地盤

駐車場として利用するケースでない限り、土地は建物を建てる目的で購入するのが通常です。購入した土地の地盤が軟弱だったり、土壌が汚染されていたりすると、建物は建てられません。また、売買契約締結後、土地が買い主に引き渡されてから建物建築にかかるまでには、建築計画や設計などに時間や費用を必要とするため、土地に瑕疵があって建物建築が進まないとなれば、関係者間で紛争となる場合もあります。建物については、売買契約の締結で一旦完結しますが、土地の場合は建物を建てるための請負契約なども発生しますから、他の取引にも影響を与えかねないのです。

従って、建物の建築を前提とする土地の売買契約では、土地に建物の存立を維持できる機能がなければならないとされています。判例においても、居住用建物の敷地の売買の場合においては、崩落や陥没などのおそれがなく、地盤として安定した支持機能を有することが必要とされています。

地盤の安定性や安全性については、大地震発生時に建物が耐えうるのかという点が問題となります。地震大国である日本では、耐震性は非常に関心の高い問題といえるでしょう。このテーマでは、判例が一定の基準を示しています。

ある裁判例は、売り主が造成、分譲した団地内の分譲宅地をそれぞれ購入した買い主ら8人が、地震で各宅地に亀裂、地盤沈下などが生じて宅地や居宅に損害が生じたとして、売り主の瑕疵担保責任を追及した事案です。判決では、①本件各宅地購入時までに、3、4年に1回程度の割合で震度4の地震が、10年に1回程度の割合で震度5の地震がそれぞれ発生する可能性があったこと、②こうした地震の発生回数や地震動の強さ、購入者の合理的意思に照らすと、本件各宅地が、震度4の「家屋の動揺が激しく、すわりの悪い花びんなどが倒れ、器内の水があふれ出る」程度の地震動にさえ耐え得ることができないものであれば、通常取引の対象たりえないし、また、震度5の「壁に割目が入り、墓石、石灯ろうが倒れたり、煙突、土蔵、石垣などが破損する」程度の地震動に耐え得ることができないものであれば、そのような宅地に居宅を建築した場合、生命、身体、財産に対する安全性が保たれないものとして、通常の取引価格による取引対象にはならないものであることなどから、本件各宅地について、一般的な造成宅地として販売する場合には、震度5程度の地震動に対し、地盤上の建築物に軽視できない影響を及ぼすような地盤の亀裂、沈下などが生じない程度の耐震性を備えることが要求されていると判示し、震度5程度の地震動で本件各宅地に亀裂等が発生するなどしてこれに耐えられなかった場合には、本件各宅地は、一般的な造成宅地としても通常有すべき品質と性能を欠いていると解すべきであるとしました。すなわち、震度5程度の地震に耐えうる安全性を有しているかどうかが、瑕疵の有無を判断する基準として示されたのです。

別の裁判例でも、「耐震性の点からの瑕疵の存否は、従来発生した地震の回数、頻度、規模、程度のほか、時代ごとに法令上要求される地上地下構築物の所在場所、地質、地形、強度等の諸要素を考慮し、一般常識的見地から、少なくとも震度5程度の地震に対して安全性の有無を基準として判断するのが相当である」とされ、震度5程度の地震に耐えうる安全性を有しているかどうかが判断基準とされています。

地盤の安全性が問題となるのは、耐震性だけではありません。例えば、宅地分譲された土地を購入したところ、その地盤が軟弱であったために地盤沈下が発生した場合も瑕疵となり得ます。判例においても、軟弱地盤であることを瑕疵と認めた事例があります。

ある裁判例は、業者が売り主である造成地上の新築建物と土地売買において、建物が傾斜し、基礎・土間床・外壁の亀裂、ドアの開閉不能、外壁に固定したガスメーターや配管などの変形などが発生したため、軟弱地盤のよる不等沈下が原因として、買い主が売り主の蝦庇担保責任と仲介業者の債務不履行・不法行為責任を主張した事案です。判決は売り主の暇痕担保責任や業者の不法行為責任を認め、買い主の請求を認容しました。

具体的には、本件土地においては、現に地盤沈下が発生し、本件建物には多数の不具合が発生しているが、この不具合が発生したのは、本件土地が軟弱地盤であり、そのため地盤沈下が発生したことが原因であるとし、軟弱地盤であることが本件土地の瑕疵であると認められました。また、土地が軟弱地盤であるという瑕疵は、売買契約前から存在したもので、専門家の調査や異常の発生で初めて明らかになる性質のものであるから、契約時に容易に発見し得ない「隠れた瑕疵」ということができると認定したのです。

その上で、瑕疵の程度について、何よりも生活の本拠である家を購入したのに、住居に著しい困難をもたらす多数の不具合が発生しており、それが土地の性状に起因する地盤沈下によるもので、さらに修理に要する金額は高額となり、新築に匹敵するほどのものであること等を考慮すれば、結局、原告は売買契約の目的を達成することができないとして、買い主の売り主に対する瑕疵担保責任を理由とした売買契約の解除は有効としました。

別の裁判例は、売り主から土地を購入した買い主らが、土地の地盤が軟弱で建物建築に適さず、地盤改良工事が必要だと主張し、地盤の軟弱性に関する説明義務違反又は瑕疵担保責任に基づき、売り主に土地改良工事費を請求した事案です。判決では、①本件地盤には、支持力ゼロ部分を含む強度の軟弱な箇所が垂直方向にも水平方向にも相当程度の厚さと広さで拡大しており、そのまま土地上に建物を建築した場合、不等沈下が発生する可能性が高く、現に、特に大規模・大重量ではない通常の建物(木造枠組工法による2階建居宅)を建築するに当たり湿式柱状改良工法で地盤改良を行なう必要があったこと、②本件工事費用は、売り主に支払った土地代金の約11パーセントに相当し、僅少とは言えないこと――から、本件土地には地盤改良を要するという瑕疵があったと認定しました。

また、パンフレットには本件土地に地盤改良工事を要するような瑕疵があることは明示されず、売り主すら「地盤改良工事を要するかもしれない」程度のあいまいな認識しか有していなかったことから、買い主らが本件土地に地盤改良を要するような瑕疵があることを知らなかったことに過失があるということはできないとして、瑕疵は「隠れた」ものであったと認定しました。

一方、売り主の瑕疵担保責任が否定された事例もあります。このケースは、宅地分譲目的で本件各土地を購入し、宅地造成工事を行ったところ、土地には軟弱地盤が存在することが判明し、売り主は土地改良工事を行ったものの、その後の地質調査の結果、本件各土地は通常の宅地としての使用が不可能に等しい状態であって、売買契約締結後10年以内も地盤沈下が継続することが発覚した事案です。判決では、①買い主も売り主も遅くとも売買契約締結後4、5年を経過すれば本件各土地を宅地として分譲することが可能であることを前提として本件各土地の売買契約を締結したこと、②売買契約締結後6年以上を経過した時点でも本件各土地は現状のままでは宅地として分譲することができないこと――から、本件各土地は売買契約締結の前提に適合しておらず、瑕疵があるといえるとし、瑕疵の存在を肯定しました。

しかし、「隠れた瑕疵」といえるかについては、①本件売買契約締結に先立ち、売買当事者間で土地の土質・地盤改良方法・宅地としての適合性が話し合われていないこと、②原告は、現地検分に基づき、遅くとも売買契約締結後4、5年を経過すれば本件各土地を宅地分譲することが可能であると判断しているが、原告は買い主に取引上一般に要求される程度の注意を払いさえすれば、本件各土地が遅くとも売買契約締結後4、5年を経過すれば宅地として分譲することが可能になるとは限らず、可能にならない蓋然性も十分あることを知り得たとして、瑕疵は「隠れた」ものではないと判断しました。

地盤に関する紛争も様々なケースがありますが、結局、地盤の強弱に関する問題が争点になることが多いようです。一口に「強弱」といっても、土地にいかなる建物を建てるかによって判断も異なることから、地盤の強弱は不動産取引において相対的判断を強いられる難しい問題です。

道路

道路も、土地に建物を建てられるか否かに関わる問題となり得ます。特に一戸建て住宅を建てる際には、敷地と道路の関係において注意点がいくつもあります。そのうちの重要な一つが「接道義務」です。

都市部で指定される「都市計画区域」では、建築基準法43条により、建築物の敷地は「幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接しなければならない」と規定されています。これが接道義務であり、道路に全く接していない敷地や、2メートル未満の間口で道路に接する敷地では、建築確認を受けることができません。特に旗竿敷地(道路に接する出入り口から細い通路が延び、その奥に住宅の敷地がある形状の土地。竿のついた旗のような形状をしているため、このような呼称がある)や不整形地は注意が必要です。なお、ここでいう道路は「建築基準法で認められた道路」でず。見た目がいわゆる「道路」でも建築基準法で認められた道路でなければ、接道義務を満たすことにはなりません。

接道義務があるのは、建築物の敷地が道路と接していることを義務付け、災害時の避難経路や消防車救急車といった緊急車両の接近経路を確保する目的があります。また、建築基準法では、道路は上空が開放された空間であることを前提としており、敷地と道路が接していることはすなわち、敷地の一部が開放空間と接しているということをも意味し、通風や排水など衛生上の問題もあります。
実際に建築物を使用する上でも、道路から自由に出入りできるかどうかは重要であり、接道義務を順守することで、敷地は最低一カ所以上の出入り口を確保することになります。

もっとも、接道義務を満たしていない敷地でも、建築が一切禁止されるわけではありません。例えば、古くからある水路に蓋をした「暗渠(あんきょ)」部分が道路状に整備されている時、分類上は「水路」であっても道路に準じた取り扱いがされるケースがあります。

また、接道義務は災害時における安全確保を目的としたものですから、建築基準法上の道路には接していなくても、恒久的な広場や公園に接するなどして安全が保たれていれば、接道義務の趣旨を害しません。そうした場合でも建築基準法43条ただし書きにより、建物を建てることができます。

上記のように、原則として土地が接道義務を満たしていない場合、土地上に建物を建築することができないので、「接道義務を満たしていないこと」は土地の瑕疵になり得ます。実際の裁判でも、接道義務に関して土地の瑕疵が肯定されています。また、公道に通じる通路がないことも土地の瑕疵となり得ると判断しているケースもあります。

ある裁判例は、病院用の土地建物の売買において、①本件契約の際に売り主が正門であると示した門が外部に通じず、門の形態はあるものの正門としての用を為さないことは致命的欠陥があること、②当該欠陥により、契約上予定された病院としての使用に適正を著しく減少させる結果になること、③当該欠陥は取引上必要な普通の注意をしても正門及び通路の外観から発見できなかったこと――などから、公道に通じる通路がないことを土地の瑕疵と認定しました。

また、別の裁判例は、宅地用に購入した山林への通路が村道ではなく「通行できない私道」であったという事案で、①本件土地を買い主が宅地として利用するには、県道と本件土地の間に少なくとも自動車1台の通行を可能とする程度の道路が必要であること、②本件土地に通じる道路は、ほとんど通行の用に供された形跡がなく、道路として識別することすら困難な状況にあること、③多額の費用を投じて新たに道路を開設するならば格別、ただちに利用することのできる出入路は存在していないこと――などから、瑕疵の存在を肯定しています。

擁壁

「擁壁」もまた、土地の売買契約に関して売り主の瑕疵担保責任が生じる場合があります。擁壁とは、大きな高低差を地面に設ける際に、崖となる側面が崩れ落ちるのを防ぐために設ける壁のことです。

「安息角」(物が滑り出さない限界の角度。一般的な地上の傾斜面では35度程度)を超える大きな高低差を地面に設けたい場合、土壌の横圧に対して斜面の崩壊を防ぐために設計・構築されます。宅地造成等規制法が適用される区域内では壁高1メートル以上の盛土(土を持って地面を高くする)の場合、他の区域は盛土・切土(土を削って地面を低くする)に関係なく壁高2メートル以上の場合に擁壁の設置義務が生じます。

擁壁は、「土留(どどめ)」ともいわれます。簡素なつくりのものを「土留」、RC造などより強固なつくりのものを「擁壁」と呼び分ける場合もありますが、いずれも広義に土留とする場合もあります。

擁壁は、住宅地においてトラブルとなり得ます。
例えば、住宅街に丘や坂道があり、隣の住宅と大きな高低差がある場合、土地の境界に擁壁が設けられている場合があります。土の荷重や雨の水圧、建物の荷重も加わると、擁壁は十分な強度が必要です。関連する判例を見てみましょう。

<ケース1>台風で擁壁が崩壊し、盛土が流出して買い受けた宅地上の建物に損傷を受けたが、この損傷は宅地造成の際に施したコンクリート壁が不完全だったために生じたものだとして、宅地の買い主が売り主に損害賠償を請求した事案です。判決では、傾斜地の状況、付近住民の売り主に対する危惧の念の通知などを踏まえれば、有効な排水口を作ることなく漫然と鉄筋などで補強しないでコンクリート壁を築造したことは完全な宅地の造成とはいえないとし、宅地としての本件土地には瑕疵があると判断せざるを得ないとしました。

<ケース2>団地の一区画を買受けた買い主が、土地の擁壁が崩壊して宅地として利用不可能となったことは買受条件に違反するものであるから、売買契約は無効であると主張するとともに、予備的に造成工事上の瑕疵があって目的が達せられないことを理由に売買契約を解除すると主張し、売り主に対して売買代金及び水道施設負担金の返還と登記費用の支払いを求めた事案です。判決は、買い主の条件違反を理由とする無効の主張は認めませんでしたが、瑕疵担保の主張については、擁壁に構造上の欠陥があり、買い主が取引上普通の注意を働かせても発見できなかったから「隠れた瑕疵」にあたるとして、瑕疵担保責任に基づく解除を有効と認めました。

