せば足りることになります。売買契約とは、売り主が売買の目的物の所有権を買い主に移転することを約し、買い主がその代金を支払うことを約する契約ですから、売り主の義務はその目的物を買い主に移転することに尽きるからです。

しかし、これでは契約当事者の公平を害することになるうえ、取引の安全が害されて誰も売買契約をしたがらなくなってしまいます。

売買契約においては、売り主と買い主の双方の義務が対価的な関係に立っており、等価的均衡が保たれることが必要であることから、契約の目的物が備えるべき性能、品質、数量を備えていないなど、当事者間の契約の趣旨および性質に照らして、引き渡された物が契約に適合しない場合には、売り主に瑕疵担保責任が課されているのです。

【メモ】善意と悪意

善意と悪意は通常の日本語では前者が「他人や物事に対して持つ、よい感情」、後者が「他人や物事に対して持つ、悪い感情」ということになります。しかし、法律用語としては前者が「事実を知らないこと」、後者が「事実を知っていること」を意味します。不動産取引に関する法律を学んでいると、「善意の第三者」という言葉が頻出します。Aさんが土地を売却する意思がないのに、Bさんと謀ってBさんに売ったことにし、所有権の移転登記をしたとします。この事実を知らずに、CさんがBさんから土地を買い取った場合、Cさんは「善意の第三者」ということで、AさんはCさんに対して土地の所有権を主張できないことになります。

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