<ケース3>二世帯住宅建築を目的とする土地の売買契約を結んで手付金を支払った原告らが、土地所有者に対し、土地に面する崖が条例上の制限を受け、契約目的を達成できないとして、契約解除と手付金の返還を求めた事案です。判決は、①本件土地は、周囲の土地と画された状態にある中でそれ自体に本件崖があること、②条例により、宅地であるにもかかわらず、建物を建てることができるのが一定範囲内に限られるか、建物を建てるために西側の本件崖に既存の擁壁ではない、構造耐力上安全な擁壁を設置しなければならないという制限を受けることから、宅地として通常利用する態様で利用することができない状態にある――と認定し、瑕疵の存在を肯定しました。

<ケース4>土地の買い主らが、付属する汚水管と雑配水管の一部に勾配不足があること及び宅地造成等規制法の適用地域なのに北側と南側にある崖面について同法施行令所定の要件を満たしていない「隠れた瑕疵」があると主張し、売り主に損害賠償を請求した事案です。判決は、南側の崖について瑕疵の存在を認めましたが、北側の崖については施行令所定の要件を満たす擁壁とはいえないものの、安全性に問題はなく、法令違反の程度は軽微にとどまると認定し、瑕疵の存在を否定しました。

<ケース5>築20年以上の中古住宅と敷地を購入したところ、南側隣地との間の擁壁(買い主の自宅は南側より約1・5メートル高い)とその上のコンクリートブロック塀に倒壊の危険があり、また北側隣地との間のブロック塀についても所有権の帰属が不明確であったことから、買い主が売り主に損害賠償を請求した事案です。判決では、外観上目視した限りでも倒壊のおそれを感じる者がいる程度にブロック塀が傾斜しており、さらに土台部分を掘り下げてみることで擁壁に特段の耐震補強を施していないことが確認されていることから、土台の崩壊にまで至らずともブロック塀の倒壊が生じる可能性が高いと認定した上で、ブロック塀の倒壊により、特に南側隣地の居住者の生命、身体、財産に対する重大な危害が及ぶことが容易に予想されることから、本件擁壁には瑕疵があると認定しました。また、隣地との境界のブロック塀の所有権の帰属が明確でないことについても、売買目的物の瑕疵に該当すると判断しました。

土地の瑕疵が発見されるのは、一般的に建物の基礎工事などをするために地面を掘り返した時です。この際は重機で掘削を行うので、地中に埋設物があった場合はその時点で瑕疵が発覚します。しかし、擁壁の瑕疵は建物の建築工事が始まってしまうと、擁壁自体に問題があったのか、基礎工事や建築工事中の作業に問題があったのか、瑕疵に関する責任の所在を証明することが難しくなることに注意が必要です。

埋設物

売買契約締結後、購入した土地の地中にコンクリート片や杭などの産業廃棄物が埋設されていることが発見されるケースがあります。かつては今ほど産業廃棄物の処理について規制が厳しくなかったこともあり、従前の所有者や建築業者が廃棄物の処分費用や手間を惜しんで埋めてしまうことがしばしばありました。地中埋設物には、コンクリート片や杭の他に、排水管▽浄化槽▽古基礎RC(鉄筋コンクリート)塀の底盤▽アスファルト片▽コンクリートガラ▽廊下▽陶器片▽煉瓦▽瓦▽木屑▽タイル▽スラグ▽アセチレンボンベ▽鉄屑▽建築廃材▽ビニール片▽臭気土▽腐食土――などがあります。

ただ、地中に土以外の物が埋まっていれば、その土地の瑕疵となるわけではありません。実際の裁判でも、地中に土以外の異物が存在していても買い主に特に不利益を与えなければ、土地の瑕疵に該当しないという判断がなされています。

<ケース1>マンション建設のために土地を購入したところ、地中からコンクリート基礎やオイル類の障害物が発見されたため、撤去・処理費や建設の遅れを取り戻すための突貫工事費用などを負担せざるを得なくなったとして、買い主が売り主に損害賠償と遅延損害金を請求した事案で、宅地の売買において、地中に土以外の異物が存在することが即土地の瑕疵に当たると言えないことは当然とした上で、土地上に建物を建築する際に支障となる質・量の異物が地中に存在するため、土地の外見から通常予測され得る地盤の整備、改良の程度を超える特別の異物除去工事などを必要とする場合は、宅地として通常有すべき性状を備えないものとして、土地の瑕疵に当たると判示しました。

この判例では、①建物の基礎やオイルタンクなどのコンクリート塊②オイルタンクからの配管③オイル類によって汚染された土壌――が問題となりましたが、①②については被告も争わず、③が問題となりました。判決では、③の土壌汚染はマンション建設の基礎工事途中で発見される程度に浅い位置において、多量のオイル類を含有し、容易に悪臭を発生し得るような状態にあったことから、多数の住民を迎え入れることになるマンションを建設することを妨げる程度に至っており、特別に費用をかけてでも処理する必要があるといわざるを得ないとして、③の土壌汚染が土地の瑕疵に当たると判断しました。

<ケース2>売り主から宅地を購入した買い主が、宅地を転売するに際し、測量のために土地を掘り起こしたところ、地中から以前あったガソリンスタンドの地中基礎部分などに使用されたコンクリート構造物やコンクリート塊が多数発見された事案で、宅地の売買において、地中に土以外の異物が存在する場合一般が、直ちに土地の「瑕疵」を構成するとはいえないが、土地上に建物を建築するにあたり支障となる質・量の異物が地中に存するために、その土地の外見から通常予測され得る地盤の整備・改良の程度を超える特別の異物除去工事などを必要とする場合には宅地として通常有すべき性状を備えないものとして土地の瑕疵になると指摘しました。この事例では、買い主主張の一部の地中埋設物について土地の利用形態に鑑みると、建物を建築するにあたり支障となる質・量の異物といえるとして、土地の瑕疵と認められると判断されました。

<ケース3>マンションの一戸を購入したところ、建物に浸水事故が生じたとして、買い主が売り主に損害賠償を請求した事案です。判決は、建物の地中外壁や床面からの漏水対策として防水措置を講じることが予定されていたといえることから、被告が本件建物を全体的に改装した後、建物内の壁面や床面に防水措置が講じられていない状態にあったことは、本件建物として本来備えているべき性状ないし設備を欠いたものであるとし、瑕疵の存在を認めました。

<ケース4>土地建物を購入したところ、地中に埋設物及び汚染土壌が存在したとして、買い主が売り主に損害賠償を請求した事案です。この判例では、埋設物の瑕疵該当性を判断するにあたり、①埋設物が建物建築の基礎工事の支障となるかどうか②除去しなければならない埋設物として土地の瑕疵に当たるかどうか――が問題となりました。判決は、埋設物が建物建築の基礎工事に支障を生じさせるか否かを判断するにあたっては、建築済みの建物だけでなく、将来建築される可能性のある建物をも考慮するのが相当とし、本件埋設物についても、どの地点に存在したか否かに係わらず、建物建築の基礎工事に支障を生じさせるものと判断し、瑕疵の存在を認めました。

上記の判例のように、地中埋設物の存在について瑕疵を認めるものがある一方、地中埋設物が存在しても、有益性などを考慮して瑕疵を否定したケースがあります。

<ケース5>鉄筋3階建の分譲マンションを建築する目的で買い受けた造成宅地の地下にビニール片などの廃棄物が混入していたことから、買い主が売り主に損害賠償を請求した事案です。判決は、宅地は地上に建築基準法などによって許容される建物を通常用いられるような工法により建築することが可能な限りその性能に欠けるところはないとした上で、本件については①現に鉄筋3階建の建物が完成してその買受目的を達成していること、②10年近くも前に埋立てにより造成した土地で、その後取引対象の宅地として何ら問題なく転々と譲渡されてきており、その間、地上に鉄筋コンクリート造の建物が存在していたことから、取引上の宅地としては瑕疵がなかったものとみるのが社会通念上公平と判断して、土地の瑕疵を認めませんでした。

<ケース6>土地建物を購入して転売したところ、地中に杭が設置されていたため転売先から求められて杭撤去などの工事代金を買い主が負担することになったことから、売り主に損害賠償を請求した事案です。判決は①地中に杭を打設するのは土地上に建築される建物の不等沈下などを防止するためであるから、有益な杭が打設されていることをもって一般的に土地に瑕疵があるといえないこと、②地下室建築にあたって杭が障害となるような場合に限り、杭の存在が瑕疵となり得ること、③買い主は本件土地建物を一体として買い受けたことなどから、本件地下杭は土地の瑕疵とはいえないと判断しました。

<ケース7>土地売買契約の買い主が売り主に対し、売買目的物である土地の地中に上水道管及び下水道管が埋設されていたことが隠れた瑕疵に当たり、埋設物の除去費用相当の損害を被ったとして損害賠償を請求した事案です。判決は、①本件埋設物は、下水道管の最終桝及びこれらの最終桝と下水道本管とを接続する下水道管、並びに、上水道メーター及びこれらのメーターから上水道本管とを接続する上水道1次配管であり、いずれも本件各土地の外周部に位置していること、②マンション建設会社が提出した見積書においても、地中埋設物の除去費用が計上されていること、③残置された9カ所の上水道メーターには28件分の水道加入権が付着しており、原告は本件マンションに必要とされる水道加入権79件から上記28件を差し引いた51件分の水道加入料金を支払えば足りたこと、④マンション建設会社は本件新築工事の施工に当たり、残置されていた下水道管一部を再利用していること、⑤下水道管の一部が再利用できなくなったのは、新築マンションとの現場調整が付かなかったことが一因となっていること――などから、本件埋設物が存在することが、取引通念上、本件各土地に期待される品質・性能を欠いていたということはできないと判断して、土地の瑕疵には該当しないとしました。

<ケース8>売り主(宅建業者)が建売住宅を売却したところ、土地にコンクリート製のブロックフェンス基礎部分が埋設されていたため、買い主が売り主に損害賠償を請求した事案です。判決は、①本件埋設物があるのは境界沿いのわずかな幅にすぎず、買い主が購入した建物と境界との間の狭い隙間であること、②その場所にはエアコン室外機や雨樋などしかないこと、③その状況では、居住用建物の敷地としての一般的な利用が大きく妨げられることはないこと、④将来の増改築や建替の際の支障は不確定であり、土壌や現在の建物の安全性に悪影響を及ぼすこともない――ことから、本件土地は当事者が通常予定している品質、性能を欠くものではないとして、土地の瑕疵を認めませんでした。

これまで見てきた通り、売買契約において予想外の問題点があったとしても、直ちに「予定している品質、性能を欠く」とされるわけではありません。土地は過去から繰り返し利用されてきたものであり、地中に予想もしない様々なものが埋まっている可能性があります。そうした認識の上で、売買当事者がどの程度の品質、性能を予定していたか、あるいは通常予定しているのかが瑕疵を巡る判断のポイントとなります。契約締結の段階で当事者が予定する土地の品質、性能を明確にしておけば、締結後に予想しなかった問題が発生しても問題の解決がしやすくなります。

もっとも、埋設物は地中に存在するものですから、表面上は問題がない場合が多いでしょう。そのような土地について、地中の情報を把握することは容易ではありません。この地中の情報を把握するための効果的な方法としては、土地の来歴を調査することが挙げられます。現況調査のみならず、前所有者や近隣の住民からの聞き取り、登記簿の確認、過去の地図、行政機関の資料などに基づき、購入したい土地の来歴を把握すれば、瑕疵の存在を予測できる場合があります。

土壌汚染
<1>廃棄物処理施設の規制

工場があった跡地を購入したところ、地中から有害物質や油分などが発見されるケースはよくありますが、その処分費は高額に及ぶ場合があり、売り主と買い主のどちらが負担するかについてトラブルになることも少なくありません。

「土壌汚染」の問題は、廃棄物処分場の規制と共に対策が進められてきました。同法制定前の旧清掃法及び昭和45年に制定された当時の廃棄物処理法には、埋立て処分の基準は定められていましたが、最終処分場に関する規則はありませんでした。このため、廃棄物を埋め立てる際には、埋立て処分の基準さえ守ればよく、その他の許可や届出は必要ありませんでした。

しかし、昭和52年の法改正で、届出対象となる廃棄物処理施設に最終処分場が追加され、最終処分場の技術基準も定められました。最終処分場は、有害な産業廃棄物を埋め立てるための「遮断型」最終処分場、ガラスくずなどの安定型産業廃棄物のみを埋め立てるための「安定型」最終処分場(3000平方メートル以上が対象)、これらの産業廃棄物以外を埋め立てるための「管理型」最終処分場(1000平方メートル以上が対象)の3種類が定められました。

平成3年には、届出制から許可制に移行し、行政庁が廃棄物処理施設を十分審査できるようになりましたが、最終処分場の面積規定は変わらず、2999・9平方メートルの安定型最終処分場や998平方メートルの管理型最終処分場など、許可を免れるための小規模処分場が多く設置されました。

大規模な廃棄物最終処分場については、環境影響評価法が制定される前の昭和59年の閣議決定の時から環境アセスメントの手続きが行われていました。そして、平成9年には、最終処分場の設置(変更)の許可申請に際し、環境影響調査、告示・縦覧、利害関係者の意見聴取といった制度が導入され、許可要件として新たに「周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がなされたものであること」が加わりました。また、最終処分場の面積規定が撤廃され、3000平方メートル未満の安定型最終処分場や1000平方メートル未満の管理型最終処分場も含め、全ての面積の最終処分場が許可の対象になりました。

平成10年には、最終処分場の技術基準が改正され、構造基準や維持管理基準が強化・明確化されるとともに、新たに最終処分場の廃止基準も定められました。

さらに平成12年には、一般廃棄物及び管理型産業廃棄物の最終処分場に関するダイオキシン類についての維持管理基準として「ダイオキシン類対策特別措置法に基づく廃棄物の最終処分場の維持管理の基準を定める命令」が規定されました。

<2>廃棄物投棄に対する規制

廃棄物処分場に対する規制は時代の変化につれて厳しくなってきたのですが、地中の廃棄物投棄に対する規制も徐々に厳格化されました。

昭和45年に廃棄物処理法が制定される前の旧清掃法の時代においては、一般家庭から排出される汚物の処理は市町村の清掃事業として実施され、埋立て処分に関する基準も設けられていました。しかし、市町村が汚物を収集・処分するのは「特別清掃地域」と呼ばれる土地区域を中心とする人口集中地区に限られていました。同地域の人口は、昭和45年度で約8500万人、全人口の85パーセントに及んでいたものの、面積は全国土の約11パーセントに過ぎず、広大な「特別清掃地域」外の一般廃棄物の処理は、自家処理又は汚物取扱業者などに任せられていました。

また、工場や事業場から排出される特殊な産業廃棄物や多量の産業廃棄物は指定場所に運搬し、環境衛生上支障のないように処分するよう市町村長が命令できるようになっていましたが、指定場所を確保できなかったため、この命令規定はあまり活用されず、日量約100万トンの産業廃棄物の大部分の処理は排出者に事実上任されていたようです。

昭和45年制定の廃棄物処理法では廃棄物が一般廃棄物と産業廃棄物に区分され、廃棄物処理法施行令において産業廃棄物も含めた埋め立て処分の基準が初めて定められました。しかし、当時は上記の通り、最終処分場に関する規制がなかったため、埋立てを行う際は埋立て処分の基準さえ守られていればよく、許可や届出は不要でした。

<3>汚水浸透に対する規制

地下に浸透する汚水に対する規制も厳格化されてきました。

昭和45年に水質汚濁防止法が制定される前の「公共用水域の水質の保全に関する法律(旧水質安全法)」及び「工場排水等の規制に関する法律(旧工場排水規制法)」の時代は、指定水域に排出される水の汚濁が規制対象で、有害物質を含む汚水などを地下に浸透させることに関する規制はありませんでした。

新たに制定された水質汚濁防止法には、「排出水を排出する者は、有害物質を含む汚水等(これを処理したものを含む。)が地下にしみ込むこととならないよう適切な措置をしなければならない。」と定められていましたが、罰則規定はなく、規制としての実効性に乏しいものでした。

公害問題が深刻化していた昭和47年には、公害事業における事業者の責任を明確化し、被害者の一層円滑な救済を可能にするため、「事業者の無過失損害賠償責任制度」を創設するべきであるとの強い要請から、工場や事業場における事業活動に伴う有害物質の汚水又は廃液に含まれた状態での排出(地下へのしみ込み含む)により、人の生命又は身体を害した場合の無過失賠償責任規定が定められました。

環境庁(当時)が昭和57、58年度に実施した調査により、トリクロロエチレンなどによる地下水の広範な汚染が認められたため、同庁は当面の措置として暫定指導指針を定め、昭和59年に全国に通知しました。この通知には「トリクロロエチレン及びトリクロロエチレンを含む水については、地下にしみ込むこととならないよう適切な措置を講じなければならないものとし、トリクロロエチレンなどの濃度が常に別表一の管理目標に適合する水を除いて、地下浸透は行ってはならないものとする」との内容が盛り込まれました。

平成元年には、有害物質による地下水汚染の未然防止と有害物質の流出事故による環境汚染の拡大防止を図るため、「有害物質を含む特定地下浸透水(有害物質を製造、使用又は処理する特定施設を設置する特定事業場から地下に浸透する水で当該特定施設に係る汚水などを含むもの)の地下への浸透を禁止する規定」が設けられ、都道府県知事による改善命令等に事業者が違反した場合には、罰則も適用されることになりました。

しかし、地下水については独特の問題もあります。その流速が極めて緩慢であることから、自然の浄化は難しく、有機塩素系化合物などの有害物質によりいったん汚染された地下水は汚染が改善されにくい特徴があります。そこで、平成8年には、有害物質で汚染された地下水による人の健康に係る被害を防止するため、「特定事業場において、有害物質に該当する物質を含む水の地下への浸透があったことにより、現に人の健康に係る被害が生じ、又は生じるおそれがあると認める時」は、都道府県知事は地下水の水質浄化のための措置をとるよう命じることができる旨の規定が設けられました。規則で浄化基準が定められ、事業者が措置命令に違反した場合は罰則が適用されることになりました。

<4>土壌汚染と瑕疵担保責任

汚染物質を含む土地が売買契約の目的物となった場合、売り主の瑕疵担保責任が問題となります。

一般に、土地の売買契約において法令で規制されている有害物質が土壌中に存在し、それが土地の引き渡し後に発見された場合、売買目的物の通常有すべき性質を欠くとして、買い主は売り主に瑕疵担保責任を追及できます。ある判例は「有害物質が、危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは、売買契約の目的物である土地が通常備えるべき品質、性能に当たる」としています。

民法の規定に基づき、売り主の瑕疵担保責任に基づいて売買契約を解除できるか否かは、土壌汚染により売買契約の目的を達成されないか否かによります。このため、汚染の程度や除去費用、除去に要する時間を総合的に考慮して判断します。なお、土壌汚染の有無を調査する費用を「損害」と評価することは難しいと思われますが、汚染の存在が判明した後、その対策を検討するために要した費用は損害に該当し、売り主に損害賠償を請求できると考えられます。

ただ、買い主として売買契約を解除せず、汚染を浄化し、その費用を損害として売り主請求することも可能です。問題となるのは浄化費用をどこまで請求できるのかという点ですが、土壌汚染対策法に基づく指示・命令が求める対策に合理的な範囲の措置に対する費用にとどまると考えられます。しかし、中途半端な汚染浄化をしただけでは、転売価格が大幅に減額される可能性があります。従って、同法の濃度基準以下となるように浄化するために合理的に必要な作業に要する費用については、売り主に損害賠償を請求できると考えていいでしょう。なお、売り主に汚染浄化を求めることは、瑕疵の修補を求めることになりますので、当然にはできません。

もっとも、土壌に有害物質が含まれているからといって、直ちに「土地の瑕疵」に該当するわけではありません。いかなる土壌も様々な物質が微量ずつ含まれているのが通常であり、その中には有害なものもあるでしょう。その全てが瑕疵として認められるわけではなく、一定基準を超えた有害物質について「土地の瑕疵」として認定されることになるのです。

<5>土壌汚染対策法

有害物質について定める代表的法令は土壌汚染対策法です。同法は、土壌汚染の状況を把握し、汚染による人の健康被害の防止に関する措置などの対策を講じることにより、国民の健康を保護することを目的として平成14年に制定されました。同法2条1項及び土壌汚染対策法施行令1条では、次の物質を「特定有害物質」と指定しています。

一 カドミウムおよびその化合物

二 六価クロム化合物

三 二-クロロ―四・六―ビス(エチルアミノ)―一・三・五―トリアジン(別名シマジン又はCAT)

四 シアン化合物

五 N・N―ジエチルチオカルバミン酸S―四―クロロベンジル(別名チオベンカルブ又はベンチオカーブ)

六 四塩化炭素

七 一・二―ジクロロエタン

八 一・一―ジクロロエチレン(別名塩化ビニリデン)

九 シス―一・二―ジクロロエチレン

十 一・三―ジクロロプロペン(別名D―D)

十一 ジクロロメタン(別名塩化メチレン)

十二 水銀およびその化合物

十三 セレンおよびその化合物

十四 テトラクロロエチレン

十五 テトラメチルチウラムジスルフィド(別名チラウム又はチラム)

十六 一・一・一―トリクロロエタン

十七 一・一・二―トリクロロエタン

十八 トリクロロエチレン

十九 鉛およびその化合物

二十 砒素およびその化合物

二十一 ふっ素およびその化合物

二十二 ベンゼン

二十三 ほう素およびその化合物

二十四 ポリ塩化ビフェニル(別名PCB)

二十五 有機りん化合物(ジエルパラニトロフェニルチオスフォイト(別名パラチオン)、ジメチルパラニトロフェニルチオスフェイト(別名メチルパラオチン)、ジメチルエチルメルカプトエチルチオホスフェイト(別名メチルジメトン)およびエチルパラニトロフェニルチオノベンゼンホスホネイト(別名EPN)に限る。)

土壌汚染対策法のほか、土壌汚染に関する法令として、廃棄物の処理および清掃に関する法律▽ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特別措置法)▽水質汚濁防止法――があります。

<6>土壌汚染と健康被害

土壌は水や空気と同様、私たち人間を含んだ生き物が生きていく上で、不可欠なものです。私たちが口にする農作物は土壌に含まれている水分や養分で育ちます。土壌汚染は、こうした働きを持つ土壌が、人間にとって有害な物質により汚染された状態になっていることを意味します。

もちろん、土壌汚染があっても直ちに健康被害が発生するわけではありません。土壌汚染対策法は、土壌汚染による健康被害を次の二つに分けて考えています。

(1)地下水の摂取などによるリスク→土壌に含まれる有害物質が地下水に溶け出し、その有害物質を含んだ地下水を口にすることによるリスクです。例えば、土壌汚染の影響を受けた土地に井戸があり、地下水が飲用に使用されている場合です。

(2)直接摂取によるリスク→有害物質を含む土壌を口や肌から直接摂取することによるリスクです。例えば、公園の砂場が土壌汚染の影響を受けており、その砂場で遊んでいた子どもが手についた土壌を口にしたり、風で飛び散った土壌が直接口に入ってしまったりする場合です。

以上のようなリスクを回避するため、土壌汚染対策法が制定されたのです。

<7>瑕疵か否かの基準

有害物質の存在が土地の瑕疵となるか否か、すなわち、土壌に含まれる物質が人の生命・身体に危険を生じさせるかどうかについては、どのように判断されるのでしょうか。

一般的には、土壌汚染対策法などの法令の定めが重要な基準となります。同法などには物質ごとに有害物質の種類と基準値が定められ、この基準値を超えるかどうかが判断の目安となります。

同法などの基準値は、法令の趣旨に従い、健康に関する被害を防止する措置を講じる上で基準となるものとして、科学的根拠に基づいて規定されています。具体的な健康被害が発生していなくとも、法令基準を超えた汚染物質が土壌から検出された場合は、「土地の瑕疵」に該当します。実際の裁判でも、そうした判断がなされています。

ある裁判例は、購入した土地に土壌汚染が生じたとして、売買契約の錯誤無効による代金の返還、予備的に瑕疵担保責任ないし債務不履行責任に基づく土壌調査及び土壌浄化費用の賠償が問題となった事案で、①法令の各基準は、一定の科学的根拠から、土壌汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を実施する上で目安になるものとして規定されていること、②各基準を超える含有量ないし溶出量が検出された場合には、その程度の如何を問わず、当該土地の汚染土により人が直接被害を受け、同土地を雨水等が透過した際に地下水を汚染する蓋然性が認められること、③そのような蓋然性を前提とすれば、汚染土地の利用方法は、おのずから制限され、汚染の生じていない土地に比して経済的効用は当然低下すること、④汚染の生じていない土地と同様の効用ないし交換価値を獲得しようとすれば、土壌の浄化等の措置が必要となること――などから、具体的な健康被害が生じていない場合であっても、法令の基準を超える汚染物が土壌から検出されれば、その土地の瑕疵に該当すると判断しています。同様の判断は、別の多くの裁判でもなされています。

反対に法令では特に規制されていないものの、土壌汚染によって実際に健康被害が生じていたり、土地の価格や買い主の購入意欲を下げたりした場合も、「土地の瑕疵」と認められる場合はあるのでしょうか。判例は、そうしたケースも瑕疵に該当すると判断しています。

ある裁判例は、マンションを建設するために土地を購入したところ、土地の引き渡し後に、地中から建物のコンクリート基礎やオイル類といった障害物が発見されたため、撤去・処理費や建設の遅れを取り戻すための突貫工事費などの負担を余儀なくされたとして、買い主が売り主に対し、瑕疵担保責任特約に基づく損害賠償金と遅延損害金を請求した事案で、マンション建設の基礎工事途中で発見される程度に浅い位置に多量のオイル類を含有し、容易に悪臭を発生し得るような状態にあったことから、本件土地に基礎を置き、多数の住民を迎え入れることになるマンションを建設することを妨げる程度に至っており、特別に費用をかけてでも処理する必要があるといわざるを得ないと認定し、法令によって規制されていなくても、瑕疵の存在を肯定しました。

別の裁判例は、分譲マンション用地として土地・建物を購入した買い主が、売り主らに対し、本件土地に地中障害物や土壌汚染物質による「隠れた瑕疵」が存在していたとして、損害賠償請求として除去費用相当額の支払いを求めた事案です。本件売買契約書には、「売り主による引き渡し前調査により土壌汚染が確認された場合には、売り主の責任と負担において除去する。所有権移転後においても、本件土地に地中障害物や土壌汚染物質の隠れた瑕疵の存在が明らかになった場合は、売り主の責任と負担において解決する」と定められていました。また、売買契約締結後、売り主は買い主から紹介されたA社に土地の土壌汚染調査(引き渡し前調査)を依頼し、その調査に基づく土壌汚染物質の除去を行いました。その後、本件土地が引き渡されたのですが、その後に本件土地に地中障害物(PC杭、地盤改良材の塊、鉄筋、コンクリートガラなど)及び土壌汚染物質(油分含有土など)が存在していることが判明したため、買い主は約3000万円の費用をかけて地中障害物と土壌汚染物質の除去を行いました。

そこで、買い主は売り主に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償として除去費用を求めて訴訟を提起したのです。判決では、①A社が行った引き渡し前調査は、表層50センチメートルほどの範囲を掘り、土壌汚染対策法に定める特定有害物質などの特定の土壌汚染物質の有無を調査し、その除去を行う趣旨であったこと、②本件土地及び本件建物の引き渡し後、買い主が建築工事を行ったところ、表層50センチメートルより深いところからも油分混じりの土壌が発見され、また、地中からPC杭、地盤改良材の塊、鉄筋、コンクリートガラなどの地中障害物が発見されたこと、③本件売買契約書は、引き渡し前調査を売り主の負担と責任をもって行うこと、及び本件土地に地中障害物、土壌汚染物質の隠れた瑕疵の存在が明らかになった場合には、売り主の負担と責任において解決を図る旨を定めているが、上記売り主の責任を免除し、あるいは限定する文言はないことから、買い主が請求している除去費用は、上記③の通り、売り主が負担すべきであると判断されました。土壌汚染調査は、費用との関係から、通常はサンプル調査であり、精度に限界があります。そうすると、引き渡し時に土壌汚染を完全に除去することは通常は不可能です。そうした意味では、「引き渡し時に土壌汚染を完全に除去すること」は、特段の事情がない限り、契約内容とはならないと考えられます。

<8>関係法令の規制

土壌汚染対策法に基づく規制と他の関連法令に基づく規制との関係についても検討しましょう。

具体的には、土壌汚染対策法上の濃度基準と環境基本法上の土壌汚染の環境基準との関係、又は水質汚濁防止法上の各種基準との関係、そして環境確保のために最終処分場施設に要求される各種技術基準との関係が問題となります。

土壌汚染対策法の「要措置区域等に関する土壌溶出量規準」は、環境基本法と同じ数値になっています。また、土壌汚染対策法の地下水基準も同様です。そして、土壌汚染対策法の地下水基準と「地下水の水質汚濁に係る環境基準」も同様の基準です。

水質汚濁防止法の水質基準には、「地下水の水質の浄化に係る措置命令に関する基準」と「汚染物質を公共用水域に排出する特定施設を設置する工場・事業場の排水基準」があります。また、後者の排水基準には、有害物質による排出水の汚染状態に関するもの(健康項目に係る排出基準)と他の排出水の汚染状態に関するもの(生活環境項目に係る排出基準)の2種類があります。水質汚濁防止法が定める措置命令に関する基準は、土壌汚染対策法の地下水基準や土壌溶出量基準とほぼ同じ基準ですが、水質汚濁防止法の健康項目に係る排水基準は、土壌汚染対策法の地下水基準や土壌溶出量規準よりも概ね10倍緩い基準になっています。

廃棄物処理法の最終処分場に関する基準には、「放流水に関する基準」と「周縁地下水に関する基準」があります。後者は関係法令とほぼ同じ基準になっていますが、前者は土壌汚染対策法の地下水基準や土壌溶出量規準より対象物質が多く、水質汚濁防止法の健康項目に係る排水基準と同様に数値が概ね10倍緩くなっています。

<9>行政指導や条例

法令ではありませんが、行政指導も判断基準として重要視されます。判例も行政指導を瑕疵の判断基準として認めています。

ある裁判例は、土地を購入した土地開発公社が、土地に自治体が定めた指導基準を上回る油分が含まれていたとして、油分の処理費用相当額の損害賠償を求めたという事案です。判決は、本件売買契約においては、自治体が定めた指導基準をもって瑕疵の判断基準とする旨を合意していたと認定し、油分が大量に存在するか否かで瑕疵の有無を判断するのではなく、自治体の指導基準を超える油分が存在するか否かで判断すべきであると、油分を含むことが瑕疵であると認定しました。もっとも、土地開発公社は本件土地に自治体の指導基準を超える油分が存在することについて悪意だったと認定し、請求を認めませんでした。

また、各都道府県の条例を基準として瑕疵の有無が判断されることもあります。

問題となるのは、土壌汚染対策法と条例の関係です。同法の規制は全ての都道府県で順守されなければなりませんが、土壌汚染対策法で規制されていないことを、都道府県条例で規制できるのかが問題となります。

法令で規制された物質以外に規制物質を設けることは、自由な経済活動の制約にもつながりかねません。このため、法令で規制の対象となっていない物質について、条例で規制することはできないものとも考えられます。しかし、法令で規制対象となっていない物質を条例で規制することは可能だとされています。

大気汚染防止法の例で見てみましょう。同法4条は、規制対象としている物質について、都道府県が条例でより厳しく規制することを認めています。このような規制を「上乗せ規制」と呼びます。また、同法32条は、規制対象としていない物質について、条例で規制することも認めています。このような規制を「横出し規制」と呼びます。なお、大気汚染防止法4条や32条は、上乗せ規制や横出し規制ができることを確認した規定に過ぎず、これらの規定があって初めて規制可能となったものではないと解されています。

これに対し、土壌汚染対策法には、条例による土壌汚染の規制に関する文言はありません。条例による規制は憲法の枠内でなければならないことはいうまでもありませんが、土壌汚染対策法にとらわれず、独自の追加規制が可能です。もっとも、条例は国の法律で十分に対処できない課題を解決するために制定されるものであり、法律が改正されて既存の条例で不要となった規定は適宜改正されます。条例はその限度で法律の影響を受けます。

<10>瑕疵の判断時期

土地の売買契約において問題となる土壌汚染ですが、土地に瑕疵が存在するか否かについて、いつの時点を基準に考えることになるのでしょうか。

一般的には、売買契約の時点において瑕疵が存在していたかどうかで判断しますが、土地の売買契約締結時には法令で規制されていなかった物質について、契約締結後に法令で有害物質として規制され、その物質が売買契約の目的である土地の地中に含まれていた場合はどうなるのでしょうか。

ある裁判例は、平成3年に東京都内の土地3600平方メートルを23億円で買い受けた買い主が、売り主に対し土地の土壌に基準値の1200倍に相当するフッ素が含まれていたことが民法570条の瑕疵に該当すると主張し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求した事案でした。本件売買契約締結当時、土壌に含まれるフッ素については、法令規制の対象となっておらず、取引観念上、フッ素が土壌に含まれることにより人への健康被害が生じるおそれがあると認識されていませんでした。土壌に含まれるフッ素に関する環境基準が示されたのは、平成13年です。また、フッ素が土壌汚染対策法上の特定有害物質と定められたのは平成15年ですから、本件売買契約締結当時、フッ素は法令に基づく規制対象とはなっていなかったのです。

この裁判の控訴審判決は、土壌に人の健康を損なう危険のある有害物質が、人の健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことは瑕疵に当たるとして、買い主の請求を認めました。売買契約締結時において規制対象となっていなかった物質が、売買契約締結から10年以上経過した後になって法規制を受けた場合でも、売り主は瑕疵担保責任を負うと判断したのです。

しかし、上告審の最高裁は、本件土地の土壌にフッ素が基準値を超えて含まれていたことは瑕疵に当たらないと判断し、一転して売り主の瑕疵担保責任を否定しました。

売買契約の当事者は、①契約の目的物が通常有すべき品質・性能を有することを合意し、②ある品質・性能を有することが特別に予定されていた場合には、特別に予定されていた品質・性能を有することを合意しているといえ、これらの合意に基づき通常又は特別に予定されていた品質・性能を欠くことが、瑕疵ととらえられることになります。そうすると、契約当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、契約締結当時の取引観念を斟酌して判断することになります。契約締結時における取引観念を斟酌しなければ、売買契約締結後、時の経過や科学の発達により目的物の品質・性能に対する評価が変化し、契約当事者において予定されていなかったような事態に至った場合においても瑕疵に当たり得ることになり、法的安定性を著しく害することになります。

そうすると、本件土地につき、①本件売買契約締結当時の取引観念上、人の健康に係る被害を生じるおそれがあると認識されていた物質が人の健康を損なう限度を超えて土壌に含まれていないことが、通常有すべき品質・性能であるということができるので、そうした物質が「人の健康を損なう」限度を超えて土壌に含まれていれば瑕疵に該当することになります。また、②「ある特定の物質」が土壌に含まれていないことや、「本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生じるおそれのある一切の物質」が土壌に含まれていないことが特別に予定されていた場合に、これらの物質が土壌に含まれていれば瑕疵に該当することになるでしょう。

本件では、買い主による調査の結果、土地の土壌に基準値の1200倍に達するフッ素が含まれていました。しかし、本件売買契約締結当時、フッ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生じるおそれがあるとは認識されていませんでしたから、①について瑕疵に該当するということはできない、と最高裁は判断したのです。また、フッ素が土壌に含まれていないことや、「本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質」が土壌に含まれていないことが特に予定されていたとみるべき事情もないことから、②においても瑕疵に当たらないと判断しました。

なお、本件土地は主に工業用のフッ化水素酸を製造する工場の用地として利用されていたようですが、それにもかかわらず、本件土地の土壌にフッ素が含まれていない旨の明示的な合意がされていなかったことや、本件売買契約締結が土壌汚染対策法公布の10年以上も前だったことなどから考えると、「ある特定の物質が土壌に含まれていないこと」が予定されていたとみることは困難です。また、「本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生じるおそれのある一切の物質」が土壌に含まれていないことが予定されていることは、売り主の立場からすると永久保証をするのと同じになってしまいますから、考え難いといえるでしょう。このような検討から、最高裁は、本件土地の土壌にフッ素が基準値を超えて含まれていたことは瑕疵に当たらないと判断したといえます。

この判例から分かるように、過去に行われた土地の売買契約については、慎重な判断を要します。平成10年以前は土壌汚染の問題に慎重な態度で臨む日本の企業は極めて限られていたからです。もっとも、平成3年に環境庁(当時)が「土壌の汚染に係る環境基準について」を発表していたことから、外資系ファンドなどは海外での経験から上記環境基準を満たさない土壌汚染に当初から神経質で、購入に当たっては土壌汚染のおそれのある土地を避ける傾向にありました。このような外資系ファンドなどの対応のほか、環境庁が平成11年には「土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針及び同運用基準」を明らかにし、調査対策の方向性が定まったことから、土壌汚染に関する法規制の必要性が活発に議論されるようになりました。

日本の企業も平成10年ころから土地の購入にあたり土壌汚染の調査を行うケースが増え始めました。東京都は平成12年、土壌汚染に関する規制を盛り込んだ環境確保条例を制定し、国も平成14年に土壌汚染対策法を制定するに至っています。

<11>瑕疵担保責任期間

土壌が汚染された土地を購入した買い主は、売り主に対し、いつまで瑕疵担保責任を追及できるのでしょうか。

この問題を考えるに当たっては、民法が適用される売買契約と商法が適用される売買契約に分けて検討する必要があります。商人間や会社間の売買契約は商法の問題となり、それ以外は民法の問題となります。民法の場合、瑕疵担保責任期間は買い主が「汚染の事実」を知った時から1年以内です。

一方、商法526条2項は「隠れた瑕疵」でも、引き渡しから6カ月以内に瑕疵を発見して瑕疵がある旨を売り主に通知しなければ、売り主に瑕疵担保責任を追及できないと定めています。ただし、多くの不動産売買契約書は、宅建業者が売り主の場合の瑕疵担保責任免除特約に関する規制(すなわち、引き渡しから2年未満に責任を限定する特約を無効とする規制)が宅建業法上に存在するため、瑕疵担保責任期間を2年としていることに注意が必要です。この点は民法適用の売買契約も同じです。不動産売買契約書において、瑕疵担保責任期間を2年と限定していれば、その期間を過ぎてしまえば、売り主に悪意がない限り、売り主の瑕疵担保責任を追及することはできません。

なお、例えば「売り主は引き渡し2年間に限り、瑕疵担保責任を負う」との特約があった場合はどうなるでしょうか。この点については、二つの考え方があります。一つ目は民法570条で準用している民法566条第3項の「1年間」と同様、瑕疵担保責任を追及して売買契約の解除や損害賠償を請求する期間に過ぎない(除斥期間説)という考え方です。もう一つは、時効期間を短縮する特約(消滅時効説)という考え方です。前者の場合は、引き渡しから2年以内に調査して瑕疵を発見し、解除又は損害賠償の請求を裁判外で行えば足り、その後、消滅時効が完成するまで(引き渡しから5年又は10年)に訴訟を起こせばよいことになります。一方、後者の場合は、引き渡しから2年以内に訴訟を提起しなければ、権利は消滅します。

それでは、上記のような特約が定められていなかった場合はどうなるのでしょうか。条文上の原則に従うと、商法が適用される会社間の取引であれば、商法526条により、引き渡しから6カ月以内に瑕疵を発見して売り主に通知しなければ、瑕疵担保責任を追及できなくなります。しかし、土壌汚染が問題となる土地の売買契約において、瑕疵を発見するまでの期間が6カ月というのはあまりにも短いといえます。

一方、商法の適用がない売買契約では、民法により瑕疵発見から1年以内に請求しなければなりませんが、契約締結から何年も経ってから瑕疵を発見しても責任を追及できることになってしまいます。この点については、最高裁が平成13年、引き渡しから10年を経過すると、時効により瑕疵担保責任も消滅するとの判断を示しました。

<12>土壌汚染調査

土壌汚染対策法は、工事跡地や大規模な土地を売却する場合に土壌汚染調査の実施を義務付けていますが、具体的には、どのような場合に調査義務が発生するのでしょうか。

まず、水質汚濁防止法で「特定施設」とされている施設で、土壌汚染対策法で「特定有害物質」とされた物質を製造、使用又は処理していた施設の使用を廃止した時に土壌汚染調査が義務付けられます。特定施設とは、特定有害物質を使用する、鉱業、畜産、水産、食品、石油化学その他業種の工場施設をいいます。この調査は工場施設を廃止する際などに要求される調査で、汚染の可能性が十分にあるうえ、調査も容易です。施設を設置した土地の所有者などは、使用廃止時に当然、調査義務を負います。また、施設を設置していない土地の所有者なども都道府県知事から施設の使用廃止の通知を受ければ、調査義務を負います。

次に、平成21年改正により、3000平方メートル以上の土地の形質変更を行った者による事前届出の結果、知事が土壌汚染のおそれありと認定した場合も調査義務が発生します。「土地の形質変更」とは、土地の掘削などをいいます。この調査は、対象地における形質変更の規模が大きい場合の調査です。「3000平方メートル以上の土地」は実際に土地の掘削などを実施する部分の広さのことで、対象地の面積全体ではありません。このような大規模な土地開発をする時は、開発者は工事着手の30日前までに、着手予定日などを都道府県知事に届け出なければなりません。この届出を受け、都道府県知事は土壌汚染のおそれがある土地に該当すると判断すれば、土地の所有者などに調査させることができます。

最後に、都道府県知事が「土壌の特定有害物質により人の健康に係る被害が生じるおそれがある」と認めた場合は汚染調査を土地の所有者などに命じることができます。人の健康被害が生じるおそれがあるか否かは、地下水の利用状況や、土壌汚染地に人が立ち入ることができるかなどにより、判断されます。この調査は、工場廃止や大規模な土地の形質の変更などの事情がなくとも、人の健康被害の保護を理由に行政から要求される調査です。この調査を命じる要件は、施行令及び施工規則によると、かなり限定的です。すなわち、要措置区域又は形質変更時用届出区域の指定の基準となる濃度基準を超える土壌汚染があるおそれがなければならず、地下水汚染リスクの観点からは、土壌汚染に起因する地下水汚染が現に生じ、又は生じるおそれがあると認められ、かつ周辺の地下水の利用状況などからみて、地下水汚染が生じたとすれば飲用などを通じて健康被害のおそれがなければならないとされています。もっとも、公共用水域の水質汚濁を招く場合は、地下水の飲用に利用されているという要件は不要とされています。また、土壌の直接摂取のリスクの観点からは、当該土地が立ち入ることができる区域であることが必要です。従って、地下水が汚染されている可能性があっても、飲用に利用されないと思われる場合は調査命令は出されませんし、直接摂取だけが問題になるような土地であれば、人の立ち入りができないような場合には調査命令は出せません。

別の観点として、土壌汚染対策法に基づく土壌汚染調査義務に従って調査が行われたケースとは異なり、土地の所有者などが任意に土壌汚染の調査を行った場合は、調査結果の報告義務が生じるのかが問題となります。例えば、以前から保有する遊休地について、その所有者が任意で土壌調査を行ったところ、法令上の濃度基準を超える有害物質が発見された場合に、この調査結果を黙っていてもよいのでしょうか。

平成11年に環境庁が定めた「土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針適用基準」というガイドラインでは、事業者が任意に土壌・地下水汚染を調査し、汚染が判明した場合は必要な追加的調査及び対策を実施するとともに、汚染拡散を防止する観点から、速やかに都道府県に報告することが望ましいと定められました。実際、多くの企業は、このガイドラインに従って任意の調査で判明した汚染についても都道府県に報告し、対策を検討していました。

しかし、土壌汚染対策法には、任意に行われた土壌調査で汚染が判明した場合、結果を行政庁に報告しなければならないとの報告義務を定めた規定はありません。このため、条例で報告義務が定められていない以上、調査結果を報告する義務は生じません。ただ、汚染が判明しているのにその状態を放置した結果、近隣住民が健康被害を受けたような場合は、「未必の故意」又は「過失」による傷害とも評価されかねませんから、汚染除去などの適切な対応を行う必要があるでしょう。法律上の義務がないからといって、臭い物に蓋をしては、将来的に大きな問題に発展する可能性があるので注意が必要です。

それならば、いっそのこと土壌汚染のおそれがあってもそもそも土壌調査を行わない方がよいと考える人もいるかもしれません。しかし、このような消極的な対応は、かえって将来の大きなリスクとなりかねません。万一、将来に近隣住民が健康被害を受けた場合、不法行為責任を問われる可能性が高くなります。土壌汚染のおそれがあると認識したのなら、正直に土壌調査をしておくのが、長い目でみて妥当な対応かと思われます。

なお、平成21年の土壌汚染対策法の改正により、任意の土壌調査で判明した土壌汚染も土地所有者などが要措置区域又は形質変更時要届出区域の指定を申請し、法規制の対象とすることが可能となりましたが、このような申請は土壌汚染対策法上の義務ではないという点は改正前と変わりがありません。

<13>調査命令違反と措置命令違反

もし、土地の所有者などが土壌汚染対策法上の調査命令等に従わない場合、何らかのペナルティーが科されるのでしょうか。

まずは、刑罰についてです。ある法人が調査命令を受けたのに、無視した場合を考えてみましょう。法人の取締役会が調査命令に従わないという判断をしていた場合、取締役会の構成員である取締役らが命令違反したことになり、同法65条に基づき、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科されます。個人と法人が共に刑罰を受ける「両罰規定」があるため、法人も罰金を支払わされます。

調査命令違反のみならず、「汚染の除去等の措置命令」を無視した場合も同様です。ただ、「措置の指示」については扱いが異なります。措置命令は、前段階の措置の指示に従わない場合に出されるもので、措置の指示に違反しても直ちに罰則が科されるわけではありません。

次に、調査や汚染の除去を「強制される」ことはあるのでしょうか。つまり、土地の所有者などが調査や汚染の除去をしない場合に「都道府県知事による行政代執行」が可能なのかという問題です。行政代執行とは、国や自治体などの行政機関の命令に従わない者に対し、行政機関が本人に代わって強制的に撤去や排除をすることです。行政代執行は、裁判所の関与なく、行政限りで執行を進めるものですから、行政行為と執行のそれぞれに法律上の根拠を必要とします。土壌汚染対策法では、上記のような事例を想定した行政代執行の定めはないため、行政代執行は認められないと考えられます。

土壌に有害物質が存在し、汚染が生じている場合、要措置区域に指定された土地の所有者などは、汚染の原因者でなくとも、土壌汚染対策法に基づく「汚染の除去等の措置の指示」を受け、指示に従わない場合は措置命令を受けます。ここで問題となるのは、土壌汚染の原因者でなくても、汚染の除去などの措置の責任を負うのかという点です。

上記の通り、土壌汚染については、土地の所有者などが一義的な責任を負います。しかし、他に汚染の原因者がいることが明らかで、その者に汚染の除去などの措置を講じさせることが相当な場合は、原因者ではない土地の所有者は指示や命令を受けることはありません。ただ、原因者が分かっている場合でも既に破産しているなど、資力がない場合は土地の所有者などが措置の指示や命令を受けます。

なお、土地の所有者などが原因者である場合、都道府県知事は事前に原因者を調査する義務を負いませんが、土地の所有者などが原因者ではないことが明らかな場合は、合理的な範囲内で原因者を調査する義務があります。その場合も、原因者を特定する義務まではなく、合理的な調査を行ってもなお、原因者を特定できない場合は、それ以上の調査をすべき義務はありません。一方、「過去に土地の所有者などであった者」は土壌汚染の原因者でない限り、指示や命令を受けません。

<14>「土地の所有者等」の定義

「土地の所有者等」は法律上、土地の「所有者」か「管理者」か「占有者」とだけ定義され、それ以上に詳しいことは明確ではありません。施行令や施工規則にも、「土地の所有者等」の定義はありません。なお、平成22年の施行通知には、「『土地の所有者等』とは、土地の所有者、管理者及び占有者のうち、土地の掘削等を行うために必要な権原を有し調査の実施主体として最も適切な一者に特定されるものであり、通常は土地の所有者が該当する。『所有者等』に所有者以外の管理者又は占有者が該当するのは、土地の管理及び使用収益に関する契約関係、管理の実態等からみて、土地の掘削を行うために必要な権原を有する者が、所有者ではなく管理者又は占有者である場合である。その例としては、所有者が破産している場合の破産管財人、土地の所有者を譲渡担保により債権者に形式上譲渡した債務者、工場の敷地の所有者を既に譲渡したが、まだその引き渡しをしておらず操業を続けている工場の設置者等が考えられる」と記載され、一定の解釈が示されています。つまり、「土地の所有者等」とは、土地の掘削等を行うために必要な権原を有する者ということになります。

もっとも、このように解釈するのが不合理である場合もあります。例えば、借地人が工場を操業しており、その操業により土壌が汚染されたような場合です。この場合に、土壌汚染に一切関係のない土地所有者に対し、調査命令等が下されるというのは不合理です。土地の財産的価値に損傷を与えない調査や汚染の除去等の措置であれば、土地所有者に限らず、適宜、土地の「管理者又は占有者」が土地の所有者等に該当すると判断される場合があり得ます。

「土地の所有者等」が汚染の除去等の義務を負うのは、汚染除去の指示又は命令を受ける場合に限られます。従って、指示又は命令を受ける前に土地を譲渡し、「土地の所有者等」でなくなれば、指示又は命令を受ける余地はないことになります。

ただし、たとえ土地を譲渡したとしても、譲渡した者が土壌汚染の原因者である場合は、譲渡後も都道府県知事から除去等の措置の指示又は命令を受けることがあります。「逃げ得」のようなことは許されないからです。一方、譲渡した者が原因者でない場合は、措置の指示又は命令を受けることはなさそうに思われますが、一概にそうとは言い切れません。

例えば、土地の所有者である「親会社」が、汚染除去を行う資力のない「子会社」に土地を譲渡し、事実上、除去費用の負担から免れようとした場合、親会社が土地の管理者として「土地の所有者等」であると認定され、汚染の除去等の措置を指示又は命令される可能性はあるでしょう。

<15>複数の所有者・原因者

汚染除去責任を負う「土地の所有者等」が複数いる場合は、誰が責任を負うことになるのでしょうか。「土地の所有者等」の調査義務や汚染の除去等の措置を講じる義務は連帯債務なのかが問題となります。

「土地の所有者等」が複数の場合、都道府県知事は全ての者に命令を出すこともできますし、複数の者のうちから誰かを選んで命令を出すこともできます。調査義務や汚染の除去等の措置は、性質上「不可分の債務」といえ、連帯して義務を履行すべきものと考えられますから、複数の者が命令を受けた場合、その義務は連帯責任になります。

では、「原因者」に汚染の除去等の措置を命じるケースで、原因者が複数いる場合はどうでしょうか。こうした場合は、その責任の程度に応じて指示又は命令を出すべきとされています。つまり、原因者間では連帯責任は負わないのです。「責任の程度に応じる」ということですから、わずかな責任を負うとされた者には、汚染の除去等の措置として一部の費用負担を命じることもできます。

<16>原因者への求償

土壌汚染が生じた土地の所有者が土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の指示に従って費用を支出した場合、汚染の原因者に求償することができます。原因者への求償は、指示された措置を講じ、かつ原因者を知った時から3年以内に行う必要があります。また、指示措置を講じた時から20年を経過すれば、請求できなくなるので注意が必要です。

原因者への求償を定める条項は同法8条のみです。従って、同条に該当しない場合は、土壌汚染対策法に基づく求償はできず、民法上の一般理論に従って請求するしかありません。例えば、大規模な土地の形質変更に伴う調査の結果、汚染が判明し、対策を講じなければ開発できない場合、その対策費を原因者に求償するための規定はありません。土地の所有者等に対策費相当額の損害が生じますが、土壌汚染対策法に救済手段は示されていません。この場合は、民法上の不法行為責任を問うことができるか否かを検討することになります。

<17>担保権者の責任

さて、土地の担保権者が土壌汚染について責任を負うことはあるのでしょうか。

そもそも、抵当権者は土地の所有者ではありませんし、占有者でもありませんから、「土地の所有者等」に該当しません。これに対し、質権者は土地の占有者ですから、「土地の所有者等」に該当します。また、土地の譲渡担保権者も形式的には土地の所有権を取得するため、「土地の所有者等」に該当します。

また、担保設定した土地を自己競落した場合、転売までの期間は土地がいくら指定区域の指定水準を超過していても、モニタリング調査や立ち入り禁止を指示するにとどめ、それ以上の汚染の除去等の措置の指示は出さないものとされています。

なお、担保を設定した後に土壌汚染が判明すれば、担保付債権の評価に影響します。また、債務者が土壌汚染の対策費を負担できないリスクや、イメージが悪化し資金繰りに窮するといったリスクも想定されます。

<18>私法上の意味

次に、汚染除去等の指示・命令の私法上の意味について考えましょう。都道府県知事からの土壌汚染の除去等の指示・命令に従いさえすれば、土地の所有者等は責任を免れるのかという問題です。

例えば、都道府県知事からの汚染の除去等の指示・命令に従ったものの、土地の所有者等が施した汚染対策が不十分であったため、近隣住民に健康被害が発生したようなケースを考えます。土地の所有者等としては、都道府県知事の指示・命令に従ったのだから、土地の所有者等としての義務は果たしており、汚染対策は十分だと言いたいところでしょう。ただ、土壌汚染対策法に定められた汚染除去の指示・命令に従って行った措置でも完全なものとは限らず、後に不十分だったことが判明するケースもあります。そのような場合、指示や命令に従ったということが免責事由になるのでしょうか。

汚染の原因者ではない「土地の所有者等」が負う可能性がある責任として考えられるものは、民法上の「土地工作物責任」です。土地工作物責任とは、不法行為責任の一種と考えられ、土地の工作物の瑕疵によって他人に損害を与えた場合に、工作物の占有者や所有者が負う賠償責任です。

民法上、原則として責任を負うのは工作物の占有者ですが、占有者が損害防止のために必要な注意義務を果たしている場合は、所有者が賠償責任を負います。つまり、まずは工作物の占有者が責任を負いますが、この占有者の責任は損害防止のために必要な注意義務を果たしていたことを立証すれば免責される「中間責任」であり、占有者が注意義務を果たしていた場合は、二次的・補充的に工作物の所有者が無過失責任を負います。なお、土地の工作物とは、「土地に接着して築造した設備」をいい、地上・地下の構築物、例えば建物や水道設備、設備の一部をなすものが含まれます。

自分が管理している土地の地中に、法令基準を超える濃度の土壌汚染物質があるにもかかわらず、健康被害の防止対策として行った工事が不完全で、その土地工作物の設置又は保存に瑕疵があると評価できる場合、結果として他人に被害を与えたなら、土地の所有者等は土地工作物責任を負います。土壌汚染対策法に基づく指示・命令には、土地工作物責任を免責にする法律上の効果はないので、土壌汚染対策法に基づく指示・命令に従ったからといって、民事上の責任は免れません。

一方、土地の所有者等が原因者でもある場合は、土地工作物責任ではなく一般の不法行為責任を問われる可能性があります。この場合も土壌汚染対策法に基づく指示・命令に従ったからといって、民事上の責任は免れません。

<19>買い主の注意点

土壌汚染が問題となりそうな土地を購入する買い主は、どのような点に注意すべきでしょうか。

土壌汚染対策法施行後、大規模な土地取引ではほとんどの場合、土壌汚染の調査を行った上で売買契約が締結されています。履歴調査で土壌汚染のおそれがあると判明した場合、土壌汚染対策法に定められた調査方法に従い、サンプル調査を行うことが通常です。

土地取引の際に調査が行われるのは、土地の所有者等が後に負うことになるリスクを回避するためです。すなわち、売買目的物の土地に濃度基準以上の汚染物質が含まれていれば、都道府県知事から土地の所有者等が汚染の除去の措置の指示や命令を受けるリスクが生じるからです。原因者が不明な場合や原因者に資力がない場合は、土地の所有者等が指示や命令を受けます。こうなると、対策費が巨額となる可能性もあるので、事前にリスクを回避するため調査をしておこうと考えるのです。

なお、3000平方メートル以上の土地の形質変更にあたっては、調査の要否を都道府県知事に確認する必要があります。一方、小規模な土地の取引では、知事への確認は不要ですが、買い主にとって汚染調査のないまま土地を購入することは、特に転売する場合に大きな負担がかかる可能性があることに注意が必要です。売買契約の目的物である土地について調査を実施したところ、汚染が濃度基準以下にとどまることが判明した場合、汚染を除去せずに土地を購入することも考えられます。

ただ、実施された汚染調査が精密なものかどうか注意が必要です。調査方法が土壌汚染対策法上の汚染調査の方法又はそれ以上の精度を有する方法であり、信頼できる調査会社が行ったものか確認する必要があります。また、調査したポイントの汚染濃度が偶然低かったということも考えられますから、別のポイントを調査する必要性がないかについても検討が必要です。

<20>売り主の注意点

一方で、土壌汚染が問題となるかもしれない土地の売り主は、どのような点に注意すべきでしょうか。

まず、売買の目的物となる土地について、土壌汚染の調査せずに売却する場合のリスクについて考えます。

売り主自身が汚染の原因者なら、後日、原因者として汚染の除去等の措置に要した費用の償還を求められる可能性があります。特に問題となるのは、買い主が汚染行為を行う可能性がある場合や、汚染行為を行うおそれがある者に転売する可能性がある場合です。売り主はこうした場合を想定し、土地の引き渡し時に汚染がないことを確認するための調査を行うことが望ましいでしょう。汚染調査をしておかないと、原因者が買い主なのに、売り主に責任を押しつけられてしまう可能性があるので注意がいります。

次に、土壌汚染の調査を行った場合の売却に関する注意点についてです。

土壌汚染の調査は、土壌汚染対策法で定められた調査方法で行います。もっとも、同法で定められた調査を行って汚染物質が出なくても、完全に汚染物質が存在しないとは言い切れません。調査ポイントで汚染が発見されなかっただけだからです。同法で定められた調査にも、限界があります。

では、汚染土地の売り主は、どの程度、浄化させればよいのでしょうか。

汚染土地を売るには、何らかの対策を講じなければ買い手はつかないでしょう。具体的にどのような対策を講ずるかは、結局のところ、買い主の要望次第です。買い主としては、汚染に悩まずに土地を活用したいと考えるでしょうし、転売する際の価格ダウンは避けたいでしょう。また、汚染が原因で近隣住民に健康被害が発生した場合、法的責任を追及されることは避けたいはずです。

このような買い主の立場を考えると、売り主としては徹底した汚染除去を行いたいところです。しかし、徹底した除去を行うとなると、コストはかなり大きなものになる可能性があります。買い主の要望を踏まえつつ、コストと安全性のバランスを考えて浄化することを検討する必要があります。

<21>媒介業者の注意点

汚染された土地を媒介した宅建業者が負う責任はどうでしょうか。汚染土地を媒介した業者は、汚染の事実を知らずに土地を購入した買い主から責任追及を受けるのでしょうか。

土壌汚染対策法の制定及び平成21年改正に伴い、宅建業法の重要事項説明書において要措置区域等(すなわち要措置区域又は形質変更時要届出区域)内の土地の形質に関する規制は記載が必要となりました。

また、宅建業法は「宅建業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」につき、「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」を禁じています。従って、過去に工場用地だったという情報を知りながら、土壌汚染のリスクを全く考慮しないで評価額を買い主に伝えた場合、債務不履行責任を負う可能性があります。過去に工場用地であったことなど、通常の人が聞けば土壌汚染を疑う可能性のある情報を持ちながら、買い主に知らせない行為も同法違反になり得ます。

<22>汚染土地の減価

不動産鑑定に関わる諸規則やガイドラインには、具体的にどのような土壌汚染があればどの程度の減価とすべきかについて指針が示されているわけではありません。

土壌汚染対策法で汚染対策が義務付けられるケースは限られますが、市場での評価は同法上の義務の有無とは無関係であり、土地が同法の濃度基準を超えて汚染されていれば、当然に減価されるでしょう。また、多くの場合、掘削除去費を計算して減価していますから、濃度基準を超えた土壌汚染の掘削除去を前提とした減価が原則となります。

なお、土壌汚染対策が講じられた後でも、かつて土壌汚染が存在したということが心理的嫌悪感を生じさせ、減価要因になり得ます。徹底した対策が講じられなかった場合はもちろん、掘削除去や浄化といった徹底した手段が講じられても減価要因となり得るわけです。

汚染の疑いのある土地の不動産鑑定について特に大きな問題となるのは、建物が存在するために土壌汚染調査に大きな制約がある場合です。調査できない以上、鑑定もできないのが通常です。ただ、専門家の意見を参考に、既存資料から汚染の分布を想定して対策費を算出し、減価評価することも不可能ではないでしょう。

<23>固定資産税への影響

土地に深刻な土壌汚染が判明した場合、固定資産税は減額されるのでしょうか。この点については、これまでに減額につながる法改正や通知はなく、運用上も減価は行われていないのが現状です。

関連する裁判例としては、アスベストスラッジが地中に埋まっていた土地について、固定資産税が減額されるべきとして争われたケースがあります。判決では、アスベストは不溶性の物質で土壌を汚染しないため、土壌汚染対策基本法の対象ではないことや、除去すれば土地の原状回復が可能であることに触れ、減額すべき「特別な事情」はないとして、固定資産税の賦課処分の違法性はないと判断しています。

上記の裁判では、アスベストスラッジが土壌を汚染していないとして減額を認めませんでしたが、逆に言えば、土壌汚染があった場合、固定資産税は減額すべきとの論理が成り立ちます。

市町村長は固定資産の評価に当たり、固定資産評価員を置き、総務大臣が定めた固定資産評価基準に基づいて資産価格を決定します。この評価での「適正な価格」は「正常な条件の下において成立する取引価格」とされています。とすれば、市場で減価して取引されている汚染土地は、固定資産税も減額評価されてもおかしくありません。

ただ、市町村長が個々の課税において土壌汚染の程度をいちいち確認することは非現実的です。そうした意味で、土地の所有者が土壌汚染の証拠や除去する場合に必要となる費用を明確にした資料を提出すれば、自治体も無視できないと思われます。汚染土地を減価すると、汚染を招いた者を不当に優遇することになりかねないとの見解もありますが、土地自体の評価という点で、合理性はあると考えられます。

<24>相続税との関係

国税庁は平成16年に「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」を公表しています。この中で、「相続税等の財産評価において、土壌汚染地として評価する土地は、『課税時期において、評価対象地の土壌汚染の状況が判明している土地』」とし、「土壌汚染の可能性があるなどの潜在的な段階では土壌汚染地として評価することができない」との考え方を示しています。その上で、課税時期に既に浄化・改善措置を実施することが確実な場合、土地の評価額からその費用を控除するのではなく、課税価格から控除すべきとしています。

従って、相続した土地の相続税を算定する際、土壌汚染を考慮してほしい場合は、土壌汚染の調査を行い、対策費を業者に見積もらせます。既に対策スケジュールが決まっていれば、対策費を債務として計上します。一方で、決まっていない場合は、対策費の80パーセントを汚染がない土地評価額から減価すべきことになるでしょう。なお、調査費は対策費に含めてもよいと考えられます。

<25>会計上の扱い

次に、土壌汚染された土地は、会計上どのように扱うのでしょうか。

企業の主な営業活動に使用する目的で長期保有される資産は固定資産となり、平成17年度の事業年度から「固定資産の減損に係る会計基準」が適用されています。

同基準では、減損の兆候のある資産は減損損失を認識するかどうか判定し、測定します。「減損の兆候」とは、資産に減損が生じている可能性を示し、汚染で資産の回収可能価額を著しく低下させる可能性が生じたケースも含みます。

減損の兆候がある資産は、資産から得られる「割引前将来キャッシュ・フロー」の総額が帳簿価格を下回る場合に減損損失を認識すべきと判定されます。汚染除去費が多額になれば、割引前将来キャッシュ・フローのマイナス要因となり、土地の帳簿価格を下回れば、減損損失を認識すべきと判定されます。また、土地の処分を予定している場合も、土壌汚染が原因で売却価格が下落することで、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価格を下回れば、減損損失を認識すべきと判定されます。

「減損損失を認識すべき」と判定された資産については、帳簿価格を回収可能価額まで減額し、減少額を減損損失とします。この回収可能価額は、売却による回収額と、使用による回収額のどちらか高い方の金額となります。

つまり、土壌汚染土地は、売却価額が下落することで将来キャッシュ・フローの現在価値が減少したり、汚染除去費が発生することで将来キャッシュ・フローの現在価値が減少したりします。このため、汚染土地は売却価格の下落額や汚染除去費が減損損失額に反映されることになるのです。

上記の通り「固定資産の減損に係る会計基準」では、2段階の処理(減損兆候のある資産に関し、割引前将来キャッシュ・フローを基に減損損失を認識すべきかを判定し、減損損失の測定は将来キャッシュ・フローの現在価値等の回収可能価額を基に行う)をします。

しかし、国際会計基準(IAS)では、減損兆候のある資産は、すべて減損損失の測定を行うという1段階処理です。この基準が適用された場合、減損を認識すべき場合が拡大しますし、資産の回収可能価額が回復すると「固定資産の減損に係る会計基準」では減損損失の戻入れは認められていませんが、国際会計基準では戻入れが強制されます。

一方、不動産会社などが販売目的で所有する土地は「流動資産(棚卸資産)」として扱われます。このような販売用不動産は、平成20年度の事業年度から「棚卸資産の評価に関する会計基準」が適用されています。この基準で、通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表額とし、期末の正味売却価額が取得原価より下落していれば、正味売却価額をもって貸借対照表額とし、取得原価と正味売却価額との差は当期費用として処理すると決められています。

販売用不動産の正味売却価額は、販売見込額から販売経費等見込額を控除した額とされています。このため、土壌汚染土地の販売見込額が下落し、正味販売額が取得減価を下回っている場合は、差額を当期費用として計上することになります。

なお、棚卸資産の評価は国際会計基準でも同様の処理をします。

<26>抵当不動産の汚染

抵当不動産に深刻な土壌汚染が発覚した場合は、債権者である金融機関は財務諸表上どのように処理する必要があるのでしょうか。

「金融商品に関する会計基準」では、債権の貸借対照表は取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とされています。貸倒見積高は債務者の財政状態や経営成績等に応じ、債権を「一般債権」、「貸倒懸念債権」、「破産更生債権等」に区分し、損も区分に応じて算定します。

このうち「一般債権」とは、経営状態に重大な問題がない債務者に対する債権です。債権全体あるいは同種・同類の債権ごとに、過去の貸倒実績率など合理的基準により貸倒見積高を算定します。このため、抵当不動産に深刻な土壌汚染が判明しても、融資先の経営状態に重大な問題がなければ、債権は「一般債権」に区分され、過去の貸倒実績率などにより算定した貸倒見積高を貸倒引当金として計上すればよいことになります。つまり、土壌汚染の影響は受けません。

次に「貸倒懸念債権」とは、経営破たん状態には至っていないものの、債務弁済に重大な問題が生じているか、生じる可能性の高い債務者に対する債権です。この場合は、債権の状況に応じ「財務内容評価法」か「キャッシュ・フロー見積法」で貸倒見積高を算定します。この貸倒懸念債権について、担保を処分して債権回収を行うことが見込まれるなど財務内容評価法を用いた方が適当な場合、土壌汚染の存在は担保の処分見込額を下落させるので、貸倒見積高が増え、その分、貸倒引当金を多く計上しなければなりません。もう一方のキャッシュ・フロー見積法は、債権の元本回収や利息受取りによるキャッシュ・フロー(元金返済+利息支払額)を合理的に見積もることができる債権について、元本の回収や利息の受取りが見込まれる時から当期末まで、当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法のことです。貸倒引当金の計上額は、新たな合意に基づくキャッシュ・フローを当初の利子率で割り引いた現在価値と期末帳簿価額との差額になります。貸倒疑念債権について利子率の引下げや弁済期のリスケジュールを行うことで債権回収を行うなど、この方法を用いることが適当な場合、土壌汚染の存在は影響を与えません。

最後の「破産更生債権等」は、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権をいいます。この場合、債権額から担保の処分見込額か保証による回収見込額を減額し、残額を貸倒見積高とします。深刻な土壌汚染は、担保の処分見込額を下落させますので、貸倒見積高が増え、その分、貸倒引当金を多く計上することになります。なお、貸倒引当金を計上する代わりに、債権金額から直接減額することもできます。

<27>土壌汚染とディスクロージャー

次はディスクロージャーの問題について考えてみましょう。もし、企業が所有する不動産に濃度基準を超える土壌汚染が見つかった場合、財務諸表上で明らかにするべきでしょうか。

「固定資産の減損に係る会計基準」は、重要な減損損失を認識した場合は、その資産や損失の認識に至った経緯、損失額、回収可能価額の算定方法といった事項について、財務諸表上、注記するよう定めています。このため、土壌汚染が判明した土地が該当する場合、財務諸表での開示が必要です。

また、資産除去債務の会計処理は原則として、除去債務内容に関する簡潔な説明や支出発生までの見込期間などの注記が必要です。除去債務はあるものの、合理的に見積もることができないため、貸借対照表に計上していない場合は、除去債務の概要と、合理的に見積もることができない理由などの注記が必要です。

財務諸表には「重要な会計方針」を注記しなければならず、引当金の計上基準も会計方針の一例です。このため、汚染除去費について引当金を計上した場合、計上基準を注記する必要があります。一方で、保証債務などの偶発事象に関する費用や損失は引当金を計上することはできず、貸借対照表に注記しなければならないとされています。また、金額を合理的に見積もることができない場合も、引当金は計上できませんが、偶発債務に準じて注記対象になると考えられています。

従って、土壌汚染土地であっても汚染除去費が発生する可能性が低い場合や、その金額を合理的に見積もることができない場合は、偶発債務又はそれに準ずるものとして、貸借対照表に注記することがあります。

特に、東京証券取引所の上場会社は業務執行過程で損害が発生した場合、影響が軽微でないものは直ちに経緯や概要、見通しなどを開示しなければなりません。そうした会社は、深刻な土壌汚染が分かり、減損損失を認識した場合や引当金の計上を行うこととなった場合は原則として、直ちに適時開示しなければなりません。

<28>土壌汚染と会社分割

土壌汚染された土地のような「負の資産」を処理するため、会社分割をすることは利点があるのでしょうか。

例えば、会社をXとYに分割してYに土壌汚染土地を取得させた場合、Xは汚染除去措置の指示や命令を受けないのでしょうか。こうしたケースでは、Xは既に土地の所有者ではありませんが、土壌汚染の原因者として汚染除去措置の指示や命令を受けることは免れません。

また、Xが原因者でなくても、こうした会社分割は分割後も双方の会社に債務履行の見込みがあることが必要ですが、XがYに負の資産を押し付けるのでは、この要件を満たさないのではないかと考えられます。債務履行の見込みがないのに、あるとして事前開示事項に記載すれば、事実という点で記載に欠陥があるとして会社分割の無効事由となるばかりか、過料などの制裁もあり得ます。

また、土壌汚染土地を所有する会社を買収して会社を分割し、新設会社の株式だけを得る利点はあるでしょうか。

例えば、土地の近隣に汚染が広がっていた場合、買収した会社は近隣の土地の所有者に対して不法行為に基づく損害賠償債務を負っている可能性があります。そうであれば、会社分割時の債務承継の問題となります。買収時に既に発生している損害賠償債務は、請求を受けなくとも、債務としては既に存在しています。このため、分割会社と設立会社の連帯債務となります。

ただし、賠償責任は分割時の各会社の財産の価額を限度とします。分割会社や設立会社が免責されるには、「知れたる債権者」への個別催告が必要です。個別催告がされていない限り、連帯債務は免れません。このため、汚染状況も調査せず、会社分割で新設会社の株式を取得すればよいと考えることは、大きなリスクを伴います。

なお、ある会社から一部事業だけを譲渡され、その会社の土壌汚染土地などを承継しないことを明記した事業譲渡契約を締結することはできるのでしょうか。答えはイエスです。事業譲渡の場合、譲受人に債権譲渡が認められるのは、会社法に基づき、譲渡人の称号をそのまま使う場合と債務引き受けの広告をした場合に限定されるからです。ただ、事業譲渡を受ける会社に深刻な土壌汚染があり、譲渡後にその会社が早々に解散して清算を予定している場合は、被害者の損害に対して事業譲渡の譲受人が何らかの責任を負う可能性はありますので、注意が必要です。

<29>土壌汚染に関する保険商品

日本国内で販売されている土壌汚染に関する保険商品は、主に五つあります。

まず、「対策費用保険」です。この保険は一定の調査で対策不要と判断された土地に、後日汚染が判明した場合に対策費用を保険で賄うものです。調査により、いったん土壌汚染はないとか可能性は低いと判断された場合であっても、後々に汚染が判明した場合に備えるもので、多くの保険会社が商品化しています。

次に、「対策コストキャップ保険」です。これは、予定していた対策費用を超えて支出する必要が生じた場合に保険で賄うものです。最初に見積もった対策費用で不足すると分かった場合に備えるものです。ただ、この保険を商品化している保険会社は限られます。

そして、三つ目が「第三者賠償責任保険」です。この保険は、土壌汚染が原因で隣接地の所有者など第三者に対して損害賠償責任を負う場合の費用を保険で賄うものです。多くの保険会者が商品化しています。

四つ目が、「調査会社賠償責任保険」です。これは、調査会社が調査の不備について責任を問われた場合の費用を保険で賄うものです。土壌汚染に特化して商品化している例はあまりありませんが、一般的な専門家賠償責任保険を利用できます。

最後に、「施工会社賠償責任保険」です。この保険は、土壌汚染対策工事の施工の不備について責任を問われた場合の費用を保険で賄うものです。これも土壌汚染に特化した商品はそれほど多くありません。

このように、国内では土壌汚染関連の損害保険は一通りのバリエーションがありますが、利用実績は決して多くないようです。土地取引で土壌汚染の調査が行われることは多くなりましたが、決して精度がいいとは言えません。その精度を上げて調査費用が増えるのなら、保険を利用する方がメリットは大きいでしょう。こうした土壌汚染に関する保険の利用者が増えれば、保険会社も商品の多様化を図るのではないでしょうか。

<30>資力不足支援

土壌汚染対策法は、除去措置を講じる人に資力がない場合に、支援の仕組みを設けています。同法は、財団法人・日本環境協会を「指定支援法人」とし、支援基金を設けさせています。利用者は地方公共団体を通じ、助成支援を受けます。ただ、この支援は汚染の原因者が不明な場合などに限定されており、利用実績は伸び悩んでいます。国は利用要件を変更するなど活用されやすくなるよう努めるべきでしょう。

<31>埋め立て地と土壌汚染

海面を埋め立てた土地を購入したところ、土壌汚染していることが分かった場合はどう対応すべきでしょうか。

海を埋め立てた土地であっても、土壌汚染対策法上、特別扱いされません。ごく一部、港湾法に基づいて産廃物埋め立て護岸を造成した土地については、汚染除去措置が講じられた土地として特別に扱われるケースがありますが、例外的です。

土壌汚染対策法に基づく汚染除去措置の指示は、同法に基づく調査が行われて汚染が判明し、健康被害のおそれがある場合(「要措置区域」に指定された場合)に出されます。このため、任意調査で土壌汚染が判明しても、自主申請しない限り、除去措置の指示は出されません。

<32>土壌汚染と土地の規模

所有地が広く3000平方メートル以上の面積を形質変更する予定の場合、知事への事前届出が必要ですが、その際、土壌汚染調査を命じられる可能性があります。その上で汚染が判明すれば、「要措置区域」か「形質変更時要届出区域」に指定されます。前者なら、措置の指示を受けて対策を講じる必要があります。後者なら、形質変更時に計画を届け出ればよいのですが、その計画は土壌汚染の拡散を防ぐに足るものでなければなりません。汚染除去のコストを考慮し、開発を進めるか否か判断しなければならないでしょう。

また、形質変更面積が3000平方メートル未満でも、汚染物質の搬出・処分にはコストがかかります。このように小規模面積の場合は、調査や対策の義務はありませんが、汚染によるリスクが購入者にかかる可能性があることを忘れてはいけません。許容できるコストなら、除去を進めた方が安心です。

<33>埋め立て業者の責任

土壌汚染土地を売却する場合、購入希望者が汚染調査や対策を求めることを想定すべきです。汚染状態を把握しているのであれば、購入希望者に汚染の事実を正直に伝えなければ、信義則上の売買契約に付随する義務違反として責任を問われかねません。

一方、汚染土地を購入した側からすると、売り主や埋め立て業者に損害賠償を求めることは簡単なこととは限りません。売り主の場合は瑕疵担保責任の追及が可能な場合がありますが、売買時に汚染が分かっていたら売買契約を締結しなかったであろうことを明確にする必要があります。埋め立て業者の場合は、埋立行為時に法令違反があるのか、あっても土地評価の減価が賠償すべき損害といえるのかといった問題を解決しなければなりません。いずれのハードルをクリアしても、消滅時効や除斥期間の問題が生じる場合があります。

<34>不法投棄による汚染

所有する土地にいつの間にか産業廃棄物が不法投棄され、土壌が汚染されてしまった場合、土壌汚染除去措置の指示や命令を受けることがあるのでしょうか。

原則として、こうした措置や命令が出されるのは、「要措置区域」に指定された土地です。このため、指定されていない土地であれば、即座に措置や命令が出るわけではありません。しかし、何らかのきっかけで土壌汚染状況調査の対象とされ、実際に濃度基準を超える汚染が判明してしまった場合は、「要措置区域」に指定され、措置や指示が出される可能性が高くなります。

ただ、「土壌溶出量規準」に適合しない土壌汚染で飲用地下水に汚染が波及するおそれがなければ、「土壌含有量基準」に適合しない土壌汚染で一般人が立ち入れる土地でなければ、要措置区域に指定されることはありません。いずれのケースも、逆の場合は要措置区域に指定されます。

また、もし汚染を招いた人が別にいることが明白で、その人に資力がある場合、都道府県知事はその「別の人」に汚染除去措置の指示や命令を出さなくてはならないことになっています。知らないうちに不法投棄されていた場合は、まず投棄者を割り出し、排出業者や運搬業者の関与も調べるべきでしょう。

排出業者は通常、産業廃棄物の運搬や処分を委託する場合、最終処分まで適切に行われるよう産廃物処理法により努力義務が規定されています。具体的な手段として、「マニフェスト」と呼ばれる産業廃棄物管理票を委託先に交付し、運搬や処理の完了を報告するマニフェストの写しの送付を受けることになっています。このため、運搬業者や排出業者の関与も明確にできます。

<35>土壌汚染と廃棄物処理法

もしも、汚染土壌が廃棄物処理法の「廃棄物」に当たるなら、同法に従った処理が必要となります。汚染土壌はこれに該当するのでしょうか。

廃棄物処理法で産業廃棄物は「事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物」と定められています。この中の「汚泥」に、汚染土壌は含まれないとされています。「汚泥」は厚生省(当時)が昭和46年に出した通達で「工場廃水等の処理後に残るでい状のもの、及び各種製造業の製造工程において生じるでい状のもの」とされているからです。従って、汚染土壌は産業廃棄物ではないと考えられます。

一方、廃棄物は「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された者を除く)」と規定され、この広い概念の「廃棄物」のうち「産業廃棄物」を除く廃棄物は「一般廃棄物」と呼ばれます。この一般廃棄物も事業者が排出するものは、廃棄物処理法で「自ら適正に処理する義務」を課されます。一般廃棄物の収集や運搬、処分を業とする者は同法に基づく許可が必要です。事業者も許可業者に委託しなければなりません。ただ、汚染土壌は基本的に、この一般廃棄物にも当たらないと考えられます。

このため、原則として汚染土壌は土壌汚染対策法に基づく規制を受け、廃棄物処理法に基づく規制の対象になりません。なお、土壌汚染対策法の規制区域は、条文上は「要措置区域等(要措置区域あるいは形質変更時要届出区域)」となっていますが、それ以外の土地も廃棄物処理法の規制対象とは考えられませんから、汚染土壌に関する規制は土壌汚染対策法に委ねられたと考えるのが妥当です。

しかし、廃棄可能性のある全ての物のうち、汚染土壌のみ廃棄物処理法の適用外とする明文規定はありません。極端なケースでは、廃棄物処理法の規制対象になる場合があると考えるべきです。例えば、大量の汚染土壌を許可なく人目のつかない山中などに捨てる行為は、廃棄物処理法の「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」との規制対象に該当するでしょう。捨てた量や経緯などから「みだりに」捨てたと解釈されれば、投棄は違法行為となります。汚染土壌も極端な扱いをすれば、「廃棄物」として規制対象になることがあり得るのです。

環境省が平成15年に出した通知には、土壌汚染対策法の「土壌汚染」は「人の活動に伴って生じる土壌の汚染に限定されるものであり、自然的原因により有害物質が含まれる土壌については、対象とはならない」と明記されていました。さらに、その通知には「土壌中の特定有害物質が自然的原因によるものかどうかの判定方法」という別紙が付いており、判定基準も記載されていました。

しかし、環境省が平成22年に出した通知では「旧法においては、人の活動に伴って生じる土壌の汚染に限定されるものであり、自然的原因により油外物質が含まれる汚染された土壌をその対象としていなかったところである。しかしながら、健康被害の防止の観点からは自然的原因により有害物質が含まれる汚染された土壌をそれ以外の汚染された土壌と区別する理由がないことから、規制を適用するため、自然的原因により有害物質が含まれて汚染された土壌を法の対象とすることとする」と記し、一転して自然由来の土壌汚染も法規制対象となりました。

こうなると、人的に発生した汚染土壌と自然的に発生した汚染土壌を区別する意味はないように思われますが、民事責任上はそうではありません。汚染土壌が自然由来だと分かれば、その土地の所有者は原因者としての責任を免れます。瑕疵担保責任の「瑕疵」に当たるか否かを考える上でも、自然的な発生と判明すれば、瑕疵が否定されます。

このため、土地の売買において、汚染土壌が自然由来であるか否かをはっきりさせることは重要ですが、調査自体は容易ではありません。そういった現実的な問題があることも念頭に置いておくべきでしょう。

<36>土壌汚染と正当な補償

自治体の担当者からすると、買収予定の道路用地に土壌汚染があったらどうしたらいいのかという問題は気になるでしょう。

もし、土地の所有者が任意の買い取りに応じない場合、最終段階で強制収用する手続きを取ることになります。この手続きでは、土地収用法に基づき「正当な補償」を行わなければなりません。また、その先に収用手続きが控えるような公共用地の取得でも「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」と「公共用地の取得に伴う損失補償基準」により、「正当な補償」を行います。

この「正当な補償」に関しては、判例で「収用によって土地の所有者等が被る特別の犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通して被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する」とされています。

まず、土地収用法は「収容する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までに物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする」と定めています。補償の詳細は政令で「収容する土地について相当な価格は、近傍類地の取引事例が収集できる時は、当該取引事例における取引価格に取引が行われた事情、時期等に応じて適正な補正を加えた価格を基準とし、当該近傍類地及び収用する土地に関する次に掲げる事項を総合的に比較考慮し、必要に応じて次項各号に掲げる事項をも参考にして算定するものとする」となっています。この中の「掲げる事項」とは、位置▽形状▽環境▽収益性などで、一般の取引における価格形成上の諸要素となります。

次に「公共用地の取得に伴う損失補償基準」は、「正当な補償」について「取得する土地に対しては、正常な取引価格をもって補償する」と定めています。この「正常な取引価格」は「『客観的な交換価値』を基礎としたもので、これを通貨で表したものである。従って、合理的な自由市場があったならばそこで形成されるであろう市場価値(客観的な交換価値)を貨幣額で表示した適正な価格であり、この価格は、不動産鑑定評価基準にいう『相当な価格』に相当するもの」とされます。

このように、土地収用法も補償基準も「正当な補償」については市場取引価格を基礎としています。しかし、土壌汚染土地の市場取引価格は、清浄な土地価格から掘削除去等の浄化費用を控除して決められるため、ある問題が起こり得ます。

つまり、ある土地が清浄な土地であれば4億円と評価されるのに、汚染浄化に3億円も要するため、市場取引価格は1億円に満たない場合、従来の考え方なら、せいぜい1億円の評価しかできず、「正当な補償」額もその範囲となってしまいます。そうすると、被補償者は補償額で代替地を取得できません。それは、被補償者の事業や生活に支障が及ぶ可能性を意味します。

この点に関し、国土交通省は平成15年に「公共用地の取得における土壌汚染への対応に係る取扱指針」を公表しています。この指針では、補償額の算定について「汚染の除去費用等を減価要因として織り込む等により、評価を行う」としつつ、「土壌汚染による具体的な減価額は、土地の補償額は当該土地の財産価値に基づき判断すべきことを踏まえると、当該土地の属する用途的地域における通常の利用方法を可能とするために最低限必要となる、想定上の土壌汚染対策費用とすることとする」と記しています。分かりにくい表現ですが、通常利用に支障が出る汚染があれば、最低限の費用で減価するよう求めているのです。そうすれば、多くの場合は減価がないということになり、問題は解消されます。

この指針は、同じ年に「宅地・公共用地に関する土壌汚染対策研究会(座長:寺尾美子東京大学大学院教授)」が取りまとめた「公共用地取得における土壌汚染への対応に関する基本的考え方(中間報告)」を踏まえています。土地収用法の従来の考え方からは逸脱していますが、「従来の考え方」自体が交換価値を重視して使用価値を軽視していたとも考えられます。

土壌汚染のある土地は使用に支障がなくても、売買すると市場での取引価格は汚染除去に必要な額を減価されます。しかし、この減価分を直ちに補償額から差し引くことには疑問があります。なぜなら、差し引き後の補償額では代替地を取得できないことが明らかで、そのような状況を強いられる理由は土地所有者にはないからです。市場価格で補償すれば足りるのは、補償を受けることで代替地を取得できる場合であり、取得できない場合は使用価値に着目した補償がなされるべきでしょう。前述の最高裁判決は「金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同との代替地を取得することをうるに足りる金額の補償を要するというべく」としていることからも、代替地取得としてその補償が適切かを無視してはなりません。

では、土地の価格をどう評価すべきでしょうか。この点については、企業会計で減損損失を認識すべき土地について、回収可能価額まで損失を認識すべきとされていることが参考になります。回収可能価額とは、売却による回収額である正味売却価額(資産の時価から処分費用見込額を控除して算定される金額)と、使用による回収額である使用価値(資産の継続的使用と使用後の処分によって生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値)のいずれか高いほうの金額をいうとされています。従って、本件では、所有者がいつまで土地を使用し続けると考えることが合理的かを踏まえ、後者の処理を行うべきでしょう。

すなわち、将来の処分時の減価の現在価値は非常に小さくなりうるため、合理性のある評価が可能になります。上記の例でいえば、30年後(30年後に処分すると仮定することに合理性がある場合)の2億円が現在価値でいくらになるかを評価し、それを3億円から減価するといった考え方ができないかを検討すべきでしょう。

<37>換地と土壌汚染

土地区画整理事業において「換地で得た土地」から土壌汚染が見つかった場合はどうなるのでしょうか。

そもそも換地は強制的な処分であり、もし、清浄な土地が汚染された土地に換地されたなら(事前には分からないことが多いでしょう)、土地区画整理法の「照応の原則」に違反する処分となります。こうした処分に対しては、不服申し立てという行政手続きや自治体を相手取った処分取消請求訴訟の提起といった司法手続きが可能です。前者の申し立ての期間は「処分を知った日から60日以内」、後者の提訴の期限は「処分を知った日から6か月以内」です。仮に期限を経過してしまっていた場合でも、事業の施行主体である組合を相手取って損害賠償請求ができます。

ただ、現実問題として、換地は多くの場合に土地区画整理事業の最終盤で行われることが多いため、損害賠償請求訴訟を起こそうとしたら、既に事業組合が解散して清算も終わっていることがあります。こうなると、組合の理事を被告とするしかありませんが、理事個人の責任を求める場合は「重過失」が必要となり、責任追及のハードルは上がってしまいます。

上記のように、組合に対する責任追及が難しい場合、換地を受けた土地の元の所有者に賠償請求するという手段が残ります。ただ、換地処分では、元の所有者と新たな所有者の間に契約関係がないため、請求理由は「不法行為」か「不当利得」しかありません。前者の場合、汚水を地下に浸透させた行為が水質汚濁防止法違反であると主張する方法があります。後者の場合は、元の所有者の利得と新たな所有者の損失の間に直接的な因果関係があることを説明することは困難でしょうから、実際上、請求は難しいでしょう。

「換地」に関連して、組合から土地区画整理事業の「保留地」(施行者など事業主体者が事業費を捻出するために取得して売却する土地)を購入したところ、土壌汚染が見つかった場合はどうなるのでしょうか。

こうした場合、土地の購入者は売り主である組合に瑕疵担保責任を追及できます。ただ、前述と同様、既に組合が解散してしまっている場合は、やはり理事や元々の所有者の責任を問うしかないでしょう。

以上のようなトラブルを回避するため、土地区画整理事業の事業者は施行区域内に土壌汚染された土地が存在する可能性について、調査時期や調査方法、汚染が判明した場合の土地の評価の仕方などを事前にシミュレーションしておく必要があるでしょう。

【メモ】土地区画整理事業

道路や公園、河川などの公共施設を整備・改善し、土地の区画を整えて宅地の利用増進を図る事業。事業資金は地権者から少しずつ提供してもらった土地をまとめた保留地を売却したり、自治体から支出される公共施設整備費を充てたりする。地権者は従前より所有する土地の面積が小さくなるが、道路整備などで土地の価値自体は上がる。

<38>土壌汚染の調査機関

土壌汚染の調査を請け負うのが「指定調査機関」です。こうした機関の立場について考えてみましょう。

例えば、ある調査機関がA社から所有地の土壌汚染調査を依頼されたとします。そして調査した結果、高濃度の汚染が判明してしまいました。しかし、A社から「汚染が見つかったことは秘密にしてほしい」と言われたとしましょう。さらに、A社に汚染状態を解消しようとする動きはなく、単なる「もみ消し」状態になっているとしたら、調査機関としていかなる対応を取るべきか葛藤するに違いありません。

このように、A社が適切な汚染処理を行わず、所有地近隣の土壌や地下水を汚染させるリスクが高い場合、第三者の生命や身体、財産に危害が及ぶおそれが生じます。そうしたおそれが相当程度あるのなら、調査機関は「公共の利益」を優先して都道府県に通報することもやむを得ないでしょう。

ただ、通報前にまず、A社に警告する必要があるでしょう。まずは、汚染状態を放置した場合にいかなるリスクが生じるのかをA社に説明し、自発的な対策を促すのです。それでも、A社が対策を講じない場合に通報に至るのがセオリーでしょう。

<39>土壌汚染と調査要請

もし、自身の所有地の隣の土地で土壌汚染が疑われる場合、隣地の所有者に調査を求めることは法的に可能でしょうか。

土壌汚染対策法では、自身の所有地に土壌汚染が判明したからといって、原因者の可能性があるとして隣地の所有者に汚染調査を行わせるような法的義務は発生しません。例外的に、自身の土地と隣地を流れる地下水が「飲用」に使われている場合は、都道府県知事が隣地の所有者に調査を命じられる(知事が命じない場合は「裁量権の逸脱」を主張して調査を命じるよう裁判を起こすこともできます)ため、これを促すことは可能です。

なお、法律上、自治体が隣地の土壌汚染調査を行わせるための条件は極めて限定的ですが、都道府県や市区町村が独自に定める「条例」において、より幅広く規定されている場合があります。法律を根拠とできない場合でも、条例で調査命令を出させる余地があるのです。

もし、法律でも条例でも調査を行わせることができない場合は住民運動を起こしてメディアなどを巻き込み、社会に訴える手段もあります。土壌汚染調査が行われない状況に批判的なムードが社会的に醸成されれば、汚染の原因者とみられる隣地の所有者は調査を行わざるを得ない状況に追い込まれるでしょう。

そもそも、土壌汚染対策法の国会での審議プロセスでも、法案に住民の意見が反映できる仕組みがないことが指摘された経緯があります。このため、同法の成立時には「付帯決議」として「政府は、(中略)土壌汚染に対する住民の不安を解消するため、住民から土壌汚染の調査について申出があった場合には、適切に対応することにつき都道府県等と連携を図る」との文言が盛り込まれました。

附帯決議に法的拘束力はありませんが、政府や自治体には土壌汚染に関して住民の意見を尊重して対処することが求められていると言えます。従って、この文言を根拠に自治体に行政指導するよう求める手段もあるでしょう。

借地権の瑕疵担保責任

借地権を巡る瑕疵

借地権付きの建物の売買においては、売り主は買い主に借地権を取得させる義務を負います。売り主が地主の同意なく借地権を譲渡したとして、地主から借地契約を解除された結果、売り主から買い主への借地権移転が不可能になった事例で、民法561条を類推適用し、買い主による解除が認められた裁判例があります。

賃借権は法律上、原則として譲渡が禁じられています。しかし、賃貸人が承諾すれば、賃借権の譲渡は可能です。賃貸人の承諾で賃借権が譲渡された場合、賃借権の譲受人が賃借人の地位を引継ぎ、法律上も賃貸人と賃借権譲受人が賃貸借契約の当事者となります。この当事者間において、賃貸人は賃借人に対して目的物を使用収益させる義務があります。その結果、賃貸人の義務の当然の帰結として、使用収益に差し支える欠陥があると賃貸人に欠陥の正常化義務が発生します。

このため、土地に瑕疵があれば、借権の譲受人は土地の賃借人として地主に瑕疵を修補するよう請求する権利があります。そして、地主は借地権譲受人からの請求に応じなければなりません。

一方、借地権の買い主が売り主に対し、敷地の瑕疵担保責任を問うことができるかが問題となる場合があります。借地権付きの建物の売買で、擁壁に亀裂があり、雨水の圧力に耐えられず、土地の一部に沈下や傾斜が生じた事案で、1、2審で判断が分かれた裁判例がありました。最終的に、最高裁は1審を支持し、売買対象が借地権である場合は土地に瑕疵があっても、借地権の買い主が売り主に瑕疵担保責任を問うことはできないとの結論を示しています。

他に、借地権を購入したところ、隣地の建物の一部が越境していたとして、売り主の瑕疵担保責任を追及し、認められた裁判例があります。また、借地権付きの建物の売買で、借地権の対象となった土地の上にかかる高圧架空電線が瑕疵に該当すると判断した裁判例もあります。

2020-03-18 17:20 [Posted by]:不動産の弁護士・税理士 永田町法律税務事務所